裸玉(5一玉・角金4銀2歩9、詰パラ2004年4月号)『驚愕の曠野』改良図

2004.04.01.
岡村孝雄

作意手順

A3三角 イ42角合 B同角成  同 玉 C6四角 ロ53角合 D4三歩 ハ3二玉
E3三歩 ニ2ニ玉 F2三歩 ホ1二玉 G1三歩 ヘ2三玉 H2四歩 ト同 玉
 2五歩 チ同 玉 I3六銀  同 玉  3七金 リ2五玉 J2六歩 ヌ3四玉
K4五銀  同 玉  4六金 ル3四玉 L45金打 ヲ2四玉  35金上 ワ同 角
 2五金  1三玉  31角成 カ22歩合  1四歩 ヨ1二玉  1三金  同 角
M同歩成  同 玉  1四歩  1二玉 N2三角 タ1一玉  2二馬  同 玉
 13歩成  同 玉  1四金  2二玉  32角成  1一玉  1二歩  同 玉
 2三金  1一玉  2二金まで59手詰

着手非限定に関する情報

裸玉図式という性質上、着手非限定に関係する情報を記述しておきます。 厳密に挙げると以下の三点ですが、いずれも問題はないと思います。

『おもちゃ箱』に寄せて

原図でのコメント

本作は『詰将棋パラダイス』誌2003年11月号で解答募集していただき、同誌2004年2月号にて結果発表しておりますので、 そちらもご覧いただければ幸いです。

詰パラへの投稿図はB5用紙50ページを超えましたが、そのほとんどは以下のように序盤の変化紛れ。 コンピュータを利用した検討も当然行いますが、変化紛れについては量や質を測るために自身でも盤に並べており、その結果を原稿に記しています。 雰囲気だけでもお伝えできればと思います。
作意もさることながら、(作意が55手であるのに対して)序盤変化がことごとく30手台以内と明確に割り切れており、 攻方の着手非限定のキズもありませんし、読んで処理するだけのものにとどまることなく "綾" として作品に奥行きを与える変化紛れが多いと思います。 解答募集をお願いしたことには、本作は "解く" という行為を経ることによってより深く感じられる内容があるのではないか、そんな判断がありました。

作意のあらすじは、「持駒不足を補うための攻方の歩連打に対して玉方は二歩禁誘致で応じるが、それによって新たな捌きが生じ……」というところ。
題して『驚愕の曠野』。裸玉には常々 "曠野" をイメージしていますが、一見人為の及ぶところでないように思える局面から生み出される手順の凄まじさが題名からも伝わればと形容したつもりです。

それでは、ぜひご鑑賞ください。

改良図のコメント

「玉座」51玉。この初形の裸玉も実に昔から創作が試みられており、初出は実に百数十年前となる1877年。 以来7図(複数作者による同一図発表も数えると9作)が発表されてきた。 概して中央寄りの玉位置になるほど難度が増すにもかかわらず、この発表数。 やはり将棋盤の上に駒を配置するものである以上、この玉位置には特別な魅力があるということだろう。

42玉型『驚愕の曠野』(以降「原図」と呼ぶ)を検討した時、隣接する51玉型への逆算についても検証した。 33角に42角合なら同角成の一手で、52歩や52銀・52金などは足りない。 他合の変化が詰むかどうかの問題になっているはずだ。 42飛合も、「42玉・飛金4銀2歩2」が詰むことにより、やはり取ってしまうことができる。 しかし、42に歩香桂銀を合駒した場合についてはまさか取るわけにはいかないし、詰み筋さえ浮かばなかったため、 結局原図の発表に的を絞って検討を続けていった。

重要な鍵の存在に気づいたのは、原図が詰パラに掲載されて解説を作成していた時。 64角53角合の変化を短く記すために「角以外の合なら31銀と挟み撃つか、33銀と形を決める。」とまとめた瞬間、一つの自問がよぎった。 「51玉・角金4銀2歩9」の2手目42歩香桂銀合の変化で、52歩や52金・52銀と捨てる手は散々考えたが、 金銀をいきなり斜めの62から捨てる筋を、私は果たして原図の検討ほどに読んでいたか?……

序盤手筋の応用は、玉位置を中央の筋へ中央の筋へと進めていく時の探索と検討に役立つ。 この場合は、二段玉から一段玉へと玉位置を縦に移す時の応用も可能だった。 歩打を取らなければ金銀を並べ、それで詰まなければさらに歩を叩き続けて角の利きまで玉を連れてくる。 さらに、原図よりも横に一つ広い盤面も、84・92・93に玉が来ると角「成」で戦力を補える。 そして、作意59手に対して全ての変化が高々40手前後か、それよりも短く詰むに至った。

本図の場合、変化を詰める時の「一路広いが、角が成れる」は紛れの検討に関しては危険を生じさせるものであり、 二度の機会におこなった紛れの検討も足掛け数か月にわたったが、 「余詰は無いと判断する」という私なりの結論をそろそろ付けて、世に問う頃合いだと思う。

玉座という位置は言うに及ばず、原図の冒頭2手と同じ角打角合で4手の追加ができたことで、初形だけでなく作意手順の質という点からも 本図は「改良図」と呼んで差しつかえないだろう。 ただし、出題や解答募集を原図でおこなったことには悔いはないし、幸いだったと考えている。 なぜなら「原図」は、特別な玉位置という装飾を抜きにして、 あまねく裸玉図式の理想や目標たらんとする過程で生まれた作品だったから。 「改良図」については、序盤手順の応用を駆使して中央へと進んできた裸玉が 最後の一度の応用で遂に玉座にまで到達できたことを作者冥利に思う。

この作品が、詰将棋の歴史における至宝の一つとして長く残ることを願っている。

変化手順(簡略版)

紛れ(簡略版)

変化手順

2手目42歩合/香合/桂合/銀合(合駒せずに61玉も含む)の変化は基本的に類似の手順であるため、2手目42桂合の変化で全体を記述し、詰め方が異なる場合に他合の変化順で補足しました。
同様に、6手目53歩合/香合/桂合/銀合の変化は基本的に類似の手順であるため、6手目53歩合の変化で全体を記述し、詰め方が異なる場合に他合の変化順で補足しました。

紛れ手順