盤面に配された4枚の桂が目立つ初形。
これらの桂がどういう活躍をするのか、ずばりそこが本作の見どころになります。
13歩、同玉、14歩、12玉、11桂成、同玉、
23桂不成、12玉、13歩成、同玉、19飛、(イ)18歩合 (途中1図)
途中1図で、A題同様に18歩の中合が飛び出します。
歩合をしないで(イ)23玉は、14馬、34玉、39飛、37歩合、同飛、35歩合、43馬、45玉、56銀、同玉、47馬以下。
18歩合は、途中で飛車を3筋に回る手を消したものです。
- 池田健太郎さん:
- 中合も気づきにくいでしょうね。
中合の意味付けは、わりとわかりやすい方だと思いますが、読みを伴うのは海老原流。
解者は変化を読みながら、ふむふむと納得して先に進む──これが氏の作品を解くときの基本姿勢になります。
【途中1図以下の手順】
18同飛、23玉、24歩、(ロ)同玉、16桂、23玉、
28飛、12玉、24桂、23玉、32桂成、(ハ)24桂合、
同飛、同玉、42馬、13玉、35馬、12玉、
34馬、(二)23歩合 (途中2図)
前述したように、28桂が邪魔で飛車が回れません。
ならばその桂を消せばいい。 というわけで、ここからの桂捌きをご注目ください。
一本24歩の叩きに、(ロ)22玉の変化は一応確認しておきましょう。
以下、44馬、33歩合、23歩成、同玉、14馬、22玉、32馬、同玉、43桂成と味の良い手順で詰みに至ります。
24同玉に16桂。さらに28飛、12玉としてから、24桂〜32桂成と、28桂の三段跳ねが見事に実現します。
飛車は桂合と刺し違えて、今度は2枚馬で玉を包囲します。
桂合で(ハ)24歩合の場合は、途中2図に至る手前、35馬に12玉とした局面で13歩と打って早く詰みます。
途中2図で(二)23桂合とするのは、作意同様に進め、(A)41馬、53玉、42馬上、62玉、51馬寄、72玉、64桂、83玉、61馬以下。
ここまでで既に30手を超えており、序盤は桂の捌きを中心に見応えのある攻防と言えるのではないでしょうか。
【途中2図以下の手順】
22成桂、同玉、33馬引、31玉、43桂不成、41玉、
23馬上、52玉、(A)51馬、53玉、54歩、63玉、
41馬上、72玉、64桂、71玉 (途中3図)
先程三段跳ねで成り込んだ32成桂を22へ捨てて、55桂を43桂生と活用して、玉を左辺に追い込んで行きます。
A題同様、本作も右辺で収束させることが叶わず、左辺になだれ込む形になりました。
右辺は序盤の手順を実現するために、駒が置けないため、やむを得ない面もあるのですが、ここが右辺のみで短く収まっていればと思わずにはいられません。
ただ、それについては、当然作者が一番悩んだはずで、その作者が本図を選択しているのですから、そこは尊重したいと思います。
【途中3図以下の手順】
82歩成、同歩、62馬、同玉、53歩成、71玉、
72桂成、同玉、63馬、83玉、74銀右、同歩、
同馬、72玉、63と、81玉、92香成、71玉、
72歩、61玉、51桂成、同玉、52と まで71手詰 (詰め上がり図)
途中3図からは収束。
82歩成が洒落た手で、同玉なら、73馬、同玉、74馬以下。
82同歩には62馬と捨てて、53歩成〜72桂成〜63馬とうまく攻めが繋がって、最後は玉座での詰め上がりとなります。
中盤以降、55の桂は、43桂生〜51桂成と使いましたし、合駒で得た桂も、64桂〜72桂成と二段活用したことになります。
序と同様に、本作では徹底した桂の活用が、全体を通じてのテーマとなってはいるのですが、71手の長丁場を支えるには、少し軽いでしょうか。
その軽さを別とすれば、個々の手順自体は気持ちの良い流れになっていると言えると思います。
作者によると「本作はわりと最近の作」とのことですので、序の18歩中合、桂の三段跳ねという素材を元に創作されたものでしょう。
氏の確かな創作技術を確認できる長編でした。
- たくぼんさん:
- A題でも出てきた歩の中合。何気ない所だけど実に巧み。
それ以降は煩わしそうでそうでない手順。お人柄なんでしょうね。
- 今川健一さん:
- 巧妙な序の中に隠された落とし穴、それは18歩の中合。
中盤は巧みに桂を捌いて主役は2枚の馬へとバトンタッチ。
最後まで駒捌きに始終する好局です。
まず、歩の中合に言及する方。
いつの時代でも、いいものはいい。当然ですね。
- 山下誠さん:
- 2枚馬の包囲網が出来てからが粘り強く、最後まで細かい手が続きました。長編もうまいものですね。
- 占魚亭さん:
- 桂と馬の捌きが素晴らしいですね。玉座で詰むとは思いませんでした。
桂の動きと2枚馬による追い手順に触れた方。
そこが印象的ですから、これも当然ですね。
- おかもとさん:
- こちらは最初からコンピュータに解かせて観賞。
この桂馬の動きは面白いですね。作者なら、もう少し短くまとめることもできたような気がするけど、これはこれで一局でしょう。。
- S.Kimuraさん:
- こちらは時間がなかったので、柿木将棋の解答を見ての感想です。
延べ5枚の桂馬が跳ね回って,最後にはすべてなくなるところがすごいと思いました。ただ、意味が分からないところが多数あり、正解発表を楽しみにしています。
海老原辰夫「星河」出版記念作品展 星河B解答:7名 全員正解
池田健太郎さん、今川健一さん、S.Kimuraさん、おかもとさん、占魚亭さん、
たくぼんさん、山下誠さん
記念出題に協力いただいた方。
解答そして感想をお寄せいただいたことに感謝申し上げます。
総評など。
- 今川健一さん:
- 「銀河」出版、おめでとうございます。
出題された2題は、その「銀河」の第99番、第100番とこと。
こんな好局の入った「銀河」の全作品を見たいものです。
ありがとうございます。えーと「星河」です。よろしくお願いします。
- 山下誠さん:
- 海老原さんの作品には筋を掴ませない巧妙さがあり、解けてみれば膝を叩く新鮮味があります。「星河」の出版を楽しみにしております。
- おかもとさん:
- 作品集の刊行、おめでとうございます。
題名の「星河」、綺羅星のような輝く作品がたくさん入っているようで、拝見するのが楽しみです。
- たくぼんさん:
- 星河出版おめでとうございます。購入させて頂きます。
いまから楽しみです。
みなさま、ぜひともご購入をお願いします(笑)。
「星河」収録作の手順区分は、短編(11手〜17手)62作、あぶり出し曲詰7作、中編(19手〜37手)28作、長編(57手〜71手)3作。
長編のうち未発表の2作は今回ご紹介しました。もう一作は大学院に出題した作です。
作品集の6割以上を占める短編は、粒揃いでお勧めです。
(1)解いてみようと思わせる初形に、(2)心理的にやりにくい手があり、(3)変化や紛れでは読みを必要とされ、(4)収束はきれいに決まる。
これが海老原流。ぜひご体感いただければと思います。
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