奥大日岳(富山県)

おくだいにちだけ 標高2606m。

 奥大日岳は、剣岳と立山を南北に結ぶ稜線の中間から西に延びる尾根の上にあり、 室堂からもよく目立つ存在である。
 地図で見ると、平野部に近いほうから順に前大日岳、大日岳、中大日岳、 奥大日岳と名付けられているところを見ると、 昔はこういう順に登ったのかも知れない。 現在は車で簡単に室堂に入れるので、室堂から歩く人のほうが多いのではないだろうか。 なにしろ室堂の標高が2400mを超えているのだから、 いったん浄土沢(称名川の上流)まで下りるにしても奥大日岳頂上までの標高差は大したものではない。
 筆者も2003年9月上旬の週末に室堂から奥大日岳の頂上を踏んで大日小屋に泊まり、 翌日称名滝に下りるコースを歩いた。 時期が9月になったのは、2003年の夏の天気が不順続きで、特に週末は天気に恵まれないことが多かったためだ。
 東京から室堂に入るには、信濃大町経由あるいは富山経由のどちらかになるが、 9月に入ると平日の夜行便は列車、バスとも富山経由しか選択できなくなる。 今回は夜行の急行「能登」を使って富山に入った。 木曜日の晩の「能登」はがらがらである。 ほかに寝台特急「北陸」も走っているので、 「能登」を利用できるのもそう長くはないような気がする。 (実際に「能登」の定期運行が廃止されたのは、2010年3月である。)
 「能登」は富山駅に7分ほど遅れて着いたので、 接続の富山地鉄の乗り継ぎは6:35になった。 立山駅に向かう車窓からは北アルプスの山並みがよく見える。 ケーブルカー、バスを乗り継いで室堂に降り立ったのは9時少し過ぎ。
 太陽の光がまぶしい。 立山が目の前に大きく立ちはだかっている。 対照的に目指す奥大日岳はゆったりとした姿で横たわっている。 案内板の地図を見てルートを確認してから歩き始める。 ミクリガ池、地獄谷、雷鳥沢キャンプ場を通って浄土沢を渡るとほとんど人を見かけなくなる。 新室堂乗越までの斜面は草原になっていて、名残りのチングルマやヨツバシオガマなどの花が見られる。 尾根に上がると新室堂乗越で展望は一段と広がる。 剱岳の姿も大きくなり、南西方向にはなだらかな曲線の鍬崎山も頭を出してる。 景色を見ながらしばらく尾根通しに歩く。 ハクサンフウロやカライトソウなどの花が点在していて目を楽しませてくれる。 奥大日岳に近づくと尾根の南側山腹を登るようになる。 ここを登りきって稜線の上に出ると頂上も間近である。 頂上は花崗岩の石が積み重なっていて、 絶好の展望台となっている。 すでに数人の人が景色を見ながら休んでいた。 長い早月尾根を従えた剱岳と立山が主役で、 脇役として北には毛勝三山が、西にはこれから向かう大日岳と大日小屋、 南西には鍬崎山が望まれる。 穏やかに晴れてこれ以上にないという天気になかなか腰を上げられず一時間以上も頂上にいた。
 13時過ぎになって頂上を後にして大日小屋に向かった。 頂上のすぐ下は急だが花崗岩でフリクションがよく効く。 あとはのんびりと西に向かって歩くのみ。 途中に七福園というハイマツの中に巨岩が点在する庭園のようなところがあったりで、 歩いていてたいくつしない。 14時半に大日小屋着。 小屋番の男性がいるだけで宿泊客はまだ到着していない様子である。 さっそく缶ビールを買って喉の乾きを潤す。 ベンチに腰を下ろして正面の剱岳を眺めてのんびりする。 贅沢な気分である。 そのうちに奥大日岳の頂上で会った石川県から来た3人連れと東京の男性1人が到着した。
 夕食前に大日岳の往復に出かけた。 片道10分ほどである。 こちらの頂上も好展望台である。
 夕食は17時半。 食堂の窓からは光を失っていく空を背景に剱岳がいつまでも見えていた。 予報では天気は下り坂だったが、この日は最後まで雲が広がることはなかった。 宿泊者は合計8人で、ゆっくり寝ることが出来た。 夏休みも終わって紅葉の時期には早い中途半端な季節の平日だから、 すいているのは当然かもしれない。
 翌朝はガスで視界は数十m程度。 朝食をとって称名滝に向かって出発したのが6時半。 すぐに木の丈が高くなる。 道は歩きやすい。 10分も歩くとガスが切れて、鍬崎山や平野部が見えてくる。 天気は回復に向かっているのかなと思いながら下る。 大日平の木道をたどって大日平山荘に着いたのが8時少し前。 ベンチに腰掛けて休んでいると雨粒が落ちだした。 間もなく止みそうにも思えたので、傘だけ出して歩き始めた。 その後10分くらいたってからだろうか、予想に反して雨脚が強まりカッパを出さざるをえなくなった。 カッパのズボンと傘という格好で急坂を下った。 称名滝に通じる舗装道路に出ても、 まだ激しく降り続ける雨に称名滝を見る意欲もなくなってそのままバス停を目指した。 9時半にバス停に着いてやっと一息つけた。 途中の舗装道路で走ってくる人たちがいたので、 バスの待合室で聞いてみると立山登山マラニックという山岳マラソン大会の参加者だという。 3003mの標高差を登るだけでも大変なのにこの雨の中を走るとはびっくりである。 (あとで調べたら悪天候のため室堂で打ち切りになったという。)
 10時過ぎのバスの乗客は私一人だった。 立山駅からの電車もがらがらである。 外の景色を眺めているうちに雨もいつしか止んだ。 田園風景は取り立てて特徴があるとも思えないが、 それぞれの駅舎は相当に年季が入っているようでなかなか味がある。 写真集でも作れば面白いものが出来るかもしれない。 富山駅には昼少し前に着いた。 駅近くで評判の蕎麦屋さんに寄ってビールとそばで食欲を満たした後、 越後湯沢経由で帰京した。
 北アルプスの小屋に泊まったのは何年ぶりだろうか。 混雑する時期の小屋泊まりはごめんだが、 人の少ないときに小屋泊まりで山を歩くのはゆったりできて気分がいい。 今回は二日目の下山時に雨に降られたが、 初日の天気があまりに良かったので十分満足できた山行だった。
 今回の山行では、デジカメのほかにフィルムカメラ(Olympus OM-4Ti)も持参した。 2003年6月にデジカメ(Nikon CoolPix5700)を買って以来、 もっぱらデジカメを持ち歩いていて、 写りについてはほぼ満足している。 しかしまだなんとなくデジカメにはなじめないところがあり、 フィルムカメラも持ってきたのである。 長年手になじんだOM-4Tiは特に考えなくてもシャッターを押すまでの操作がスムーズに行えるのに対し、 CoolPixのほうはまだいちいち考えて操作しているという違いだろうか。 こんな調子ではまだしばらくフィルムカメラも使い続けることになりそうである。

 歩行記録 2003/09/05 室堂-奥大日岳 2h40m 奥大日岳-大日小屋 1h15m    09/06 大日小屋-称名滝バス停 2h55m

 深い青色のミクリガ池と奥大日岳。 三角点の置かれている奥大日岳の頂上は、 右端のピークから左に寄った小さな突起の上にある。
 静寂の中で散策できればさらによかったのだが、 この日は山上の山小屋に物資を運搬するヘリコプターはひっきりなしに飛び交い、 けっこうエンジン音がうるさかった。 山小屋で恩恵を受けている身では文句も言えないが。

 新室堂乗越まで上がると雄大な景色が展開する。 広々とした室堂を前景に大きな立山がどっしりと構えている。 山崎カールもはっきり見える。
 この写真はOM-4Ti 35-80mmF2.8(ベルビア)で撮影した。

 剱御前をバックにチングルマの花穂がゆれている。

 中大日岳のあたりの木道を歩く登山者と、 左奥に剱岳、中央に奥大日岳が見える。
 この写真はわりと気に入っているので、 2004年の年賀状に使用した。

 花崗岩の石が重なる奥大日岳の頂上。 右手に大日岳、左奥に鍬崎山が見えている。
 この花崗岩の岩と岩の間にイワツメグサが小さな白い花を咲かせている。 この花の名前が思い出せず、地元の富山市がら日帰りでやって来た女性に教えてもらった。

 奥大日岳の頂上から見た剱岳。 左に早月尾根が長い裾を引いている。 その早月尾根の向こうには白馬岳や朝日岳が顔を出している。

 大日岳と大日小屋。

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