○● 読書感想記 ●○
2008年 【1】

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(ラノベ指数 27/67)
20
 
『待ってて、藤森くん! 4』 壱乗寺かるた 著

 うひゃー。
 やってくれるわ、藤森くんってば。
 実際、もうこの巻では藤森くんの気持ちはがっちり固まっていたワケで、あとはそれを皆に告知するだけであったけれども。
 だもので物語としてはどうにもムリクリ引っ張った感がなきにしもあらず。
 んでもんでも。
 そんな自分の気持ちを、臆せず、惑わず、自信を持って伝えたという彼の姿勢にはなんだか勇気づけられます。


 ええ、まぁ、藤森くんの気持ちは決まっていたワケですから、吉野ちゃんと黒河さんのどちらかがふるい落とされるのは、もう、始まる前から自明の理であったといいましょうかー。
 このあたり、いろいろと設定がらみで伏線を築き上げようとしていたようにも思えるのですけれど、タイムアップ、なのでしょうか?
 あまり掘り下げられることもなく、設定だけの深い関係になってしまっていたことが残念です。

 でも、この件については「もう少しシリーズが続いてくれれば……」と思うより「どうして前巻でこの辺りの状況を扱わなかったのかなぁ……」という疑問を。
 そもそも「中学生の頃の藤森くん」が、今作、いうなればシリーズのクライマックスになんの影響も及ぼしてこないことからも、前巻の位置づけは知れようもの。
 むしろ無くてもいいくらいだと思ってしまうのですけれどー。
 やぱしあれはドラゴンマガジンでの連載を鑑みてのネタや構成だったのかなー、とか。
 ビジネスが理由では仕方がないなー、もー。

 ……だから富士見はダメになっているような気がしますけれど、もっ!(><)


 にしても「失恋」をここまで明確に暑かったラノベというのも珍しいような。
 恋が成就するお話は多々ありますけれど、きちんとライバルとして関係を築いた上でハッキリと選択を受けるのは。
 むしろラノベのパターンとしては、最後までどっちつかずでいるか、ふられても諦めないパターンとか?

 先述のように設定がらみで初めから報われることが難しい恋でしたけれど、その気持ちをきちんと伝えて、それを真正面から受け取ってもらえて、そして答えを返してもらったというのは天晴れと感慨深く思ったりして。
 藤森くんにも、そして「彼女」にも、よくやった!と褒めてあげたいです。



 ところで。
 壱乗寺センセがあとがきで吉野ちゃんのことを「恋人にすると重いかも……」と書かれていますけれど、これ、わたしも同じことをを思ったりして。
 うーあー……なんていうのかなー。
 相手に100%の気持ちを求める代わりに、自分は120%の気持ちを返そうと自助するタイプ……とでも申しましょうか。

 逆に黒河さんはお互いに均等であることを願う、ような?
 それが100%であろうと80%であろうと。

 ちうかですね。
 吉野ちゃんの本質を時間で表すと「継続」で、黒河さんは「一瞬」なのではないかなーと思うのですよ。
 いつまでも共にあることを願うのか、この瞬間だけでも共にあることを願うのか。
 線と、点、ちうかー。

 だからこそ物語としては黒河さんのほうが栄えて、吉野ちゃんのほうが強かった……のかも?(^_^;)



 あら、やだ。
 あまり書くことがないと思っていたのに、またいつものように書き進めてしまえましたことよ(笑)。
 壱乗寺センセのキャラ付けのセンスは、ほんとわたし好みやわ〜。

 今シリーズはこれで幕ですけれど『さよならトロイメライ』は富士見ファンタジアで継続されるようですし、楽しみ楽しみ。
 「梅園」「榊」のように設定で共通する部分もありますし、シリーズを越えてあちらでも登場……とかあったりしませんかね〜。
 今作での「それはまた――別の話」という最後の言葉に、そういう部分を期待してしまったりして(^-^)。
 

(ラノベ指数 16/67)
19
 
『死神姫の再婚』 小野上明夜 著

 婚礼の途中で新郎が急死してしまったことで「死神姫」と呼ばれるようになってしまった没落貴族のお嬢さん。
 つづいて持ち上がった再婚話のお相手は、いろいろとよろしくない噂のある成り上がりの新興貴族サマ。
 家門を守るためにも自分を「買い取ってくれた」今度の結婚を失敗させるわけにはいかず、嫁いだ先で巻き起こる騒動にもめげずに奮闘する「メガネ」+「貧乳」な幼妻の物語。

 ……って言うと、なんだかすごく語弊があるような(笑)。
 でも没落貴族だからこそ夢にうつつをぬかさず現実を見据えて生きてきたわけで、そのことで清貧と純朴なココロを宿すことができたのは幸いかと。
 毒もクセも無いおかげで、主人公「死神姫」アリシアの言動がひじょーに好感なのですよ。
 ちょーっと「足りてない」ところもあるように思えたりしますけれど、世界をあるがままに受け入れられる懐の深さを感じますですよ。

 そんな真っ直ぐな性根の持ち主のアリシアにあてられて、かたくなだった旦那様のライセンが少しずつ砕けていく様もたーのしー!(≧▽≦)
 表の主導権はもちろん彼女を「買い取った」ライセンにあるのですけれど、夫婦としての絆は五分五分……いや、アリシアに誘導されているかもかも?(笑)


 冷たくて固い氷のようなライセンのココロ。
 そりゃ春の日だまりのようなアリシアに会ってしまっては、あとは融けるだけってもんですわー。
 あ、とろける、かもだ(笑)。


 やーもー、夫婦モノの醍醐味ですよねー。
 二人の立ち位置っちうか、相互依存の関係がどうあるのか、が。


 信仰を礎にしてきた神の時代から、現実に生きる人間の時代へ移り変わる頃。
 旧体制と新興勢力の衝突といった社会情勢を描くあたりも小野上センセの真面目さを窺えますし、没落貴族としてつつましやかな生活を送ってきたというアリシアの設定も最後にみごとに伏線として昇華させる構成力もなかなか……。

 言い回しのリズムがわたしにはちょっと合わなかったですけれど敬遠するほどではないですし、それ以上に興味のほうが強かったですしー。
 そもそもリズムについては慣れていくかもです。
 ちょいと楽しみな作家さんです。



 ――ちうかですね。
 ここまで見事なメガネッ娘は、とんと久しく目にしてなかったですよ!
 イイッ! すごくイイッ!!(≧▽≦)
 単に「飾りとして」身につけているのではなく、きちんと「メガネのある生活」を描いているんですよねー。
 眠るときはメガネを外すとか、さー。
 11ページのウェディングドレス姿なんてたまらんです。
 これだけで半年分くらいのメガネ分は補給できたかも(笑)。
 YEAH!(≧▽≦)


 なんといいますか、わたしの好物がいろいろと詰まっている作品なんですねぇ(^_^;)。
 

(ラノベ指数 21/67)
18
 
『藤堂家はカミガカリ』 高遠豹介 著

 どうせパワーインフレ起こすなら、最初からスゴイ奴が現れてスゴイことしても変わらないっしょ……ってこと?
 んー……そういう感想も、なんだか違うか。
 でもやぱし、スゴイ奴がやってきてスゴイ奴ら同士で闘って、非力な人間がその余波で貧乏くじを引きました……って話にしか思えなくてー。

 うーん、うーん、うーん……。

 キャラクターの会話も妙にスカしている風に感じられて、どうにも気恥ずかしかったのです。
 気取っているっちうか、芝居くさいっちうか。
 つまるところ「生きている言葉」に思えなかったというワケで。

 うーむ……。
 これが「抜群の文章センス」ってモノなのですか……。
 世代を感じてしまうわ。



 タイトルからすると「藤堂家」の面々を軸にしたお話かと思ったのですけれど、「藤堂家」はあくまで舞台でしかなくて。
 表紙に書かれているように主人公は神一郎と美琴であって。
 でもそこに描かれるのは二番目の敵、と。

 読み進めているときにも感じたのですけれど、読み手に対してどこに注目して欲しいのかが固まっていないような気が。
 焦点絞るところがバラバラっちうか、この作品の売りがどこなのか、この作品とはどういう作品なのか、ハッキリしないっちうか。

 銀賞を取った魅力、伝わってこなかったかなぁ……。
 

(ラノベ指数 27/67)
17
 
『オオカミさんと毒りんごが効かない白雪姫』 沖田雅 著

 ここのところハートに優しくない作品を読み続けてしまったので、ひと息入れたいなーと思って読み始めたり。
 もちろん今シリーズも一筋縄ではいかない作品ですけれど、でも最後には優しい気持ちになれることが約束されているので、こういう気持ちのときにはもってこい。
 いつの間にか沖田センセも「裏切らない」作家さんになりましたなぁ……。


 前作からきちんと亮士くんのことをきちんと意識し始めたおおかみさんが可愛いですね〜。
 「おおかみさん夏休みの夕方にストリーキングと遭遇する」は乙姫さんが活躍してしまうお話でしたけれども、その過程での見せるおおかみさんの恥じらいの姿がオンナノコしてるなぁ〜と。
 で、さりげに亮士くんもオトコノコ……ではなくてオスの部分を見せているような?
  そういう方向へ意識が向けられて、あらわにするようになったのって、おおかみさんたちを通して世間というか社会へ融け込むことができてきたということなのでしょうか。


 「おおかみさんお馬鹿きわまりないジャックとその仲間たちと対決する」は、もう沖田センセらしい突き抜け感が。
 本っっっっ当に真剣に打ち込むことが出来るのならば、どこまでもばかばかしいことであろとそれは壮大な物語になってしまうという(笑)。
 作品のテーマとか主題とか、そこで風呂敷を大きく広げなくても作品の世界を大きく描くことはできるっちう。

 この掌編でも亮士くんのオスっぽさが描かれていたような?
 ヘタレであるのは相変わらずですけれど、亮士くん、成長しているんですねぇ。
 でもって、おおかみさんも成長してるワケで。
 成長っていうか、変化?
 それを言うならりんごさんも含めて、作中に登場するみんなが互いに影響し合って変化して良い方向へ成長しているのですけれど。

 ……あー。
 そういう「年頃のオトコノコオンナノコの成長譚」を気に入っているのかも。


 最後の「おおかみさん白雪さんと出会いりんごさんのためにがんばる」は、もう章タイトルからして良い話ぶりがうかがえるワケで。
 あー、読んで良かった〜。
 ガジェットとしてはりんごさんの出自はそう凝ったものではないですし珍しくもないですけれど、そのことで彼女がなにを思いなにをしてきたのかを考えれば、十分に物語たり得た次第。
 あ、違うか。
 考えれば、ではなくて、そうするだけの筆致で紡いでくれたからわたしたちが思い巡らすことができたということ、なのかも。

 作品って設定勝負ではなくて、その設定をいかに見せるかにあるなぁ……と。


 でもって亮士くんとおおかみさんって、なんちうか、もう、付き合ってるんじゃ?ってくらいに一緒にいますね(笑)。
 正しく手順を踏んでいるわけではないにしても、この状態では他の誰も手を出さないですよー(≧▽≦)。
 おおかみさんの覚悟もいよいよ固まってきたように察せられますし、これは勝負のときが近いですか?
 たーのしみー♪
 


(ラノベ指数 15/67)
16
 
『群青の空を越えて Gefrorenes Ideal』 早狩武志 著

 戦争をはじめたい人は戦場には決して来ず、戦争をはじめたくない人こそが戦場に立ってしまう……というお話。
 あるいは、ひとは自分が望むモノしか理解しないという。

 PCゲーム『群青の空を越えて』より時間を少し巻き戻した、本編に対してのプレストーリーな位置づけの今作。
 本編を知っているからこそ今作の流れは胸に迫るモノがあるっちう。
 どんなに努力を重ねても、あの戦争は起こってしまうのだという無力感と閉塞感。
 このとき動いていた人たちの「戦争回避」への思いが本物だと感じられるだけに、それが成されなかったことが残念で残念で。


 円経済圏を掲げた萩野憲二は人類の倖せを願っていたハズなのに。
 その願いを都合良くねじ曲げた人がいて。
 でも、そんな扇動者は戦いの場にはけっして現れず、自らはミサイルも銃弾も届かない安全な場所で戦争の必要性を説いたりして。

 あーもー、やるせないなぁ……。

「己を捨て、民意の代弁者となるのが政治家だ。好き勝手に、無責任に自分の意見を口にしたければジャーナリストにでもなるがいい! 主義主張を口にせず、ひたすら民意に盲従してきたからこそ、我々は常に政権与党たり得たのだ。どうしてそれが理解できん!」
(中略)
「良い政治と皆が望む政治は異なる。民主主義を信じるなら、どちらを選ぶか間違ってはいかん」

 うっひゃー、辛辣ー、でもって毒舌だわー。
 ただ、まぁ、これが現実なのかもって思わせられるだけの真実味を感じたり。
 民主主義はただのシステムであって、そこに善悪の別は組み込まれていないのよ、と。
 その別はシステムを扱う側の「人間」にあるのだと。



 今作は今作で人間の業を描いていたと思うのですけれど、これで物語が終わってしまうのだとしたら悲しすぎると思うのです。
 人は愚かであるかもしれない。
 でも、人は愚かさから学ぶことのできる存在でもあると、この物語に続くゲーム本編は教えてくれます。
 そこまで進めてみないと、諒が、美樹が、あの空に散っていった生徒たちが悲しすぎます。

 あー……。
 またプレイしたくなったー。
 そう思わせるノベライズは、勝ち、ですねぇ(^_^;)。
 


(ラノベ指数 25/67)
16
『とある飛空士への追憶』 犬村小六 著

 悲劇では、ないと思うのです。
 だけれどシャルルとファナ、ふたりの運命に涙せずにはいられないのです。
 人生のうち、たったの2回、ほんのわずかな時間だけを一緒にすごしたふたり。
 それでもふたりは、その時間を胸に大切に収めて、その時間があるからこそどんな困難も乗り越えられると信じて。

 時間の長短なんて関係ない。
 あなたと出会えたことだけがすべて。

 ――って、わかっているんですけれどもっ!
 でもね、でもねっ!(><)
 どうしてこんなに正しく生きようとしているふたりが、ふたりがっ。
 共に手を取り合って傍で生きていくことができないのか。

 そんな世界は間違ってる!
 でも、現実は正しさだけで成り立っているわけでもなく、むしろ正しいとか間違いとかそういうところとは無縁で、ただただ「現実」は「現実」でしか無いわけで!
 ええ、ええ、わかっていますよ!
 そんなことは!
 そんなことはねっ!


 ……なんでしょう。
 ふたりの結末を目にして起こる感情は、悲しいとも違って、切ないでもなかったような。
 それは現実に対して無力であることを知らしめられた悔しさのような……。
 どうしてっ!?……と叫びたくなるような。


 身分違いのオトコノコとオンナノコが出会って。
 オトコノコはオンナノコとの想い出を心の糧に生きてきて、その糧に報いようとオンナノコのためにすべてを賭けて。
 オンナノコはそんなオトコノコの姿に見失っていた自分の未来を見つけて、オトコノコに相応しい自分であろうと努めて。
 お互いに相手のことをとてもとても大切に想っていることに気付いたのに、だけれどふたりの人生はこの一瞬で交わっただけで。

 ……あー、もぅ。
 斬られた。
 ハートを貫かれたよぅ……(TДT)。



 大量の戦力を投入し、個の存在など戦いの中では意味無く小さなものへと代わっていく近代。
 それでもプロペラ機を駆って大空に生きていく彼らには、戦いへ捧げる「名誉」と「誇り」がまだ残っている時代。
 そんな飛空士たちの空中戦の描写も見どころでした。
 技と気力を振り絞って戦いに赴く様を描く筆致が素晴らしくて。
 戦いの挙動をただ描くのではなく、そこに高潔な精神が宿っているような。
 そんなことをカンジさせてくれる筆致でした。

 そんな筆致は主人公ふたりの心の機微に、より力強く活かされていて――。

 ふたりが織りなす、ひと夏の恋と空戦の物語である。

 この言葉がすべてを表していました。

 願わくば――願わくば、ふたりに……。
 ふたりの、未来に――(T△T)。
 


(ラノベ指数 8/67)
15
 
『青年のための読書クラブ』 桜庭一樹 著

 えっと……どのあたりが「青年のため」なのかはわからなかったのですけれど、100年の時を経ていきながらオンナノコの生態を探っていく様は面白く感じました。
 ミッションスクールの『読書クラブ』という「居場所」を通して、そこをわずかな時間過ぎていくオンナノコたち。
 時代によって表層となる気持ちや容姿は変化していますけれど、その基礎というか本質は「いつの時代だってオンナノコはオンナノコ」という極めて桜庭センセらしい展開。
 直木賞受賞後のインタビューではここから変化していくことを目指すようなことを仰ってましたけれど、センセの女性性を鋭く突き詰めていく感性を好きなわたしはちょっと残念かも……。


 時代を経ていく物語を描いた作品では『ブルースカイ』も『赤朽葉』もそうですね。
 表現の方法として模索していた頃?
 で、その手法の集大成が『赤朽葉』であった、と。

 桜庭センセはもちろん深く文芸をたしなまれているかたですけれど(それは今作の展開に面白く活かされている次第)、センセご自身も作家としてのスタイルの変遷を時系列で捉えてみると面白い年表?ができるかもー(笑)。
 この時期はある傾向を持って上梓されている……とか、わりと判断できるかと思うのですけれど、どうかな?


 まぁ、しかし。
 MSの女学院が舞台だというのに、そこに一般的な萌えキャラのひとりもいないというのも、いかにも桜庭センセらしいというかー(笑)。
 こういう点から、『GOSICK』にはセンセは戻らないのではないかなーと思っているのです。
 「萌え」を強要されるような世界は、センセにとって窮屈なのじゃないかなーと。

 もし戻ることがあるとすれば、それは実験的な、あるいは調査的な意味合いがあるのではないかと。
 ……と、そういえば『GOSICK』も時代を追う作品でしたっけ。
 時間の流れのなかで人が想いをつなげていくことに対して、やっぱりなにか思うところがあったのではないかなーと(^_^;)。



 ――ああ「青年」ってミシェールのこと!?
 

(ラノベ指数 9/67)
14
 
『妙なる技の乙女たち』 小川一水 著

 ほんっと技術的なフロンティア・スピリッツにあふれてるなぁ、小川センセは。
 この世の中の「不可能」と思えていることの大概は技術的な壁にぶち当たっているだけで、本当に本当、誰が何をしても無理だと思えることというのは無いのではないかと思えてきます。
 不可能を打ち破るのはいつだって、可能性の塊である人間の業であり技なのだと。


 世紀的なブレイクスルーがあって、その結果世界が大きく変革して、人の思考の枠も地域的・国家的なものからもっと大きな「地球的」なレベルまでに視野を広げている時代。
 なんとなく岩本隆雄センセの『星虫』シリーズを彷彿したのですけれど、しかしそれよりももっと近しい作品があるのではないかと思ったりして。
 それは小川センセご自身の『第六大陸』。
 誰もが夢想と笑った願いを、少しずつ技術を積み重ねていって現実まで引き寄せてくる。
 そんな流れが似ているなーと。

 人が新しい土地へ行き、ただ行き過ぎる旅人としてではなく定住する存在としてその土地を「自分のもの」とするのはどうしたらよいか?
 それは『第六大陸』でも同様に語られたことであったと思います。
 今回はそれが女性の視線から描かれたということであって。


 ああ、「技術的なフロンティア・スピリッツにあふれている」との前言は訂正したほうが良いですか。
 そもそも小川センセは、いま居る場所ではない、もっと先の場所を目指した物語をつねに描かれているのですね。
 それはたしかに技術なのかもしれないし、場所なのかもしれないし、時間なのかもしれないし。

 そして先へ進んだ分、いままでとなにかが変わった自分を見つけていくような。
 成長という観点から、それはもう立派な物語の骨子を担っているのですね〜。


 今回は短編連作という形を取って、少しずつ時間も経過させていってます。
 おおよそ四半世紀くらい?
 それくらい時間が経てば、新しい文化も根ざしているだろうって予測かしらん。
 あー……かもね。
 一つ、人間の世代も代わっているワケですし。

 収められている各話のなかで、イチバン好きなのは「港のタクシー艇長」かな?
 操船の躍動感と緊張感にあふれていましたし、あくまで船にこだわる主人公・水央の意地が好感。
 そして、やるべきことを成したあとは自尊心にこだわるようなこともない潔さも。

「では……ご乗船、ありがとうございました」

 ――の台詞を残して彼女がとった行動に拍手ですよ!
 すがすがしいったらないわ!!



 次はどのような新天地を見せてくれるのでしょうか。
 センセの次回作を楽しみにしております♪
 


(ラノベ指数 15/67)
13
『君のための物語』 水鏡希人 著

 短編連作みたいな形式。
 それぞれのオチは基本オーソドックスなもので、わりに予想がつくものなのですけれど、その許される先読み感がまた悪くないといいますかー。
 奇をてらったところが無いので落ち着いて読み進められるからかな?

 オーソドックスと先に評した部分も、「優しい気持ちで誰かにできることをしてあげる」……といったものですので共感しやすいっちうか、そのときの心情について理解しやすいっちうか。
 キャラの心情について理解できれば、それだけ物語の進行についても納得いくことができるというもので。



 もし奇をてらったという部分を指摘するなら、この作品が一人称で書かれているとうところでしょうか。
 一人称の作品って独善的になりがちですし著者の主張が強く表に出すぎるきらいがあるので、ことにライトノベルでは一人称の作品は少ないハズです。
 がしかし……ちうか、だからこそ一人称の作品はライトノベルにおいてはその希少性故に挑戦的であるといえましょう。

 そのようにいろいろと縛りの少なくない一人称のルールの中で、独善的でも語りすぎでも無い、ほどよいレベルでの筆致で作品を創り上げたことには水鏡センセの力量を感じずにはいられません。
 これは楽しみな人が登場したなーってカンジ。



 挿絵を担当されたすみ兵センセの精緻な画風も、叙情的なこの作品に適していたなーと思います。
 線の躍動感とか心地よく眩しい色味とか。
 イラストとテキスト、どちらとも合わせて「ライトノベル」だなーと。


 次にどう歩まれるのかわかりませんけれど、楽しみな作家さんになりました。
 

(ラノベ指数 27/67)
12
 
『悪魔のミカタ666D モンストラムレッド』 うえお久光 著

 大がかりで堂々としたウソって、思いの外すんなりと受け入れられるものだなぁ……と。
 受け入れられるっちうか、それをウソだとは認めなくなる?
 自分の知識のほうが間違いであると働くっちう。

 冒頭から始まる「ある一部の設定」について、もちろんはじめは違和感があったのですけれども、やがては自分の認識のほうをそちらに摺り合わせてしまった次第。
 何事もなかったかのようにシレッと組み込まれているんですもん。
 なんといいますか、大嘘つきは大英雄になれますね(笑)。


 で、本編。
 めでたくもお付き合いすることになったコウとイハナ。
 初々しいふたりなんですけれども、やぱしどこかツライですねぇ……。
 ふたりとももっと感情の深い部分でつながりたいと思っているのに、背負っているモノの大きさゆえか理性が引きとどめてしまっているような。

 もっともふたりは「つながっている」というカタチだけでも十分に満足……とは違うか、意味あるもの?と受け止めているように見えますけれど。
 ことにイハナは、コウのそばにいる自分に意味を与えられたことに対して。

 しかし日炉里坂の姫、サクラが戻ってきては、彼女の強烈な圧倒的な存在のために、ふたりとも気持ちを確たるモノにできていないっちうかー。
 日炉里坂にいるかぎり、サクラの存在って恐怖に近い支配力があるのかなー。
 潜在的に精神の基礎部分に浸食している……ような?



 コウとイハナ、ふたりの仲を中心には据えていても、しかしその周囲にいる人たちの動向も慌ただしくなってきていたりして。
 みんにレイ、恕宇に冬月健三郎、無玄……。
 なかでもレイは今後キーパーソンになりそうな存在で。



 ラスト、サクラとイハナ、ふたりから口づけを授かるコウの挿絵。
 ふたりのうちどちらかひとりとのシーンだけでなく、双方の場面を挿絵にして見せるっちうところに物語への心意気を感じたりして。
 うえおセンセのみならず、担当さんを含めての。

 うーん……。
 他メディアへの展開とはとんと縁遠いシリーズですけれど、気がつけば電撃文庫のなかで屋台骨を支えるような重くて大きいシリーズになってきましたなぁ……。

 このシリーズのほかに『クリア』のほうも進行中のご様子ですけれど、わたしとしては『ジャストボイルド・オ'クロック』のほうが……(^_^;)。
 とまれ、一時期の停滞期を完全に脱したみたいでファンとしては安心したり。
 2008年のご活躍、楽しみにしています。
 

(ラノベ指数 18/67)
11
 
『ほうかご百物語』 峰守ひろかず 著

 偶然であったオンナノコを引き留めるために約束を交わすオトコノコ。
 互いに意識し合いながら心温まる時間を過ごすも、襲いかかる危機の前に二人の平穏は破られて。
 危機から脱するために、交わした約束を、いま成すオトコノコ。
 約束が成されたのならば、オンナノコはオトコノコのそばに居続けることは叶わず。
 オンナノコはオトコノコの無事を祝いながら、彼の元を離れていく――。


 ……あー、うんうん。
 要素だけを切り取った物語構造はしっかりしている、の、かな?
 プロットの秀逸さっちうか。
 でも、なんだろう……。
 この中間を占める間延び感は……。


 うーん……。
 主人公サイドがみずから事件に首を突っ込んで、そこで笑ったり泣いたり傷ついたりしても、それはどうしても自分たちが招いた事態でしかない……って感じてしまうからなのでしょうか。



 わたしは、創作における「世界の造り方」って、現実には見られないルールを定めることだと思うのですよ。
 だから――。
 この世には普段は見えないけれど妖怪って存在が居て、なかには悪事をはたらく妖怪もいるのだけれど、昔からこのようにして人々は対処してきました。
 ――っていうことを描くのは、なにも新しいことを見せてはいないと考えたり。
 それは伝承本を読めば済むことですし、そのように描かれたものは伝承を現代風の「萌え」にアレンジしただけだと思うのですよ。

 妖怪とはいまの時代ではどういう位置づけで理解されるのか。
 伝えられる妖怪への対処法は、どうして効果的であるのか。
 etc、etc。
 そうした点に触れず、ただ「昔からそうだった」で済ますのは、どうにも気分悪いです。

 アレンジの秀逸さ……ってのは、もちろん勘案されてしかるべきだとは思いますけれども。
 

(ラノベ指数 29/67)
10
 
『紅 〜醜悪祭〜(上)』 片山憲太郎 著

 うーん……。
 片山センセの既刊の魅力って、圧倒的な文章量に依るところもあると思うのですよ。
 それが今回は上下編?
 お手軽さはアップしていますけれど、その分、重厚感が減じたカンジ。
 なんちうかこう、おあずけをくらわされたっちうかー。

 簡単には、近いところでアニメ化があったりして商機を図る意味での分冊という予測が立つのですけれども、それが作品としての価値を高めているとは思えない次第。
 そういう理由で構成がされたのであれば、くやしいなぁ……。


 そういう気持ちを抱いてしまうくらいに続きが気になるワケで!
 早くっ、早くこの続きを読ませて!!(><)

 真九郎を巡ってのヒロイン構図を描いた序盤から中盤。
 夕乃さんや銀子たちとのやりとりがラブコメしていて微笑ましいったら。
 特にわたしとしては夕乃さんが、かーわーいーいー!(≧▽≦)

「学生として勉学に勤しみながら、なおかつお仕事までしているあなたのご苦労は、わたしなりに理解しているつもりです。この世の中は、至る所に闇だらけ。迷いや誘惑は、さぞかし多いことでしょう。心が揺れたことも、何度かあるはずです。でも、大事なことを忘れてはいけません。それは我が家で、十分に学んだはず。そうですね?」
「はい、もちろんです」
「では真九郎さん。わたしが最初に教えた、人生の指針となる言葉は何ですか?」
「えーと…………年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ」
「偉い、その通りです!」

 夕乃さんの嬉しそうな笑顔が目に浮かびます(笑)。
 真九郎の人格形成のうち何割かは、絶対に夕乃さんに依るものですなぁ。
 いまの真九郎を創り上げたといっても過言では無いっちう。


 そんな夕乃さん以外にも銀子やもちろん紫との交流のなかで、真九郎の「倖せ」が描かれているだけに――。
 物語が動き出した中盤以降が思いっきり落差を生んで。
 「倖せ」から切り離された「非日常」。
 こうした描き方が片山センセの魅力なんですよねぇ……。
 優しく引きつけておいて、ズドンと落とすっちうか。


 にしてもここまで明確な真九郎の敗退って初めてな気が。
 これまでは「勝てなかった」ことはあっても、勝負それ自体はノーコンテスト扱いまでに誤魔化せていたように思うのですよ。
 んでも今回、≪個人要塞≫星噛絶奈との対決は、完全に負け。

 あーもーっ!
 この最大の窮地からどうやって逆転してくれるのか。
 分冊構成が憎い!
 早く続きを!!!(≧△≦)
 


(ラノベ指数 18/67)
9
 
『薔薇乙女学院へようこそ! ローズ・プリンスを探して』 檜原まり子 著

 時は明治、ところは帝都。
 意に沿わぬ結婚を覆すため、上は華族さまから下は一般の方々まで通う女学院へ入学し自ら運命を切り開いていくオンナノコの物語。
 結婚するまでという約束で与えられた猶予期間。
 その間に彼女は想い出の君を見つけられるのでしょうか――。

 ぶっちゃけると「憧れの鏑木瑞穂がオトコノコだと知り、少しでもお近づきになるために自分もエルダーを目指したオンナノコ」であったりするわけで(笑)。


 ともかく主人公・紫子のまっすぐな純真さが眩しいったら。
 悪意を悪意と気付かなければ、自分も傷つくことはないよなぁ……と。
 純粋すぎるがゆえに無敵っちうか(^_^;)。

 でも世間知らずというファクターは、世界を読み手に伝えるには適したものなのかと思ったりして。
 紫子にわからないこと = 読み手にもわからないこと、となりますし。
 少しずつこの世界を知っていくにはちょうど良かったかなー……とは思ったのですけれども。
 そうしたガジェットは悪くなくても、まさに情報の出し方についてはテンポ悪いっちうか引き延ばし方にわざとらしさを感じてしまったりして。
 目の前にぶら下がっているというのに、いざつかもうとするとヒョイと動かされるっちうかー。
 イライライラ……。


 でも明治という背景が醸し出す時代感?は好みかも。
 男尊女卑がまかり通ってしまう時代のなかで、強く生きようとする、強く生きているオンナノコたちっていう立ち位置が、かなー。
 このあたりは現代よりずっと性差の意味が重くなっているワケで。

 生徒代表の「PRIMA ROSA」の一員になった紫子が、これからどういう学院生活を送るのか、この時代をどう生きていくのか、なかなか楽しみであります。

 紫子以外でもオンナノコ同士の好いた惚れたな「ソフト百合」の部分もー(笑)。
 千鶴さんって、絶対に策士だと思うんですよー。
 そんな彼女の本性を知っても志乃さんは好きでいられるのかな……。
 どきどきどき……(策士は確定かよ(^_^;))。
 

(ラノベ指数 7/67)
8
 
『ブラックペアン1988』 海堂尊 著

 『チーム・バチスタの栄光』のシリーズへと続く前記。
 あちらでは主人公格で大活躍しているキャラが、こちらではまだまだひよっこもいいところの学生という時代。
 でも「彼ららしさ」はこの頃からすでにあって。
 血を見て倒れる田口(先生)とか、やたらに分析傾向がある島津(先生)とか、ハッキリとした物言いで上昇志向のある血塗れ将軍とか(笑)。

 あと看護士の面々も興味深いですねー。
 藤原さんが現役で、しかも婦長をやっていた頃のお話を目にすることがあろうとは!
 ほかにも花房さんが初々しい新人さんであったり、猫田さんの居眠りっぷりとか、『田口&白鳥』シリーズで重要なポジションを占める人たちの新しい一面を見られて嬉しくなってしまいましたデスヨ。

 もうねもうね、花房さんが可愛いったら!(≧▽≦)
 はぁ〜。
 こんな可愛い人が師長にまで登っていくのねぇ……。
 反対に猫田さんはこの頃から切れ者らしさを存分に表していて、それはもう現在での活躍と存在感を思えば納得がいくものなのですけれどもー。
 んー……。
 いくら状況把握の能力に優れていて、そのおかげで危険な橋を渡ることがない嗅覚の持ち主だとしても、その「危機」を他人に預けて自分は見物するって姿勢には少なくない反感をおぼえたりして。
 で、緊急の「危機」が去ったあとに、ここからが自分の仕事とばかりに場を奪うのは、どうにも卑怯者に見えるのですがー。
 わたしの中では猫田さんの株が下がったカンジ。


 ……あれ?
 でも20年後の東城大病院に今作の主人公の世良くんはいませんよね?
 あれれ??
 でもって花房さんは速水センセと……???



 もちろんこうしたキャラクターの過去遍歴だけでなく、現代医療が抱える諸問題へと話をふくらませているあたり、さすが海堂センセ。
 人の命を救うことは尊いことだけれども、現実の前には理想がかすむこともあって。
 でもやぱし、理想をあきらめずに掲げ続ける人こそが、そんな人が持ち続ける理想こそが、明日の現実になるのかなー……なんて。



 うあーっ!
 もう一度『ジェネラル・ルージュの凱旋』を読み返したくなってきたーっ!
 

(ラノベ指数 19/67)
7
 
『BITTER×SWEET BLOOD CANDY COLORED』 周防ツカサ 著

 やぱし吸血鬼モノを描くときは、個体としてのそれにとどまるのみでなく、吸血鬼サイドの社会性や生態まで踏み込まないとダメだなーと。
 「血を吸う」だけが「吸血鬼」ではないっちう。

 ……あ、ちがうか。
 人間と異なる生き方をしている生物がいるなら、その生き方を人間の思考の範疇に押しとどめているようではただの設定って枠を越えないっちうか。
 それは物語を描く際には少なくない制約になるでしょうけれど、今シリーズではきちんとそちらへも目を向けているところが好感。
 吸血鬼モノとして正統派の名を受けるに相応しいカンジ。


 人間と吸血鬼、互いの社会の衝突・接触具合が少しずつ見え始めて興味深いのですけれども、反面、大きな動きに乏しいので物語的ダイナミズムに欠けるのはいたしかゆし?
 そも、ぶつかりあいながらあるいは融け込みながら、ここまで長い歴史を(望んだわではないにせよ)共に歩んできた両者なのですから、すぐに「大きな事件」が「都合良く」起きるのは背景設定からして不自然になってしまうワケですし。
 吸血鬼モノの物語の難しさって、こーゆーところにもあるのかなー。


 これから、これから!って印象は受けても、このスロースターターぶりでは昨今のラノベ業界を生き残るのは難しいだろうなぁ……とか思ったりして(^_^;)。
 両者のあいだに行きながら翻弄されるオンナノコの葛藤が可愛くて好きなんですけれどもねぇ……。
 香澄、かわいいよーん!(≧▽≦)
 事情を知らされぬままに一方的に別れを突きつけられても納得いかないですよねっ!
 傷つくか無事でいるかはそのときになってみないとわからないし、あるいは傷つくことよりももっと恐ろしいことがあるかもしれない。
 心配してくれるのはありがたいけれど、それでも生き方を選ぶのは香澄だと思うしー。
 選択すら与えない与えられないのは、失礼だと思うし、悲しいことだと思うのですよ。

 そんな彼女に比べれば、すでに向こう側の世界を知っている玲子の懊悩なんて、勇気を持つか持たないかの二択でしかないとー(^_^:)。


 さて、続刊はどうなりますでしょうか。
 売上や評判的には簡単なことではないと見えてますけれど、さてさて?
 ドキドキドキ……。
 

(ラノベ指数 19/67)
6
 
『SHI-NO -シノ- 支倉志乃の敗北』 上月雨音 著

 志乃ちゃんって、こんなにも感情を表すキャラだったっけ?……と戸惑いをおぼえてしまったりして。
 ここに来るまでにそれなりの経験をしてきていることは憶えていますし、違和感というほどのものではないのですけれど。

 怒りや照れ?などの外向きの(コミュニケーション用の)感情が見られるようになったのもそうですけれど、自己の能力や存在を持て余している内向きの「恐怖」など、内面が見えるようになったのは彼女というキャラクターが成長してきた証なのか、それとも上月センセの筆致が変化してきたのか……。

 ま、シリーズ続けてきていれば、こういうこともあるよね!というカンジではあります(^_^;)。


 んで、本編なのですけれどー。
 「敗北」と銘打たれてはいても、これを「敗北」にカウントするのはちと酷のような。
 この「勝負」に勝たなければいけないのだとしたら、どれだけご立派な人間でいなければいけないのか。

 志乃ちゃんのチカラ及ばずのミス……っちうより、そもそも、志乃ちゃんはその勝負を受けなければいけない立場なのかどうか。
 勝負の舞台が成立してない気が。
 ……物語背景が整っていないという意味ではなくて、んー、価値観の問題?
 この勝負を受けるだけの高邁な精神をわたしは持っていないというだけかも(苦笑)。


 志乃ちゃんが内面をあらわにする機会も増えてきたことで、「僕」にも転機が訪れているワケで。
 守ってあげられるのかなぁ……。
 作品としては悲劇の方向性もアリかと思うので……うーん。
 心配デス。
 

(ラノベ指数 20/67)
5
 
『僕に捧げる革命論』 野梨原花南 著

 あはは。
 やぱし野梨原センセが送るメッセージ、大好きだわ♪

「幸せにするから!! 幸せにするからね!! 本気だよ!! 絶対だから!!」
「それはひとにしてもらうもんじゃなくて、私が勝手になるものだし、あなたもそれは自分でがんばってよ!!」

 自助する人……っていうのでしょうか。
 誰かに助けられたままでいることを是としない矜持を持っているワケで。
 でも、だからといって自分のことばかりを考えているワケでもなく、むしろその逆で、ほかの誰かのために自分にできることを探しているという。

 大切な人のために役立てる自分であろうと自助していく。
 みんながそう考えていくから、その行為は尊い連鎖となって世界を正しい方向へと導いていく。
 野梨原センセが描く世界は、そういう輝かしい未来をカンジさせる世界なのですよねー。


 にしても界から界を渡り歩く魔王とスマートは、水戸黄門的漫遊記な雰囲気を漂わせ始めているような……。
 たとえば今作での主人公のポジションにいるのは魔王やスマートではなく、この世界の住人であるミジャンとジェンなわけですし。
 魔王やスマートは、二人が関わる事件に手を貸すという観察者としてのポジション。

 『ちょー』シリーズとの関わりを持つ二人ですけれど、あまり表に出てこないことで新シリーズとのバランスを取っているような?
 とまれ、表に出ずとも物語は二人を巡って進んでいくワケで。
 別の魔王に目をつけられたスマートの明日や如何に!?
 楽しみ〜♪
 


(ラノベ指数 22/67)
4
 
『待ってて、藤森くん!3 藤森くんは奮闘中』 壱乗寺かるた 著 

 どうしてこのタイミングで藤森くんの過去話をもってくるのか……。
 このお話がどのようにして本編へフィードバックされるのか……。
 ちょっと想像つかないデス。


 お話としては、愛着のある学生寮に廃寮のハナシが持ち上がり、その撤回を求めて奮闘する藤森くん……というものなのですがー。
 いやさ、その奮闘ぶりは微笑ましいですし共感も抱くのですよ。
 でもそれは「藤森くんのお話」としては認められても『待ってて、藤森くん!』のお話としては意味を見いだせないっちうか……。

 学生寮の攻防に際して吉野ちゃんとの某かの絆があったというお披露目でもありませんでしたし……。
 「健気な幼なじみ」というポジションは本編のほうで既知の設定ですしねぇ……。

 いや、ま、これだけ甲斐甲斐しく接してくれているのに目を向けることのない藤森くんは不感症なのかと……。
 つとめて意識しないようにしているのかもですけれど。
 そういう態度、なんかこう、ちょっとイラッとくるなー……。
 吉野ちゃんは決して曖昧なスタンスでいるわけでなく、明らかなアピールをしているじゃないですか。
 それなのになにも返すことのない藤森くんがさー。
 拒絶や拒否だって返答だと思うのさ。
 「良い人でありたい」と願う臆病者だよね、これじゃあ。



 あとがきで次巻で完結って仰ってましたけれど、この『藤森くん』シリーズは物語らしい物語が始まってもいないような気が……。
 『さよならトロイメライ』での新企画ってお話は素直に期待しているのですけれども。


 うーん……。
 今が旬であろうカントクさんを絵師に擁していてこの売り方は、どうにももったいなぁ……。
 

(ラノベ指数  22/67)
3
 
『聖剣の刀鍛冶』 三浦勇雄 著

 あの『上等。』シリーズ完結から数ヶ月。
 待ってましたの新シリーズ開幕ですよ。

 悪魔も使役されたかつての大戦。
 世界はいまだ平穏とは言えない状況にあるなかで、ひとつ、正しき道を往こうとしている交易都市があり。
 そこで出会った若き女騎士と刀鍛冶と悪魔の少女たちの物語。


 やぱし異世界ファンタジーって、まずは設定を伝えるために大きな部分があるなぁ……と。
 んでも、ひいき目かもしれませんけれど今回は必要最低限なところで抑えて物語を進めていてくれたかなぁ……という印象が。
 よって世界の有り様とか事件の規模とかも披露された設定に合わせたカタチでスケールもそれなりに小さめではありましたがー。
 でもでも、そのスケールの中でも「チカラいっぱいに我を通す」キャラクターたちを描いてくれたのは、さすが三浦センセだなぁ……と思った次第。

 ファンタジーですと「秘められた能力」を持っているキャラクターというのは定番なのですけれど、今作ではそれは主人公の女騎士・セシリーではなく刀鍛冶のルークが担っているという点が素敵。
 やぱし主人公の目線というのは「普通の人間」である読者と同じ位置にあってほしいと思うのですよ。
 そのほうが共感できるっちうか。
 どんな生まれでどんな血筋でどんな運命かしらないけれど、とんでもなくスゴイ能力一発で事件を解決されるようじゃ、わたしは物語にのめり込んではいけないのですよー。

 自分と同じ「ちいさな存在」だからこそ共感もする。
 そんな存在であっても、大きな困難に「精一杯」に立ち向かっていくから応援できる。
 三浦センセの仕掛けかたは、だからこそ好感なのです。


 たしかにね、今回の主人公・セシリーは無力すぎかもですよ。
 そこらのファンタジー作品にくらべたら。
 でも、それでも彼女は自分にできることを精一杯に考えて、そして実行する。
 恐れもするし嘆きもする。
 だけれども、そこで「無力」を理由に立ち止まったりしない。
 「無力」は、なにもしないで傍観者でいる理由になならないのです。

 どうせ無力ならばすべてを捨てろ。
 騎士としての、人としての、女としての誇りも何もかもを捨てて乞え。

 みっともない、情けない、あさましい……。
 彼女の行為はそう映るものかもしれません。
 なるほど、たしかに彼女は弱い。
 でもね。
 彼女は自らのその弱さを受け入れる強さを持っている、知っている。
 それをわたしは崇高なことだと思いますし、彼女の行為にしても美しいものだとすら思うのです。


 彼女は弱い。
 でも、それは、彼女はこれから強くなっていくであろう証左でもあるような。
 なんといっても、これは物語なのですから。
 そしてもし彼女が真の意味で「強く」なれるのであれば、彼女と同じ視線を共有できた読み手であるわたしたちにもその可能性があるハズ。
 だから、わたしはこの物語に楽しみにしていますし、三浦センセに期待しているのです。



 ……って、あれー?
 「今作は小粒」って論調で冷めた見方をしようと思って書き始めたのに、なに、この大絶賛論調は??
 ここまで語っておきながら MyFavorite!に認定しないとウソでしょ(笑)。
 やぱし三浦センセの作品にはなにか惹かれるモノがあるのかなぁ。
 というワケで、次も大期待しておりまする〜(^-^)。
 


(ラノベ指数 21/67)
2
 
『黒曜姫君 〜はじまりのゆき〜』 萩原麻里 著

 予言を恐れた王によって滅ぼされた国。その亡国の生き残りだと思いがけずに伝えられた女の子は、自分の立場、そしてその身に備わる秘めた力に戸惑いながらも、大切な人を助けるための旅に出る……といったカンジのお話。
 まぁ、貴種流離譚みたいな?
 田舎に身をやつしていた子供が、実は……って。

 とくに今作にというわけではないのですけれど、この手の「さる貴い血を引く継承者が人目をはばかって育つ」というパターンの場合、どうしてその「貴い血を引いている」ことを当人に伏せて育てるのかなぁ……と思ったりして。
 隠し事はいつか公になって、追っ手をくらますために慌ただしく旅に出たりするじゃないですか。
 で、その出立の時に「なんで!?」と不理解で混乱するわけで。
 育てる中で「実はアナタはやんごとなき生まれなのですよ」とか教えたりはできなかったのかなぁ……と。
 そうすればイザというときに慌てないような……?

 まぁ、それを知ることの危険と天秤にしているのだとは思いますけれどー。
 知らないからこそ軽挙妄動も慎むというものですし。
 でもなぁ……。
 そういう行為って教育で修正可能のような気がするのですがー。
 すべてを秘密にしたまま物事が良い方向に進むとは思えないわー。


 いえ、ま、そういう慌ただしさの中において主人公のオンナノコがいまひとつ理性的に行動取れないものですからイラチしてしまってー。
 ある程度でも理由を教えながら育てていれば、危急のときにも合理的に動けるのではないかなぁ……。



 とまれ、まだまだ物語は始まったばかり。
 そうした無知である彼女とシンクロしながら読み進めていけば、この世界の有り様も同じように理解していくってモノですか。
 ……あー、読み手との共感を得るためにそうしている部分があるのかー。
 でもそれって物語の外の技巧的な部分であるから、物語内での理由付けにはならないよなぁ……。
 うーむ……(^_^;)。


 まあ、今後に期待ってことでー。
 萩原センセ、今後は打ち切りは無しでお願いします(センセに言うことでは無いですけれどもー(苦笑))。
 

(ラノベ指数 36/67)

『戦闘城塞マスラヲ vol.3 奇跡の対価』 林トモアキ 著

 聖魔グランプリ、ついに開幕!
 前巻の引きであまりにも気になってしまったもので、思わずザ・スニを買い求めてしまったほど。
 そんなグランプリの展開は、期待を違わぬ熱さでもって繰り広げられて!

 孤独なレースという形ではなく、相棒がいるラリー形式に近いスタイルが功を奏しているカンジ。
 もともと聖魔杯自体がパートナー制であるわけですけれど、今回のレースがいままででイチバン相手との信頼関係を重要視していたような。
 もうね、もうね、ヒデオとウィル子の絆が、ねーっ!(≧▽≦)

 そうとも、邪魔をするなら殺してやる。
 だってヒデオは、今しもエリーゼの手によって殺されようとしているのだ。そんな絶命的状況下で、気にせず自分を殺せと言ったのだ。自分はこれほどにパワーを使い続け、彼を殺そうとしているのだ。
 それでもなお一位を取れと! それでもなお、彼は必ず戻ると!
 自分はこの現世に生まれ出でてたった一人、信じるべき相手を殺そうとしているのだ! ならばそれ以外の何千何万を殺したところで、何の問題があるものか!!

 悪とは100人のために99人を犠牲にする人のこと。
 そして正義とは、たったひとりの大切な人のために100人を犠牲にする人のこと。
 そんなふうに言い回したのってなんの作品だったかなー。
 とまれ、ウィル子は「たったひとりの大切な人」のためにその他のすべてのことをうち捨てて勝利を目指すわけで。
 それは、もう、彼女たちの正義。
 ゆるぎない正義の前に、半端な思いは砕け散る……ということを証明したお話でした。


 まぁ、そんな熱さでもって終えた聖魔グランプリで今巻は半分。
 残り半分はまた聖魔杯ルールでの勝負なのですけれど、こちらのほうは今回、ちょーっと蛇足感が……。
 前半で盛り上がった気持ちが、静かに引いていくっちうかー。
 歌合戦という勝負は目先が変わっていて興味深くはありましたけれど。


 で、ラストは恒例のリュータが中心のANOTHER ROUND。
 どこかポジション的に浮ついた感が漂っていたリュータにも、これでようやく覚悟完了ってカンジ?
 お遊びめいたところが消えて、真剣さが純化されたっちうかー。
 それを誘ったのが、パートナーのエルシアっていうのには驚き?
 彼女がそういう「面倒見の良さ」を表すとは……って。

 んでも作中でも触れられてましたけれど、彼女の内面も当初よりはずいぶんと変わってきているみたいですし、これもまた良きかな良きかな(´Д`)。
 ツンデレ属性はエリーゼのものとなりましたがー。
 真性のお嬢様属性をエルシアは保持しているので、ワタシの中では最強だわ(笑)。


 とまれ、これで聖魔杯も折り返し。
 背後でうごめく存在たちの思惑も見え始めて、いよいよ佳境へ――!?
 新シリーズも上梓されるようですけれど、こちらの展開も遅くなってほしくないなー……と思ったりします(^_^;)。
 

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