つばくろだけ 標高2763m
おてんしょうだけ 標高2922m
年に一回くらいは、北アルプスか南アルプスの山を登りたいと思っている。
だが、このところ事情かあって、家を空けられるのが週末に限られている。
せっかく山に登るからには晴れている日に実行したいので、実際に出かけられる日はさらに絞られる。
2013年の夏は、機会をうかがっているうちにずるずると日が経ち、9月下旬になってしまった。
9月の最終の週末(28、29日)の天気が、予報で良さそうなのを確かめてから、実行の決断をした。
その次の週からしばらく先まで、週末に予定が入っているから、28、29日の週末が南北アルプスの夏山シーズン最後の
チャンスになるのだ。
目的地は燕岳。
最後に登った1995年からだいぶ年月が経っているのと、稜線上の山小屋に泊まれば夕焼けと朝焼けの
雄大な景色が期待でき、土日で十分楽しめるのが選んだ理由。
まずは交通手段の確保のため、東京から中房温泉への夜行バスの予約を入れた。
次に、宿泊地を燕山荘あるいは他の小屋にするかで迷った。
燕山荘であれば、1日目の歩行時間が短く余裕である。
だが、燕山荘は人気が高く週末は混みそうで、2日目に同じ道を戻って下山となれば、ちょっと物足りなくもある。
燕山荘から先の小屋であれば、候補は大天荘か餓鬼岳小屋になる。
結局、槍穂の山々をより近くから眺められる大天荘に宿泊することにした。
夜行バスと大天荘の宿泊をセットで購入すると、700円割引となるメリットもある。
最近は運動不足気味なので、長時間の歩行に多少の不安はあるが、天気が安定してそうなので、ゆっくり歩けばなんとかなるだろうと
いう腹積もりである。
今回歩いたルートは、地図上に赤線で示している。
28日(土)の朝6時前に中房温泉に到着。
自家用車やタクシーで入山した登山者でにぎわっている。
簡単に朝食を済ませ、6時過ぎに合戦尾根を登り始める。
ここを登るのは、1995年に餓鬼岳まで縦走するために来て以来だから、18年ぶりということになる。
ひんやりとした冷気に包まれているが、少し歩けば汗が出てくる。
週末なので、登山者が列をなしている。
しばらくすると、下山してくる人たちも多くなる。
急ぐ理由もないので、人の流れにまがせて高度をかせぐ。
合戦小屋あたりから木々が色づき始めていて、一部は鮮やかに紅葉している。
9時45分、燕山荘着。
2年ぶりの北アルプスの稜線だ。
秋晴れで360度の展望。
やはり、山それも高い山は晴れていなければつまらない。
高山植物の季節であれば、景色がなくても花を愛でながら歩くという手もあるが、花のない季節は晴天が必須条件だ。
荷物を置いて、カメラだけ持って燕岳の往復に向かう。
寒くもないし、暑くもない。快適な気候だ。
空の青と花崗岩の白、そしてハイマツの緑が織りなす色が絶妙で、独特の景観を作っている。
見渡せば、北アルプスの主要な山はもちろん、遠くは富士山や南アルプスの山も見えている。
燕岳で展望を楽しんだのち、燕山荘に戻り、再びザックを背負い、今日の目的地の大天荘に向け稜線伝いの道を南下する。
最低鞍部への下りは大したことはなかったが、最後の大天荘への岩塊斜面の登りでは、疲れが出てさすがにきつかった。
その登りの途中でライチョウが1羽現れたので、写真に撮ることができた。
3000m級の山の上で、ライチョウに出会えると心がなごみ、ひととき疲れを忘れさせてくれる。
高山蝶の季節であれば、タカネヒカゲやミヤマモンキチョウの姿も見られるはずだが、9月末ともなれば、
蝶影はなかった。
14時20分、大天荘着。
まあまあのペースだろう。
というより、足の筋肉がつったりするようなトラブルがなく目的地に着けたので、ほっとした気持ちだった。
宿泊手続きを済ませたのち、缶ビールで一息つく。
このころから少しずつ雲が増えてきたので、大天井岳の頂上を往復してくる。
すでに槍ガ岳方面はガスに覆われていた。
夕焼けの景色が見られるかどうか気になる雰囲気になったきた。
夕食(17時)後も、周りは雲に覆われ、夕景をあきらめかけていたら、日没直前に雲が切れ出し、あわてて
山頂に向かった。
日没の少し前に槍ガ岳の周辺だけ雲が取れて、夕陽に照らされてシルエットになった槍の穂先を見ることができた。
小屋から急いで登ってきた他の登山者も、神秘的な色彩の変化に見とれていた。
日が暮れるとすることもないので、小屋で横になる。
外は冷えても小屋の中は快適だった。
さほど混雑していないようで、畳1枚に一人だからゆったりと眠りにつくことができた。
翌29日も快晴。
日の出直後の太陽で赤紫色に染まる槍穂の峰々を眺める。
朝夕両方の雄大な景色を見ることができ、大天荘に泊まった甲斐があったというもの。
朝食をとり、7時過ぎ下山を開始。
どのルートを歩くか迷ったが、燕山荘経由で中房温泉に戻ることにした。
常念小屋経由も考えたが、下山後にタクシーを呼ばなければならないのが煩わしい。
せっかく大天井岳まで歩いてきて、来た道を戻るのももったいない気がするが、
大天井岳で槍穂の景色を見られたのでよしとしよう。
前日に歩いた道なので、気が楽だ。
歩いている人の顔ぶれをみると、前日に見かけた人たちもいる。
どうやら、筆者と同じように、中房温泉から大天井岳を往復する人たちもけっこういる様子だ。
同じ道を歩いていても、向きが反対なので、景色の印象もだいぶ異なる。
ところどころで写真を撮りながら歩いて、9時半には燕山荘に着いた。
燕岳の頂上は前日のほぼ同時刻に踏んでいるので、そのまま中房温泉に下ることにする。
これから登ってくる人も多い。
中高年の登山者は相変わらず多いが、若い人たちの姿も目立つ。
中には、テント泊の装備を持って歩いている元気な女性グループもいる。
若い女性の登山ブームもすっかり定着しているようだ。
中房温泉には昼前に着いたので、12:35発の穂高駅行きのバスに間に合った。
しかもシャツを着替える余裕があったので、さっぱりした気分でバスに乗り込むことができだ。
穂高駅からは、いったんJRで松本に出て、高速バスで帰京するつもりだったが、松本のバスターミナル窓口で尋ねてみると、
空席があるのは3時間先の便だという。
いくら時間に余裕のある身でも3時間は待てないので、JRに変更して特急あずさに乗って帰ることにした。
JRの特急は料金が高いだけあって、速いし正確だ。
おかげで予定より早く、明るいうちに帰宅できた。
久しぶりに3000m級の山々を歩いての感想は、やはり南北中央アルプスの森林限界を越えた山々の稜線歩きは
別格だということ。
また、山の上で見る日の出、日の入りの色彩の変化は、いつも感動的である。
今回登った燕岳と大天井岳の2つについていえば、同じ常念山脈にありながら、人気の点ではかなりの差があるのが
面白い。
燕岳は白い花崗岩でできた華やかな姿で多くの登山者の目を引きつけ、そのうえ近くには燕山荘という大規模な山小屋がある。
一方、大天井岳は常念山脈の最高峰でありながら、あまり特徴のない姿から損をしている。
おかげで、大多数の登山者にとって、燕岳と槍ガ岳や常念岳を結ぶ縦走路の一つの通過点に過ぎないようだ。
それどころか、縦走路は頂上を通っていないので、頂上を踏まない登山者も多そうだ。
しかし、大天井岳山頂からの展望は大変優れている−燕岳よりいいと思う−ので、山頂直下にある小屋に泊まれば、
朝夕は槍・穂高を背景にした素晴らしい色彩の変化を楽しめる。
この魅力はなかなかに捨てがたいと思う。
歩行記録 2013/09/28 中房温泉−燕岳−大天荘 8h10m 09/29 大天荘−中房温泉 4h50m
次に、今回の山行で撮った写真を時系列順に紹介する。
中房温泉から登り、合戦小屋を過ぎて合戦沢の頭まで来ると、槍ガ岳の姿がよりはっきりする。
左手には、今日の目的地の大天井岳が見えている。
稜線に上がったときの大展望に期待が高まるときでもある。(2013/9/28)
以下、すべてCANON 5D Mark2・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。
燕山荘から燕岳への途中に、イルカ岩がある。
背景は槍ガ岳。
左端には大天井岳が見えている。
(2013/9/28)
燕山荘近くから見た燕岳
左の背後には立山が顔を出している。
青空を背景にした白い花崗岩の山肌は優美で、北アルプスの女王然とした雰囲気を持っているが、
モノクロ写真にするとまた違った表情に見える。
燕岳に対し、これから向かう大天井岳は、標高が燕岳より高いにも関わらず、山容が特徴に乏しく損をしている。
(2013/9/28)
大天井岳から燕岳(中央の白い岩の頂)へと続く山並み
大天荘に着いて一休みするうちに、下から雲が湧いてきて、
やがて景色は見えなくなった。
(2013/9/28)
日没直前に雲が切れ、槍ガ岳の穂先が現れた。
大天井岳頂上から。
(2013/9/28)
槍ガ岳周辺の雲は刻々と動いて、最後の輝きを放っていた。
大天井岳頂上で。
(2013/9/28)
日の出直後の光が槍ガ岳と穂高の峰々の上部に射し始めた。
大天井岳頂上から。
(2013/9/29)
大天井岳から槍ガ岳までの直線距離は、5km強である。
日の出からだいぶ時間が経った6時20分頃、大天荘近くから眺めた槍穂の山並み。
(2013/9/29)
朝日を浴びる大天荘
背後のピークは大天井岳。
北アルプス南部の展望台として絶好の場所。
(2013/9/29)
大天荘からの帰路、燕山荘へ続く尾根道の途中、大下りの頭からふり返ってみた大天井岳(左)と
槍ガ岳(右奥)。
(2013/9/29)
ここまでの山行記録は、2013年9月のときのものだが、筆者が最初に燕岳から大天井岳を通って常念岳まで
縦走したのは1973年3月のことで、会社の山仲間3人と一緒だった。
その時の写真のうち、3枚を紹介しておく。
なにしろ40年前のカラーポジ写真のため、褪色が激しく、ほとんどモノクロ写真の世界だ。
燕岳の頂上を踏んで、大天井岳を目指して歩く途中、蛙岩(げえろいわ)付近で。
稜線上はさほど雪は深くなかった。
この当時は、ザックといえばキスリングが一般的だった。(1973/3/19)
大下りの頭から眺めた大天井岳(左)と槍ガ岳(右奥の霞んだピーク)。
(1973/3/19)
上の2枚の写真を撮った翌日の朝、大天荘をあとにして、正面に見える常念岳を目指した。(1973/3/20)
なお、大天荘は建物全体がすっぽり雪に埋もれていて、どこに小屋があるのかさえ分からなかったのが
印象に残っている。