とけてゆくバターのような静けさの街の未明に蛹がひらく
明日燃えてしまうのでしょう廃校の庭に小さな椅子の断片
絮の飛ぶ野にさまよっているような ひとを忘れて目覚めた朝は
布に包まれしひとびと眠る春 壜よりあふれだす稚魚ありぬ
春の土ひとしくしめり生命のゆびさきが編む祈りのもよう
西日さすわたしの庭に水あふれかたちなきものたちの微笑
ぎこちない抱擁がありぎこちない悲しみがある あさのつめたさ
追悼歌ながれて淡い水のいろ驢馬のかたちの椅子ゆれやまぬ
(初出 『短歌朝日』5・6月号)