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詰将棋おもちゃ箱カピタンリバイバル

47 アンチキルケルール

小峰耕希

カピタンリバイバル
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  1. アンチキルケルール
  2. キルケとアンチキルケ
  3. 戻り方の詳細
  4. 例題:アンチキルケ協力詰
  5. たくぼんさんの「アンチキルケ入門」


1.アンチキルケルール

Onsite Fairy Mateの説明に依れば、アンチキルケのルールは以下のように定められています。

 アンチキルケはキルケとは逆に取った方の駒が戻されてしまうルール。

  1. 駒取りを行った場合、駒取りをした駒は最も近い初期位置に戻る。
  2. 5筋の香桂銀金は取った側が戻る位置を選択できるが、片方にのみ戻れる場合は強制的にそちらに戻る。
  3. 成駒は成ったまま戻る。
  4. 初期位置に駒があり、戻れない駒は戻らない。
  5. 駒取りの発生時、駒が戻るまでを含めて一手と見なす。そのため、例えば11歩生/17歩は許されるが、11歩生は許されない。
  6. 詰みの概念はフェアリーに準ずる。同玉→51玉等、アンチキルケによって逃れる場合は不詰。

このうち 4. はチェスプロブレムのアンチキルケと大きく異なる点なので注意が必要。 5.は駒取りの一瞬だけ行き所のない駒、王手放置、セルフチェックなどの反則に見える(駒が戻ることによってその状態が解消される)着手の許容を明記したもの。 これはキルケにも当てはまります。

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2.キルケとアンチキルケ

これだけでは初心者にはわかりにくいと思いますので、普通ルール、キルケ、アンチキルケの違いを整理した表を作ってみました。

アンチキルケとは、キルケと同様、駒を取ったときの扱いが変わるルール。

取った駒 取られた駒
普通のルール 取ったマスに残る 取った側の持駒になる
キルケ 取ったマスに残る 指将棋においての初期位置に戻る
(複数あるときは取ったマスから最も近い位置)
戻せない場合は、取った側の持駒になる
アンチキルケ 指将棋においての初期位置に戻る
(複数あるときは取ったマスから最も近い位置)
戻せない場合は、取ったマスに残る
取った側の持駒になる

例えば、先手24歩を後手が同歩と取ると次のようになります。

普通のルール:後手24歩が残り、取られた歩は後手の持駒に
キルケ   :後手24歩が残り、取られた歩は27に復活
アンチキルケ:取った歩は23に復活、取られた歩は後手の持駒に

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3.戻り方の詳細

次に各駒の戻り方の詳細について。 アンチキルケは当然ながらこれを理解していないと扱えない訳ですが、よく誤解があるのでまとめてみました。 先手が後手の駒を取ったときに、取った先手の駒は次のようになります。

駒の種別 戻る位置
1〜4筋で駒取りをした場合 5筋で駒取りをした場合 6〜9筋で駒取りをした場合
駒取りをした位置に関わらず59に戻る。
飛・龍 駒取りをした位置に関わらず28に戻る。
角・馬 駒取りをした位置に関わらず88に戻る。
49に戻る。 49か69のどちらかに戻る。 69に戻る。
銀・成銀 39に戻る。 39か79のどちらかに戻る。 79に戻る。
桂・成桂 29に戻る。 29か89のどちらかに戻る。 89に戻る。
香・成香 19に戻る。 19か99のどちらかに戻る。 99に戻る。
歩・と 駒取りを行った筋の7段目に戻る。

補足1 − 成駒はその駒が生駒だった場合の初期位置に成駒のまま戻ります。 必ず生駒で戻るキルケと異なりますので気を付けて下さい。
補足2 − 駒取りをした駒の初期位置が既に他の駒(敵味方不問)で埋まっている場合は戻りません。 チェスプロブレムのアンチキルケでは、このような場合駒取りを行えない規定になっているそうですので、混同しないようご注意下さい。 又、5筋で金が駒取りを行った時に49が埋まっていた場合、その金は自動的に69に戻されます (更に69も埋まっているのでもない限り、居残りは認められません)。
補足3 − 金・銀・桂・香は、1〜4筋で駒取りをしたのに左側の初期位置に戻る等という事は絶対にありません。 右は右、左は左が鉄則で、例えば4筋で駒取りをした時に右側の初期位置が塞がっていたとしても、左側の初期位置に復元する事はないのです。 ここを誤解なさる方が多いので特にご注意下さい。

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4.例題:アンチキルケ協力詰

以上でルール説明自体は終りなのですが、これだけで今回の出題作をを解くのも大変かも知れません。 そこで例題代わりに僕のアンチキルケ協力詰既発表作を解説します。 アンチキルケ協力詰は、文字通りアンチキルケルールの協力詰(先手後手協力して、最短手順で後手玉を詰ます)です。

第1図は、たくぼんさんが開催した「第1回アンチキルケばか詰(5手詰)作品展」に出品した5手詰です。
仮にこの図普通詰だとしたら、初形局面での王手は、▲56飛・68飛・57金・48金の4通りです。 ではアンチキルケではどうなるでしょう? ちょっと考えてみて下さい。
答えは5通りで、そのうち飛による王手が1つと、金による王手が4通りなのです。
まず飛の方ですが、アンチキルケでも▲68飛は王手になります。 ところが▲56飛としてしまうと、この手は香取りのためにアンチキルケが適用され、飛が初期位置である28に飛ばされてしまいます。 よって王手にはなりません。 因みにこのような場合の表記法は、▲56飛/28飛です。
対照的に金による王手は倍増。 何故でしょう。 まず普通ルールでも王手になった▲57金と▲48金はアンチキルケでも王手です。 ただし48の場合はアンチキルケによって最も近い初期位置(つまり49)に金が復元されてしまうのですが、偶然受方の玉位置が58なので王手という意味です。 更に伝統ルールでは王手と無縁な▲56金が本ルールでは王手で、しかも5筋の駒取りなのでルール2が適用され、49と69の2通りの復元場所があるのです。
では上記の5通りの中で正解手はどれかというと、▲56金/49金です(これで持駒に香が加わります)。 何故69に復活してはいけないかというのは後でわかります。
2手目は△57玉と応じるのが最も協力的な手です。
3手目が実はポイントなのですが、▲59香と取ったばかりの香を離して打つのが好手。 この手は単に王手というだけではなく、受方玉の初期位置である51にも効いているという事が重要なのです。
以下△47玉、▲38金まで5手詰(第2図)。

伝統ルールならこの図では詰みとは程遠いのですが、この場合は受方玉の初期位置(51)が攻方香の効き筋に入っているために、47玉は事実上取禁状態になっています。 つまり第2図では△38同玉が出来ず、それ以外の逃げ様もないので詰みという訳です。 3手目に香を離して打ったのは△58玉/51玉の逃れ筋を防ぐ意味があったんですね。
アンチキルケは詰め上りについて、大まかに言って2つに分類出来るのですが、本局は51に戻さずに詰めるパターン。 今回の場合は51を塞いで取禁状態に陥れて仕留めましたが、他には吊るし桂や両王手で詰ます形があります。

次に51に戻して詰ますパターンをご覧頂きましょう。

上図は第3回アンチキルケばか詰作品展で3位に入賞した物です。
初手がかなり広いのですが、▲25角と直に打つのが作意。 角の効きが間接的に61を睨んでいるのがポイントです。
初めにも書いた通り本局は受方玉が51に戻るパターンです。 というわけで2手目は△35玉/51玉(一瞬玉同士が衝突していますが、駒取りで51に戻ってしまうので合法手)です。 35香は攻駒ではなく取らせ駒という位置付けだったんですね。
3手目は持駒の香で王手するしかない局面。 どこに打つのが正解でしょう? 答えは後程。
さてどこに打ったかはともかくも、香で王手された後の4手目はどう受けるかです。 協力詰ですから一番危ない所へ逃げるわけですが、初手の角打ちを考慮して△61玉とします。
ここでよく見ると(3手目が▲52香の場合以外は)▲45王とすれば開き王手で金が補充出来ます!  ・・・でももうおわかりの事と思いますが、駒取りをした王は59に戻されてしまい、間の悪い事にそこは受方の馬が効いている地点。 つまり禁手なんですね。
行き詰まってしまいましたのでルールに立ち返ってみると、「4.初期位置に駒があり、戻れない駒は戻らない」というのがありました。 もう一度よく振り返ってみると、不確定にしていた3手目の香打の中には▲59香という選択肢も含まれていました。 以下△61玉、▲45王と進めると59に戻らずに済みます! これで先が見えて来ました。
6手目は△25馬/22馬で2段目の竜の効きを遮断するのが協力的好防。
▲62金までの7手詰です。

▲25角 △35玉/51玉 ▲59香 △61玉 ▲45王 △25馬/22馬 ▲62金まで7手詰。

本局は51に戻すとは言っても、すぐに61に動かして詰ますので単純ではないのですが、アンチキルケ特有の限定打を紹介したかったので例題に選びました。
51玉型での詰形としては、吊るし桂や両王手がやはりよく使われる筋です。 図面・解説は省きますが、第2回アンチキルケ作品展に出品した僕の作品は51玉を両王手で仕留める手法を用いています。
又、本局のように51の周辺に居る玉に王手を掛けながら51を塞ぎ、大駒や金気のような効きの強力な駒で隅に追い詰めると、取禁状態になっている効果で意外と簡単に詰んだりします。

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5.たくぼんさんの「アンチキルケ入門」

一応この程度を抑えておけば今回出題予定の2題は解ける筈なのですが、もっと丁寧な説明が読みたい方は、たくぼんさん執筆の 「アンチキルケ入門」 をご覧下さい。 解図の際の参考になれば幸いです。

又、執筆にご協力下さったTETSUさんにお礼申し上げます。

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