「MMかもしれん。」
七瀬はやっとの思いでこう告げた。
彼の目の前に座っていた直江に,動揺している様子は見られない。
直江もレントゲンを見ている。ある程度予測していたのかもしれないし,七瀬を気遣い冷静な態度でいるのかもしれない。
そんな直江を思うと七瀬も胸が痛んだ。
「やはりそうでしたか」
「おまえほどの若さでMMになるとは信じられん。」
「認めたくないことですが,自分の診断は間違っていなかったのだと自信がつきましたよ。」
直江は自嘲気味に微笑んだ。
七瀬は立ち上がり,直江に背を向けて窓のほうに向った。
「このところ私もうちのやつのことがあって,おまえのことに気づいてやれなかった」
「僕も腰椎を痛めてから慣れっこになっていて,取りたてて気にしていませんでした。あれが前兆だったんでしょうけど,あの時点で気づくのも無理でしたし。」
「すぐに入院しなさい。私も全力を尽くす」
「でも,これから治療するといっても,進行を遅らせるぐらいでしょう」
「おまえは若いから進行も早いだろう。早急に手を打たなくては」
「...少し考えさせてください...今日は当直なんで,これで失礼します。」
「考えるって,ぐずぐずしてはおれんぞ」
七瀬の言葉は直江の閉めるドアの音にかき消された。