○● 読書感想記 ●○
2006年 【7】
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『ワイヤレスハートチャイルド』 三雲岳斗 著 推理ミステリ風味……なんですけれどもー。 推理するための材料の提示がつたないというか……。 わたしの嫌いな、開陳の段階になって「そういうこともある」みたいな可能性の話をされるタイプ。 棚のこととかさー、ひと言あれば良かったんですよ、推理披露場面の前に。 まぁ、でも、しかし。 推理ミステリ風味ではあっても、推理ミステリではなかった……ということなのかもしれません。 事件の真相を推理させることより、人間関係の難しさや先端技術の特殊性について表したかったようにカンジるのです。 推理させるという部分は、存在自体強引なカンジ。 でも、表向きのウェイトはそちらに寄ってしまっているので、なんだか、こう、三雲センセの筆致にも息苦しさのようなものを感じてしまったりして。 自由でない、伸びやかでないといいましょうか。 そうした不本意さ、無念さが、展開の窮屈さや内容の乏しさにつながってはいないか……。 オビには「新・中篇シリーズ」とか書いてあるので、わたしの考えに反して、今作の内容規模は狙い通りなのかもしれませんがー。 本編とはあまり関係ない話。 ボイドの短いプログラムについて、やはり『RUMBLE FISH』を思い浮かべたり。 エターナル・チャイルド。 先の『M.G.H.』のときも感じましたが、三雲センセの作品は、後々の作品のための布石のようなものを感じます。 本ネタで扱うはまだ未成熟であるため、ひとつのエッセンスとして実験的に作品の中に組み込んでみよう……みたいな。 時系列で三雲センセの作品をきちんと追いかけてみると、各作品間での着想の関与性などが見えてきたりして? もしかしたら創作における心理を研究するのに、非常に興味深い作家センセのおひとりなのかもしれません。 文学の歴史に名を連ねられるような。 |
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『紅 ─ギロチン─』 片山憲太郎 著 うーむ、素晴らしい。 事前に用意してしかるべき情報を、それはもう執着とも思えるほどに細部まで用意してあると感じられます。 斬島切彦のキャラ造型なんて、『電波的な彼女』の雪姫とダイレクトにつながるものをカンジさせるというかー。 「斬島」という“血”の存在を、ただの系譜としてではなく実存するモノとして認識されているような。 刃物を持ったら豹変する。 そんな、ただの文字情報ではなく。 知人の家へ上がらせてもらったとき、その家の“匂い”を感じませんか? 実際に嗅覚で感じるそれと同じく、空気──雰囲気のようなもの。 それはその人の家が長い年月とともに作り上げてきたものだと思うのです。 そのような“匂い”を、この作品に生きる人たちから感じるのです。 設定として作り上げることについて、一朝一夕で可能かどうか、それは作家センセひとりひとりにもよるかと思います。 大切なのは、そこに在るということ。 読み手の目を通したときに、感じられるということ。 感じられなければ無いも同じ。 『紅』という作品には、間違いなくそれが在ります。 「揺れる男子とマイペースな女子」という片山作品における不文律は相変わらず。 今回は男子──真九郎の揺れが微妙なだけに、リアリティ多めかなーって。 震度は小さくても、マグニチュードは大きいですよ?みたいな。 目の前にある問題は小さなことだとしても、その問題の先にはもっと大切なことが隠れていると感じているのですよね。 16歳という真九郎の年齢においては易しい問題ではないにしても、先延ばしにはせずに抱え込むことを考えるあたり、彼の誠実さが素敵です。 作中では先延ばしだと非難されますけれど、問題から目を背けるワケではなく、答えを出すことに必要なモノを待っている段階ですよね。 問題を解くことは止めていない……と。 そういう姿勢につながっているからこそ、≪崩月≫に関わることも、“角”のことも、都合が良く物語の進行に扱われているようには思えないという……。 この描き方は、かなり!かーなーりっ好感デスヨ。 展望についてラスト、すこーし描かれていましたけれど、わたしの希望はやぱし真九郎くんの相手には紫ちゃん……かなぁ。 こういうカップリングを考えるとき、「その人でなければ駄目になってしまう」可能性を考えるのですよ。 銀子ちゃんとか夕乃さんは、真九郎が相手にならなくても、それなりにやっていけそうなカンジがして……。 簡単に言ってしまえば、紫ちゃんは心に壊れているところがあって、それを治してあげられるのは真九郎だけなのでは?ってことでしょうか。 ああ、それでも。 ふたりを鉄板だと思うからこそ、報われないヒロインを応援したくなる気持ちもあるわけでー。 そうしたとき、いちばん応援したいのは夕乃さん! 彼女の貧乏クジの引きップリたら、涙誘われますヨ!(TДT) 一見、そうとは見えなくても、実は銀子ちゃん以上に「女性」として意識されていないんじゃなかろうか……。
「今後とも、うちの真九郎さんと仲良くしてあげてくださいね」 ここ、すっごく好き〜!(≧▽≦)
支倉凍砂センセがZZだとしたら、片山憲太郎センセはクイン・マンサ。 2005−2006のライトノベル・シーンを鮮やかに彩ってくれている偉大なお二方をMSにたとえて。 |
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『ひかりをすくう』 橋本紡 著 世界の可能性を信じられたり。 悪くなる可能性も、良くなる可能性も。 それは、いつまでも停滞することなんてなくて、変化することが運命づけられていると信じられるような。 大きな流れのなかで、ある時間だけを切り取った今作。 事象に対して是とも非とも答えてないんですよね。 登場人物の意識として明示されても、『ひかりをすくう』という作品としてはどちらかに寄る姿勢を見せなかったというかー。 ラノベというジャンルの特性からか、そちらで書かれていた作品では述べる主張(というほど強いモノではありませんが)があったように思うのです。 あった……というか、あるように作為されていたというか。 それが文芸ジャンルで活躍されるようになってからは、少しずつ薄まってきたかな〜と。 ことに今作はいちばん感じなかったかなー。 そんな方向性やら主題やらのお話はさておいても、ちょーっと身につまされるお話でありまして、ハートにぐっさぐっさと突き刺さってきましたデスヨ。 でも、やはり、それも人生だと、受け入れることへ柔らかな気持ちになったりして。 受け入れた先へ、道はあるものだと。 それと、いまを生きることを大切に想う気持ち。 健やかなるときも、そうでないときも。 マメはさー、遠くない将来に別れが約束されてしまっているのだけれど、やぱし「今」あの子は生きているワケですし。 遠い未来の悲しみを恐がって、今を楽しむことを諦めるのは間違ってる──って、誰の言葉でしたっけ(詳細、違ってるかもですが)。 先程は主張を感じないとか答えがないとか述べましたけれど、それでも橋本センセが信じている世界の有り様はたしかに今作でも流れているのですね。 それはもう、作家としてのセンセの血脈のように。
こんなわたしたちの生活は間違っているのかな。 橋本センセの作品は、対になる関係が少なくないと思うのですが、たとえばこの問いに対になるのは多分、ここ。
それでも、わたしたちは生きていくしかない。 光を反射した窓の輝きとか、銀色の飛行機雲とか、藤棚の下でゴハンとか、子猫の成長とか。 もしなにかを見つけたのなら、本来の意図や意味など気にせず、その見つけたものを大切にすればいいのだ。 ──です(^-^)。 |
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『海底密室』 三雲岳斗 著 タイトルからして完ッ璧にクローズド・サークル〜。 『M.G.H.』もそうでしたけれど、好きなんでしょうか? ……好きっていうより、推理ミステリのルールに真摯たらんとする三雲センセの矜恃なのかも。 曖昧なままで読み手に思考させることを良しとしないという。 そんな意識の高さは、推理への道筋を過度とも思えるほどに見せつけるあたりにも感じます。 『M.G.H.』より明確に推理ミステリを意識しているカンジ〜。 ただトリックの目新しさにこだわるのではなく、事件に関わる人間模様の細部へ目を配るあたり、より深く作品へ踏み込んでいるような。 推理ミステリとして完成度が高まったというかー。 んでも、好き嫌いで述べるなら、『M.G.H.』のほうが好きかなぁ……。 むこうは単純でありながら──単純であるが故に、因果の証明がストレートであると感じたのですが、一方、今作では複雑とまでは言わないまでも物語へ多面性を持ち込んだことで不明瞭な部分が大きくなったような気がするのです。 ことにわたしレベルの学術知識では、簡単に推理するわけにはいかなかったという。 ぶっちゃけ、解決にはそれなりの専門知識が必要であって、実際にそれが起こりうるものだとしても作品内で明示しておくべきだったかなぁ……と。 事件の裏事情にまつわることについては、その因果をきちんと作品内で明示しているのに、むしろそちらは「きちんと明示してしまっている」ことがミスリードになってしまっているのですよねぇ……。 あまりにも、きちんと明かしすぎているというか……。 もっとも、そんなトリックへの不満は些細なことで、先述のように今作の魅力は全体の構成の深さなのでー。 知識があればより楽しめて、知識無くても十分に……ってトコロだと。 ああ、今作の感想とはちとズレるのですけれどー。 三雲センセの『RUMBLE FISH』に通じていくものをカンジたりして〜。 まず感じたのは「新品のスニーカーは縁起が悪いので、わざと汚す」というくだり。 要っち!と思ったのは言うまでもなく(笑)。 「孤独」に関して大きく触れているのは、まりあをはじめ『RUMBLE FISH』のそれぞれのキャラクターの生き方を思い出させますしー。 血のつながらない姉たち……というキャラ造型は沙樹ですし、そしてなにより失踪した天才とは深見将利!ですよね〜(^_^)。 物語を丁寧に描くことにジャンルの違いはありませんけれど、綿密で子細で、そしてほどよく知的好奇心をくすぐる専門知識を必要とする推理ミステリの存在は、とても稀少なのではないかと。 三雲センセには、もっとこちらのジャンルでも執筆されていってほしいな〜。 |
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『ラジオガール・ウィズ・ジャミング』 深山森 著 ブラヴォー!(≧▽≦) ひさぶりに胸の空く爽快な物語を目にしました。 終戦直後、まだ戦時統制下の空気が残るキナ臭い世界。 簡単ではない題材ですけれど、けしてマニア的な知識に偏ることなく、読み手の目線へと世界をきちんと照準合わせてきているところが好感。 特別な人たちが特別なことをするのではなく、厳しい世相でありながら市井の温かい雰囲気をメインに。 目に付く不満も、無いワケでは無いのですよね。 ザッピングとまでいかなくても、語り部が頻繁に変わっていくのですけれど、語り部が変わったことはわかっても誰に変わったのかわかりにくいことが少なくなかったり。 語り部を隠す演出と言うわけではないみたいですし、このあたり、ちょーっと書き手である深山センセの意識が先走りすぎなのかも。 筆が進んだ……ということかもしれませんがー。 まぁ、でも、しかし。 そういった荒々しい筆致の部分も、今作に限っては認めてしまいそう。 んー……。 下町の気さくさ、みたいな空気に相応しい筆致かも〜と感じたのデス(^_^;)。 うん、そう、下町。 そこにはちょっと理想が混ざってしまっているのかもしれませんけれど、隣人を大切にする共同体幻想?みたいな。 誰彼の区別は無く、そこに住むというただ一つのステイタスが絆を育んでいるという。 そんなつながりが愛おしいのですよねー。 中盤の転換点や、終盤への盛り上げかた、そしてこの作品が「ラジオガール・ウィズ・ジャミング」たらんクライマックス!などなど、全体の構成でも、ひっじょ〜に好感。 要所要所でビシッと決めてくれるのですよね〜。 見せ方を心得ているというかー。 軍の人たちの志の高さもカッコイイったら。 自分たちが戦う存在であるということ、そして何のために戦うのかを理解していること。 その高潔さに心ふるわされるという。 戦争は大切なものを奪っていくけれど、失われないものだってきっとある。 市民のこころにも、軍人のこころにも。 それさえあれば、憎悪や猜疑にも負けることはないと深山センセは答えてくれています。 悩む行為に焦点を当てている作品が少なくない昨今、答えまでをも導いている深山センセの姿勢には大切なものがあるような気がします。 答えは賛同されるばかりではなく、否定されてしまうかもしれない。 だけれども否定されることを恐れるのではなく、悪いことは悪いと、そして正しいことを正しいと宣言するのは、とても勇気あることだと思うのです。 そんな勇気を、この作品から深山センセにカンジるのです。 ひとりで生きる必要なんて、どこにもない。 そして、幸福に辿り着ける道はきっとある。 それを伝えてくれる深山センセに拍手!(≧▽≦) オビには「新シリーズ登場ですっ」てあるのですけれど、シリーズ化? ひとつの騒動は終わったのですけれど、なるほど、キナ臭い現状は続いているわけでー。 “海賊放送”というメディアが活きる世界は、まだまだ広がっているのですね。 次作、楽しみにしています!(^-^) |
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『少女七竈と七人の可愛そうな大人』 桜庭一樹 著 桜庭センセの筆致って、戦うための武器って雰囲気を感じたり。 押し寄せる敵へと立ち向かっていく、戦士のソレ。 90年代からこちら、社会は“消費としての美”を追い求めてきた気がするのですけれど、それはいつか“消費される”運命を背負っていたワケで。 消費されることから逃げることを、美は運命づけられていたというか。 結局そうした流れは“萌え”に至ってひとつ結実するのだけれど、消費される運命については、その時代が幕を下ろそうとしているようなカンジを受けるのですよ。 そんな流れの中、ここにいたって桜庭センセは、“消費されることのない美”と向き合う覚悟を得たのではないかと感じたりして。 無論、いまでもそれは消費されるのではないかという不安は訪れるのだけれど、それらと戦うことを選んだ姿勢のようなものを。 そのための、武器、なのかも。 変化であったり「分岐点」であったり、否応なしに押し寄せてくるそれらに負けない強さを求めていくような。 かつて白倉由美センセが探そうとして探せなかったモノを、あえて求めないで得ようとしているような。 少女・七竈は、向かい風の中、颯爽と立っていました。 消費されることから決別したのは桜庭センセだけなのか、文学の世界がそれを成し得ようとしているのか、それとも読み手であるわたしたちをも引き連れて新しい時代へ往こうとしているのか、それはまだわかりませんけれど。 |
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『空とタマ ─Autumn Sky,Spring
Fly─』 鈴木大輔 著 筆致が──合わないというか。 息を止めて水に潜るような息苦しさをおぼえたりして。 『初恋セクスアリス』とは違い、「初体験プロジェクト」というものを、自身の初体験/原初風景を描くものだと捉えているようなカンジ。 私小説化というか。 逃げ出してきた少年が、第三者に真情を吐露することで現実と向き合う勇気をもらい、戦う覚悟を決めて社会に戻っていく──。 そんな物語ベースはあるのですけれども。 真情を吐露する部分が果たす役割があまりにも大きくて、読み手のわたしには「聞かされている感」が強かったデス。 抱えていた重荷を語ることが事実の認識への近道だとしても、それで物語というにはどうにも……。 セラピーの過程を眺めているようで。 タマの存在は、そんな次第なので、聞き手であり助言者であり。 なにもラストで深い意味付けを持ち出すことも無かったのではないかなぁ……と。 そのショッキングさで重さを上積みしようとするかのような、あざとさを感じたりするのですが……。 あるいは、タマが語るべき「物語」が、もうひとつ別に、この作品と対となる形で存在するのかもしれませんけれども。 そうして、完成される──。 そんな気もします。 【追記】 このお話、「死と再生」の物語なのだと、プラス方向で再評価。 あの小屋は、やっぱり子宮を暗喩していると思うわけで。 でも、そうだと認識して眺めてみても、タマについての最後の告白は蛇足な気がしてならなかったり。 むしろ、そう認識してしまったが故に、あまりにモチーフと直接的すぎる扱いに鼻白むというか……。 主人公は外へ出ることで新しい命を得るワケです。 清められたハズのその身へ「死」をあらためて運んでくるのは、なにやら収まり悪いように思うのです。 温かいモノを心へ届けるつもりでも、それは物語としては完成しない……ような。 せっかくの“再生”というハレが、あれでまた穢れたように思うのデスヨ。 あえて言うなら、タマは死ぬべきであった、と。 であれば彼女は再生のためのイニシエーションにおいて、犠牲となった象徴として「生きる」ことができると思います。 「温かいお話」と「温いお話」は、似ているようで違うモノということ。 そこでの違いは、このお話を過去への郷愁に囚われて鈴木センセが描かれていることの限界なのではないかな〜と思ったり。 理想であるが故に、温さ甘さを越えられないという。 |
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『初恋セクスアリス』 矢野有花 著 最後、コトをいたす必要があったのかなぁ……と、行為に無理矢理なカンジを受けたのですけれど、「初体験Project」でしたね、そーいえば。 オビに書かれているコピーにはほかに「はじめてをもういちど…」という文言があって、そのふたつでこの作品は語ることが出来るような。 そういう点で、コンセプトが明確で、且つ、その命題を正直に遂行した、わかりやすい優しい良作なのかなぁ〜と思います。 あまりにも趣旨に沿いすぎているというカンジを受けないでもないので、これが書きたかったことなのか書かされたことなのか、その違いには判断が難しいのですけれどもー。 作品内期間が短くて、人物の感情変遷が急いている気が。 そのために感情移入するより先に、現実として納得するよう仕向けられている感がするのですよー。 「会って三日目で好きだなんて言ったら、性急すぎて引かれそうな気がしたし」 ──とユキお兄ちゃんは口にしていますが、まぁ、結局はそのとおりかと。 幼い日の想い出を拠り所に、新たに芽生えたいまの気持ちを重ねていくようなところをもっと欲しかったトコロ。 現実の時間ばかり描かれて、過去とのつながりが希薄だったことがもったいないというかー。 陽也とユキお兄ちゃん。 今回の事件の中だけでは、それぞれに魅力に乏しかったというか、決め手に欠けていたような……。 有紗ちゃん、幼い頃の約束をあまりに重要視しすぎてないかと心配に。 でも、まぁ、そんな流されかたも、16歳のオンナノコらしいなぁ……とか思ったりして(苦笑)。 ハタチになった頃、このふたりって別れていそうな気がするのは、余計な御世話ですか? そんなこともあったわね〜……なんて、良い想い出に落ち着いてしまっていそうな。 そんな風に感じてしまう程度に、ふたりの「好き」って気持ちの盛り上がり方が良くわからなかったんですよぉ〜!(^_^;) |
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『青春俳句講座
初桜』 水原佐保 著 角川学園小説大賞優秀賞受賞者ということで、ああ、なるほど、米澤穂信センセの系譜に連なる人だなぁ……と感じたり。 「日常の謎」とか「青春ミステリー」とか、コピーに見られる売り出しの方向もそんなカンジ。 んー、でもなぁ……。 たしかに日常の中で起こっていることで「日常の謎」なのは間違いないと思うのですけれど、その日常の有り様がわたしの視線とは違うように……。 日常って、おおざっぱに言うと、普通であること、だと思うのですよ。 なにかちょっと変だな……って感じてしまうと、それはもう「日常」ではなくなってしまうというか。 今作は短編連作ということで「日常の謎」も複数個、収められて。 その中でわたしは1話目の「桜」が好きなのですけれど、ここで「謎」に関わった人たちの心情について普通に思えなく、日常というにはちょっと特別に感じてしまったワケで。 犯行を知る人たちが、犯人のことについて語っていないことが不自然な気が。 どのような理由があるとしても犯行は犯行で、それを行った犯人に向けられる視線には同情や怒り、もしかしたら憐れみだったり、そうした揺れる感情が込められていくのではないかなぁ……と。 犯行を知ったうえで、なお、以前と変わらぬ付き合いを貫ける人の姿というのは……ちと不感症すぎやしませんか? まぁ、問題は変化の質ではなく、変化があったのかどうかすら描かれていないことにあるのですが。 「桜」の他の二編、「菫」や「雛祭」についてもどちらかといえば「日常の中にあった謎」ではなく、「日常の中に組み込んでみた謎」のように感じてしまったり。 謎にまつわることが、日常の中に異質に見えるというか……。 日常ミステリとしてではなく、純然たる推理ミステリとして受け止めれば、とくに問題は無かったのかも……とは思います。 『青春俳句講座』の副題もあるように、俳句が推理にきちんと活かされていますし。 もしかすると知識人としてこだわりすぎなきらいがあるかもしれませんが、それくらいの個性は許容すべきかな、と。 他にはないこの作品の魅力でもある部分ですし。 主人公・さとみと、探偵役の俳人・花鳥さんのコンビ。 まだまだ道半ばというカンジでありますので、このままシリーズとして続いていってほしいトコロです。 |
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『土くれのティターニア』 増子二郎 著 読み進めていくうちに成長のあとを感じた……っていうのは、スタート時点では至らぬ点が多く目に付いたってこともあるワケで。 前作から間が空いてしまったということを鑑みても、すでに4冊も上梓している作家センセの筆致には感じられなかったかなぁ……。 47ページあたりで語られる状況説明のくだりなんて、ちょっと冗長すぎるような。 物語が動きを見せるトコロなのに、文章は停滞してしまっているカンジ。 でも、短編連作となっている今作で、後半まで退屈に流れていくのかといえばそうではなくー。 語り部である主人公・大賀くんと、ヒロイン・明日香ちゃんのふたりが、つかず離れず、互いを意識しないように意識しているようになっていく気持ちの変遷が興味深いというか。 ゆっくりと変わっていくので、あれ?と思わされるのですよね。 いつのまにー!みたいな、プチ驚き。 積極的に恋人関係を作り上げようとするのではないけれど、年頃のオトコノコオンナノコとしての距離がくすぐったいというかー。
「洗濯のとき、下着をきみの目に触れぬように気を配ってるぞ。きみも無用な刺激は受けたくはないだろう?」 年頃ですから! そりゃ期待もします! |
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『ウィッチマズルカ T. 魔法、使えますか?』 水口敬文 著 魔力を身に刻むことも、魔法の対価に宝石を消費することも、血のつながらない姉妹も、土地を管理する魔女の存在も、それぞれを個別に見ればあまたの作品へつながるものがあるのだろうけれど、それが一つ二つと重なっていくことで「偶然」という可能性が狭められてしまうのかなぁ……。 どうしても別作品の影を見てしまうわけで。 その類似性に気付かず楽しむほど純然たる消費者ではないし、気付いたからといって何が出来る送り手側の人間でもないし。 子どもの時分が楽しいのは、知らないということが世界に驚きを運んできてくれたからなのかな……。 それでも、要は楽しめれば良いのでしょうけれど。 世界を知ろうが、知るまいが。 わたしが思い浮かべてしまったあの作品との類似性を排したうえで見所が無いとも言えませんし。 例えば、「律花」という魔術展開の見せ方……とか。 うーん……。 この見せ方があるならば、刻印めいたこととか、余所から価値を得て魔力へ転化することとか、そういうところ抜きに話を見せても良かったような……。 余計な知識を得てしまっているわたしの場合の話ですけれど。 アクションそれ自体に魅力があるとは思えないのは、水口センセの個性かなー。 動き、もしくは勢いで迫力を出すのではなく、個人が置かれる状況や感情などから心理面で引き込んでいくというような。 姉妹・姉妹・師弟など、「ふたり」がベースになっているような今巻。 その「ふたり」の絆は正であれ負であれ、浅からぬ結びつきを感じたのですけれど、「ふたり以外」の世界への関与が互いに乏しいように感じたりして。 それぞれがもっと関係を持ってくると面白くなってくるのかなーと。 まだキャラクターが個々で途絶しているカンジ。 価値の転化とか刻印とか、いまの時代に持ち出してきた理由が見えてくるといーな。 面白そうだから……って理由以上には、今巻では思えなかったので。 |
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『世界は悪魔で満ちている?』 相原あきら 著 Frontwingあたりで商品化されていそうなイメージ……(^_^;)。 ぷちセクシャルで、会話文主体、地の文少なめ。 そんなテキストを「エロゲテキスト」と括るのは乱暴かもしれませんけれど、今の業界の中でこそ生きる場所のある文体なのは間違いないかなぁ……と。 200ページちょっとという総ページ数も、1冊の文庫本としては短かったり? でも、キャラクターを何者か詳細には明らかにせず、単純平易な設定一つで勢いつけて転がしていく手法って短編のやりかただと思うので、これは正しいサイズなのかも。 ……うん。 描かれている内容への評価を別にすると、採った手法や、その手法に見合った全体の構成など、そうした仕事っぷりは間違ってないのかも……? その姿勢は評価できる、かなぁ……。 オトコノコが主人公ではなく傍観者で狂言回しなトコロは、『涼宮ハルヒ』を狙っているのかなぁ……。 ……そんな見方のほうが、ちと囚われすぎな気もしますけれど(^_^;)。 |
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『待ってて、藤森くん!』 壱乗寺かるた 著 く、くやし〜!(><) わたしは壱乗寺センセの既刊「さよならトロイメライ」のシリーズを好きなんです。 でも、互いに1巻での完成度や、物語のシンプルさ、軸、など構成する要素の数々が「トロイメライ」よりまとまっているカンジがする〜。 あちらが上回っているのって、7冊刊行しているという実績と、シリーズ化しているからこそ可能となっているガジェットの深み……くらいな気がー。 簡単に言ってしまうと、「トロイメライ」以上に面白くなるんじゃないかって潜在的なモノをカンジるという……。 7冊も出ているシリーズ物に手を出す新規読者は珍しいでしょうし、それなら新シリーズをプッシュしていったほうがビジネス的に有利って判断されないかなぁ……。 ぐわーっ! 心配だわーっ!(><) 「トロイメライ」と同ジャンル──学園モノでなければ、ここまで気にかけることもないのでしょうけれど。 なまじ同じジャンルなだけに、比べる目を持ってしまうというかー。 真霜の家から連なる因縁の数々とか、超人的な能力のこととか、そういうガジェットに因るトコロが「トロイメライ」の面白さのひとつなのですけれど、反対に、そうした部分は物語を読み解く、物語を楽しむために、読み手に相応の負担を強いているワケでー。 あとがきによれば、今作ではそうした「超能力等、超常現象は使わないこと」という前提条件があったとのこと。 そりゃシンプルにもなるし、物語の受け入れやすさにもつながりますわー。 生徒会執行部幹部の呼称「三人官女」も、「トロイメライ」の「トップ3」より印象付け良いと思いますし。 ……ちうか。 そうしたガジェットに凝ってしまうのは投稿時代からの壱乗寺センセのクセであるから、ここで再スタートをかける際には上の方から御するべく働きがあった……と見るべき? く、くやしいけど、これで壱乗寺センセの人気が出るなら……(TДT)。 でも、そうは言っても壱乗寺センセらしさはカンジるのですよ。 あふれそうなキャラクターの数とか(笑)。 「トロイメライ」と同じく、このキャラクターたちが複雑に相関関係を作っていくのかと思うと、今から楽しみで楽しみで。 勢い余ってキャラリストなど、さっそく作ってみたりして。 あー、こういう作業、たっのし〜♪(^-^) 壱乗寺センセ御自身も仰られていましたけれど、幼なじみ・犬塚吉野ちゃんの活躍はホント楽しそうに描かれてますねー。 主人公・藤森里見くんは、彼女の名誉のために立ち上がり、悪漢を打ちのめす……って図式。すごくシンプルだわー。 「想いでの女の子」とのこととかは今巻ではほとんど進展しないというか、その存在の明示だけでしたけれど、だからこそ複雑にならずに済んでるのかなー。 今巻は里見くんの立場と行動原理を示すことが大切だったというわけで。
闘うことに、そんな難しい理由はいらない。 里見くんの想いがシンプルで美しくて、ただただ脱帽。 |
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『風の王国 目容の毒』 毛利志生子 著 勘違い女が引き起こした事件から保身を計ろうとする男の……ってパターンが、このシリーズには目立つような(^_^;)。 史実がそうなの? それとも毛利センセのスタンス? 罪の深さは変わらなくても、態度に表れる美醜っていうか。 あー、簡単に言ってしまえば、男のほうが根性座ってないネ!ってことなんですけれども(苦笑)。 朱瓔の出番が少ないのは前巻を受けてのものだとしても(笑)、リジムの出番の少なさはー。 このシリーズ、翠蘭とリジムのバカップルをみることが楽しいっていうかキモって気がしないでもないのですが(笑)。 今回は、そのどちらを主体にした物語でもなかったかなー、と。 言ってみればソンツェン・ガムポ様の物語、あるいはいよいよ吐蕃の物語の趣を強くしてきたかなーって。 歴史絵巻として、史実との関わり合いが深くなってきたのでしょうか。 チベットの歴史については浅学なので判断しかねますけれども。 ソンツェン・ガムポ様のお后様たちの人となりも見えてきて、家族の枠組みでも面白くなってきたような。 翠蘭にも変化がありましたし、大家族モノとして賑わってこないかな〜と楽しみに。 ラセルがヤキモチ妬くのではないかと、ちと心配(^_^;)。 ガルの過去についても読者には明らかになったことで、このことがどうやってリジムに伝わっていくのか、ドキワクですねぇ。 もはや障害らしい障害は無いハズなので、互いの絆が深まることを願っております。 翠蘭とガルのコンビネーションも悪くないですしね! 武闘派の翠蘭とはいえ、彼女に剣を預けてしまうソンツェン・ガムポ様は、とんでもない舅だと思いました。 楽しんでるのがあからさますぎだーっ!(^_^;) |
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『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
恋のドレスと薔薇のデビュタント』 青木祐子 著 んんん……。 クライマックスでの大逆転については、もちっと前からヒントがあったほうが良いのではないかなぁ……と。 実はこうでしたー、そうなんですかー……では、カタルシスに欠けるというか、読み解く意識に迫られないというか。 主人公の行動によって事件を探っていく活劇の類ではないので、それも仕方がないのかなぁ……とは思いつつ。 クリスの心情の変化……ちうか自覚?も、ちょっと意外。 しかし別段否定的な感慨ではなく、むしろクリスのその認識への到達については賞賛を送りたいくらい。 意外に思ったのは、この手の物語ではその想いに気付くのは相手のほうがパターンなのではないかなぁ……と思っていたことに起因します。 芽吹いた気持ちについて主人公のほうが理解して向き合う姿勢を見せるのって、珍しくないでしょうか?? 相手のほうが持て余しているってことは、攻守逆転しませんかー? 自覚したクリスのほうが攻め手に回るような……。 実際に攻めるかどうかは別にして(苦笑)。 気付いたところで、そのままにしておきそうですもんねぇ……(^_^;)。 ああ、しかし。 そんな自分の気持ちに気付いた彼女を描いた挿絵の神々しいことったら。 光が見えるかのようですよー。 クリスを抱きとめたシャーリーとか、ビンタするパメラとか、今巻の挿絵は素晴らしいですね、あきセンセ!(≧▽≦) 雰囲気──その場の空気を伝えてきます。 |
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『シェオル・レジーナ 大いなる深淵の鍵』 村田栞 著 だいだんえーん! このシリーズ、言ってみれば自己解釈した「エデンの物語」を語られるってモノなんですけれど、その解釈の方向が見事にラブロマンスであったことが良かった良かった。 学術的に高尚なトコロを引き出すわけでなく、あくまで愛と罪の物語に絞ってるなぁ……と。 神学を持ち出さなくても、村田センセの感性は理解できると思うー。 で、わたし的にはラストもラスト、ちゃんと良き余韻を残す結び方を見せてくれたことが、ひっじょぉに好感!(≧▽≦) ええっ、うっそ、マジで!?と思ってしまったのもホントですけれど、まぁ結局はファティマが倖せになったことがわかれば満足満足かな〜。 そこを詳しく描いてしまうのは野暮っていうか、いろいろと反感買いそうですし(笑)。 ここまで引っ張ってきた「鍵」を巡る話についても、きちんと納得いく解決をされているような……。 とくに違和感とか矛盾とかは感じなかったというか。 その解決を得る過程でも、ファティマを始め、グランディエももちろんシオンも、相応の痛みを受けているところが良かったデス。 なにも傷つかずに解決するようでは興醒めですし、それを皆が乗り越えているトコロが絆の深さを表しているようで。 まー、最後の最後で、あの大天使が持っていっちゃったなーってカンジも無きにしもあらずなんですけれど(苦笑)。 しかしファティマの愛情を変形エレクトラ・コンプレックスと見れば、その愛情から解き放たれる克己の物語とか見ることも……なんて、ちょっと変かしらん(笑)。 でも曙の御子との愛情って、父性のような気がするのですが、どうでしょう? そしてシリーズ途中加入のわりに今巻も大活躍だった山羊頭さん。 しかもラストにきて、それはないだろー!(笑)な展開に。 こんな堕天使ばかりなら、世界はもっと面白くなるのにー(^_^;)。 あとがきでは次の作品のこととか触れられていませんでしたけれど、是非とも新シリーズを立ち上げてほしいです。 筆致とか、物語の規模とか、すごく好みでした。 今後のご活躍を楽しみにしております。 |
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『伯爵と妖精 駆け落ちは月夜を待って』 谷瑞恵 著 今回はシリーズ初の短編集ってことなんですけどー。 リディアとかニコとかエドガーとか、固有人名を出さなければ普通に妖精説話集として上梓できそうなカンジ。 それほどに妖精絡みの小話として、とても良くまとまっているような。 「銀月夜のフェアリーテイル」なんて、特に思うー。 「銀月夜」はエドガーと出会う前の話でしたけれど、彼と出会ったあとのお話も興味深かったデス。 本編では危機がすぐそばにある(感じられる)ので、リディアとの仲も、ちょーっと強迫観念があるというかー。 小話ということで、そういったせっぱ詰まった感が薄まっている上に、互いの心情を中心に動いていくのでドキワクするといいますかー。 プリンスを向こうに回しての対決構図は壮大な物語絵巻を描くので見応えあるとは思うのですけれど、その場合にはリディアとエドガーの仲が従の立場になってしまうような。 プリンスの存在をとりあえず抜きにして、リディアが、エドガーが、互いをどう感じているのかといった部分に焦点が絞られているトコロが良かった〜。 いや、でも、やっぱりデスヨ? あんまりエドガーが悪いとは思えないっちうかー。 始まりが鬱屈していたために、リディアが意固地になりすぎているような感が……。 そうでなければ、リディアと出会う前の伯爵の素行がそれはそれはとんでもなかったってことなんでしょうか? そんなふうには、現状、感じ取れないんですけどー(苦笑)。 浮き名は流しても深入りしないスタンスであったような……。 むしろ、伯爵との醜聞を噂されることを女性の側が求めていたようなカンジ。 まー、リディアとしては真相はともかく、そうした噂が流れるコト自体が嫌なのでしょうけれど(^_^;)。 「きみにとどく魔法」などを見ると、もっと正直になるべきなのはリディアのほうではないかと、ホント思うー。 |
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『お・り・が・み 澱の神』 林トモアキ 著 ぶらう゛ぉー! びゅりほー! えくせれーんっ!(≧▽≦) かなり力業で風呂敷たたんだような気がしないでもなですけれど、力業もワザはワザ。 その仕掛けに意図というかセンスを感じるわけで。 投げっぱなしでは無いという。 そこで丸め込まれたら読み手の負け。やられたー(笑)。 不完全性定理とか不確定性原理とか、人類がたどりついた「知の境界」へ挑むおつもりですか!ってカンジ。 あとは相対性原理? クルト・ゲーデルが英雄として祀られるなんて、概念武装なら『Fate/stay night』以上かも(笑)。 んでもゲーデルの数理論理学をイメージとしてすら展開することなく、あくまでライトノベルのガジェットの範疇で収めようとすることが、わたしには好感。 本質にどこまで迫れるかではなく、この場合に求められるのは、作品にどう活かされれているのか──ですよね。 ……本気で語られたら、理系の人でも置いてけぼりくらうような(^_^;)。 最終巻、遊びもなにもかけずに無駄を排して、冒頭からクライマックスな構成も、良し! この1冊のためだけでなく、シリーズをまとめようとする気概に溢れてます。 しかしその勢いは1冊という構成の中できちんとペース配分を心得られているカンジ。 終盤へと進むにつれて勢いは増していき、そこで描かれる事象も、人物の言動も、いよいよ重きを成していくというかー。 勢い、筆致のリズムも走っていくわけでー。
防がれるより速く。光より速く。だが神の腕と魔王の手がそこへ達するのは全くの同時。 ひゃー、もー。 |
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『天国の対価 おもひでや』 宝珠なつめ 著 新しい思い出を得ることで、人生を良き方向へ変えようとする人たちのお話。 客の望む思い出を作る「おもひでや」を舞台にして繰り広げられる物語なんですけれど、けっしてその店が中心というわけではないのですよね。 あくまで物語の舞台を提供しているだけというか、バイプレイヤーに徹しているというか。 思い出を生み出すという特殊な能力を持っている(持たせている)にもかかわらず、物語の表に出張らせずに抑えて描かれている様が好感。 物語を進めるのは能力(設定)の有無ではなく、人の意志であるべき。 「思い出を買う」なんて尋常ならざる行為をせざるをえない決心をした、そのお客にこそドラマがあるわけでー。 そんな焦点の当て方が嬉しいのかもー。 お客のパターンも画一的にならずに様々なそれを配しているトコロも好感。 この辺りも単に設定勝負にもちこまない、確かな筆致を感じます。 しかもそのパターン、登場させる順番も秀逸……というか、狙いを感じたりして。 設定がやはり特殊であることを鑑みてか、1話目はとくにわかりやすい、それも共感を得やすい家族愛をモチーフにしたお話を。 1話目ではとくに「おもひでや」や従業員について深く述べることはないんですね。 あくまで「思い出の売り買い」に留めているというか。 そこから2話目3話目と続くお話では、少しずつ「おもひでや」従業員の背景も表してきたり、依頼を持ち込んでくる客の素性も変化球っぽくさせてきたりと、読み手が物語に入り込みやすいように配慮されているように思うのですよ〜。 その、段階を踏んでいく優しさが好感(^-^)。 挿絵、相沢美良センセの絵柄って、なんだかちょっと古い……ような。 萌え絵ではなく芸術的方向性なのは今作に合った人選だと思いますけど、なんだか、そのー……。 まぁ、そもそもC★NOVELSって、萌え絵を選ぶレーベルではないのですけれど。 決定的に悪い印象を感じたわけではないのですけれど、んー、もうちょっとねぇ……と感じたのでした(^_^;)。 お客のパターンのネタ切れになるかどうか、マンネリ化を感じさせなければミドルクラスの長編へ発展できそう。 マンネリ化を避けても、あまりロングランな大長編には向かないかとは思いますがー(^_^;)。 そんな次第で、続き、あったらいーなって。 |
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『刻印の魔女』 藤原瑞記 著 |