奥茶臼山(長野県)


おくちゃうすやま 標高2474m。

 奥茶臼山は、南アルプスの西側にある前衛峰である。 その東方には、荒川岳や赤石岳といった南アルプスの3000m級の山々が連なっている。
 従来、奥茶臼山の頂上を踏むのに一般的とされたのは、青木林道をはるばる歩いて登山口に達し、前茶臼山の南面を巻くようにして頂上にたどり着くルートのようだった。 長い林道歩きはいやだなと思い、なかなか出かける気になれなかったが、2006年になって、しらびそ峠から尾高山経由で新たに道が開かれたことを、インターネットで知った。 このルートは退屈そうな林道歩きがない上、時間も少しは短縮できそうなので、2007年の5月の終わりの週末に出かけることにした。 天気予報は晴れ。この週末を逃すと6月になり、梅雨入りの心配がある時期だった。
 土曜日の朝、中央自動車道を西に進む。 初夏の快晴の日なので、残雪に輝く南アルプスを見ながらのドライブのつもりだったが、この日は黄砂がひどく、鳳凰三山の頂でさえ霞んでいて景色は期待はずれだった。
 松川I.C.で高速道路を下り、山の中に入っていく。 途中、三遠南信自動車道の一部の矢筈トンネルを通過すると程野の集落に出、ここからしらびそ峠に向かって一気に高度を上げる。 道路はカーブが多いが、舗装されているので運転は楽だ。 ぐんぐん高度を上げるに従い気温が下がり、植物の緑も薄くなるのがわかる。 つまり、下のほうは初夏の様子で葉も茂っているのに、標高が高くなり峠も近づくと、周囲の木々はまだ芽吹いたばかりの春本番なのだ。 峠に近づいてある角を曲がると、突然尾根の上にぽつんと建つ「ハイランドしらびそ」が見えてくる。 遠目にはヨーロッパの館のような建物である。 この日は、ここに泊まるつもりだ。 出発の前日の金曜日に電話を入れて聞いてみると、一人なら余裕があるというので、すぐに予約を入れておいたのだ。 一つの山を登るたびに旅館やホテルに泊まっていては、出費がばかにならないが、この宿の標高が1900mもあるという立地条件に興味があったのと、登山口に近いことで泊まることに決めたのだ。 宿に着いて外に出てみると、半袖シャツでは我慢できないほど気温が低い。 東側には南アルプスの大展望が広がっているのだが、黄砂で霞んでいるのが残念だ。
 宿の夕食には、しし鍋と鹿の刺身が出た。 これらのおかずを肴にビールと日本酒を飲んでいい気分になったら、満腹でご飯は食べられなかった。
 翌日暗いうちに起床し、出発の準備中にふと窓の外を見ると、登山姿の男性が一人しらびそ峠の方向に向かって歩いていった。 多分、キャンプ場から奥茶臼山に向かうのだろう。
 4時半に宿を出て、車を少し離れた峠に移動させる。 峠には数台の車を停められる広場がある。 ここからの南アルプスの眺めも良いのだが、相変わらず黄砂で霞んでいる。
 5時前に歩き始める。 最初はカラマツの林である。 梢の上では風が音をたてている。 上空は風が強いようだが、木に遮られて登山道ではそよ風程度だ。 やがてカラマツも終わりトウヒ、コメツガ、シラビソなど木に変わり、南アルプスらしい雰囲気に変わる。 2089mの前尾高山を超えて、登山口から1時間ちょっとで針葉樹に囲まれた尾高山の頂上に着く。 頂上の少し先まで行くと、やっと目的地の奥茶臼山の頂が確認できるポイントに出る。
 ここから先が新たに開かれた登山道である。 いきなり急な斜面の下りがあるが、あとは概ね傾斜のゆるい広い尾根の上をたどることになる。 新しい道だけに踏み跡が定かでない部分が多いが、邪魔になる大きな倒木は処理されている。 それに、いたるところに赤や黄色のテープが木の枝や幹に付けられているので、迷うようなことはほとんどない。 樹林帯の中のルートなので、展望はほとんどない。 林内のところどころで、白いバイカオウレンの花が目を楽しませてくれる。
 ひたすら森林の中を歩いた末、奥茶臼山と丸山をつなぐ尾根に出会う。 視界が開け、遠く塩見岳の姿も確認できる。 今回のルートで一番景色のよい場所だ。 ここまで来ればあと一登りで頂上である。 頂上手前の尾根には残雪があり、足を置くと、ずぼっともぐる。 しかし長い距離ではないので、横着してスパッツはつけずに歩きとおすと、木に囲まれたなんの変哲もない奥茶臼山の頂上だった。 誰もいない。 朝方、宿の窓から見かけた単独の登山者は、奥茶臼山を往復するのではなく、 青木林道に向かって下ったのだろう。 腰を下ろして休んでいると、青木林道方面から男性が一人登ってきた。 今日初めて会う登山者である。
 下りは、登りのルートを忠実に戻ることにする。 途中で花の写真をマクロレンズに変えて撮ったりしながら歩いた。 おかげで、展望のない長い樹林帯の中の歩行もそう苦にならなかった。
 尾高山では今日2組目の登山者2名と、前尾高山付近で3組目の登山者数名と出会った。 晴天の日曜日でもこの程度だから、静かな山である。 しらびそ峠に戻ったのが13時少し前なので、早朝から約8時間を針葉樹の森の中で過ごしたことになる。 たっぷりと森の空気を吸った一日だった。
 この後、中央自動車道を使って帰京したが、天気の良い日曜日の夕方とあって、お決まりの渋滞に出会い、家に着いたのは19時半になっていた。

 歩行時間 2007/05/27 登り3h50m(しらびそ峠−尾高山−頂上) 下り3h45m

 程野から上がって来て、あるカーブを曲がると、突然尾根の上に「ハイランドしらびそ」の建物が見えてくる。
 カメラは、ペンタックスK10D・DA12〜24mmF4を使用。

 「ハイランドしらびそ」
 建物の外観と、これほど標高の高いところにありながら広々とした広場があることから、日本的でない雰囲気を感じる。
 右手に見えるピークは、前尾高山と奥尾高山か。

 「ハイランドしらびそ」からの北側の眺め。 左手前が前尾高山(2089m)、中央が奥尾高山(2266m)、右奥が丸山2374mと思われる。
 せっかくの晴天も黄砂で霞んでいる。

 しらびそ峠のそばにある登山口。 案内板には尾高山までのルートだけが表示されている。 そのうちに、奥茶臼山への登山道の表記が追加されるのだろう。

 前尾高山へ登りの途中にあるビューポイントからの南側の眺め。 朝もやの中に、左から、イザルガ岳、光岳、加加森山、池口岳が、そして右端には、「ハイランドしらびそ」の建物が見えている。

 尾高山(2212m)まで来て、やっとはっきり見えた奥茶臼山(左奥)。 中央右寄りは2266Mのピーク(奥尾高山)。
 ここから奥茶臼山まで直線距離で4kmあるが、標高差は262mしかない。 しかし、上り下りが続くので、そう楽な道のりではない。

 尾高山から先は新たに切り拓かれた道である。 この登山道整備は、倒木の処理が中心だったと想像される。 いかにも南アルプスらしく深い森が続いていて、いたるところに倒木が横たわっているからだ。

 奥茶臼山の頂上。
 木々に囲まれていて展望がない。 木があるのに、なんとなく殺風景な感じのする場所。

 奥茶臼山の頂上にある二等三角点。

 頂上から少し戻って下ると、丸山へ続く尾根から尾高山への分岐があり、ここが開けていて景色がいい。
 特徴のある山容の塩見岳も見える。 この写真にも左端に写っているのだが、拡大しないと小さくて判別できない。

 放置されたワイヤは、 かって行われていた伐採の名残か。 全体的に大木が少ないのは、伐採で失われたためだろう。

 バイカオウレンの花。 林内のいたるところで、この白い清楚な花を見かけた。 白い花弁のように見えるのが萼片で、黄色く見えるのが花弁だそうだ。
 カメラ(PENTAX K10D)のレンズをマクロレンズ(FDA50mm F2.8)に変えて撮影した。

 バイカオウレン。 場所によっては、花を踏みつけないように注意が必要なほど多い。

 白い萼片の形がまるみを帯びていて、上の写真のバイカオウレンと少し雰囲気が違う。 これもバイカオウレンなのだろうか?

 萼片(白い花弁のように見える)が6枚のバイカオウレンも、見受けられた。

 しらびそ峠からの景色。 下山した13時頃の写真で、少し雲が湧いてきていた。

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