○● 読書感想記 ●○
2006年 【11】
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『図書館の神様』 瀬尾まいこ 著 傷ついた人たちが、再び歩き出すまでのお話。 「傷をなめ合う」ほどネガティブなものではなく、今のままのぬるま湯に浸っていることが心地よくて、その先のことを考えないようにしている……といったスタートライン? んでも、そのぬるま湯に浸り続けている行為には、心の底から賛同しているワケでもなく。 動き出したい……って、本当は思っているんですよね。 大人たちがそうして停滞している中で、いちばん最初に動き出しているのが高校生の垣内君。 彼も傷ついているのですけれど、羽を休める時期は過ぎていて、次の飛翔のための準備に入っているわけで。 主人公の高校講師・清さんとの掛け合いが面白いのは、垣内君が先達として助言者の位置に納まっているからかなーと思ったり。 もっとも、清さんが意外と子どもっぽいからそういう関係にならざるをえなかったのかもしれませんけれど。
「じゃあ、どうして文芸部なの?」 あはははは!(≧▽≦) |
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『銀色のソルトレージュ』 枯野瑛 著 んー……。 回想、舞台劇、現代……と3つのお話が錯綜しているカンジを受けて、理解難かったというか。 それぞれが少しずつ事実を明らかにしながら、物語を紡いでいく──という手法については理解できるのですけれど、その三者が活かされていたとは思えないっちうか。 3つのお話を平行して流したために、そのどれもが散漫に成らざるを得なかったというか、腰が定まらなかったというか。 素人考えですけれど、そのどれかに絞っても良かったように思います。 背景も、学園モノなのか舞台モノなのか魔法モノなのかハッキリさせて。 今作、ジャンルについてはどれも欲張りすぎて、結局は何の物語であったかの印象を曖昧にしてしまっているように思うのです。 欲張ったのって、シリーズと銘打たれていても続刊が保証されていない立場から、詰め込めるだけ詰め込んで──と考えられたのでしょうか? そういう考えもあるでしょうけれど……んー。 わたしはちょっと苦手かなー。 少なくとも今作でそれがうまくいっているようには思えないので。 作家にとっての営業努力って、作品がいかに読者へ受け入れられるかを腐心することだと思うのですけれど、そうした意識については感じたりして。 枯野センセの既作に比べると、多少技巧的ではあっても尖った部分が減ったというか。 んでもその結果、どうにも既読感のあるキャラクター像や展開になってしまっていたような。 惜しいかな、この作品ならでは!な部分って、今作では活かされてないと思うんですよね。 あくまで受け入れられやすさを念頭に置かれていたみたいで。 ああ、これも「続刊が保証されていない」影響なのかなー。 なんか、こう、モヤモヤしたものが読後感にあるという……。 ところで。 わたしが買った今作のオビに「まんが王 八王子店 店員」さんのコメントらしき一文が寄せられていたのですが。 ライトノベルにも「カリスマ書店員」のような人を生み出してブームを起こそう……という意図なのかしらー。 そういう手法、なんだか釈然としないモノが。 「情熱のライトノベル売り」だか誰だか知りませんけれど、この人のこのコメントで読む気にはなれないなぁ。 それなら、まいじゃー推進委員会さんとか睦月堂工房さんとか、ほかにも自分で見つけた書評サイトの意見のほうが貴重だわ。 やぱし書店員さんからの推薦って、その人となりがわからないから信じて良いのか不安……。 もしかしたらこの「まんが王 八王子店 店員」さんって実在しないかも!とまで疑ってしまうと、もう、ね(さすがにそれはどうよ)。 |
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『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
恋のドレスは明日への切符』 青木祐子 著 アイリスの神出鬼没な怪盗ぶりに驚嘆。 この物語は「ルパンvsホームズ」ではないので、アイリスの行動はけっしてフェアだとは思えないんですよねー。 彼女の神出鬼没っぷりに対して物理的な説明がされてないというか。 どこから現れて、どこへ、どうやって去っていったのか明示されない……と。 もちろん、その手段を明示しろ!と声高に訴えるものでもなくー。 そうした「世の理から外れた存在」に描かれていることが、彼女を面妖な敵方にしているのかなーと。 そういった位置付けにあると感じ始めていただけに、今作のラスト、シャーロックと対決したアイリスの様には落胆してしまったというか。 ある意味、この作品は「ホームズ」だったのだなぁ……と思わずにはいられませんでした。 悪役は──悪人ではなく──悪役のままで、義によって討たれる立場なのだと。 うーん、うーん、うーん……。 それはそれで立派な主張になるのですけれど、彼女に感情移入し始めていただけに、もっとその先にあるものを見せて欲しかったです。 「悪人」……役柄ではなく、人としての生き様を。 まぁ、でもしかし。 そうしてヒーローっぷりを見せてくれたシャーロックにもかかわらず、クリスとの仲が縮まったようには見えないあたり、なんとも哀れというかー(苦笑)。 アイリスとの対決、そして「闇のドレス」との闘い。 その二点が物語の軸となって進んできてはいるのですけれど、かといってふたりの仲においてその二点がどれほど要因たりえているのかといえば、かなり序列は低いんじゃないかなーとか思ったりして。 いや、ま、障害にはなっているのでしょうけれど、二の次三の次というか。 そもそも「身分違いの恋」という大きな障害がある前では、アイリスのことなんて恋の成就の成否を握っているわけではなくて。 アイリスのことが片づけば──なんて考えているっぽいシャーロックが惨めというか可哀想というか……。 力を出すのはそっちじゃないでしょ!みたいな。 今作でとりあえず騒動が一段落して、クリスとのこと、ちゃんと向き合えるようになるといいのですけれど。 それっぽい雰囲気や決意を匂わせてはいましたし、次の展開が楽しみ〜。 ああ、楽しみっていえばパメラとイアン先生のふたりも! むしろこのふたりのほうがドキドキできるわ(笑)。 なーんかさー、ちゃんとしたステップを踏んで付き合おうとしている感があって嬉しくなってしまうっちうかー。 「闇のドレス」とか派手なドラマ性がなくても、恋はちゃんと進んでいくのね〜♪ |
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『空色ヒッチハイカー』 橋本紡 著 少年が、与えられた目標ではなく、自ら目標を選ぶようになるまでのお話。 目標って、存在すれば安心できるんですよね。 そこへ至るまでの行為に対してエクスキューズできるっていうか。 「どうして、それをするのですか?」 「目標があるからです」 みたいな。 で、そうなるとこんどは逆に目標を喪失してしまった人は、自らの行動に言い訳が立たずに不安になるワケで。 でも、そうした不安の中で見つけたものこそが本当の意味で「目標」たり得るのではないかなーと。 目の前の越えるべき壁を「目標」と言い換えることで、いま、戦うことを諦めてしまってはいませんか?と。 「目標」と認めてしまっている時点で、自分にはかなわぬ存在だと限界を設定しているような……。 もちろん生きていく上で「目標」は必要です。 んでも、それは自ら選んだ生き方の延長線上にたしかに存在しているイメージなのかどうか……という話。 自分の生き方、その枠組みを勝手に狭めて、その境界を規定しているだけの存在を「目標」と言ってはいませんか?と。 主人公・彰二君は「兄の背中を追いかける」ことが目標だったワケで、その喪失の不安から旅に出ているのですけれど。 先述のように、旅の始まりは「逃避」と「現状維持」だったのかなーと思うのですよ。 んでも、道行く先々でヒッチハイカーと巡り会って、彼ら彼女たちの人生に触れて自らの生き方を再考していって。 そうしてひとりで内向きに思考が向いてしまうとネガティブに陥りやすいですけれど、同乗者であるヒロイン・杏子ちゃんが強烈な毒でもってそれを制しているあたり、良いコンビだな〜と思います。 迷える主人公&「攻め」気質の賢者(笑)。 目標を取り戻して日常を回復するための旅であったハズなのに、旅の終わりではその目標とついに対峙することに。 たぶん、彰二君の人生で初めての「戦い」。 勝つにせよ負けるにせよ、それまで生きてきた生活圏の境界を壊す行為。 旅の始まりには考えてもいなかったであろう決着の付けかたに、彰二君の変化が描かれていると思うのですよ。 そういった主人公変革の様子が行為を伴って示されていることに、この作品を良作と思えるのかな〜と。 ただ「世界はこんなにも美しいんだ」なんて言わせるだけでなくて。 装幀はもちろん新潮社装幀室。 今回も良い仕事してる〜。 表紙デザイン自体は上部にウェイトあるバランス欠いたデザインなんですけれど、オビと合わせるとしっかりと安定感を持つように。 光沢あるコート紙とマーメイドっぽいオビの組み合わせも、質感の違いが良い良い。 そしてカバーを外したところに、またひと工夫。 見つけたとき、思わず嬉しさで笑ってしまいましたヨ!(≧▽≦) どちらかというと、読み終えたあとにオススメします。 ああ、このオビのコピーもふるってるなぁ……と。 青春小説らしい勢いが表現されていて、かつ素直じゃない若さもあって……。 まぁ、「『究極の』青春小説」って表現は陳腐ですけれど、そういうバタ臭さも全体ではひとつのアクセントなのかも。 ……ちょっと肯定しすぎて、良くない姿勢ですか?(苦笑) |
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『オオカミさんとおつう先輩の恩返し』 沖田雅 著 短編形式で収められている今巻って、御伽話らしい雰囲気をもっているかなーと。 ネタひとつで過度に引っ張っていかずに、きりの良いトコロでスパッと「めでたしめでたし」で締めるのは、いかにもなカンジ。 その中で、年下少年が腕力に自信を持って憧れの女性に相応しい男であることを証明しようとする金太郎少年の話。 『グレイテスト・オリオン』を思い出してしまったことよ(苦笑)。 力に頼る者は、力に負ける……という教訓なのかなー。 神視点で描かれて、且つその視点に対して登場人物が意識を向けることがあるという描き方は、わたしにはちょっと違和感が。 視点・神の位置から登場人物へ茶々を入れるのは割と許容できるのですけれども。 視点・神へのキャラクターの反抗って、筆者のひとり芝居の様を感じてしまうので、読んでいると恥ずかしい気がしてくるのですよー。 もっとも、そうした部分があるにしても、人物同士の掛け合いなどはコメディのセンスを感じたりして好きなのですよねー。 『先輩とぼく』より自由度高い筆致感を覚えます。 キャラクターとの付き合い方を、神視点の記述通りの一歩引いた位置から眺めることのできる人なのかな、沖田センセって。 亮士くんに慣れたのか、おおかみさんのジェラる姿が普通になってきているので今後が楽しみ〜。 企業倫理で統治されている都市での生活というのは、予定調和で成り立っている御伽話へのアイロニー? メッセージを残すだけの存在ではなく、それでも自分や「誰か」にとってはたった一度きりの人生であることを、使われる駒ではないことを、生きている証を、知ってほしい悲哀が明かされたワケで。 それも、自然変革を待っているような時間は無く、いま、この瞬間から自分たちがそれを証明しないと「無かったことにされてしまう」というのは、なかなかに焦燥感をおぼえるもので──。 貪欲な社会へ呑み込まれていきそうになるのを必死に逃れている様が、ただのコメディにはしていないなぁ……と思うのです。 |
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『ラス・マンチャス通信』 平山瑞穂 著 ん、んんん──??? フランツ・カフカとかドストエフスキーとか、そっち系のファンタジー……なのかな?(そのふたりをファンタジー作家扱いするのはどうかと) んでも、けっして今様な筆致ではなく、少し時代がかった作風というのが正直な感想。 巨匠たちと並ぶ19世紀の文体だ──とまではさすがに言いませんけれど、主人公の目を通しての事実を感情交えず述べていくだけっていうのは……。 観察者として世界を表してはいるのですけれど、読み手の共感対象ではないかなぁ……。 少なくともわたしは共感できなかった、と。 そうした次第で「物語」としては感情変化に乏しくてカタルシスもなにもあったものじゃないのですけれど、「作品」として考えるとなかなか奥深く感じてしまったりして。 なんていうんでしょうか、文学性?みたいな。 エンターテインメント性には欠けても、それは見方が、求めるモノが違うだけであって、目指すトコロは別にあるんだよーと感じさせる──少なくとも、わたしにもそれを理解させるだけのパワーがあったというか。 まぁ、わたしは俗な人間なので、格調の高さを狙うようなそちらの方面での評価は、もとより高くなるハズもなかったのですけれどもー(笑)。 しかし、なぁ……。 こういう作品で受賞をしてデビューをされたかただったと知ると、平山センセへの評価を悩んでしまうー。 はたして自分の趣味に合う人なのかどうか……。 最新刊の『シュガーな俺』はWEBでの感想を見るに、そもそもわたしに合わなさそうですしー。 ……見極めるなら、その次、ですかねぇ。 |
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『たゆたいサニーデイズ』 村崎友 著 押しの強いオンナノコと、昼行灯なオトコノコ……って組み合わせに、あだち充センセのコミックを思い浮かべてしまったことよ。 なのに、「カップル」じゃなくて「コンビ」なんだよなぁ……。 いや、もう、コンビという組み合わせすら怪しい……。 ちょっと親しい先輩後輩って程度止まりですか、もしかして。 あー、つまりー……「恋愛要素抜きにした『あだち充』作品」みたいな?(苦笑) そういった次第に、「探偵と助手」の関係にある結びつきについて、さして強制力が働いてるようには感じられなかったのは残念というか。 関係が希薄であるせいか、推理の場面でも共通の意識でもって事件解決に向き合うような姿勢が見られなかったので。 一緒にいてもバラバラ感があるっちうかー。 もっとも、そうした雰囲気ってふたりの関係にだけ起因しているのではなくて、そもそもの推理がミスリードを担っているせいだからなのかもしれませんけれど。 でもなぁ……。 そちらはそちらで、また気に入らないというか釈然としないというか。 観光名所も無いのに、グルリと遠回りをさせられながら道案内をされた感覚……。 複数の事件が最後につながりを見せる──って展開はダイナミズムをカンジさせるのかもですけれど、個々の事件でももっと歯切れ良い推理を見せて欲しかったところ。 肝心な部分はおいてけぼりのままに煙に巻くような推理の連続で先へ進めておきながら、最後の最後に「あのときはそう考えたんだけど間違いだった」なーんて、あっさり翻すのはどうかと思うー。 事件とその解決法については納得いかなくても、「ふたりだけの合唱部」ほか、キャラクターの部分は雰囲気良くって好きでした。 高校が舞台の推理ミステリとして、なかなかに青春してましたし(笑)。 角川書店って、こういう<青春ミステリ>が好きなんでしょうか? |
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『絶対、最強の恋のうた』 中村航 著 構成については首を傾げてしまうのですけれど、筆致は好み♪ 言葉の選び方について、鋭く切り込んでくるというか。 言葉遊びの類で知恵を見せられるのではなく、ひととは違ったモノの見方をしているからこその表現のように思ったり。 こういった使い方は、もう、中村センセの個性だよなぁ〜と。 しかし構成のほうについては……。 どうにも時間が行ったり来たり、さらに視点も変化して困惑してしまったというか。 そこに規則性──物語全体を通して必要とされる理由が見られれば良かったのですけれど、わたしにはわからなかったかなぁ。 全体では5章立てなんですけれど、そのうちの第2章のみが先行して上梓されていた作品。 ほかの章を書き下ろして今作になっているという次第。 うがった見方で申し訳ないのですけれど、この第2章を活かすために、この妙な構成が用いられた……ように思えてしまったのですよー。 ひとつの恋に対して、オトコノコとオンナノコが見ているモノ、求めるモノが異なるのは当然で、双方から照らしてみるというのは試みとして真っ当なのだとは思うのですがー。 なれば、感じている恋心について、双方とも現在進行形で語られたほうがわたしの好みだったかなーと。 語られていることそのものはとても共感できるものだっただけに、ちと残念。 ああ、その「恋」なんですけど。 織り姫彦星よろしく、好きすぎて日常生活が破綻するほどになってしまったトコロでようやく我に返って、お互いに気持ちをセーブするように戒めた──って、なんだかスゴイなぁ、と。 普通の恋だったら、そこで壊れるなり冷めるなりして、その恋、終わっているのではないかとー。 そうした「普通」に終わらなかったふたりだからこそ物語になっているんだなぁ……と思ったりして(苦笑)。 「普通の恋」なんて実際にはどこにも無いのでしょうけれど、そんな皮肉を言うまでもなく、ふたりの恋は特別なモノに映ったのです。 社会不適応者然とした木戸さんが抱いた、ふたりに対しての敬意みたいな感情、なんとなくわかってしまうわ。 神聖──と言うまで力強くなくても、ふたりの恋は不可侵だなぁと。 でも、そんなことを考えたところで、ちょっと可笑しくなってしまったりして。 きっとあのふたり、誰かが穢そうとしてきても、そうした行為に気が付かないのではないかなーと思うので。 あるいは、So what?なカンジでいるとか。 侵してはならないけれど、侵すこともできない。 そんな特別な位置の、恋物語でした。 |
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『SHI-NO -シノ- 愛の証明』 上月雨音 著 んー……。 志乃ちゃんが、積極的に自己表現するようになっているなぁ……という印象が。 これまでは必要最低限な部分しか語らなかったような印象があったのですけれども、今回は彼女自身も事態を推移させるための情報供給源になっているような。 そうした変化に対しての感想は、良し悪しとは別に、これまで続いてきた事件──「デッドエンドコンプレックス」にまつわる出来事を終わらせようとする志乃ちゃんの意志のようなモノを感じたりして。 それがまた事件の最後の雰囲気、緊迫感をあおっていたようにも思うのですよ。 作品としての状況がそうなっているので志乃ちゃんの変化もいたしかたないところかもしれませんけれどー。 志乃ちゃんは、語る言葉で自己表現しないほうが好みかな〜と思ったりして。 その言葉が易しくないというのもありますけれど(笑)、なんちうか、なにげない所作にオンナノコらしさが現れていると思うので。 ま、志乃ちゃんが言葉で自己表現を始めたら、事件も大詰めってことで(^_^;)。 1巻とか3巻とか、既作から続いてきたお話の一区切りでもあるわけで。 この巻だけでどうこういうのはイジワルなのかもしれませんけれど、ミステリとしては……どうなんでしょ? クローズドサークルになってからの展開、あまり起伏が無くてただ時間が流れてしまった感が。 恐怖から精神に支障をきたしてしまう人が出てしまうなどイベントがなかったわけではないのですけれども、そういうのはパニックムービーに近いかと思いますし。 なんちうか、推理をするための過程が省かれてしまっているような。 もっとも、この巻の目的は「デッドエンドコンプレックス」を終わらせることなので、今巻での事件については見事解決することについて斟酌していないのかなーと。 で、今回も主人公の「僕」の活躍は良かった〜。 自分が特別な人間ではないと理解しつつも、自分にできることは叶えようという気概があって、譲れないモノを持っている信念もあって。 主人公とは、能力や設定で位置づけられるものではなく、その行為と性根で主人公となるのだ──ということがわかります。 「デッドエンドコンプレックス」については、まぁ……わかったようなわからないような。 わからない……とは違うのかな? それを納得はできない、と言ったほうが近いのかも。 理解しているわけではなくて、ただ感性で拒否しているだけかもしれませんけれど。 にしても美味しいキャラだなぁ、高柳さん(笑)。 事件も終盤になって、どうして魅力的な新キャラを出してくるかなー。 やぱし次のシリーズへの布石……なのかな? クロスの出番も無かったですし、次はもっと賑やかになりそう(^_^)。 |
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『さよならトロイメライ7 想いの輪舞曲』 壱乗寺かるた 著 「藤倉は周囲の状況に流されすぎです」 都ちゃんの台詞じゃありませんけれど、ほんとにもぉ(笑)。 いや、ま、しかし、トーマスばかりは責められないようにも思えたりして。 周囲の状況の「押し」のパワーが強すぎるんですよ。 抗う術、退路を断たれた上で押し流されるというか。 なんちうか、ホント、トーマスはヒロインのポジションなんですよねー。 囚われのお姫様。 彼を守ると宣言する津々美ちゃんも、助けに駆けつける八千代ちゃんも、心配して叱責する都ちゃんも、みんな男性視点。 庇護者であるトーマスのためにという名目が行動原理。 定番の物語像を壊して、こうして視点を変化させるだけで十分に面白い物語が生み出せるのだなぁ……と。 んでも、壊しただけではただの暴投。 やはり最後には物語としての正しい着地点へと導かれないといけないワケでー。 そうしたフィナーレについても、今回はビシッと決めてくれましたなぁ。 やるときはヤル男の子、それがトーマス(笑)。 物語として壱乗寺センセらしいオリジナルな部分を取り入れつつも、ラストは正統派の結びを持ってくる。 こういうセンスが好きなんですよー(^-^)。 エロゲーの対極がBLゲーだとするならば、乙女ゲーの対極が『トロイメライ』に値したり……する? そして今回は新情報も続々と表されたりして。 舞台が北森学院だということもあってか、これまで物語の中心にあった巫城と真霜、その周辺部の情報が主だったように思えます。 八千代ちゃんの出自なんてさー、巫剣東子さんへの怯えた態度と合わせると、いろいろと考えてしまうワケで。 亮平さんの推測による津々美ちゃんの出自も含めて、養子縁組の多い作品だなー……。 旧家の家柄とか言われると、なんとなく納得できてしまうトコロもあるのですけれども(苦笑)。 にしても「津々美ちゃん⇔木塚家」のラインは、ぬかったわー。 それぞれ「聴覚」という共通点を設定として抜き出しておきながら予想できなかったのは、我ながらマヌケすぎ。 でも、こういうつながりを出されると、また興味を引かれるのですよねー。 きりんちゃんと対峙したときの八千代ちゃんの独白、梅園家について述べたトコロなんてたまりませんでしたことよ(^_^)。 はいはい、設定マニアマニア(笑)。 お正月も過ぎて、もうすぐ卒業のシーズンが。 あまり1冊の中で時間経過がある作品ではありませんので、亮平さん卒業までに3冊以上かかっても驚きませんけれど(笑)。 ……ちうか、あの人、無事に卒業できるんでしょうか? ここまで軽い路線で続けてきたのも、今後、ドーンと落とす伏線だったりしないか心配……。 ほら、誰かをかばって……とか。 ああ、もちろんとどめを刺すのは阿久沢ですか? みどりさんもろとも。 「無事ですか、亮平さん」 「ああ、みどりのおかげで……」 なんて展開、ありそうで恐いわ!(><) 次は当然バレンタインですよねー(笑)。 シリーズ当初は散々「史上最低な≪トップ3≫」として扱われていたというのに、気付けばトーマスの交友関係……ことに女の子との知己の広がり方ったらないですよね。 これでバレンタインに血の雨が降らないわけがない!(≧▽≦) あー、楽しみ楽しみ♪ |
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『忘れないと誓ったぼくがいた』 平山瑞穂 著 軽めのSFだったことに、まず驚き。 ふつーの現代青春モノかと思っていたので。 ファンタジーノベル大賞受賞の平山センセなんだから、気付け!という話ですか(苦笑)。 で、そうしたジャンルの親しみやすさ(ラノベオタですから、わたし)以前に、物語の構造が、ひっじょーに好みすぎたわー。 少年が少女の願いを叶えるために「必死に」なる物語。 そのね、狂おしいまでの必死さが胸打つのですよ〜。 好きになった女の子の幸せのために、自らの外聞いとわずに働きかける様。 彼女のために自分になにができるのかを考え、そこに希望がある限り走り続けることを諦めない。 そういう主人公像に好感なのです。 もちろん物語ですから主人公の意図が初めから成功するハズも無く、失敗を繰り返していくわけですよ。 もちろん失敗したことで判明したこともあるのですけれども、その結果は彼女を救う道を、ひとつずつ失っていくことに等しいワケで……。 諦めずにトライアンドエラーをしていく様には感嘆なのですが、どんどんと袋小路に入っていくかのような圧迫感がまた……。 物語として的確に負荷をかけてくる力量に感心してしまったわ。 偏見かもですけれど、この作品が一般文芸として上梓されていたのなら、エピローグの部分は無かったように思うのです。 ただただ悲しみだけを残して物語は結ばれているような。 そこに未来への道筋を加えて、この物語の答え──少年が為したことで得たモノを記している点も、わたしが好きな物語構造です。 まぁ、全体のバランスからしてあのエピローグが無いような可能性は実際には少ないとは思うのですけれど、希望のある結びにはなっていなかったのではないかと思ったりして。 生きる道標を見つけるラストは、平山センセ御自身のスタンスなのではないかな〜。 この世界から<消え>てしまう運命にある女の子。 物理的にでも、精神的にも、<消え>てしまえば彼女はこの世界から「居なかった」ことにされてしまう。 ガジェットとしては極めてシンプル。 んでも、そこで表される寂しさや恐さは、「死」という別離ばかりにはしってきた感もある現代文芸(含ラノベ)の中で、確実に著者のセンスをうかがわせる部分だと思うのです。 表紙の装幀も、雰囲気良くて好き〜。 タイトルの位置や写真画像の大きさなど、わたし好みのセンスー。 3行に分けてタイトルを載せたあたりも良い良い。 本文を読めばわかることですけれど、写真の構図にも大きな意味があるのですよね。 読み終わったあとに気付いて感動したー。 さすがです、新潮社装幀室!(≧▽≦) むぅ。 ちょっと、平山センセのことを追いかけてみますか。 |
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『しにがみのバラッド。9』 ハセガワケイスケ 著 これは……作風がどうのと意見を述べる前に、まず、今夏に上梓する必然性があったのかを論じたい気分。 はっきりいって、分量が少ないんじゃないのかなーと。 そりゃこのページ数では、さすがの電撃文庫といえど490円で販売するしかないか……というカンジ。 もっとまとまってから出版したほうが良かったのでは? あと中編を1本くらい。 そうでなくても今巻、ベリーショートなお話も込みでまとめられていて、全体に散漫なカンジを受けてしまうのですけれど。 ここまでくると、もはや物語ではなく詩編と言ってもいいくらい。 ……あー。 詩、うた、歌……なのかもしれません。 物語として筋道だっているようには感じられず、感性そのままにぶつけてくるカンジ。 そこにあるのは言葉の選び方だけで。 以前は感じていた迷走しているような印象はもはや感じられず、センセは──少なくともこのシリーズでは、こちらの方向へ向かっていくことに決められたのかなーと思ったりして。 んー……。 長距離走で背中を追いかけていた人が、突然コースアウトして自分のレースを始められてしまったカンジ。 ちょっと──さみしいかなー。 ……あるいは、後ろに付いてきている人を試しているのかもしれませんけれど、そういうイジワルはしないような気はするのでー(苦笑)。 本編については、ちょっと「死」のイメージを直接的に扱いすぎかなーという印象が。 もちろんモモは死神ですので、そこから離れるワケにもいかないのですけれど。 んでも、これまで辿ってきた物語の数々にどうしても重なってしまうイメージがあるのですよね。 ここまで9巻ですか……。 電撃文庫における短編作品の地位上昇へ大きく貢献した優秀な作品ですけれど、少し──長く語りすぎてしまったのかも。 どこまでも語り続けられるスタイルという点はあるにしても、やはり最後を結んでこそ物語、かなぁ……と。 もう背中を追いかけることはわたしには難しいですけれど、どこにゴールがあるのは見届けたいデス。 |
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『フェスティバル上等。』 三浦勇雄 著 筆致……というか、表現の方向性が変わった? スピード感重視なカンジ。 それもキャラクターのアクションで表すのではなく、主としてカメラワークやカット割りの部分で。 大げさかもしれませんけれど、ちょっとメタ視な雰囲気が漂い始めているような。 これまでのシリーズは、脚本+演出の部分を三浦センセは担っていて、残りの部分はキャラクターと一緒になって作り上げていったように思えます。 それが今作からは、三浦センセの立場は総監督となって、作品を外から見る目を備えてきている……なんちて。 こういった認識が正しいのか的はずれなのかわかりませんけれど、変化は間違いなくあるように思うのですよー。 ……まあ、五作も上梓したのに変化が無かったりしたら、それは力量を疑ってしまうところかもしれませんけれどー(苦笑)。 んでもなぁ……。 スピード感を重視するのは良いのですけれど、こういう手法で表現するのは「上等。」シリーズには相応しくないような気がするのですよー……。 カメラをちゃかちゃか切り替えて、見ている人間を情報過多にして緊迫感を煽る手法……わかる、わかるんですけれどもー。 「上等。」シリーズって、もっと長回しで撮る手法のほうが似合っているように思うんですよね。 緊迫感は、もうすでにそこで描ける力量を持っている人だと思うので。 この辺り、さすがに三浦センセも試行錯誤だと思いますし、またわたしのほうも認識がこのあとで変わっていく(慣れていく)かもですね。 そんな変化もこれからの楽しみにしつつ(笑)。 技術論はその辺にして、本編。 2nd シーズンっていうより、最終章!な雰囲気すら漂う新章突入ってカンジ。 鉄平をはじめ、いきなりみんな絶体絶命じゃないデスカ! それでも精一杯がんばっているんですけれど、逆境スタートには変わりなく……。 次巻タイトルが『サクラ上等。』って、全てを忘れてしまっているゆかりちゃんと大学生活が始まっていたり……しちゃうのかなぁ。 鉄平がどうしてそこまで自分のことを気にかけてくれるのか、ゆかりちゃんにはわからなくて不思議で戸惑って……みたいなー。 それとも受験期の合否の「サクラサク」みたいなお話かしらん? しかし最近は文七の格好良さが際だってきてますよ! 主人公の座が危ういぜ、鉄平!(笑)
ああ、死ねよ俺。 なんちうか、文七の申し訳なさって心境が、すごく伝わってきたー。 |
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『その日のまえに』 重松清 著 |