編み直される糸

小林久美子


デッサン : kumiko kobayashi


築き上げられた思いへ
厳かに冠する
ような言の葉に
遇う

光源は
何処にあるのか
列柱の
間間
(あわいあわい)に射しこみながら

いましがた
誰かが座していたらしい
机から引きだされて
椅子は

港へ
人を迎えに行くのか
かろやかに少女は
小径を下る

版画の初刷りをする
ときの気持ち
こころ鎮めて
汝と向きあう

何処から
つよい光を放つのか
吾の裡を透かす稲妻
汝は

あり得たのに回避した
それが
賢明なことだと
解っていたから

独りの心に
手繰り寄せられた女性は
画かれてその人に
逢う

ことの葉をもたず
思いを透かせあう
光と影がそうするように

信頼をよせてゆく禽
いっしんに枝をはり
葉を繁らせる樹に

黙しつつ見返してくる
吾の問いに答えを与えながら
女性
(モデル)は

わたる季
(とき)を禽へ報せる
鐘の音になる
木木の梢が鳴りあい

鐘の音が鳴るとき
汝がいるのが分かる
次の音が鳴るまで其処に

(ほど)かれてもう一度
編み直される糸
生きながら生を思うは

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