○● 読書感想記 ●○
2006年 【4】
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『吉永さん家のガーゴイル 10』 田口仙年堂 著 見せ場は、復活したガーゴイルの強さ……にあると思うんですけどー。 そこを見せずに終わってしまったので、なんともモヤモヤ感が。 「変えることのできない過去」がどれほど切なかろうとも、変えることができない以上、乗り越えるべき成長点にはあたらないように思うんですよー。 「変えることのできない過去」についての切なさについては、作品上すでに描いてしまっているので、インパクトや効果の面では薄かったかなー……という印象。 タイムトラベルではなくて、人の記憶の中へ入り込むというシステムが、良くも悪くも重しになっているカンジ。 自らの存在理由を再構築し終えたガーゴイルが未来に向かって歩んでいくのに対して、過去の経験に固執し自らの役割や主張すら破綻させていく喜一郎は現代にすら生きる場所を見失っている。 身を寄せる時間の異なる両者がぶつかって、そしてガー君が勝利することに意味があると思うのですけれど、今回は水入りなんですもんねぇ……。 えー、ちょっとぉ。 やぱし、変化が起こりえて、先行きの展開を見通せない現代という時間にこそ、物語はあるのではないかとー。 今回はなかでも多くの行数を割いてきた過去という時間とつながりを持つ喜一郎とイヨさんの再会が大きな物語であったかと。 喜一郎が闘士ではなく息子に、イヨさんが錬金術師ではなくお母さんになった瞬間。 そこに悲哀が(TДT)。 双葉ちゃんとか和己くんとか、物語の流れからみると決して重くない存在に扱われたりする機会が増えてますけれど、こと今回の流れの中では「平和」の象徴のように扱われているような。 これまでの「にぎやかし」的な扱いも、意味があったんだなーって感じます。 にしても、日向センセの巻頭コミックに意味がでてきたなんて……。 これまでただのお遊び企画かと思ってましたヨー(笑)。 |
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『桃源の薬 春風に舞う後宮の華』 山本瑤 著 インシェンってさぁ、ダメ男じゃない? 「あいつならきっとわかってくれる」って言いながら、自分勝手に進んでいってしまうタイプっていうかー。 言わなきゃわかんないじゃん。 ちうか、言ってもわかってもらえないことだって、世の中たくさんあるのに! うーん……。 生い立ちが生い立ちだけに、そーゆー色恋の機微について慣れてこなかったからかなぁ……とも思っていたのですけれど、今回の宝林娘々との関係が明らかにされて、意外とそうではなかったんだなぁって判明しましたしー。 娘々に何も言わずに置いて行かれた幼い恋の気持ちを忘れていないのなら、どうして凛花にそれを伝えてあげないのかなぁ。 凛花があのときの自分と同じような「初めての恋」でいっぱいいっぱいになっているって察してあげられないあたり、かなり減点モノ。 いやー。興味なくて疎んじているならそれもアリなのかなぁ……と思っていたんですけれど、ちゃんと恋していたんじゃーん。 このカップル、ほんとにだいじょうぶなんですか〜? 他人を思いやれるという点では、シロとか綺羅のほうが数段上。 とくに綺羅は今回、凛花を裏から支えるような、良いポジションを発揮するようになってますね〜。 旅芸人の一座に身を置いていた経歴も活かされて。 こりわ、次巻以降での活躍が期待できますぞよ♪ ああ、しかしです。 毒を混入したのは誰なのかを問う、犯人探しの推理ミステリとして考えると、割とそつなくまとめられていたのではないかと思ったりして。 うん。 見かけの恋愛話に目を奪われないで見ると、構成は……しっかりしているのか、な? |
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『ジウ』 誉田哲也 著 昨今、警察を部隊にした小説が人気なんだそうで。 誉田センセもその中で取り上げられてたりするのですけれど、やっぱりこっちの方面のひとなのかしらん。 『疾風ガール』から入ったわたしにとっては、ちょっと意外というか……。 もっとも、知略を巡らせてのかけひきが軸にあると言われれば、なるほど、変わっていないのかな〜、なんて思ったりもします。 あと誉田センセといえば、戦うヒロイン像ですね〜。 今作では印象の異なるふたりのヒロインを配しているあたりが意欲的。 それが事件を多面的に浮かび上がらせることになっているので、いまのところはまずまず成功しているように受け取れました。 ふたりの配分が絶妙というカンジ。 そのふたりがまた極めて対照的なのも印象を強くしてー。 簡単にまとめてしまえば静と動なんですけれど、言動や事象に対する受け取り方なども含めて対照的。 それだけに相手のことがわかってしまうあたりも物語において巧みに印象づけられているなぁ〜と思うのデスヨ。 こういうヒロインの造形力は誉田センセの真骨頂らしくって好きー。 でもって、その反動からか、男性陣の存在感がいまひとつなのも誉田センセらしいというか……。 静だろうが動だろうが、ヒロインに活躍の場を先んじられてしまうので、男性の相棒の立つ瀬が無いという。 全般に慎重派なんですよね、誉田センセの作品における男性って。 そうでない男性がいたら脇役もいいとこ(笑)。 警察機構内での持ち場争いみたいなことも描かれますけれど、そこにはあまりこだわりが無いような……。 重きを置くのは硬直化した組織の腐敗ではなく、ヒロインたちの動き。 社会派作品ではなくて、やっぱりエンターテインメント作品だと思うのですよ〜。 ……けっこうグロくてもね(TДT)。 |
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『メイド刑事』 早見裕司 著 「萌え」ではなく「燃え」だそうですけれど。 ……「燃え」るって、どういうことなのかなー、と。 主人公に感情移入し、その言動に心が高揚する様──といったあたりでしょうか。 説明されるとなんとなく違和感を感じてしまうのは「萌え」も「燃え」も同じものなのかもしれませんがー。 「メイド」+「刑事」という基本設定や、常識離れした解決策など、破天荒な展開には「あはは、ばかー(^-^)」ってカンジで楽しんだのですけれど……。 この気持ち、「燃え」とはなんだか違うような……。 ひとつ思うのは、捜査の最終局面、解決に道筋を付ける際に、主人公の知識(捜査状況)が読み手のわたしを越えていってしまったカンジを受けたこと。 主人公が「わかった!」と言っても、なにを気付いたのかわたしにはわからないというか……。 もっとも、この作品は推理小説ではないと思いますので、真っ当な推理をさせるためのヒント提示は必要ないと考えて、こうした展開にしているのかな〜と。 ただ、主人公の気持ちとこの瞬間で離れてしまうのも事実なので、その点から「感情移入して心が高揚する」──「燃え」に至らなかったのかな〜と。 もひとつ言うと、探偵役の主人公が読者置いてけぼりで先んじていく様は、いかにも早見センセの作品らしい展開かと(笑)。 そんな次第で「燃え」はわかりませんでしたけれど、それでも痛快な娯楽作品ではあったと思うのデスヨ〜。 なんと言われようと勧善懲悪は基本中の基本です。 このルールが徹底されているから、先の展開を期待できるんですよー。 ……権威に裏打ちされた捜査力が、より大きな権威に阻まれたとき、いかな行動を示してくれるのでしょうか。 早見センセのサイトによると3巻までの年内刊行が予定されているみたいなので楽しみー♪ |
![]() 16 リンク先のbk1にはネタバレ書評があります。ご注意下さい。 |
『トリックスターズD』 久住四季 著 せ……セーフ! 『トリスタ』シリーズを読んでて、初めてトリックと犯人を当てられた〜(笑)。 といっても、これまでの2作に比べると、丁寧すぎる説明がされていたような気がするので、素直には喜べなかったりして……。 そもそも、「まえがき」を用意して読者に注意を喚起するあたり、ミステリとして優しいのではないかと思うのですよ。 あ、「易しい」ではなくて「優しい」ですよ? でも、こーゆー読者へ挑む姿勢を明らかにするような演出って、すごく推理ミステリしてるな〜って感じられて好きー。 最初の1ページ目から既に推理は始まっていますよ──って宣言してるようなものでしょ。 潔いというか、正々堂々というか。 そんな次第で、「まえがき」をはじめとした諸処の注意を受けていたおかげで読み解けたようなものデス。 注意から想起される箇所を何度も読み返したりして(苦笑)。 んでも、「『召喚』は概念を呼び出して、そいつを利用する魔術」というレトリックは、わたし好みで理解もしやすかったのかな〜とは思います。 もっとも、前2作で「だまされた!(≧▽≦)」という気分にさせられていたので、今作はだまされないぞと意気込んでいたせいかもしれませんが(笑)。 あ、れ……? 答えがアレだとすると、凛々子ちゃんのキスって……。 どうするのかにゃ〜?(ニヤニヤ) 当て馬の役割である衣笠さんとか、みゃー子先輩とか、ミステリ研は面白い人が多いですねぇ。 このまま親しくなって、レギュラー化してもおかしくないくらい。 でもゼミの子たちも、もっと登場してきてほしいなーっと。 今回、あまり登場無かった、佐杏センセのご活躍もー。 周っちに任せてばかりにせず、もっと前に前に! ……って、魔術師である佐杏センセが出張るっていうことは、すなわち大事だということなので喜ばしいことではないのかもしれませんけれど(苦笑)。 |
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『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー
恋のドレスは開幕のベルを鳴らして』 青木祐子 著 シャーロックってさ……お馬鹿さんだよね〜(苦笑)。 自分のことがわかっていないというか、相手も自分と同じ人間だって考えているというか。 いやま、それはそれで正しい心根なのかもしれませんけれど、ピュアなだけで乗り切れるほど人生は甘くないぜボーイ、てなもんです。 ヒエラルキー下層に位置する立場では見上げることで階層を理解できますけれど、上層に位置する立場では見上げても階層を意識できない。 そんなカンジなのでしょうか。 まー、でも、ハッキリとは自覚してないまでにせよ、がんばって距離を縮めようと努力しているような意識は見受けられますので良し。 可愛らしいお馬鹿さんなのですよ〜(笑)。 このシリーズって「家政婦は見た!」とか「スチュワーデス刑事」とか、その辺りのドラマに似た感覚を受けたりして。 当人にその気はなくても事件に首を突っ込むことになってしまい、糾弾するつもりはないのに犯人と向き合ってしまう……といったあたりが。 奥ゆかしい性格のくせにクリスってば、探偵よろしくズンズンと真相へまっしぐらですよ? 事件の概要をつかんではいても、真相に辿り着けない賑やかし要員が彼女の周りにいるっていうのも探偵っぽいのかな〜。 もっとも、いざ真相披露の場面になると「闇のドレスが!」でわかってもらおうとするために、推理ミステリにはならないのですけれども(^_^;)。 表紙、なんだかタイトルがあまり目立たないデザインかな〜、と。 描かれているイラストのもほうも、薔薇飛ばしたりピンクだったり、けっこう派手な要素をそろえているにもかかわらず、なんとなく地味目……。 でも、そういうのって、クリスの人柄を表しているっぽいですしー。 それとふたりの恋の進展具合までも表現しているようで、良いカンジ〜。 シャーロックが手を引いている姿とか、表には見えなくてもゆっくりと進んでいますよ〜ってカンジがするのです。 ……色味のほうは、ココロの中を表しているってことで(笑)。 |
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『ダークローズ・プリンセス
蒼炎の輪舞』 榎木洋子 著 事件進行中……って方向に重きが置かれているみたいで、個々のキャラ心情に物足りないモノをおぼえてしまったりして……。 もともと真夜は感情表現乏しいせいか、真朝がしていることへの憤りみたいなものを強くは感じないのデスヨ。 真朝にも言われたことですけれど、それが正義だから動かされているというカンジ。 自分がどうしたいのか──って動機の部分が、ちと伝わってこないかなぁ、と。 いやさ「お母さんを救いたい」って気持ちは分かりますけれど、それって「死者の魂を冒涜するのは許せない」って倫理観も働いていませんか?ってことで。 お母さんを救うということは、どういうことなのか。 そういったことに対して、きちんと向き合っていないような……。 レイヴェンがたらしになって情報収集するってシチュエーションには斬新なモノを感じてしまいましたことよ。 あまりにもお手軽に情報が入ってくることに驚いたのですけれど、実際、その手段ってあまりにも説得力があるというか(笑)。 レイヴェンに見つめられちゃぁねぇ〜。 しかし、彼の活躍のせいで、ミナトの影が相対的に薄くなることなること。 真夜×ミナトのカップリングって、無理くさいというか、現状では全然釣り合ってないですし……。 身近な人が誰もふたりの関係を勘ぐったりしないトコロからも、ふたりの距離感が見て取れます(苦笑)。 それでいいのか、ミナト!(><) |
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『アクセス』 誉田哲也 著 「古道具」って言葉がありますけれど、ことエンターテインメントを目指す文芸ジャンルにおいては、道具に仕込みをしてガジェットとして仕立て上げた場合、読み手に届いた時点ですべからく「古道具」になっている気がします。 書き手がそれを書いている時点で、どれほど最先端の道具であろうと。 なんちうか、2006年のいまになって読んだ場合、携帯電話とかインターネットとか、その辺りの道具を用いて物語を見せられると、どうにも気恥ずかしいような思いをしてしまうのですよー。 ……わたしの感覚では、2年前、この作品が上梓された2004年でもどうかと思ってしまいますけれども。 bk1の内容説明には「キャラ立ち抜群の」とあります。 んでも、キャラ立ちしていることと物語が成立していることは全く別の話で──。 せっかく魅力的なキャラを描いても、その魅力が物語に関係ないところで花開いているように思うのですよ。 青春小説としてオチを友情で結ぶのは結構なことだと思います。 んでも、その友情で結ばれるべき相手は物語上で必要となったが故に存在感を増した相手であって、キャラが立っているとは言い難いような……。 真にオチをつけるべき相手は、違うんじゃないかなぁ……と。 2004年──執筆されたのは2003年でしょうけれど、「キャラ立ち」という点で見れば、まだまだ文芸はライトノベルに追いついていなかったのだなぁ……と思いました。 ……さて現在ではどうなんでしょうね? |
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『コラプシウム』 ウィル・マッカーシイ 著 あー、ものすごくヒサブリにハードSF読んだー。 こういうの読むと、ライトノベルはライトノベルなんだーって思えてしまふ。 レーベルがどうのとか、イラストの存在とか、そんなの全く意味のない論議で。 まぁ、それでもSFよりライトノベルの分野のほうがにぎわっているから、この表紙になっているのかなーと推測。 いやさ、読んでもらうために……もっと直接的に言えば買ってもらうためにどうすればいいのかって考えるのはもっともだと思いますけれど。 表紙に描かれた女の子キャラは端役もいいとこってのは、読み手をナメてない?って思った次第。 欲望にまみれたオタク層に訴えるためにはオンナノコだという点には賛同できても、内容を無視してまでやられるとバカにされたカンジを受けます。 キミタチは、こういうオンナノコのほうが「萌え」なんでしょ?──みたいな。 内容を考えれば、主人公・ブルーノと恋人関係であった過去を持ち、現在も憎からずと思い合っている女王タムラが表紙に描かれるには適当であったと。 裏表紙のあらすじも、表紙から惹起されるイメージを当然のものとするような、真っ当なあらすじとは呼べない代物ときたもんです。 ……腹立つわ〜。 本当にですね、内容は「ハードSF+熱血スペースオペラ」っていうオビに書かれたコピーそのものなんですよ。 あーもー(T△T)。 気持ちを切り替えて。 自らにその気がなくても、危機においては人から頼りにされ、危機が去ると居心地の悪さをおぼえ自ら身を引き隠遁する。 ブルーノって、神話に書かれるような英雄みたいだなと思うのです。 平時においては、その存在を持て余してしまうというか。 異端なんでしょうね。 孤独の中に身を置いても、決して人とのつながりを否定しているわけではなく、むしろ渇望しているような雰囲気すら受けます。 でも、人はそんな彼の気持ちを理解せず。 孤独でいるのも彼が望んだからだと誤解して──。 そんな寂しさを理解してくれた女王のためなら、宇宙の危機すら問題にしないブルーノの心意気は、英雄というよりオトコノコでしたね〜。 もっとも、大切なオンナノコの前では、オトコノコは誰もが英雄になるってだけなのかもしれませんけれど!(笑) 原著のほうではシリーズ化されているようなのですけれど、翻訳はされるのかな〜? 続巻ではブルーノの息子や友人たちが主要キャラになっているとのこと。 ……それって、なんて『ダーコーヴァ』?(^_^;) |
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『マロリオン物語4
闇に選ばれし魔女』 デイヴィッド・エディングス 著 表紙のセ・ネドラ、一児の母に見えなくらいに若々しい……(^_^;)。 この巻って印象深いシーンって?と聞かれると困るカンジ。 シーンっていうか大切なのはザカーズが一行に加わるってことだと思いますし。 そういう意味で、祝!ザカーズのイラスト化……なんでしょうねー。 ヒゲ無いですけど(笑)。 ……リセルが優遇されてるなーって感じますけれどー。 次巻、シリーズ最終巻はザンドラマスでしょうか? エリオンドとゲランも。 目的地が明確になってきたせいか、旅の描写も控え目なカンジ。 急いているふうに見えるというかー。 もちろんそうするだけの理由も、ここに至るまでにすでに十分伝わってきているのですけれども。 そんな旅程に新しい風を吹き込んでくれたのが、狼の母子たち〜。 あはは。ガリオン、モテモテじゃーん(笑)。 ほかにもザカーズの子猫たちとか、動物の存在感も小さくないですよね。 クレティエンヌなんてすごく昔から仲間だったかのようですよ。 ガリオン一行を助けようと動いているかつての仲間たちが嬉しいですね〜。 いろいろと理屈をつけてもガリオンたちの役に立ちたいって気持ちが、です。 ウンラク、大きくなったなぁ。 おまけに父親にはなかったような利発なところを見せちゃって。 あの賢明さはお母さんゆずりに違いない(笑)。 「あなたなら空にもさわれるわ、ヴェラ」とのポレン女王の発言は意味深。 ヴェラの運命をここで既に読み切っていたんですねぇ。 いよいよ次は最終巻。 <闇の子>と<光の子>の対決、それに関わる重大な選択、そして別れ。 すでに知っているとはいえ、楽しみです。 |
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『夏期限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信 著 クッ……。 小佐内さんの真なる計画までは読み切れなかった……。 小池啓介さんが解説で述べられている「解明とともに人間性が浮き彫りになる趣向」というのは、まさに的を射た分析だと感じられます。 そうなんですよ、小佐内さんて、そーゆー人なんですよ……。 常悟朗が朗々と推理開陳するものだから、そのペースにうまく乗せられてしまったというか……。 最後を見るまでは自分でも常悟朗程度の推理はできていたと思っていたのですけれど、それってどこまで真実なのか……。 推理したつもりが、推理したと思わされていたような。 ふたりが『小市民』を目指しているのと同様に、読み手であるわたしも小佐内さんがどういう人であるのかを最後まで忘れないようにしなければ!(苦笑) あー。 最後まで、ねぇ……。 「ミステリーズ!」への掲載時には思いもしなかった結末です。 小佐内さんと常悟朗の付き合いも2年近くなろうとしているワケですし、目的どうこうでもなくて、たしかに一緒に男女が居るには短くない時間ですよねぇ……。 しかしながら今回ふたりが辿り着いた結論に、驚きはあっても意外性は感じなかったりして。 あくまで一般論からですけれど。 んでも、常悟朗の── 「いったい誰が代替不可能・必要不可欠でありうるだろう」 ──との言葉は、それを口にしている時点で答えがそこにあるような気がしないでもないですな! 健吾の言葉を借りるなら「考えていることがあるんだろう? 読み切る自信もあるんだろう? なぜそうしない」です。 もっとも、このあたりの引き気味な姿勢が常悟朗の、そして作品の魅力になっているんでしょうけれど。 それが好感に因るものではなくても、興味を抱かせるという意味において。 『秋期』でまた小佐内さん絡みの事件が起こり、『冬期』でレベルアップした元の鞘におさまるのかなー。 秋は美味しい果物がたくさんありますし、冬はクリスマスがありますもんね(笑)。 先述のとおり、小池さんによる本作に添えられた解説は、ミステリとしての分析と米澤センセの作家性について詳しく、とても価値ある読み物でした。 『春期限定〜』での極楽とんぼサンによる解説は、読み手の市場を考えると意味あるものだったとは思いますけれど、さらに価値あるものだったのかについては疑問だったのです。 解説ではなく、いちファン心理をつづったものだと思うので。 |
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『pulp U』 森橋ビンゴ 著 いつか、それも遠くない将来に、橋本紡センセがぶつかり、悩んだ、ライトノベルの限界に、森橋センセも直面してしまうのかも……。 ちと、そんな不安を。 お話の規模がTVドラマのレベルで収まるように考えている……とか? 無駄に広がりを見せないという意味で。 世界とは、地図という知識で描かれるのではなく、TVカメラに映る範囲のことをいうのだと。 そこに映らない部分は、存在しない。 書き割りの向こうは何もない場所。 配分の妙というか、そんな割り切った描き方が好き。 ドラマには何が必要で、何が要らないのかを考えられていると感じられるので。 森橋センセの経歴を考えると、それほど意外ではないのかもしれませんけれども。 仮に次巻がきちんと発売されるとしたら、そして終わりを迎えることができたなら、序破急という構成において素晴らしい流れを見せてくれるのではないかなー。 少なくとも、ここまでの流れは、ひっじょーに見事だなぁと思う次第。 あとはクライマックスへGO!てなもんです。 ゆっくりとした1巻の流れは、この巻で弾みをつけるための助走だったのですね。 誰が信じられるのか、この世界は皆悩む中で、信じられる……あるいは信じたいと願うことができる相手を見つけた嬢は倖せなのだなぁと思います。 なんか、とにかくカワイイですよ! 恋する乙女のそれです。 がんばれ! 物語にも十分引き込まれましたけれど、それに負けず劣らず存在感を示していたあとがき。 ああ、森橋センセのエッセイとか読みたいな〜って思わせるくらいに。
幸せを渡す方法が分かったら、ボクはみんなに真っ先にありったけの幸せを渡すよ。 この筆致がある限り、わたしは森橋センセを待ち続けます。 |
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『ダークローズ・プリンセス
黒の騎士』 榎木洋子 著 シリーズ導入部という位置づけで、この巻だけではいろいろと明らかにされない部分があるのは当然としても……。 主人公・真夜が困難に立ち向かうと覚悟を決める過程があっさり風味では……? どうして戦うことにしたのか、ちょっとわからなかったというか。 ひとりだけ生きている負い目とか、閉じこめられた母の魂とか、要因はいくつか述べられているにしても、なぜ「戦う」という道を選んだのか。 ……「戦う」ってことが、どういうことを指しているのか説明されていないから、わからないのかなー。 ざっくりとまとめると、現状って「チヤホヤされている妹に嫉妬した姉との姉妹喧嘩が始まった」ってところですし。 満たされてきた自分という立ち位置について考慮することなく、姉が勝手に拳を振り上げてきたから「戦う」……っていうのは、ちょっと短絡的すぎないかなー、と思ったりして。 まぁでも「鞭を手に戦うダウナー系少女」っていうのは、いいですね!(笑) 鞭って……すごい得物を選択したもんです。 お相手候補?のミナトくんのことは、あまり好きになれなかったデス。 設定にある「いい男の子」像をどれだけ書き連ねてあっても、この巻の中での彼の行動はあまりにオマヌケだったので。 それも真夜を大切にという観点からではなく、自分本位で動いているように感じてしまったんですよー。 イーサンも「恐怖」という自分本位で動いていましたけれど、それでも真夜を大切にしたいということだけは忘れていませんでしたもんねぇ。 どちらにしてもぶっちぎりでスタートダッシュを決めたのはレイヴェンで間違いないのですけれども! |
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『天使のレシピ』 御伽枕 著 う……。 文章からイメージが浮かんでこない……。 書きたいことを見つけられているから作品はこうして生まれているんでしょうけれど、その「書きたいこと」が「伝えたいこと」になっていないんじゃないかなー、と。 わたしという読み手に、どう感じて欲しいのかがわからないというか。 一緒に並んで歩いていても、ふたりのあいだはガラスで隔てられていて、近くにいるようでいて実は住んでいる世界が違っているような感覚。 ……わたしとは異なる世界法則で生きているってことだけなのかなー。 それゆえか、この作品をひとことで表すのって、わたしには難しい……。 悲劇なのか喜劇なのか、切ないおはなしなのか心温まるおはなしなのか──。 「天使みたいな人外の存在が他人の恋愛に首突っ込む話」……って言っちゃえばそうなんですけど。 |
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『吉永さん家のガーゴイル 9』 田口仙年堂 著 これは……反則っていうより、無効試合にしてほしー……。 『コッペとBB団』の短編が同時収録される理由がわからない……。 それでいて2ヶ月連続刊行するんですから、時期が時期だけに、アニメ化に合わせて大売り出し!……って邪推してしふ。 商機を逃さないのは良いことだと思うんですけれど、異なるふたつのシリーズを抱き合わせて売り出すってのは、ちょっと印象良くないデス……。 田口センセのファンですし、『ガーゴイル』のファンでもありますけれど、「田口センセの『ガーゴイル』」のファンを無視しちゃっているなーって。 今後、この同時収録の意味が見えてくれば良いのですけど。 で、本編。 また記憶の中に入っての疑似過去編って趣きですけれど、今回は、ねぇ……。 時代背景が時代背景だけに、悲しい結末が待ち受けているわけで。 喜一郎くんが土下座して泣くシーンは、わたしも泣いたともさ(TДT)。 みんな倖せ!なんてことは起こらないんだよなぁ……って思うと、元気な双葉ちゃんの姿とかに切なくなってしまうのですよ。 史実で見えるところだけでなく、その時代、その時間に生きている人の息吹みたいなものを感じるんですよね、田口センセの筆致って。 資料だけを見ているワケじゃないというか。 イヨさんと吉永家の関係も浮上してきましたし、次の展開が気になるー。 ……簡単な終わり方はしないのでしょうけれど。 軍を抜け出した軍人さん、サン=テグジュペリを思い浮かべましたー。 |
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『エリクトワールの蝶』 生田美話 著 説明台詞が多いのは、ゲームシナリオのお仕事をされているということの弊害なのかなぁ……。 「アーヴさま、わたし<死渡り>を使います」 『死渡りだって!? 死渡りは<時>を微睡ませ、その上で近場の<死>へ瞬間移動する、二重に技術が要る、一日一度使えるかどうかの大技!』 もう、どこの雷電か月光かってくらいにカンジてしまったり。 そうかと思えば、状況に対する説明はけっして多くはなく、先述のセリフの後、主人公は危険な大技を用いる理由を述べるのですが── 「でも、それ以外、あの場所に間に合う方法はないんです!」 ──と言われても、その『それ以外』の方法を論じてないので、ああそうなのと読み手のわたしは納得するほかなく……。 説明台詞の多さや、仰々しい言い回し、有無を言わさぬ場面進行など、この作品はもしかしたら舞台劇なのかなと考えます。 セリフだけでは間に合わない状況説明などを補完するはずの、書き割りや衣装などが存在しない舞台劇。 「レガテアから奪った死神の灰とやらだ。成分鑑定はまだ終わっちゃいないが、あらゆる生物にダメージを与えるバケモノじみた弾丸さ。バケモノにはバケモノを、だ!」 ああ、そう……。そうなのね……。 |
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『伯爵と妖精 涙の秘密をおしえて』 谷瑞恵 著 エドガーってさぁ、その……ツンデレってやつ? 普段素っ気ない言動をツンツン状態と言って良いのかわからないけれど、リディアとふたりっきりになったときのデレデレ具合って、そんじょそこらのヒロインに負けないくらいだと思うのですが。 この「ふたりっきりになったときデレデレしてくる」という古典的なツンデレ法則。 最近は無視されがちなのではないかと感じております。 というか、デレデレっぷりは描くにしても、ふたりっきりというシチュエーションを用意しない作品が少なくないかなぁ……と。 まぁ、なんですか。 リディアはもう少しエドガーに優しくしてあげても良いんじゃないかって、今作では思ってしまったのですよー。 シリーズ当初に比べると、かなりマトモになったというか、最近は浮気の兆候すらみせてない気が。 女性との接触も、大概は事件がらみですし。 いや、しかし、今回のあの発言といい、エドガーの間の悪さってのもかなりのものですけど〜。 いちばん言ってはならんタイミングで、最悪の発言をしてしまうという……。 今作の題材はバンシーと琥珀。 バンシーってだけで哀しいものが見えたのですけれど、これは……(TДT)。 エドガーが妖精国伯爵として身を成すために、この犠牲が必要だったのかなぁ……。 必要な儀式であったとはわかるのですけれど、もっと倖せ感を運んできて欲しいデスヨ……。 妖精国伯爵と妖精博士の物語なのに、ふたりに深く関わった妖精が倖せで居続けられないのは、なんとも皮肉すぎるのです……。 アーミンの活躍が増えてきて嬉しいのですけれど、彼女も、ねぇ……。 あ、人物紹介とケルピーと対面したときの挿絵にはマジボレです。 かぁぁぁぁっこい──っ!!(≧▽≦) ふだんから男装だが、飾り気のない黒い上着にネクタイでも不思議と色っぽい。 そうそうそうっ! |
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『闇を見つめて』 ジル・チャーチル 著 前作の発行からはや3年。 もう切られちゃったのかと思ってましたよー。 訳者あとがきによれば、海の向こうではきちんと年1冊のペースで書かれているようで。 「主婦探偵ジェーン」のシリーズも15作目まで進んでいるみたいですし、訳書もペース上げて刊行してくれませんかねぇ。 そんな次第で待望の「グレイス&フェイヴァー」シリーズの3作目。 今回はヴォールブルグで活躍するロバートとリリーの兄妹と、ニューヨークに取材に行っているジャックとで、視点が交錯しているあたりが特殊だったかと。 ことにジャックの取材はヴォールブルグの事件とは関係ないっぽいように書かれてましたしー。 ……関係なくはないだろう!みたいなアタリをつけて読んでましたけど(笑)。 そのジャックの取材──第一次大戦後のボーナス行進についてですけれど。 学校の世界史では学んだ覚えはなかったです。 アメリカ連邦政府が、デモ行進をおこした市民に対して、軍を差し向けて排除した……なんてことは。 もっとも、かじっただけのわたしですら、フーヴァー政権にはあまり良い印象がなかったので、この件でアメリカという国に対する印象を悪くしたということはありませんでしたけれども。 市民を排除した軍を指揮していた将軍が、マッカーサーでありアイゼンハワーであり、そして軍の中にはパットンも居たのだということが、まぁ、少し衝撃的でした。 こうした史実をからめて推理ミステリにしたてるあたりが、このシリーズの魅力ですよねー。 世界恐慌の只中に生きる人たちの息吹を感じられるというか。 次作では大統領選挙前だそうで。 これまでも幾度となく挙げられてきた大統領選。 ルーズヴェルト知事の登場はありやなしや?(^_^) 兄妹の恋物語も進展するっぽいので、そちらも楽しみー。 でも、誰が相手になるんでしょ? リリーの相手ってジャックかと思っていたんですけれど、どうも違うっぽいですし……。 ロバートにいたっては、誰が候補に挙げられるのかすら不明……。 身近にいるところではフィービーですけど……? さてさて……。 |
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『PARTNER 5』 柏枝真郷 著 このシリーズって劇的に大きな動きがあるわけではないのですけれど。 小さな出来事が寄り集まって、最後には一本の糸に紡がれていく感覚を感じます。 日常の中で起こった事柄や会話などが、その後の展開で別の意味を持ってくるという。 いや、ま、そんな事件捜査よりも、セシルとドロシーの関係に注目しちゃうワケですが! 表4に書かれたあらすじ── 「新たな一歩を踏み出そうとするのだが!?」 ──とか、折り込みの 「ラストでついにある決意に至り──二人の思いの行方は!?」 ──とか、そらもう煽ってくれちゃったものですから! 事件はどうあっても解決するんでしょうから、それより早く先の展開っていうか、ラストに何をするのか気になっちゃって気になっちゃって! 事件捜査の印象、あまり無い(苦笑)。 でも今回はふたりの関係よりセシルに寄り添うフェイのほうが強い印象を残したかもー。 健気……とはちと違うと思うんですけれど、頑張っている姿勢が印象的。 セシルはさー、悪い男だよねー(笑)。 ドロシーも指摘してるけど。
「プレゼントしないのが原因? プレゼントしなきゃ長続きしないような関係じゃ、いずれ壊れるだろうに」 付き合っているという行為が大切であって、付き合っている相手が大切だとはセシルからは感じないんですよー。 |
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『紺碧ノたまゆら 〜ヨミノメ〜』 神代明 著 |