蓮華岳(長野県/富山県)

れんげだけ 標高2799m。

 蓮華岳は針ノ木峠を挟んで針ノ木岳と向かい合っている。
 蓮華岳に登る人はたいてい針ノ木岳とペアで登っているようだが、 筆者が1992年の夏に針ノ木雪渓から針ノ木岳に登ったときは、 蓮華岳の頂上を踏まずに針ノ木谷に降りて奥黒部ヒュッテに入った。 その後しばらく蓮華岳のことは忘れていたのだが、 2003年夏になって北アルプスの山を久しぶりに登りたくなり、 夜行日帰りで蓮華岳の頂上を往復することにした。
 北アルプスによく出かけていた頃は急行「アルプス」を使うことが普通だったが、今はない。 代わりに季節列車の全席指定「ムーンライト信州81号」が走っている。 8月下旬の週末の天気が安定していることを確かめてから駅で尋ねたら、 「ムーンライト信州81号」の残席はもうなかった。 ふらっと出かけるには車を利用するしかないようで不便になったものだ。 次に夜行バス「アルピコ」を調べてみたら席が空いていたので予約を入れた。 出発の2日前である。 出発当日の金曜日の晩、新宿駅西口のバス発着場所に行くとすでの大勢の人がたむろしていた。 2003年の夏は天気が不順で週末に土日とも晴れた日がほとんどなかったせいか、 久しぶりの好天を利用しようという登山者が多かったようだ。 満席のバスは22:30新宿を出発し、翌朝5:30扇沢駅到着。 少し雲があるが晴れている。
 簡単に朝食を済ませ、歩き始める。 最初のうちは車道を横切ったりしながら歩く。 ヘリポートのある広場から本格的な山道になる。 ブナの大きな木が茂るゆるい登り坂が続く。 途中の大沢小屋で清水を飲んで一息入れた後、 30分ほどダケカンバなどの樹林帯の中を歩くと雪渓の末端に出た。 久しぶりの雪の感触を足裏で確かめながら歩く。 今年は残雪の量が多いようで雪渓は途切れることなく上部に続いている。 少々急な箇所もあるがアイゼンはつけずに登り切る。 雪渓が終わる頃には雲もすっかりなくなり、 青空が広がってきた。 ガレた斜面に切られた道を息を切らせながら登ると針ノ木峠である。 風が強いが穂高岳、槍ガ岳から赤牛岳の山々、それに遠く富士山まで見える。 写真を撮ったりしてしばらく休んだ後、蓮華岳に向かう。
 初めはハイマツに囲まれた急な斜面だがすぐに岩屑の散らばった広い斜面に変わる。 一歩斜面を登るごとに空が大きくなり、青空の中に入っていくような気分だ。 2754mのピークを過ぎると傾斜がゆるくなりコマクサの数が増えてくる。 コマクサはほかの高山植物に比べれば花期が長いので、 8月下旬でもまだあちらこちらでピンクを花を見ることができる。 頂上に着くと「若一王子神社奥宮」と書かれた祠が建っていた。 風が強くて落ち着いて休んでいられない。 かといってこんな快晴の日に急いで下りるのはあまりにもったいないので、 帰路は花や周囲の写真を撮りながらゆっくりと歩いた。 針ノ木小屋の目の前まで下りてきたとき、蝶が1匹視界を横切った。 モンシロチョウにしては色が少し濃いなと思って眼で追っているとハイマツに止まった。 近づいてみるとミヤマモンキチョウのメスのようでカメラを構えようとしたら風の乗って飛び去ってしまった。 こんな遅い時期にいるとは思っていなかったので驚いたが、 帰宅後調べてみると8月下旬に飛んでいても不思議ではないことがわかった。
 針ノ木小屋に戻ってきのが11時半。 まだ時間に余裕があるので針ノ木岳を往復しようか迷ったが、 夜行の疲れもあるので早めに下山することにした。 雪渓の下りは神経を使う。 今回は大分前に購入したまま使ったことのない軽アイゼンをザックに入れてきたので、 下山時にその威力を確かめるつもりでいた。 しかし雪渓に足を置いてみると雪が柔らかくなっていて、 アイゼンを使うまでもなさそうなのでそのまま下ってしまった。 ピッケルがあればグリセードによい斜面である。 雪渓が終わって樹林帯の中に入ると、 アサギマダラが暑さを避けるかのように木々の間をゆったりと舞っていた。 8月も後半なので、 キベリタテハがいるかもしれないと注意しながら歩いたのだが、 こちらは見かけなかった。
 扇沢には14時前に着いた。 バスで信濃大町駅に出ると山の上の涼しさが信じられないような暑さで、 通りには人影もまばらだった。 駅の近くの感じよい蕎麦屋さん(こばやし)で、ビールととろろそばで時間をつぶした後、 臨時の「あずさ」に乗って帰京した。 車窓からは北アルプスや南アルプスの山々が見えていて飽きなかった。 列車の旅の醍醐味である。 鋸岳を従えた甲斐駒ガ岳はいつ見ても迫力がある。 小淵沢の駅は停車しないで通過したが、 ホームから夕焼けの富士山がはっきりと見えることに気がついたのも収穫だった。
 最近は北アルプスや南アルプスの山から遠ざかっていたが、 やはり3000mに近い山々の連なりは日本では格別な存在で、 風格というか迫力がほかの山とは違うことを改めて実感した一日だった。

 歩行記録 2003/08/23 (扇沢駅からの時間) 登り3h55m 下り4h05m

 針ノ木岳に登ったときに写した蓮華岳。 山頂近くは岩礫が露出しているが、安山岩のためか灰色に見える。
 この写真だけ1992年7月31日撮影。

 蓮華岳の頂上には、「若一王子神社奥宮」と書かれた石柱と祠がある。
 以下すべての写真をNIKON COOLPIX 5700で撮影。

 蓮華岳からのパノラマ合成写真。 5枚の写真を使っている。 左から順に槍ガ岳、正面奥に赤牛岳、針ノ木岳、立山、剱岳(右端)などが見えている。 夏の昼間に、これだけきれいに景色が見渡せるのは幸運だ。

 背後に剱岳を配して撮影したコマクサの花。 最盛期を過ぎているので、しおれている花も混ざっている。 長次郎谷、平蔵谷の雪渓が見えている。

 剱岳遠望。手前に見えているのは、スバリ岳から続く尾根。

 頂上を後にして針ノ木峠に戻る途中の景色は圧巻である。 正面に針ノ木岳とスバリ岳(右側)を見ながら下る。 スバリ岳の奥には立山が見えている。

 針ノ木小屋が間近になると、正面の針ノ木岳がますます大きくなる。

 針ノ木雪渓。 正面に赤沢岳、鳴沢岳が見えている。
 この写真は下山中の12時頃に撮ったのだが、まだ大勢の人が登ってくる。 この日の針ノ木小屋はかなり混雑しそうだった。

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