折りたたまれた紙片(了)

小林久美子


デッサン : kumiko kobayashi


曇り空高く
ちらちら飛ぶ
二羽の禽たち
言葉を搬ぶように

轍などすぐ消せるのに
どうしたのか
一夜明けても砂丘に
ある


肉体をないがしろにする
罰なのか
心は
ときに独りになる


汝の前だけに
晒していたい言葉
診断なんて
要らないのに


絵を観たい
訳でもなしに
見て廻る 気を
紛らわせていればいいと

目に見えない
ものばかりが溢れる
何故あふれる
かの思いも無しに


少しも砕かれる
ことのない石
こんなに厳しく
陽は注ぐのに


不在を
掌に載るすずしい言葉に替えて
想いなおす
死者を


いたましい鮮やかさになる
再生の壁画の
なんという烈しさ


蜂が巣に戻りくる
石膏の型を外すときの
注意深さで


遺された文を読みながら
もう一つの
過去の時を辿り直す


平坦に見える田園
その上を時間は
うねりながら流れた


なにか書きとめた紙片を
折りたたむ
無言の刻の横貌を見せ


立ち尽くしているけれど
生者の靴先はもう
前を目指している


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