10月24日OEK第498回定期公演ME

10月24日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第498回定期公演PH
指揮:ピエール・デュムソー、ピアノ:務川慧悟
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「デュムソーの火の鳥 務川慧悟のプロコフィエフ3番」と題するオ−ケストラ・アンサンブル 金沢(OEK)第498回定期公演。大編成によるプロコフィエフのピアノ協奏曲とストラヴィンスキーの《火の鳥》に期待して石川県立音楽堂に向 かった。

   ロビーコンサ−ト及びプレトークは無かったようだ。

 コンサート1曲目は、グノー:歌劇《ファウスト》よりバレエ音楽《ファウスト》。OEKの弦楽5部は10-8-6-5-4の対向配置。但し、Cbは舞台向かって左。Hp1は右。Hr4、Tp2、Tb3、Tub1とフィルハーモニー布陣。 プログラムにある通り、オペラの上演ではバレー・シーンは省かれることも多いというバレー音楽。悪魔メフィストフェレスとの契約により青年に戻ったファウストとマルグリートとの悲劇的愛の物語だそうだ。 第1曲Allegrettoはffのタンタタタの序奏。すぐにワルツ。マエストロ・ピエール・デュムソーはきびきびとした指揮で小気味よい。第2曲AdagioはHrとHpによる明るい舞踏。第3曲Allegrettoは悪魔の踊りか。第4曲 Moderato・MaestosoはTubのイントロ。Flが優雅な行進を演奏し、Tubのffで終了。第5曲Moderato con motoはHpの序奏。第6曲Allegrettoはトラララララとどこかで聞いたような曲想。NHK-FMのクラシック番組テーマ 曲に使われたそうだ。第7曲終曲はAllegro・Divo。VivoはVivace活発なとは異なり、いきいきと。悲劇的愛の結末であろうか、金管の咆哮を含むOEによる壮大なフィナーレで終了。コンサート1曲目としては珍しく ブラボーが掛ったバレエ音楽《ファウスト》であった。

 コンサート2曲目はプロコフィエフの5曲のピアノ協奏曲中、最も有名な作品であるプロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番。第1楽章Andante・Allegroは、Clによるイントロ。絃が加わり短い序奏の後務川慧悟さん のPfが開始。。いきなりのffであり、OEKとの音量に少々押され気味であったが、中間部で綺麗なアルペジオを披露。ショスタコーヴィチ風Tb(テンプルブロック、木魚)も加わり、フィナーレは加速し、ドンで終了。 第2楽章Thema and Variations(Andantino) は、Flによる行進曲風イントロで開始。Pfが続き、FlとPfの会話。フィナーレはタタタタタとfで終了。第3楽章はAllegro ma non troppo。冒頭のロンド主題は、プロコ フィエフがロシア革命の混乱を避けるためアメリカへ渡る途中立ち寄った日本滞在中(1918年6月1日-8月2日)に聞いた長唄の《越後獅子》からヒントを得たといわれている。Fgのソロ、Pfソロが続き、曲想はプログ ラムにある「アイロニーを漂わせながら」進行。逃避行に対する苦笑いであろうか。中間部の綺麗なPfアルペジオ経て、FgとPfによる《越後獅子》。加速してやはりドンで終了。アンコールはラベル:《亡き王女のた めのパヴァーヌ》。Pavane(仏)は16、17世紀に流行した2拍子系のゆっくりした舞曲。フランス音楽を選んだのはマエストロ・デュムソーヘのオマージュであろう。

 休憩を挟んで、3曲目はストラヴィンスキー:バレー組曲《火の鳥》(1919年版)。2つのロシア民話に基づくストーリーのバレー曲で、王子と王女、そして幸運の象徴である火の鳥と魔王カスチェイが織りなす物語 である(山崎2023)。導入部は、Kick(大太鼓)の弱いトレモロに導かれて、VcとCbがゆるやかな音型を出し、序曲が始まる。バレー曲なので一旦停止は許されない。Attaccaで、「火の鳥の踊り」。弦のトリル、鳥の羽音を 模した細かい音型のモティ−フがHpのグリッサンドで伴奏される。「火の鳥のヴァリアシオン(Variation、変奏)」では、ClとFlが火の鳥を生け捕りにしようとするシーンを描き出す。ドンと魔王登場。「魔王カスチェイの 凶悪な踊り」が、めがぐるしく変わるリズムを伴い奇怪な雰囲気で始まる。《春の祭典》に到るストラヴィンスキーの最初の意欲作である。尚、1919年版におけるTbのグリッサンドは練習番号38で削除されて、練習番号39 では挿入されているとのこと。今回の演奏でTbのグリッサンドが聞けなかったのは、練習番号38を用いたためであろう。「子守歌」ではHpとVaの伴奏によるFgソロが絶品。王子はカスチェィの魂が入った卵を割り、カス チェィは死に、魔法の國に平和がよみがえりフィナーレ。「終曲」は弦のトレモロに乗ったロシア民謡風の主題がHrに現れ、VnとFlに受け継がれる。最後はコラール風の壮大なコーダで曲が結ばれる。アンコールはコダ−イ: 《詩的な断章》。弦とHpが織りなす綺麗な曲であった。

さて、マエストロ・デュムソーが再登場したOEK。彼もOEKの変貌ぶりに耳を疑ったことだろう。マエストロの指揮に依る所も多いのだろうが、OEK演奏は圧巻であった。但し、ピアノ協奏曲におけるソリストとオーケズト ラとのバランス。《ファウスト》におけるHpの台数不足という問題点もあった。OEK今後の課題である。

山崎圭一『人生が楽しくなる 西洋音楽史入門』PHP研究所、2023


Last updated on Oct. 24, 2025.
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