風の誘いにのる一枚の落葉

小林久美子


デッサン : kumiko kobayashi


白猫を薄墨色(グレー)に変えて
ゆく日暮れ
足跡をつけては
消しながら


ひっそり見つけられる
虫の薄翅
野茨の棘
地下の聖堂

蒼穹を背に黄葉を落とす
木は
無にすることが
救済という

雲のかかった
薄明り
覚悟がまだできない
心に射しながら


少し焦がしてしまった
麺麭だろうか
牛酪
(バタ)の匂いが
包み込むのは


十字架のために伐られた木は
どれほど
捧げられただろう
祈りを

手に掬う
灰の暖かさに思う
灰色の
優しい濃淡を

人を画くあいだ
一瞬閃いてみせる
稲光
日の惑いは

淡紅の色が明るくしてくれる
高野箒
(コウヤボウキ)
花束になり

導かれてゆく言の葉
かけらから
欠けたところを探すのに似て

種を撒き水をかけたらもう
育つ力に任せるように
愛は

目立たないけれども
緩やかな上り下りの
坂が続くこの道

伝説の風の誘いに
一枚の落葉がのる
秋の夕暮れ

風景に
生かされているのを思う
遠くを歩む後ろ姿は

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