9月17日OEK第484回定期公演PH

9月17日オ−ケストラ・アンサンブル金沢第484回定期公演PH
指揮:広上淳一、ピアノ:ファジル・サイ
石川県立音楽堂コンサートホール

酢谷琢磨

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 「異能の表現者ファジル・サイのベートーヴェン」と題するオ−ケストラ・アンサンブル金沢(OEK)24- 25シリーズ最初のコンサート。異能の表現者に期待して石川県立音楽堂に向かった。

   今日は中秋の名月。Suicaで西金沢駅にcheck-in、金沢駅でcheck-outし、音楽堂へ向かう途中鼓門を見るとハーベスト・ス−パー・ムーン。スマホでこの写真の構図を変えながら撮 影し、音楽堂2Fへ上がると、マエストロ・広上淳一とOEKスタッフのプレ・トーク。マエストロはベートーヴェンの交響曲第4番を30年前に指揮した話を聞いたところでプレ・トーク は終了。

 コンサート1曲目はベートーヴェン:《プロメテウスの創造物》序曲。OEKの弦楽5部は8-6-4-4-3の対向配置。ドンドンとプロメテウスの生涯を予告して始まる。この曲は、「神話 的で寓意的なバレエ」と銘打たれている(ルイス・ロックウッド(土田英三郎・藤本一子監訳、沼口隆・堀朋平訳)『ベートーヴェン 音楽と生涯』春秋社、2010)バレエ音楽の序 曲である。曲は淡々と進行し、プロメテウスの死と蘇生及び祝祭的な舞踏によって幕を閉じる。劇的ではないが、プログラムよる「ポジティブなエネルギーに満ちあふれた」序曲で あった。

 2曲目はファジル・サイさんをソリストに迎えたベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番。彼は縦に赤のベルト模様の入った黒服で登場。私の席の右隣に外人夫妻が座ったが、後で聞く と夫はイギリス人、夫人は日本人でイギリスに住んでいて今回夫人の里帰りで来日したそうだ。休憩後その夫人に"He is the French?"と聞くと"Turkish"。即ち、サイさんはト ルコ人なのだ。さて、ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、この第3番で飛躍的な進歩を示したといわれる作品。第1楽章はAllegro con brio。ゆっくりしたテンポで開始。マエス トロ・広上はppの指示は体を大きくかがめてコントロール。ただ、がんがんやるだけが音楽ではない。少々長い序奏の後Pfが登場。異能と言われるサイさんにしてはおとな しい。楽章末にあるカデンツアもプログラムにある自作のカデンツアではなく、ベートーヴェン作であったようだ。しかし、「意外性と驚きの要素」を兼ね備え、堂々と終了した。第2 楽章Largoは、ベートーヴェンにしては奇麗すぎる楽章。Pfが先行、OEKが続き、両者の会話も美しい。第3楽章Rondo; Allegroは、attaccaぎみに快活に開始。次第に高揚し、Pfの短い カデンツア。ここでは超高音のアルペジオがあり、サイさんは超高音に異能なのかと思わせて、輝かしく終了。ここまでは、サイさんの異能感はあまり感じられなかったのだが、アンコー ルのファジル・サイ《ブラック・アース》が凄かった。PfでDrmsのような音を出し、開始。Gtではアポヤンド奏法で弦を押さえて演奏したり、Gtの胴を叩いて演奏する奏法があるのだが、 Pfで弦を押さえて演奏できないだろうし、どうやって音を出しているのかは不明であり、正に異能。曲はアルペジオの連続で高揚し、イントロのDrms音がppとなり、終了。サイさんは異能 であることがよく分かった。

 休憩を挟んで、3曲目はベートーヴェン:交響曲第4番。劇的な《エロイカ》と《運命》の間に挟まれた余り演奏されない第4番。実は、「傑作の森」の時期に入ったベートーヴェン の円熟を示している傑作と言えるそうで、これを選んだ流石のマエストロ。比較的単純なこの曲をどう聞かせるか興味津々。2管編成でOEKにぴったり。しかもFlは1本のみでの第1楽章は Adagio - Allegro vivace。変ロ長調と変ロ短調の間を行く、プログラムにあるうごめくようなAdagioで開始。中間部で突然Allegro主部に至る。Fl1本のソロもあり、クレッシェンドを 形成し、猛然と終了。第2楽章Adagioは、付点のリズムが心地よく、その優美さとエネルギーと軽快さにあふれ、OEKの演奏がベートーヴェンの時代もこうであったと感じさせる内容。Hrの 一声で終了。第3楽章Allegro molto e vivace - Trio Un poco meno allegroは、マエストロが踊りたくなるような曲想。ここでもHrのユニゾンが奇麗で、短く終了。第4楽章はAllegro ma non troppo。ma non troppoはよく聞くが、「しかし、過度過ぎないように」であり、マエストロは抑え気味。但し、pでためをつくり、その対比としてのスピーディと壮大さを感じさ せる演奏。Codaは引き締まった感じで終了。ベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》と第5番《運命》に挟まれたあまり記憶に残るメロディがない第4番。これをマエストロは上手くコント ロールし、退屈させない演奏を指揮したのは立派。マエストロの力量をも感じさせる第4番であった。

 アンコールはアイルランド民謡《ロンドンデリーの歌》。演奏が始まって私はイギリスの歌だと思い、隣の夫人に"England?"とそっと聞くと、だまって頷いた。しかし、帰りにアンコール の掲示を見たらアイルランド民謡である。隣の夫人は多分"Ireland"と言いたかったのだが、演奏中に付き返答しなかったのだと了解した。尚、Londonはイングランド南東部の大都市。Lon・ don・derryは北アイルランドの中心港市である。弦楽の奇麗な曲で、余韻を残しながら24-25シーズン開幕コンサートは終了した。


Last updated on Sep. 17, 2024.
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