うつくしい書簡をまえに

小林久美子


デッサン : kumiko kobayashi


どうして
胸が打たれるのか
小さな夢が破れて
目覚めたあとを

ひとりへのためにのみ
炎えつきる蠟燭
灯のほとりに
ひとを映し

落雷を沖にみていた
運命に
手を貸すことは
できないように

灯の前でおもう
ここにいないひとや
雲のかたちの
つくられ方を

投げ返さなければ
ならなかったのに
達しえないと
分かっていても

画のなかで汝が
ほほえむ
汝からはなれることが
できたかのように

かなたへ
運ばれる問い
遥かな時のむこうで
応えられるために

画のなかで
汝は吾の証人になる
画きまちがいで
あったとしても

覚書の紙片がでてくる
まだ知ることのない
感情を纏い

出会ったことで
存在させてしまう 声を
すがたを見うしなっても

とぎれた季を
現在に溶け合わせられたら
午後のルツーセを塗る

不遇にさえ
うるおされたのを想う
つながって往く二艘の舟に

うつくしい書簡をまえに
試される ひとへ
愛を返すということ

稲妻も雨も
夜空のこれまでの
実験の成果をみせて降る

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