雨が降りさうで
ちり紙にくるんだお金てのひらにぬくめて帰るふゆのゆふやみ
なつかしい歌がめぐつてゐる身体春がきさうな、きさうな背伸び
長き陽につまさき四つぬくめつつ薄目してみる世界にゐたい
秋天のむかうの春にゐる姉の指のきつねが無言で笑ふ
紅の自転車が来る蒙古斑深く沈めた体を乗せて
九官鳥ときをりかつと鳴くだけの秋の真昼に招かれてゐる
昭和六年生まれの人と坂道を黙りこくつて散歩しました
日溜まりのやうなまちがひ頬のきず発泡させてゐるオキシフル
雨が降りさうでねとても降りさうであたしぼんやりしやがんでゐたの
(歌集『青卵』より)