落ちていた禽の羽根

小林久美子


デッサン : kumiko kobayashi


日盛りの
木木の若葉は揺れやまず
人が窓辺を
離れたあとも

水盤のみずを
光と思いこむ
小禽が飲みに降りて
くるまで

無いように
より添う光
汝に会うことのない
日を重ねるなかで

画の汝に喩える
くちびるに響かせる
ことのないHの
音を

ささやかな
運命にして二筋
(ふたすじ)
淋しい径が
交わる処
(ところ)

目で調べ
画き留められた
花の細密画集
一人に宛てられて


呼ばれた者のように
禽が翔び立つ
森へ水辺へ
空へ明日へ


ひとりへの
手紙に記された願いごと
だと思う
川の行方を


揺れやすい炎に手を翳す
蝋燭は
固くて脆い物だから

雫はみずからの重みに
落ちて逝く
吾にのみ報せたいばかりに


吾を落ちつかせ温めて
喜びを浮かびあがらす
灯火 汝は


やさしい隠れ場所になる
禽達を落ちあわせる
欅の古木は


落ちていた禽の羽根に
匂いはない
汝が差しだす思いみたいに


生に従う
芽吹いたら幹を伸ばさずには
いられない木であれば


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