裸玉(3八玉・金4銀4桂香歩3、詰パラ2003年11月号)

2003.11.01.
岡村孝雄

作意手順

 4七銀  同 玉 A4九香 イ5六玉 B5七歩 ロ同 玉  6九桂  5八玉
C5七金 ハ4九玉  5八銀  4八玉 D4九歩 ニ3八玉  4七銀  4九玉
 38銀打  5九玉  5八金  6九玉  68金打  7九玉 E69金打 ホ8八玉
F78金寄  9七玉  87金打  9八玉  9九歩 ヘ同 玉  8八銀 ト8九玉
G79金寄  9八玉  9七金まで35手詰

着手非限定に関する情報

裸玉図式という性質上、着手非限定に関係する情報を記述しておきます。

『おもちゃ箱』に寄せて

七段目にいる玉に対し、初手桂打ち。1手で盤上に大きな大きな足掛かりができ、小駒だけでも裸玉を詰ますことができます。いわゆる "小駒裸玉" の第一号局は1959年、北川明氏の「17玉・金2銀4桂香2」(詰パラ1959-12)。 以来、いくつかの小駒裸玉が発表されてきました。私の裸玉遍歴の出発点も「小駒だけの完全作がこれだけあるのに、大駒を持つ裸玉が存在しないのは不自然ではないか」(注:1980年代半ばには不完全作すら発表されていなかった)という疑問なので、小駒裸玉は無縁ならぬ存在です。

ただし、小駒裸玉自体はすでに複数の作者によって作品も発表されており、作品以外にも小沢正広氏の "七段目小駒裸玉リスト" (詰パラ1988-9)として研究もなされている分野です。しかも大駒がなく読みやすいだけに、過去の作例の隙間を突いた完全作が現れる可能性も低く、リスクが高いだけと見て、既存の図を調査するに留めていました。

そんな認識が変わったのは、七段目大駒裸玉を世に送り出すべく検討に明け暮れた頃から。紛れを調べるうち、初手香打ちもあるのではという不安が募ってきました。例えば歩合ならそこで桂打ち。駒が埋まることで、玉がまっすぐに八段目に入る最強の応手が消えてかなり危ないのです。では、初手香打ちは、紛れや余詰でなく本手順として成立しないか?

初手桂で詰める場合は小沢氏の研究にもあるように 17→27→37→57→47 の順で詰みやすいのですが、初手香打ちには必ずしもそれがあてはまりません。必要となる金銀の枚数を比較すると、中央寄りの玉位置のほうが、初手香打ちが本手順として成立しやすいと考えられます。その一方で、七段目の玉に対して香を打つ小駒裸玉は40年以上で1つも発表されていない、という歴史もあります。
成り立っていて誰も挑戦していないものなら、もし完全作があればそっくり眠っているはず……成算とは言えないまでもやってみる価値はあると思い、小沢正広氏以来15年ぶりの小駒裸玉に挑みました。

9筋ある将棋盤を、3と5に切り裂く香打ち。ここまでが本作に作者が込めた全ての意志と言ってよく、あとは詰将棋の自然な理によって実現していたに過ぎません。ただ、「この一手」以降も単に完全作というだけの内容に終わらず、一旦右辺に追い込まれかけながら48玉と懐に飛び込んで再び左辺へと転回するやり取りや、時おり現れる打歩詰逃れ、金銀だけの詰め上がりなど、ちょっとニヤリとさせる部分はあると思います。

なお頭の2手には、主眼手をいきなり出さない、金銀の枚数を揃える、他の玉位置への逆算ができないことを明示する(例えば58玉だと、初手57金でも詰んでしまいます)、そういった意図があります。

変化手順(簡略版)

紛れ手順(簡略版)

変化手順

紛れ手順