12月5日OEK第488回定期公演PH

12月5日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第488回定期公演PH
指揮:エリアス・グランディ、ヴァイオリン:金川真弓
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「ドイツ・ロマン派の響き」と題するオ−ケストラ・アンサンブル 金沢(OEK)第488回定期公演。指揮:マエストロ・エリアス・グランディ、ヴァイオリン:金川真弓さんに期待して石川県立音楽堂 に向かった。

   プレトーク、ロビー・コンサートはなかったようだ。

 コンサート1曲目はウェーバー:歌劇《魔弾の射手》序曲。OEK弦楽5部は8-8-6-6-4の対向配置。第一Vnは10人欲しいのだが、それは後で露呈する。Hr4、Tb3は3曲目ブラーム:交響曲 第4番に備えた布陣。尚、コン・マスはプログラムではヤングさんとなっていたが、客員コン・マス三浦章宏さんだったようだ。ゆったりの序奏後Hr4によるファンファーレ。これだけの メンバーでは迫力有る演奏が披瀝される。〈狩人の合唱〉が出てくるかと思いきや、これはとって置き。プログラムによる「善と悪の対決を思わせる緊迫感溢れる楽想」が続く。中間部Fl ソロが挿入。マエストロ・グランディの指揮はきびきびとして若々しく、フィナーレはpppの直後fff、Tb3人のユニゾンで終了。

 2曲目はシューマン:ヴァイオリン協奏曲。Vnソロの金川真弓さんは銀色のラメ地に前面黒(?)のドレスで登場。Vnはストラディヴァリウス「ウイルヘルミ」とのこと。第1楽章 In kraftigem, nicht zu schnellem Tempo(力強く、速すぎず)は、決然としたTimpによる付点のリズムで開始。続いて行進曲風となり、独奏Vnの流れるようなアルペジオ。やはり、ドイ ツロマン派である。中間部でClと独奏VnとのDuoが綺麗。プログラムによる「鬱屈したメランコリーと暗い情熱」が充満。OEKはTbが退席したのみで他の陣容はそのまま。従って、協奏曲と としてはボリュームが大き過ぎるかとも思われたが、Vnソロの箇所はOEKはボリュームを落としているので、問題無し。第2楽章はLangsam(ゆっくりと)。「第2楽章は高貴ともいえる情 感をたたえている(藤本一子『シューマン』音楽之友社)」といわれる夢見心地。シューマンの耳に天使の歌として授けられたという夢幻的な主題が奏でられ、attaccaで第3楽章。第3楽章 はLebhaft, doch nicht schnell(生き生きと、しかし速すぎず)。 生き生きとしたVivaceに転換。シューマンは決断したようだ。Vnソロは第3楽章ではテクニックが必要な曲想。即ち、 パガニーニ風飛ばし弓奏法があり、高音部はさすがストラディヴァリウスと感じられる箇所もあり、金川真弓さんの熱演。ポロネ−ズのリズムによる軽やかな遊戯的フィナーレとなり終了。 尚、シューマンがライン河に投身したのは知っていたが、漁師に救われて一命を取りとめ、診療所入所2年後に亡くなったのは知らなかった。追記しておこう。アンコールは黒人霊歌《ディー プリバー》。彼女はしっとり系が好きなようだ。

 休憩を挟んで、3曲目はブラームス:交響曲第4番。ちらしに書いてある「バロックを体験したロマンス手法の交響曲」とは、第2楽章の主要主題に古い教会旋法のひとつであるフリギ ア旋法を用いている点。又終楽章の形式にバロック時代の変奏形式であるパッサカリアを採用している点を指すようだ。さて、第1楽章Allegro non troppoは、ご存じシソーミドーラファ#ー レ#シ#ー(池辺晋一郎『ブラームスの音符たち』音楽之友社)で始まる。この第1主題は3回繰り返えされる。正に、ブラームスのromanticismだ。但し、第1Vnが少々人数が足りないよう で、管楽器にかき消される。やはり、この位のオーケズトラでは10人は必要だ。後半は高揚し、OEKも乗ってきて聞き応えあり、終了。第2楽章はAndante moderato。Hrのファンファーレ後 淡々とモデラート進行。フィナーレもHrのユニゾンで終了。第3楽章Allegro giocoso - Poco meno prestoはタタタタタータと正にジョコーソ。即ち、おどけた愉快なスケルツォ風で、短 い楽章。プログラムに「トライアングルの活躍が印象的」とある。中間部とフィナーレに演奏されたのだが、管楽器にかき消され、聞き取れなかった。第4楽章はAllegro energico e passionato - Piu allegro。passionato(伊)は情熱的に。正に情熱的パッサカリア。passacagliaはバロック音楽の一形式でスペイン起源の3拍子イタリア舞曲。中間部でFlソロが綺麗。Tbもこの楽章で は大活躍。高揚裡、断定的に念を押して終了。私は、OEKの既存メンバーではブラームスの交響曲第4番は無理と思っていたのだが、エキストラ団員の協力で力感溢れるロマンチシズムを再現できた のは収穫であった。アンコールはブラームス:《ハンガリー舞曲》第1番。これは弦楽が主であり、安心して聞ける素晴らしいブラームスであった。

さて、OEKの交響楽団的演奏は、ドルザーク:《新世界より》以来だが、前回よりはまとまってきた。但し、金管部門の安心感がやや欠けるのが気になる。キャリア不足なのであろう。室内楽で は余り目立たないが、交響楽団としては重要なパートである。OEK金管部門の一層の充実に期待したい。


Last updated on Dec. 05, 2024.
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