○● 読書感想記 ●○
2006年 【3】

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20
 
『疾風ガール』 誉田哲也 著

 もともと芸能モノが好きなわたしですけれどもー。
 ヒロインの夏美ちゃんの生き様?が格好良すぎて!
 100m走なんかをやると、間違いなくトップで走り抜けていくタイプ。
 それも「競争だからトップを目指す」のではなく、「一番前を走って強い風を受けたい」から先頭にいる、みたいなー。
 誰かと競うことは全然意識していなくても、それでも自然と前へ前へと移っていくというか。

 挨拶代わりに敬礼する仕草もかっちょかわいい。
 クールでキュート。
 ちと小悪魔っぽい?
 「なま足にミュール、前のめりに早足」っていう所作にも、ヤラレターって感じ。
 歩き方ひとつにも、自分の世界を作り上げている心意気が溢れているという。
 他人を拒絶しているのではなくて、むしろ他人の存在を認めたうえで絶対の自分というモノを持っているのかなー。
 誰が否定しても自分が信じているなら、So what? なワケで。

 意外なことに、彼女の容姿そのものについてはあまり描写が無いんですよね。
 服装については描かれていたりしますけれど、芸能モノで服飾にまつわることは大切ですもんねぇ。
 どんな服を選ぶかということは、キャラの行動のひとつですし。
 そんな行動であったり、発言であったり、動くことで彼女の人となりが描かれていると思うんです。
 うん。動いてこそ、夏美ちゃんが形作られているっていうか。

 だからこそ物語の転機で衝撃を受けた彼女が立ち止まってしまったことは、大きな意味を持っていたと思います。
 事実の重さを暗喩として描いている、と。

 いやさしかし、そんな落ち込みからの復活も、夏美ちゃんらしいなぁ……と。
 そうだよね。
 怒っていても悲しんでいても、お腹は減るよね(笑)。
 それが生きているってこと。

 自然と先頭を歩んでいってしまう天才の存在は、凡人からするととても眩しいモノで、ときに絶望をもたらす輝きでもあるのですけれど。
 誰に羨まれても妬まれても、才能ある人は休むことなく振り返ることなく高みを目指す義務があるのだと思います。
 それは権利などではなく、天才の輝きに追い抜かれていった幾多の凡人たちに対する義務。
 作中でも語られているように、追い抜かれていった凡人たちは、その天才に自分の夢を託して、どこまで辿り着けるのかを見ていくのですから。


 ミステリ風味の青春小説……だったかな?
 バンドのライブ、夏美のギターパフォーマンスとか、写実的に精緻に描くのではなくて印象を語ることで余計に情景が引き出されました。
 疾走感あったっていうかー。
 夏美をはじめとするキャラの立て方ももちろん、筆致全般好きだわ〜。
 


19
 
『侵略する少女と嘘の庭』 清水マリコ 著

 書き出しが、もう、切れ味抜群。
 ハートにストレートとか、そんなのじゃないの。
 気付いたら既に刃が刺さっているの。
 たった4行で、確実に犯されてるの。

 嘘シリーズ三部作のトリを努めるに相応しい作品ってだけでなく、清水マリコ文学の(現時点における)最高傑作ってカンジ。
 言葉が持つ意味とか、そこに込められる力とか、かつてないくらいに計算し尽くしされているような。
 数学的に正しいモノは美しさも兼ね備えてきますけれど、文章における数学的な美しさを表現しているように感じます。
 ──正しくて、美しいのデスヨ。

 これまでの清水センセの作品は、ホールで演じられる舞台劇のようなものだったと思います。
 演じる姿を、客席に見せる意識というか。
 で、今作は、壁も天井もない、野外劇なのではないかと。
 移りゆく時間とともに空の色は変わり、風の息吹や草の臭い、そして観客までも取り込んで行われる空間の意識。


 すぐそばにある現実から目を背け、居心地の良い虚像を現実だと偽り続ける。
 一線を越えて現実を受け容れることは、とてもとても辛いことだけれど、新しい世界へ踏み出すことができる。
 窮屈だった世界から飛び立っていく、少年少女の物語。
 今作もまた通過儀礼を象徴するシンボルの数々が含まれていて、読み進めていくと切なくもくすぐったくなりますねー。

 通過儀礼の間、オトコノコは王子様に、オンナノコはエイリアンになっているのかも。
 だからオンナノコはとても不思議にエキセントリックに見えるし、オトコノコはそれでもオンナノコのために走り出すワケで。

 操はもう通過儀礼を成してしまったので、たとえオトコノコであっても王子様ではないのかなーって気がするー。
 王子様ではない、別の素敵なモノになっているみたいだなー。
 シリーズを読んできて、そう感じられたことが、ちょっと嬉しい(^-^)。

 

「違うよ。好きはもっと強いよ。私が好きな人も、私を好きな人も、好きがあれば、わがままなんて、たぶん気にしない」
「わけわかんねえよ」
「牧生、いまので私のこときらいになった?」

 ──オンナノコしてるねー、りおは!(≧▽≦)
 牧生も見事な振り回されっぷり!
 ラスト、地理的な距離が牧生にとってりおを「彼方の女」にしたような。

 そんなふたりをきちんと主軸に据えていることで、昨今のキャラクター・ビジネス路線とは一線を画していると思います。
 そんな軸を持っているから、一過性の叙情ではなく、もっと普遍的な物語を形作っているのかなーって。

 清水センセの作品の幅の広がり、世界の可能性を感じさせる作品でした。
 今後の活躍がとても楽しみでっす!
 


18
 
『アーサー王宮廷物語T キャメロットの鷹』 ひかわ玲子 著

 かの王様の物語について詳しいと誇れるほどではないので、この作品で主人公の位置にある双子の存在についてもまた不勉強なわたしです。
 んでも、アーサーをはじめとする騎士を中心とした英雄譚ではなく、シリーズ名にあるように「宮廷物語」なのでー。
 知識の有無で面白さが変わるってことは無いと思います。

 要約すると──
 鳥に変身できる双子の精霊のうちの、恋に夢見る純朴な妹が目にする、貴族たちのお家騒動
 ──なのかな?
 タイトルの「キャメロットの鷹」はお兄ちゃんのほうなのですけれど、今回はあまり活躍は無し。
 鷦鷯に変身する妹・メイウェルを中心として語られているワケで。

 このメイウェルがねー、真っ直ぐな気性で可愛いのですよー。
 サー・ユウェインに憧れているんですけれど、なかなかお近づきになることができずにいたりー。
 モードレット王子に迫られるとドキマギしちゃったりー。

 世界背景からか、登場人物は騎士道精神にあふれた人がほとんどなので読んでいても清々しいといいましょうか。
 仮にその精神から外れることを為す人物が居ても、それを為す理由を単純に悪とは言い切れない事情が示されるわけでー。
 ……ああ、もちろんヤラレ役としての悪漢はいますけれど!(笑)


 それにしてもエクスカリバーの剣と鞘のくだりは、なんだかこう、ドキドキしますね!(笑)
 アーサー王は鞘によって守られているとか!(≧▽≦)

 次巻はいよいよ聖杯探索っぽいですよ。
 早く読もーっと。
 

17
 
『トリックスターズL』 久住四季 著

 今回もまた推理の材料はキチンと提示されているなー、と。
 提示された材料の中で推理を完結させることが正しくて、「他にも可能性が……」と提示された外へ材料を求めるような読み方は、ことこの作品には邪道なんですね。
 自由な想像と推理は違うってことで。
 うん。
 推理ミステリの体を成していますよねー。

 やぱし魔術の存在がイレギュラーにも見えたりしますけれど、「今回の作品の中での使われかた」は明示されますし。
 推理を進めるにあたって、ルール違反はしてない……と思うデス。
 たぶん(^_^;)。

 もっとも、オビには「推理小説を模った」と書かれてあるので、異端であるとの認識がされているのでしょうけれど。

 思うんですけれど、推理ミステリの薫りを少しでも作品から漂わせたいなら、巻頭に登場人物紹介の項は必要ではないかと。
 それって、このなかに犯人と被害者がいますって制限を生み出すわけですし。
 推理をさせるつもりが無いなら、ラストシーンで初めて登場した赤の他人が犯人でもいいかもしれませんけれど(……って、それは推理以前に物語としてどうなのよ)。
 その点、『トリックスターズ』は巻頭に人物紹介のページがあったりして、すでにここから推理ミステリの雰囲気を漂わせているなぁ……と思うのですよ〜。


 ああ、でもですよ。
 巻頭カラー8ページも用意されているのは嬉しいのですけれど、そろそろ人名をイラストと合わせていただけませでしょうか。
 抜粋されている文章から、恐らくは……という程度ではわかるのですけれど、なんちうか、言質をいただきたいなーっと(^_^;)。

 読み出すのに腰が重い作品ですけれど、いざ読み始めると次の展開が気になって気になって。
 次作も楽しみにしていまーす。
 

16
 
『桜庭一樹日記  BLACK AND WHITE』 桜庭一樹 著

 桜庭センセのWEB上で書かれた日記をまとめたモノ。
 ですのでわたしも内容については大半が既知のお話だったのですけれど、まとめて読むとまたジワリと面白さがこみあげてくるという。
 もともとエッセイとか好きですしー。
 面白いヒトですねぇ、桜庭センセって(含、周囲の方々)。


 オビのコメントを中村うさぎセンセが寄せていて、んー、なんか違うー……とか感じてしまったり。
 この人選から感じる桜庭センセを売り出すためのビジネスの方向性と、わたしが持つ桜庭センセのイメージが異なっているというだけなんですけれど。

 あと気になったのは表4折り返しに書かれた、桜庭センセの紹介文。
 「代表的なものに〜」という言葉に引っかかりを。
 ……「代表作に」ではイケナイのかな?
 「的」って、えーっと、「代表」「のような」ってこと……になりますよね?
 び、微妙〜?(^_^;)

 気になったので書店で他のセンセの紹介文はどのように書かれているのか見てみたトコロ、「著書に」がいちばん多かったかな?
 「代表作に」も見かけましたけれど、「著書に」に比べると2:8くらい。
 「代表的なものに」は、見かけなかったなぁ……。


 あれ?
 そういえば、ゲームのノベライズについては黒歴史扱いなんでしょうか?
 

15
 
『晩夏の手紙 蛇と水と梔子の花』 足塚鰯 著

 あはは。一妃、おねえちゃんパワー炸裂(笑)。
 六姫のやきもちが主題にあるとはわかっていても、印象度からいえば一妃の勝ちな気がします。
 前巻から3年経って一郎太の奥方となり、3人の子持ちとなったという事実が、さらにパワーを与えているというか。
 もはや船越では最たる権力者と言っても過言ではないような(笑)。

 もっとも、そうした変化はあっても、二朱や六姫との接し方や態度などを見ていると、やはりおねえちゃんなんだなぁ〜って感じます。
 妹たちの気性を見抜いている様とか、叱るべきときを見逃さない手綱の引き具合とか。
 ……って、手綱の引き具合ってのは、一郎太へも同じですか(^_^;)。


 時代背景はやぱし現代でしたかー。
 両者がどういう立場で関わりを保っているのか興味があるのですけれどー。
 足塚センセ、新シリーズが始まってますし、こちらはこれで打ち切りなのかなー。
 二朱の旦那様とか、四津の相手とか、面白そうなんですけど……。
 

14
 
『蛇と水と梔子の花』 足塚鰯 著

 二面性のあるキャラクターって面白いなーって。
 いや、違いますか。
 見える部分と見えない部分。双方の狭間で起こる葛藤が物語を作るのですか。

 妖猫の姉妹のうち、長女と末娘のお話が収められていますけれど、わたしは長女の一妃のお話のほうが好きー。
 先述の「二面性」について一妃のほうがハッキリと表れているので。

 もっとも、そういった技巧論を別にしても、「頼りになる自分」を懸命に演じようとするオンナノコは応援したくー。
 んで、そういう気負ったオンナノコが、ちょっと素直ではない無骨なオトコノコを前にして、どんどんと素の自分をさらけだしていく過程が、メチャ可愛い次第!(≧▽≦)

 普段は頼りなく見えてもピンチには勇ましく駆けつけて、圧倒的な力を発揮してオンナノコを救い出してくれる──って、ごくごく普通の王子様願望なお話だとは想いますけれど、そこがいいのです!
 これ、オトコノコだろうとオンナノコだろうと、すごくドリームあるっしょ?


 にしてもこの作品、時代背景はどのあたりなんでしょうか。
 キャラクターが身につけている衣装が和服ばかりなので、いわゆる「むか〜し、むかし。あるところに……」で始まるような時代背景かと思っていたのですがー。
 時折、現代に通じるような描写があったりして、ちょとわからなくなったり。
 人間とちょうど良い距離を計りながら現代に生き続ける妖怪たちのお話……ってことはあるのかな?
 


13
 
『失われた王国と神々の千一夜物語 さまよう愛の果て』 谷瑞恵 著

 もどかしいっ!(><)
 互いを想う故の優しい嘘が、近くにあるはずの倖せを見えなくしてしまっている様が、もうっ!
 物語の構成ってだけでなく、悲劇を形作るうえでも、少ない要素を印象深く描いてコンパクトにまとまっているなーって。
 単純であるがゆえに、作品の中へと素直に入っていけました。

 輪廻を軸にして、過去に結ばれなかった想いが現代で再び──って。
 それ自体、さして珍しくもなく、けっして目を引くワケではないんですけれど。
 んでも、千一夜の物語として作品内説話のようなカタチで始められたそれに、いつしか引き込まれていって。
 過去のお話と現代の境遇をザッピングさせる手法が功を奏しているかなーって。

 いちおうの主人公たるアイーシャとサンジャルも、自分が何者なのか、そして自分の想いがどこから続いてきたモノなのか、それを知る欲求に突き動かされていくワケですけれど、その心境にわたしも同化するような雰囲気。

 なんだろう……。
 文字による作品っていうか、舞台劇のような印象を受けます。
 無味乾燥の広がりを持たせたところでそこに物語が生まれるとは限らず、舞台という限られた場でこそ描ける世界というか。


 ハッピーエンドが良いものだとはわかります。
 んでも、それだけが物語じゃないですし。
 悲劇として、この作品はとても秀逸でした。
 ブラボー!(≧▽≦)
 

12
 
『ROOM NO.1310 しょーとすとーりーず・つー』 新井輝 著

 雑誌掲載分である「そのいち」〜「そのさん」は、セクシャルな部分がいたずらに強調されているカンジがして楽しめませんでした。
 えろえろ〜なお話を読みたいなら、本番まできっちりと存在しているそっち方面の作品を読むという選択肢を選ぶどいうか。

 綾さんというキャラクターたちがドキドキしている心境を共有するという愉しみがもちろんここにはあるのでしょうけれど、それをこの状態で受け容れるには、わたしは世間ずれしてしまっているようです。

 で。
 書き下ろしとなっている「そのよん」は、セクシャルな話には物理的には踏み込んでいないということもあって、他の三編より好感でした。
 わたし的に好きな子である冴子ちゃんの心境を探るお話だったということは、当然、理由のひとつでしょうけれども。


 現状を他人のスタンスで見ているようなキャラは、ちょっともう……。
 自分がどうあるべきなのか、たとえそれがネガティブな方向であろうと、認識へと踏み出しているキャラを好感します。


 ──ぶっちゃけ、寸止めなんて、もう我慢ならねぇ!ってコトですか(苦笑)。

 セクシャルなお話が男女の溝をもたらす物語の、作品の、そしてテーマの肝だとしても、ちょーっと脇に逸れすぎなんではないかなぁ……と感じるのです。
 


11
 
『マロリオン物語3 異形の道化師』 デイヴィッド・エディングス 著

 なぜにサブタイがフェルデガースト!?(笑)
 いや、まぁ、活躍しなかったワケでもないですし、絶対的に否定見解を唱えるものではないのですけれどー。
 でも今回は魔神を巡って混乱に導かれたお話なだけに、直訳でも良かったのではないかと思うのです。
 ちうか、フェルデガーストを持ち上げたりするのって、誰かの趣味的な意向を勘ぐってしまうのですよー。
 ほら、なんていうか、彼って……通好みなところあるでしょ!(笑)


 前半メインはザカーズとの親交を深めるお話ですか。
 『ベルガリアード』では記述が少ないぶん、トラク以上に悪役感があった彼ですけれど、人間らしい苦悩を見せるようになってきたというか。
 王者ゆえの悩み?
 背負うたモノの重責からもたらされるそれは、やはり近似のモノを背負ったガリオンでこそ理解できるものなのですね。
 「どうしてわたしなんだ?」
 ──とかね(笑)。

 伝聞での彼ではなく、等身大の彼が見えてきただけに、裏切るカタチでの離別は残念ですね。
 もう少し時間があれば──。


 ああ、だけれどもんなザカーズも──そしてシルクすらも、次々と陥落していく様が面白いったら!
 シルクなんてもう完全敗北じゃない?(≧▽≦)

 ザカーズの命が危機に瀕したとき、あのシラディスが泣いていたことに驚き。
 あれー?
 ここでこんなに可愛いしぐさを見せるような子だったっけ〜?的な。
 クール素直って属性? クーデレ……じゃないと思うー。


 後半のアシャバへの旅は、ここまでの流れが一時的にせよまとまっていくカンジが。
 ザンドラマス以外にもトラクの死を機に暗躍をしていた面々がいて、それがここでようやく表面化されたという次第?
 ガリオンがデ・ジャヴっているのも、なんとなくわかります。
 いつか見た光景ですよね、これって。

 狂人とか、薬とか、あの手この手で情報を引き出すところがスゴイなーと。
 物語に必要と思ったらきわめて単純な方法で登場させてきますよね、エディングスせんせったら。
 いろいろと理由を付けて説明するより、単純に目の前へと引き出す辺りが良いのでしょうか。


 さーて、ザンドラマスとの距離は、数日レベルまで迫ってきました。
 予言者とあの青い狼も加わって?、次巻での会話が楽しみにー(笑)。
 


10
 
『さよならトロイメライ6 恋人たちのエチュード』 壱乗寺かるた 著

 これ、なんて「いちご100%」──!?
 都ちゃん、八千代ちゃん、泉ちゃんの3人でも持て余し気味なのに(冬麻が)、ここで新キャラ投入ですか!
 しかも──強敵(^_^;)。
 わたしの脳内ランキングでは、スタートダッシュで鮮やかに泉ちゃんを抜き去りましたよ。
 がしかし、抜かれた泉ちゃんも今回、その新キャラであるところの津々美ちゃんに振り回されてションボリしているところが可愛かったりするので、まだまだこれから!(なにが)

 今回、長峰亮平さんがネタにしてましたけれど、この作品の主要キャラって、イヌ属性な人が多いような……。
 冬麻に限らず、泉ちゃんも都ちゃんも八千代ちゃんも……。
 ネコ属性なのはカンナくらい?

 閑話休題。
 振り回す……ちうか、これまでの関係をかき乱す役割を担って登場した感のある津々美ちゃん。。
 ちょっと次のステージへ進む起爆剤が欲しかったところかもしれませんしね〜。
 津々美ちゃん、見事に役割果たしてます(笑)。

 新キャラが単に事件を持ち込むだけに留まらず、既存の人間関係に割ってはいる状況を生んでいる点が非常に好感です。
 事件ありきでも設定ありきでもなく、まずキャラを大事にするところから作品が生み出されているなーって感じるから。


 もちろん事件のほうも、またまた世界の裏をのぞかせるような展開を見せて……。
 北森学院への侵入者って、本来は矢原黄桜ちゃん(「ちゃん」っていうような年齢じゃないかもですが)だけであったところに、八千代ちゃんがやってきてしまった──ってことなのかな?
 四式のうち華柴青ではなく桜ちゃんを遣わしたっていうのは、津々美ちゃんに危害を加えるつもりでも命までは……と考えているのでしょうか、九樹宮さん。

 んでも、八千代ちゃんの言では「気付いた時にはチェックメイト」であるほどに用意周到な柿崎家。
 執行部メンバーの配置程度で桜ちゃんの侵入を止められてるとは考えていなかったような気配も……。
 侵入自体をある程度は許しているとかー。
 津々美ちゃんはまだ中学生だから深い考えはなくても、この時期、彼女を御城学園に送って冬麻と接触させることを図った彼女の祖父君と父君は……?

 いろいろと考えさせられますねぇ……。

 そんな柿崎家の思惑+津々美ちゃんの気持ち、八千代ちゃんの気持ち、都ちゃんの気持ち、そして九樹宮家の思惑。
 今回、けっこう複雑してますか?
 なかでも津々美ちゃん、八千代ちゃん、都ちゃんの3人は、近似の感情をベースに動いているにもかかわらず、レンガ壁のように少しずつズレているというあたりが楽しいと言いますかー(笑)。

 周りがこれだけ騒がしくなっても、我が道を行く亮平さん&みどりさんのバカップル。
 この人たちはあああああ!!!!(≧▽≦)
 ことに亮平さんの浮世離れっぷりは、ここにきて加速してますよ!
 早く優さん戻ってきてー! 彼の暴走を止めてーっ!(笑)

 優さんがらみといえばー。
 桐村静香さんは見事な助演っぷりですね。
 次期≪パートナー≫と目される美春ちゃんとも関わりがあるわけですし、第九期から次の第十四期までの≪トップ3≫と浅くない面識がー。
 ……お局様?(苦笑)
 こうなったら早くビジュアルを見せてほしいなーっと。
 まだ後ろ姿だけなんですよね〜。


 北森学院の面々や、冬麻のクラスメートの木下くんのフルネームが判明したりと今回も新しい設定がたくさん出されましたねぇ。
 はやく情報、整理しよーっと。

 シリーズ初めて、事件の推移途中で巻が終わっているので、次の巻を早くお願いしたいでーす。
 

9
 
『しにがみのバラッド。8』 ハセガワケイスケ 著

 5巻からの 2nd movement も、ひとつの終わりを迎えたような。
 そんな区切りのような印象を受けたのですよ。

 作品に著者のメンタリティが表れるとするならば、ハセガワせんせ、とても悩んでいた時期だったのではないかと思うのですよ。
 シリーズが順調に進んできて、このままで良いのかという悩みとか。
 2nd movement は、そんな悩みの中で生み出されていった作品群のような。
 それまでとは異なる方向性や作風を感じることには、そうした理由があったんじゃないかって。

 で、それでも、シリーズは8巻まで続きました。
 苦しみながら、もがきながらも、歩むことをやめなかった、ハセガワせんせの強い想いがここへ導いてくれたのかなー。
 「ストロベリぃノート。」での──

 自分自身に嘘がつけないこと。

 ──という言葉や
 「ちいさないのり。」でのモモの──

 「あの子たちが、天国でも笑っていられますようにって。それができるのは、生きているみんなだけだから。キミたちも笑顔でいて、笑っていられるように」

 ──って言葉は、新しい目標を見つけ出した証なんじゃないかと感じたのです。

 ああ、それにしても。
 今回いちばん胸に詰まったのは「ちいさないのり。」でしたなぁ……。
 なにもできないと思えたときでも、祈ること、願うことだけはできる……って。
 無力感に打ちのめされたところへ差し込む希望みたいなことこそ、このシリーズの真骨頂な気がします。

 「てのひら銀が。」はー……マコト、鈍すぎじゃないデスカ?(^_^;)
 トイロも大変です。
 ダニエルじゃなくっても、3人にしちゃうのはどうかと思うですよ(笑)。


 モモって、もしかして人間としての生を受けていたりするんでしょうか。
 ダニエルともども。
 エピローグとかで語られていたシーンこそ、時間的には現実で、モモが死神であった頃のシリーズ全てのお話は「過去」のこと……だったりして?
 次の展開では、いよいよモモの正体に踏み込んでいくのかなー。
 楽しみです。
 


8
 
『リリアとトレイズV イクストーヴァの一番長い日<上>』 時雨沢恵一 著

 ようやくトレイズの「ヴィルではない部分」が見えたような。
 人の命を前にして見えてくるというのも皮肉めいてますけれど。
 リリアもトレイズも、前作のふたりに比べると人間くさくなっているので、もっと感情を起伏させて揺らいでほしいなー。
 その様がふたりの魅力だと思うのですよ。
 ……できれば、哀しいコトでなければ、それに勝ることはないのですけれど。


 口絵カラーでフィー&ベネディクトのふたりが描かれてウレシー!
 うはは。ベネディクトの髭が(笑)。
 フィーさん、若いなぁ……。
 アリソンより若く見えるですよ。
 そしてふたりともキス魔ねー(^_^;)。
 これはベストカップル候補に名乗り挙げましたよ!


 『そして二人は旅に行った』が『アリソンT』に呼応しているなら、今回はもちろん『アリソンU』へですよねー。
 世代間をまたいだ時の流れとともに、大きな広がりをもった作品になってきて嬉しいです。
 ──となれば(気の早い話ですが)次の『V』も対応してるってことになると、トレイズの「正体の判明」に関わるネタは今回は持ち越しなんでしょうか。
 それとも他の誰か──って、ヴィルがいるじゃないですか!
 やぱしリリアに明かすのかなー。
 次巻も楽しみですけれど、『V』も楽しみー。


 ふと思ったのですけれど──。
 どうして「この惑星唯一の大陸」って言い方をするのでしょうか?
 ひとつは「星」ではなくて「惑星」と述べているところ。
 「星」の概念は夜空を見上げれば浮かんでくるであろうことは想像に難くないのですけれど、「惑星」という概念は安くない天文学の知識が築かれていることを示すと思うのです。
 飛行機を飛ばせるくらいの科学力があるのですから、天体観測に最低限必要とされる数学の知識はあるとは思いますが。

 気になったので『アリソンT』を開いてみたら「この世界唯一の大陸」って言い回しでした。

 もうひとつの疑問は、どうやって「唯一」と判明するに至ったのか。
 飛ばしたカラスが戻ってきたから、他に大陸がないと考えた──ってワケではないでしょうし。
 先述の「惑星」の概念と引き合わせ、船による航海によって確かめられたってこともあるかもしれませんけれど、ロクシェ東岸の港から東へ進むと、星を一周した後はスー・ベー・イルの西岸へと到着するはずです。
 東西の緊張が歴史上長く続いた状態で、仮にそうした冒険家が表れたとしても、その事実は国家によって隠蔽されるような気がするのです。
 大洋航海のはてに得た知識は、市民へと報されることなく。

 で、まぁ、なにが言いたいのかというか、なにを思いついたというか。
 「惑星」の概念も、「唯一の大陸」という事実も、アリソンたち現代につながる人類が得たモノではなく、先史時代、はるかに高度な文明をほこっていた異なる人類が残したものなのではないか──ってSF。
 あの壁画も、もしかしたら先人類と現人類の交差する時代のものだったりして。
 突飛も良いとこですけれど(しかもSFとしてはステレオタイプ)。

 ま、そんなことを妄想するほどに、好きな物語ですよーってことでご容赦ください(^_^;)。
 
7
 
『ランブリング・カレイド <星穹の女帝〉戦』 高瀬彼方+黒鉄アクセル 著

 基幹となる部分で理解を求めようとしていないのか、「これでよい」的な言い訳が少なくないところが気になります。
 誰もが思い描く危惧を杞憂と言い切るあたり、先物取引の電話勧誘のようで……。

 相手の強さを打ち破るすべは、より強いとする設定──って、伏線も無しに発動されたら、それはイヤーボーンと同じではないでしょうか。


 カレイドの世界に身を投じ続けなければならない理由を、押しであれ引きであれ、キャラクターたちから感じられれば、もう少し違った見方ができたのかもしれません。
 

6
 
『フリンギーの月の王 〜よかったり悪かったりする魔女〜』 野梨原花南 著

 マダー! いまになってそれはないでしょう!(><)
 ときめき振りまき歩いていたクセに、恋心を知らなかったなんてーっ!!
 態度をハッキリさせてこなかったアザーにイラチしてきましたけれど、これは……。
 彼が可哀想に思えてきてしまいましたコトヨ(TДT)。

 でも呪いについてはマダー自身、区切りをつけたというか、いちおうの着地点を見出しましたし、恋心に関しても「無知」を「知」に変えることができたことを成長と見るべきなのかなー。
 となれば、いま勇気を出して歩み寄るのは、アザーのほうなんじゃないかって気がするー。
 いつまでもオンナノコにリードされてるのって、ちょーっと情けないよ、アザー!

 しかし、恐らく初めてヤキモチを妬いたであろうマダーは、可愛かったのであーる。
 表紙といい、アザーとカイの決闘を怒る挿絵といい、すごくオンナノコっぽくなっちゃって、さー(^-^)。
 ……あ、あれですか。
 これが奥様の魅力というヤツですか?


 物語の裏が見えてくるにつれて、嫌なヤツでもいろいろと事情があるんだなぁ……と。
 アストレアがみょーに人間くさくなっていたような。
 前巻までは、やたら浮世離れしている感があったもので(^_^;)。


 にしても野梨原センセの筆致は、ほんっと好きだわー。
 序盤、デヴォン男爵の言葉を借りて前巻までのあらすじを語っているくだりなんて、そうした披露の仕方について技術的に上手いなぁ〜ってカンジで読み進めていっだのですけれど。

「どうだったかね? どこら辺を隠しておいた方がいいと思うかね?」
 双子の魔女は同じ笑顔のまま両手を開いて拍手をやめ、そして同時に同じことを言った。
「全部です」

 ここで爆笑デスヨ!(≧▽≦)
 なんですか、この前フリは! 知的な雰囲気をぶちこわしです!(笑)

 新キャラのチェインバーレン氏も、野梨原センセのキャラっぽいというか。
 口悪いオッサンを書かせると、生き生きとしてきますね(^_^;)。

 次巻で最終巻とのことですけれど、アザーとマダーの関係は解決を見るでしょうし、良い頃合いなのかも。
 ポムグラニットは初仕事を終えて次の仕事へ向かうでしょうし、アザーとマダーとカイの関係を間近で見たあとでは、ピーターと向き合うのも悪くないでしょうしねぇ〜。

 とまれ、どういう決着をされるのか、楽しみにしています。
 


5
 
『お・り・が・み 光の徒』 林トモアキ 著

 もう鈴蘭が主人公なの?って、疑問すら浮かばなくなってきて……(笑)。
 進展する状況の中できちんと役割を果たしているので、モブ転落は免れているんですけれどー。
 大事なのは「彼女の行動」ではなく「彼女の存在」なんですよね。
 聖女であり魔王候補という重責を担っているからとはいえ、扱いの悪さには涙を誘われます……。

 んでも鈴蘭らしいなぁ……って感じたトコはありました。

「私のご主人様は……そんなに弱くないんです。そうですよね、ご主人様?」

 伊織に向かってのセリフなんですけれどー。
 なに? なんなの、このふたりの絆は!(笑)
 聖女であり魔王候補という存在の重さは、所詮は昨日今日で授かったモノ。
 伊織の前で鈴蘭はダメなメイドなんですよね。
 いつまでたっても。
 自分の立ち位置も周囲がめまぐるしく変化していっても、鈴蘭は鈴蘭でいるんだなぁ……って、嬉しかったです。


 んで今回、主人公級の活躍を見せたのは、もちろん表紙にもなったシスター・クラリカ!
 翔希の相棒、変なお姉さん……って印象がこれまで強かったんですけれど、いやはやその信念たるや、並大抵のものではございませんでした。
 もちろん想像を超えた状況を前にして迷いを見せなかったワケではありませんけれど、信念に照らし合わせて判断し、そして決断できる行動力には感服です。

「異端狩りがやることは、異端狩りただ一つっ!!」

 んきゃーっ! かっこいーっ!(≧▽≦)
 相手が何者であろうと、たとえ自分の力が及ばない相手かもしれなくとも、己の為すべきことを間違わない。
 その覚悟に乾杯!(´Д`)


 次が最終巻とのことですけれど、どう決着となるのか楽しみです。
 またバッタバッタと人死にが……?
 林センセの作品内におけるモブの死について、ドライなものを感じているので、わたしは嫌悪感無いのですね。
 あまり「命」の概念について、とやかく披露しないトコロを好感しているからかもしれませんけれど。
 沙穂ちゃんは、もちろん復活して大活躍ですよね!


 ところで、イラストの2C=がろあ〜センセはご多忙なのでしょうか?
 口絵カラー、ほとんど既刊からの使い回しで残念……。
 それでも、これまでのシリーズと大きな違和感を感じさせない程度にまでデザインでなんとかしてしまうLIGHTNINGは、いい仕事してますねぇ。

 なにが言いたいのかというと、クラリカの女子高生姿、見たかったという……。
 



4
 
『流れ星が消えないうちに』 橋本紡 著

 1行目。
 そこに書かれた一文を目にしただけで、とてもココロが沸き立ったカンジ。
 これから「橋本紡」文学が始まるというような実感が湧いてきたというか。
 初めての出版社でも気負うことなく、自らのスタイルを見失ってないと感じられて、ここだけで非常に嬉しくなっちゃいましたよ〜!

 目に見える激しい感情は、はたして今作でも見られませんけれど、もとより橋本センセの真骨頂はそちらではありませんし。
 音無き流れは、水、深し。
 ヒロイン・奈緒子の心の内は、1年半ものあいだ、奥の底で安まることはなかったワケで。
 そんな秘されてきた感情が堰を切ってあふれ出すクライマックスへの流れは、精緻な織物のようで。
 計算されたような嫌らしさは感じられず、そこへと至ることが必然であったかのように思わされるのです。

 当たり前のことに、亡くなった加地くんのことを奈緒子が受け容れてこそ、また歩き出せるんでしょうし。
 それだけのことが1年半かかった──というか。
 時間の長短は実際には物差したり得ず、加地くんとのあいだで築き上げてきた想いがどれほどであったかという抽象的な事態こそ大切なはずで。
 思うに、その想いの深さと、壊された日常こそが、あの1行目につながっていくのかなぁ……って。

 停滞した気持ちや日常。
 状況を打開するには、立ち止まったままではなく、とにかく行動してみるべきとの示唆は、とても好感。
 失ったモノを取り戻すことはかなわないけれど、新しい何かを生み出すことはできるということですよね。
 歩き出したことで再び同じ場所へ戻ってこようとも、以前の自分とは異なるワケで。
 歩いた距離だけ、進んでいる……のですよね。


 気のせいか「巡る」という事象を、そこかしこに見たのですがー。
 大きなトコロでは「動くことによって見えてくるものがあるはず」との加地くんの言葉は、巧くんを介してお父さんから再び奈緒子へと巡ってきますしー。
 本に挟んだ落ち葉の栞も加地くんからお父さんを経て奈緒子へ。
 プラネタリウムも天を巡る星々を映し出しますし、商店街の福引きもガラガラと巡り回します。
 そして加地くんの気持ちは巧くんが引き継いで、確かに奈緒子へ届けられます。

 世界の本質は留まることを許さず、流転していくこと。
 哀しい気持ちもいつかは押し流され、楽しく笑う日がやってくることを奈緒子は教えてくれます。
 でもそれは哀しくなくなったワケではなく、哀しみも自分の一部へとなっただけなんですよね。
 それに気付いた巧くんなら、このあとも奈緒子を好きでいられるんだろうなぁ……って感じられます。

 もとより楽な恋なんて無いんですから。
 まっすぐで潔い巧くんは、なんだか応援したくなっちゃいますね!


 このまま一般文芸方面でも活躍されることを楽しみにしております。
 もち、応援していくッス!(≧▽≦)
 


3
 
『ランブルフィッシュ 10 学園炎上終幕編』 三雲岳斗 著

 み……みくびってマシター!!!(><)
 いやね、ほら、最終巻だっていうじゃないですか。
 迷走状態にも感じていたサバイブを、どう決着させるのかって……。
 むしろ、グダグダになって、あっけなく終わりにしてしまうんじゃないかって。
 ──はい、杞憂でした! ごめんなさいっ!(><)

 こんなガチンコ対決になるRF戦って、ほんと久し振りな気がします。
 そうそう、これこれ!
 こういう真剣勝負がもたらす雰囲気を好ましく思って、読み続けていたんですよー。
 個人と個人の、そして組織と組織のぶつかり合い。
 一瞬の気のゆるみが敗北をもたらす、緊張感。
 プロフェッショナルの意識が飛び交っているワケですよ!(≧▽≦)


 前巻終了時から続いていた劣勢状態の恵里谷闘専サイド。
 もちろん冒頭の劣勢なんて軽いジャブ程度でしかなく、失意と高揚の間でエモーショナルな針は振れまくりです。
 攻撃を受けたベゼリィのフェイタル・チャイルドのごとく、次々に襲いかかってくる急展開。
 視点はそれに伴ってどんどん移っていくんですけれど、それでも「ひとつの流れ」を追う姿勢だけはブレないものですから、読み手のわたしは迷わなかったというか。

 あるいは──離れた場所で戦っていても、互いにつながっている信頼を感じることができたからでしょうか。
 どんなに劣勢に陥っても……否。
 劣勢であればあるほど強くなるんですね、彼らの絆が。
 信じてる、諦めない。そして勝利を!
 その気持ちの描きかたが、また嬉しくて、くすぐったくて……(T▽T)。

 4つのクォーター制になっているSR。
 時間との争いと明確な得点システムが競技としての側面からも盛り上げてくれました。
 あー、しっかりとスポーツ物してます。
 んで、スポーツ物といったらクォーターの間のインターバルタイムも、やぱし見所のひとつですよね!
 いかにして状況をクリアにするか、裏方の整備班の活躍とか!
 ピットクルーの真摯な働きぶりには、自然と熱くなってきますよ。
 そして再び戦場へ送り出すときもね、自分たちはできるだけのことをやったのに完調できなかった不甲斐なさを覚えつつ送り出す胸の内が……。
 闘騎手のほうもそれを感じるから、また自分に出来ることを精一杯に為そうとするわけでー。
 信頼が信頼を呼んで、新たな力を生んでいる構図が見えるのです。


 最終巻がキャスト総出演になっているのは、もう、お約束すぎて!
 それも、これまでイマイチ好感度を上げられなかったルーザーたちに、一発大逆転のスペシャルステージが用意されているなんて、心憎いデス!
 負けたこと、心が折れたことが、ここにきて活かされるなんて……。
 成長することが物語の骨子なら、見事に開花されています。

 個人の成長ってだけでなく、個人と個人のつながりをもって新しい世界が築かれているっていう点にも感動。
 例えば──高雄沙樹をものさしの基準として玲を評価する優妃とか。
 この物語が開示された当初にはなかった人間関係が、そこには生まれているワケで。
 ……ああ、加藤優妃ちゃんは影の功労者そのいちですね。
 優妃ちゃんだけでなく、ちさとちゃんや、史くんも。

『優妃……優しい優妃……あたしは自分が、まりあのような才能に恵まれた闘騎手じゃないって知ってるわ。あなたがあたしにこのドミニオンアリスを与えてくれなかったら、きっと今ごろは闘騎手になる夢なんて諦めていた』
「ちょっ……あなたなにを言ってるの!? 怪我をしているのなら、すぐに治療を──」
 苛々と優妃は訊き返した。
 しかしちさとは、楽しげに笑う。
『さあ、優妃。いつもみたいに指示を出して。邪道と蔑まれても卑怯と罵られても、あなたが与えてくれたこの力を、あたしは決して否定しない。だから、信じて──あたしがドミニオンアリスの力を証明するよ』

 ──もーっ、このふたりってばーっ!!(T▽T)
 瞳子ちゃんと沙樹のコンビにも負けてないよ!
 そのあとも恐れに引かず死闘を演じて見せた史くんを前にして、見事に踏みとどまってくれましたし!
 史くんも、ちさとちゃんも、ほんっっっっと、強くなったー。

 ……あ。
 オールスターって言いましたけれど、藤真先輩だけ登場無し?
 もしかしたら、あの人がイチバンの当て馬だったのかも(笑)。


 劣勢からの大逆転劇。
 物語としては定番なワケですけれども、圧倒的に劣る戦力を覆すに至った理由とはなんでしょうか?
 勝敗を分けたのは神楽坂結花ちゃんのこの言葉に尽きるとわたしは思います。

「化け物でもなんでも関係ない。ほかはどうだか知らないけれど、ここはわたしたちの恵里谷よ。よその常識が通用すると思わないで」

 ここは恵里谷。
 そして彼らはRFというギャンブルの達人。
 分が悪かろうが、勝負する場に立つ意味を知っているという点。
 その心意気にクラクラです〜!(≧▽≦)


 戦いという行為は野蛮な行いなのかもしれません。
 そうとは感じつつも、瞳子ちゃんや沙樹たちの戦いには、とても清冽なモノもまた感じるのです。
 もちろん先述するような信頼や絆が、社会の良き有り様を示していると感じているからかもしれません。
 あるいは作中に答えを求めるなら──。

「アイリーンはひとつだけ間違った。戦うこと、それ自体が不幸だと思ってしまった。だが、友のために戦うことは不幸じゃない。それが生まれてきた目的だというなら尚更だ。沙樹とガンヒルダがそれを教えてくれた。戦いがあるから不幸なんじゃない。戦う目的を見誤るのが不幸なんだよ。ユーリアン……おまえのやり方じゃ平和なんて絶対に手に入らない」

 ──涼くんの、この言葉でしょうか。
 目的を間違えなければ、そしてその目的に私欲ではない意味があるのなら。
 戦うという行為にもまた意味があるのでしょうね。


 この巻を読み始めるまえにわたしが抱いていた不安。
 それについては、主人公たる瞳子ちゃんが答えを出してくれたと思ってます。

「もしそれがほんとうなら──素敵ですね」

 シリーズを通して秘されていた事実。
 それを前にしても、この言葉!
 あなたは本当に主人公たる資質を備えていたと思います、瞳子ちゃん!
 この言葉があったからこそ、物語をここで終えることもできたのだと。

 何かを成したというような、綺麗な終わり方ではないのかもしれません。
 でも、辿り着いた、達成したというような事実が無かったとしても、辿り着くであろう、達成するであろうという希望を、そこには残してくれました。
 わたしはそれを嬉しく思いますし、そして感謝します。

 本当の勝利は、この先に。
 そんな希望をもって幕を下ろすのも、良いのではないかと思うのです。
 素敵な作品、ありがとうございました!


 余談。
 『彼女』の秘密、もしかしたらこれまでに伏線が出されていたのかな……?
 今回説明された理由でも十分な気もしますけれど、なーんか、三雲センセはサインを出しているような気がしてならないんですよねー。
 うん。これは読み返す必要アリですわ〜!


■■ 5月16日追記分 ■■

 浅木原書店さんのトコロでの「完結シリーズ評価調査・2006年1〜3月」の結果発表を眺めて感じたことです。

 終盤の流れのどの部分を「超展開」と評するのか、あの短いコメントではわからないところがなんとも歯痒いのですが……。
 たとえば地球外生物の存在とか、ガンヒルダUが空飛ぶとか、そのあたりのことだったりするのかなぁ……なんて。
 違っていたらゴメン! でも、もしそうだとしたらどうしても言いたいの!

 この作品のタイトル「ランブルフィッシュ」ってなんだったのか思い返すと──。
 それはペタという魚を戦わせる闘魚という賭け事のことであります。
 そしてそのことを評して1巻で深条海里はこう言っているのです。
 「生き物を使うのは残酷だよねえ。僕らがRF同士を戦わせているのと、どう違うのかといわれるとつらいところだけれど」
 宇宙に生存する者同士、友人になれるかもしれない存在を利用して戦わせているというガジェットは、そもそも初めから用意されていたものだと。
 「ランブルフィッシュ」とシリーズ名を名付けたときから、地球外生物の存在は織り込み済みであったと思うのです。

 次にガンヒルダUの存在についてですけれども──。
 6巻の第三章で、瞳子が模型飛行機を飛ばしていたということが伏線になっているのではないかなぁ……と。
 ただ遊びで飛ばしていたのではなくて、きちんと計測をおこなっていましたし。
 宇宙用RFの可能性については4巻の時点で語られていますし。

 このように、とりあえず上記2点においては伏線の存在が確認でき、計画性に基づいた展開であったとわたしは思うのです。
 このことだけを持ち出して全てを語るというわけにもいきませんが、こうした事例を見つけられる限り、最終巻で起こったことは決してその場限りで考えられたものではないのではないと言うのは……欲目でしょうか。

 書き急いだ、あるいは省略され簡素となってしまったエピソードがあっても、物語を構成するガジェットは全てを表すことが出来たのではないかなぁ……と。
 この作品は、書き進めながら演繹していくタイプの物語ではなく、定めた決着から帰納していくタイプの物語なのだと思います。
 『ランブルフィッシュ』という作品を素晴らしく思うのは、一冊の巻でまとめられるような伏線の貼り方ではなく、シリーズを通して解明されるかたちで伏線を配し、活用していったことだと感じます。
 それは1巻を書き始める以前の企画の段階から、ラストを見据えた作りになっていないと難しいことではないかとも。


 もっとも──。
 作品の構成や企画の秀逸さと、面白さとは別の話だとは思うのでー。
 ツマラナイって感じたら、やっぱりツマラナイんでしょう。
 ただ、わたしは、ここまで企画の存在とその重要性を感じさせる作品も稀だなぁと感じたのデス。
 それだけをとっても、近年のライトノベル作品において、ひとつ抜け出している存在と評価できるのでした。

 


2
 
『王宮ロマンス革命 姫君は自由に恋する』 藤原眞莉 著

 あ、れ、れ??
 とらわれた人がどうして銃を持ってるの……?
 所持品とか調べなかったのかな……。

 毒を盛られたシーンでも、どうして当人が無事なのか首をかしげてしまいましたし……。
 これはのちに耐性があるような説明がありましたけれどー。
 ……書き手側は知っているがゆえに、先を急いでいるというように感じてしまったというか。
 わたしという読み手には優しくなかったデス。


 許せる物差しでは、バカ > 臆病。
 なもので、アレックスのウジウジした態度にはイライライラ……。
 まぁ、でもラスト、きちんと前を向いて見せたから希望アリ……かなぁ。

 あのシーン。
 明確な決着をつけさせてあげなかったエヴァンジェリンは、むしろ残酷なんじゃないかって感じてしまったのですがー。
 オトコノコの努力を、そんな簡単に片付けちゃうの〜?みたいな。

 エヴァンジェリンってを「ひと言で表すなら」、“退屈”なのではなくて“淡泊”なのですよねぇ……。
 “退屈”は物語からの要請ですから、ちと重要視しすぎなのはわかってますけれど。
 無感動のオンナノコって……どうなのかなぁ。
 


『アウトニア王国人類戦記禄5 でたまか 長嶺来光』  鷹見一幸 著

 足かけ5年、15冊にわたる作品。
 お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。

 シリーズ中、最長をほこる最終巻ですけれど、その実、物語については既に語るべきコトを終えていたような。
 この巻で描かれた場面の少なくないモノに、既視感をおぼえたのですよ。
 長きにわたる闘いの中で、一度は見せられた光景。
 それを繰り返すことは、ある意味、冗長──ただの使い回しに過ぎないのかもしれないのですけれどー。
 こっちには、そのときの想いが刷り込まれちゃっているんですよ!
 あのとき見て、考えて、そして感じた、そんな想いの全てがフラッシュバックしてきて涙腺が(TДT)。
 長編シリーズの最終幕を飾る構成として、見事にハマってます……。
 いやさ、むしろシリーズとして連ねてきた事実を活かさない手は無いでしょ!
 これまで築き上げてきたことの集大成として、この巻があるわけなんですし!

「……俺は今までの人生で、いろんなことを我慢して、そうやって忍耐力を身につけてきた……きっとその忍耐力は、この六時間のために身につけてきたんだろうな」

 最後の闘いに赴くケルプの言葉ですけれど、まさにその通り。
 コットンとも、バルク中将とも、アリクレストとも戦ったけれど、それはこのためにあった時間なんだなぁ……って。
 これまでの闘いで学んだことが、ここに結実するような感覚。
 それを感じられたことが、この作品を読み続けてきたことに対する報償であり、喜びでもあるのです。


 いまさらこの巻から読み始める人、この巻だけを読む人なんていないと思いますけれど。
 『でたまか』という作品に対する評価は、これまで描かれてきた事象に対して、どれだけ感じ入るトコロがあったのかによって変わってしまうんだろうなーって。

 「キャラではなく世界を描く」と明言した鷹見センセの手法は、この巻でもよく表れているなと思います。
 一見「美味しい」場面ばかりを切り取って描かれたそれは、あざといやり方と映ってしまうのかもしれないと思うのです。
 個々人の想いも、その後も描かないような展開は、非常にフラストレーションの溜まるものでしょうし。
 それについてはわたしも否定はできないなぁ……。
 この巻でもたとえば「エリスは!?」とか思ってしまいますし。
 んでも「人類」という大きな括りで描かれた作品であったことを考えると、キャラを引き立てない徹底した取り組み方は、むしろ良かったと感じるのです。
 この世界、生きることと死ぬことは等価値。
 日常の枠を少し越えたトコロにドラマは待っていますけれど、針の振れが元に戻れば、そこは毎日が繰り返される場所でしかないわけで。
 たくさんの日常を支えに、ひとつひとつ、一瞬の輝きをもったドラマがあるのだなと思う次第。
 そこだけを切り取って見せるやり方は、あざといのかもしれないですけれど、ひとりひとりの一瞬の輝きを見逃さないという覚悟に、わたしは思うのです。


 まぁ、でも、やぱし、惜しいよねぇ……って思うところが無いわけではないのデスヨ。
 なにしろキャラのひとりひとり、ましてやカップルの組み合わせなんて、すっごく好みなんだもん。
 彼ら彼女たちの物語について、きちんと最後を見届けたかったーって思いはあります。
 でも──。
 それは表舞台で描かれないからこそ粋なのであって、なんでもなんでもと欲しがるのは野暮ってものかも。
 きっと、みんな倖せになっているハズだもの。


 鷹見センセという人は、ヒトの良き部分を信じているような気がするのです。
 「信じる」というのは、ヒトが良き存在であるなんてことを盲信するのではなくて、善悪双方を備えた存在であることを認めつつ、双方の狭間で葛藤し、戦って、諦めないで、ヒトの悪しき部分を凌駕するであろうということにです。
 現実は双方の平衡を保つように動いていっているでしょうから、どちらか一方が勝利を収めるなんてことは無い……と、わたしは思ってしまいます。
 でも、鷹見センセはわたしには見えないそれを信じて、作品を描かれているのではないかなー。
 そういったココロの有り様が、とても眩しくて好きなのです。

 だから、きっと、みんな倖せ!
 みんな倖せ!
 みんな…………(T△T)。

 あらためて見ると、カラー口絵に泣けてきそう……。
 そういう役割を負っていると暗示されていたので唐突感は無いのですけれど。
 でも、やっぱり悲しいことは悲しいよー。

 もちろん、その反対に嬉しいこともあったワケで。
 ケルプとコットン、ようやくですかー。
 あー、良かった!(≧▽≦)
 あんたたち、今年のベストカップル候補だわ〜。
 表紙イラストが「マイド×メイ」、カラー口絵が「ケルプ×コットン」。
 お互いに婚礼衣装なのですけれどー……ケルプたちのほうが優遇されているような気がするのは、ひいき目?
 表紙に描かれるのって、最終巻ですし、なんていうか義務?みたいなモノも感じてしまうのでー。
 ちうか、マイド、ちょっとスカしてなーい?(笑)

 世界の有り様を見せる鷹見センセの手法のおかげ?で、今回はチャプターたくさんあって、故に扉絵もたくさん!
 いろいろな人を見られてウレシー。
 扉絵でもケルプとコットンは勝ち組ですよねぇ……。
 いきなりキタコレですよ(笑)。
 ジャンクスターではユーさんの困り顔と、ティさんの元気な姿が良かったー!
 ステラ博士も美人で!

 chiyokoさん、少し絵の雰囲気が変わったカンジ。
 より細やかになったというか、写実的な面が付加されたというか。


 さてさて、これにて『でたまか』は幕を下ろすということで。
 あとがきを見るに、番外編とかは……無理っぽいですね。
 でも、先述のように、番外編はひとりひとりの日常を覗いてしまうイヤラしさを感じてしまうのかもです。
 はい。ここでお別れをすることが、すっきりと綺麗なのかもです。
 長い長い旅を終えて、あとは想い出を語る幸せな時が続くのです。
 読み手の側から、ひとりひとりの活躍について思いっきり語りたい気分!

 許せないことも、認めたくないこともあったですけれど、それ以上にココロを揺さぶられる物語でした。
 うん。わたしは大好き!
 

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