みうね、さんれい 標高1893m。
三嶺は観光地化が進んでいない四国の名峰として知られている。
2004年の5月連休を利用して5年ぶりに四国に渡った機会に、
その三嶺の頂上を踏んだ。
登山コースは徳島県と高知県の両方から複数あり、どれを選ぶか迷ったが、
稜線伝いに広がる笹の原を満喫できるルートとして、
西山林道から躄(いざり)峠経由で三嶺にいたるコースを歩いた。
連休初日の朝、飛行機で高松入りし、予約しておいたレンタカーを受け取った。
この日は丸亀市にある伯父の墓参りをした後、
東祖谷村の「ホテル奥祖谷」に投宿。
夕食のときに宿の女将に、西山林道から三嶺を往復する予定を話すと、
往復は楽ではないので、
村に1台だけあるタクシーを利用してはどうかという話になった。
翌日も全国的に晴れの天気予報で、西山林道から往復するのに不安はなかったが、
片道だけの縦走であれば体力的、時間的に楽になることは間違いないので、
女将の案に乗ることにした。
タクシー会社に電話を入れて、名頃側の林道で待ち合わせの予約を済ませてくれた。
すぐに安易なほうに流れることに少々ひっかかるものがあったが、
同じ道を戻るより名頃への道を知っておくのも悪くないと考えることにした。
翌日はまだ暗いうちに車で宿を出て、国道439号線を東に向かい、
西山林道の標識のところを右折して林道を登った。
舗装されたいい道である。
途中でシカを目撃した。
都会からやってきた人間にとってはかわいらしい動物だが、
午後に乗った地元のタクシーの運転手さんの話では、
シカによる農作物の被害が深刻な様子だった。
登山口に着くと車が2台停まっている。
どうやら前日に登った登山者のもののようだ。
食料とカメラを持って、5時半に歩き始めた。
もう周りはすっかり明るくなっている。
尾根通しの道で、左側がヒノキの植林地で、右側には広葉樹の林が広がっている。
6時に1476mと思われる小ピークに着く。
ふもとの集落からは6時を知らせるスピーカーの時報の音が流れてくる。
このあたりでヒノキの植林地が終わり、モミの木が多くなる。
高度を上げるに従って木の丈も低くなり、笹が主体になり展望が開けてくる。
6時45分、コメツツジの混じる広々とした笹原の中の躄峠に到着。
どのような由来があるのか知らないが、躄峠とは風変わりな名前の峠だ。
東に続く尾根の先に目指す三嶺が、反対の南西の方角には天狗塚の端整な三角形のピークが見える。
天狗塚を往復しても大して時間はかからないようだが、
三嶺までまだ先は長いので、寄り道はあきらめる。
この躄峠から三嶺の頂上まではほとんどが笹原で、
開放的な尾根の上の縦走を楽しめる。
これこそが三嶺の山歩きの魅力であろう。
お亀岩の鞍部に達すると、高知県側に少し下った斜面にこぎれいな避難小屋が見え、
数人の宿泊者らしき人達が戸外にいるのがわかる。
ここから西熊山までは一登りである。
西熊山の頂上まで来ると、三嶺までの距離も近く感じる。
北側に目を転じれば、祖谷川を挟んだ北側の斜面に家々が点在しているのが見える。
さらに笹の中の道を徐々に高度を上げていくと、
9時少し過ぎに展望抜群の三嶺の頂上に着いた。
先客が4人休んでいた。
登山口から初めて会う人たちである。
剣山から縦走してきた登山者もいる。
タクシーの待ち合わせは12時なので、だいぶ時間に余裕がある。
持ってきた缶ビールでのどを潤し、
満足感に浸りながら周囲を見渡すと、どの方角も山また山である。
あらためて四国も山によって占められていることが実感できる。
風もほとんどない快適な陽気に、
写真を撮ったりして30分以上ものんびりした。
その後、タクシー会社に電話をして予約の確認をしてから、
名頃に向かって下山することにした。
三嶺ヒュッテの横から急な斜面を下るとじきに林のなかに入り、
展望がきかなくなる。
時折登ってくる登山者と出会う。
ダケモミの丘の分岐を左にとって下る。
次第に新緑が鮮やかさを増してくるのがわかる。
11時に登山口着。
未舗装の林道を名頃に下る。
11時半には国道に出てしまった。
20分ほど待つと予約したタクシーがやってきた。
約束の西山林道の登山口まで行ってもらう。
西山林道を朝、走っているときにも感じたのだが、
林道脇に不法投棄されたと思われる車がいたるところで目に付き見苦しい。
中には大型バスまで捨てられている。
こんな状況が続けば、早晩、
林道の路肩は廃車で一杯になってしまうだろう。
有害物質の流出の問題が起きるかもしれないし、早く手を打ってほしいものだ。
12時半、西山林道の登山口に7時間ぶりに戻ってきた。
朝あった2台の車はなく、別の1台が停まっていた。
タクシーの運転手さんは親切な人で、
筆者がレンタカーのエンジンがかかるのを確かめた上で下っていった。
あとは、この日の宿泊予定地の新居浜に向かうだけなので、
のんびりと車を走らせて東祖谷山村を後にした。
歩行記録 2004/04/30 登り 3h40m(西山林道−頂上)
下り 1h45m(頂上−名頃)
三嶺登山の前日、武家屋敷「旧喜多家」を見学した。
十数年前に移築された家屋は、国道439号から車でかなり登った見晴らしのよい場所にある。
西祖谷村のかずら橋とは対照的にほかの観光客がいなかったので、ゆっくり見学できた。
管理をしているおばさんの話では、正面の山並みの上に顔を出しているのが三嶺とのことだった。
西山林道の登山口。
道路の石垣に架けられた鉄製の梯子が出発点で、登山口としての趣には欠ける。
「イザリ峠、天狗塚登山口」と書かれた標識が建っている。
朝、ここに着いた時には、前日に登った登山者のものと思われる車が2台、路肩に停まっていたが、
午後に戻ってきたときには、その2台のかわりに別の車が1台停まっていた。
西熊山頂上から振り返って見た地蔵ノ頭(中央左より)と、
その向こうに三角形の頭を覗かせている天狗塚。
中央に見える尾根の下方、
つまり高知県側の斜面に建っているお亀岩避難小屋の赤い屋根が、
小さく写っているのがわかるだろうか。
西熊山からの三嶺。
8時前で、まだ太陽の角度が低いせいか、日が差していない斜面は黒々としている。
手前に見える小潅木はコメツツジの群落。
花の季節には華やぐのだろう。
三嶺の頂上。
周囲に遮るもののない展望台である。
写真は今日歩いてきた天狗塚方面の眺め。