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まなびや

 図鑑でシダ植物を調べると聞きなれない名前が出てきて、「シダ植物は難しい」と感じられた方が少なくないでしょう。そこでこのまなびやでは画像も使い、シダ植物の基礎を解説しています。

◇シダ植物とは

 シダ植物は、種子を作らずに胞子で増えるため、蘚苔植物(コケ類)と同じ仲間ように見られていますが、被子植物、裸子植物と同じく、吸収した水溶液を送る仮導管と光合成でつくられた糖などの水溶液を送る篩管がある維管束植物(画1)です。 
被子植物 シダ植物 裸子植物
画1・維管束植物
 皆さんが葉柄を手で折られた時、繊維状のものが残るのがその維管束です。
 そしてシダ植物と呼んでいるものは、生物学上での自然群ではなく、人為的につけられた呼び方で、維管束植物の内、種子植物以外の植物を総称した名前で、コケに似たコケシノブ類から木本に似たヘゴ類まで、大きさ、形は多種多様なものがあります。

◇自然の大切さ

 このシダ植物は、地球上では約1万種が自生していると言われており、日本では、雑種や変種も入れると1200種類程が自生していますが、内100種超が絶滅危惧種となっています。大阪府南部(大和川以南の地域)でも約265種が確認されています。
 面積の割に日本にシダ植物が多いのは、南北に細長く延びた列島、その周りを迂回する海流、入り組んだ地形、亜熱帯・温帯・亜寒帯と幅広い気候帯などにより、豊な森林帯が形成され、その下草として森に守られているからです。
 その意味では、シダ植物など下草が繁栄しているかどうかは、豊かな森があるかどうかのバロメーターにもなるでしょう。
 しかし、日本経済の急速な成長とともに山が削られ、森林が切り開かれた結果、失われた種も多くあります。また、人との関わりで守られて来た里山は、過疎化、高齢化により衰退し、その環境で育ってきた種も失われて来ています。
 一方、地球規模では人間活動による地球温暖化のスピードが速まり、生態系への影響が懸念されています。
 このような中、蔓延る竹林を整理し、下草を刈って里山を復活させる活動、山に木を植えて自然林のダムを造り、海を守る活動、エコ化への取組みなど、自然を守る活動が各地で盛んにおこなわれるようになりました。
 自然環境の悪化は即私たちの生活に影響するように、自然があってはじめて私たちが生かされていることを忘れず、自然を大切にしたいものです。

◇利用されてきたシダ植物

 シダ植物は、私たちが昔から身近に利用してきた植物の一つです。ツクシが顔を出すと野原に出かけ、暖かい日差しを浴びながら春の訪れを感じた方も多いでしょう。同じ
ように食物としてワラビ、ゼンマイ、クサソテツ(コゴミ)などの若芽を摘んで利用しています。
 正月にウラジロ、料理にコシダなどをお飾りとして使っています。鑑賞用としてシノブ、イワヒバ(岩松)、マツバランは昔から栽培され、多くの品種が改良されてきました。現在では園芸店で、アジアンタム、プテリス、アビスなどの名前で外国産のシダ植物が販売されています。
 また民間薬としては、オシダ(解熱、条虫駆除)、カニクサ(解熱、利尿)、クジャクシダ(止血)、ヒカゲノカズラ(石松子:丸薬の衣)など、多くのものが利用されてきました。
 工芸品としては、ウラジロ、コシダのツル(葉柄)が利用され、私たちの生活の中で身近な植物であったことが分ります。

◇シダ植物の世代交代

 植物には共通して、無性生殖をする世代(無性世代)と有性生殖をする世代(有性世代)を交互に繰り返す世代交代をする生活環があります。
 シダ植物でも、配偶体世代(有性世代)胞子体世代(無性世代)と呼ばれる世代交代(画2)を繰り返しています。

画2・シダ植物の生活環
無性芽
 私たちが目にするシダには、胞子嚢をつける胞子葉と胞子嚢つけない栄養葉が混ざり合っていますが、胞子をつくる植物体と言うことから胞子体と呼んでいます。
 この胞子体で胞子嚢ができ、減数分裂して胞子がつくられ、発芽したものが2〜4mmと小さい配偶体(前葉体)で、フィールドでは、余程注意深く探さなければ、目にする機会が少ないものです。
 この配偶体にある造卵器と造精器により受精して胚ができ、大きくなったものが胞子体となります。 
 しかし、シダの中には配偶体で受精することなく一部の細胞が分裂して胞子体をつくるベニシダ、ヤブソテツなどの仲間があり、これらを無融合生殖と呼んでいます。
 また、ヌリトラノオ、コモチシダ、ホソバイヌワラビなどでは、無性芽も出来て栄養繁殖をするものもあります。

◇シダ植物の生育する時期

 冬でも多くのシダが見られることから、シダ植物は一年中見られる植物と思われている方が多いと思います。が、シダ植物も一般の植物と同じように常緑性、夏緑性、冬緑性と生育する時期が異なっています。 
常緑性 夏緑性 冬緑性
 ベニシダ、イノデなど春に葉を出し、翌年春に新しい葉が出るまで葉が枯れない常緑性のもの、イヌワラビ、クジャクシダなど春に葉を出し、秋に葉が枯れてしまう夏緑性のもの、アオネカズラ、オオハナワラビなど晩夏に葉を出し、翌年の初夏近くに葉が枯れてしまう冬緑性のものがあります。
 どれも地上部の葉が交代するだけで、根茎より下は生きて数十年も生育する多年草です。この内、常緑性、夏緑性のシダが圧倒的に多く、関西ではこれらのシダの胞子が成熟する6月〜8月がシダ観察の適期と言えます。

◇シダの葉は1枚の葉

 通常、私たちが目にするシダ本体は、葉の部分です。サクラの葉と同じく、葉身と葉柄とで構成され、葉(葉身)の下の茎と思われている部分が葉柄で、茎はその下に根茎として存在し、その下からを出します。
 シダ植物の多くは、ベニシダやワラビのように根茎から複数の葉を出しますが、変わったものとして、カニクサ(ツルシノブ)は、地上部分の全てが1枚の葉で、ツルの部分は葉柄です。
 同じく木に見えるヘゴも1枚の葉で、茎のように見える部分は葉柄で、太くても年輪はありません。根とも茎とも区別がつかないということから根茎と呼ばれていますが、れっきとした茎です。この根茎は、立ち上がったり、横に這ったりとその形は異なり、シダを同定する時の決め手となるものです。

◇シダ植物の各部位の名称

 次にシダの説明で、羽片、羽軸、包膜など、聞き慣れない部位の名称が色々出てきます。これもシダ植物を難しくしているかもしれません。
 先に葉身、葉柄、 根茎、根の話をしましたが、この各部位(画3)がどこなのかを再度見てみましょう。 

画3・シダの名称
 根茎から伸びた葉の柄の部分を葉柄、葉の部分を葉身と呼びます。葉柄から続く葉身部分の軸が中軸で、根茎から中軸までの間に、多くの鱗片がつきます。
 中軸から羽状に分裂した羽片を出し、その羽片の軸が羽軸です。この羽片もさらに分裂したものが小羽片で、その真ん中の軸は小羽軸と呼び、さらに分裂すると2次小羽軸、3次小羽軸となり、これ以上分裂しない最終の羽軸を中肋と呼んでいます。
 二形性以外のシダの葉身の裏につくのが胞子嚢が集まった胞子嚢群(ソーラス)です。この胞子嚢の袋の中に胞子が入っています。そして胞子嚢群を守っているフタ状のものが包膜で、色々な形があります。

◇根茎の形

 シダの茎は、殆どが地下茎で、茎とも根とも区別がつかないことから、根茎と呼ばれています。この根茎には、直立、斜上、匍匐の形(画4)があります。
直 立 斜 上 匍 匐
画4・根茎の形
 直立は、根茎から出た古い葉柄の内側に新しい葉柄を出すため、立ち上がったようになる形で、ヘゴ、ヤブソテツ類などがあります。斜上は、根茎の先に葉柄をだして行くため、斜め横に伸びていくようになる形で、ベニシダ類、イノデ類などがあります。匍匐は、根茎が横走(横に這う)する形で、根茎が「長く横走」すると、間隔を開けて葉を出すことになり、「短く横走」すると間隔を開けずに葉を出すことになります。この「長く横走」には、ウラボシ類、シケシダ類などが、「短く横走」には、オオヒメワラビ類、オニヒカゲワラビ類などがあります。

◇鱗片の色と形

 シダ植物は、植物全体に鱗片や毛が密生し、採ると鱗片が手について、気持ちが悪いと思われた方も居られるでしょう。しかし、よくよく見ると単純な葉の割には、結構綺麗な色の鱗片がついており、目を楽しませてくれます(画5)。
ツートン・線形 赤褐色・線披針形 栗色・狭披針形
黒褐色・披針形 褐色・広披針形 淡褐色・卵形
画5・鱗片の色と形
 色では、淡褐色、褐色、黒褐色、茶色、黒色、ツートンカラーなどが、形では、線状、披針形〜広披針形、卵形などがあり、多様です。また、鱗片の辺縁も全縁から著しい鋸歯があるものまであって、種を同定する大きな情報となっています。
 ベニシダ類、イノデ類、イヌワラビ類などでは、この鱗片の色、形が同定の大きなポイントとなります。

◇葉の形

 図鑑で、シダの葉身の形状を表すものとして「卵状長楕円形、2回羽状複葉」などのように書かれています。
 前記の「卵状長楕円形」は葉身全体の「形」を表し、後記の「2回羽状複葉」は葉の「分岐と切れ込み」の度合いを表しています。
 先ず、形については、披針形、広披針形、長楕円形、卵状楕円形、三角形、広卵形、卵状三角形、三角状広卵形、五角形など多くの形(画6)があります。
披針形 倒披針形 広披針形
卵状楕円形 三角形 五角状広卵形
画6・葉の形
 そこで基本的な形だけを覚え、その形のイメージを思い浮かべることが理解する早道でしょう。
@披針形⇒竹の葉のように細長く先端がとがり基部がやや広い形
A倒披針形⇒細長く先端がとがり、上部がやや広い形
B卵形⇒卵のように中央より下半部が最も幅広く丸い形
C倒卵形⇒卵を逆立ちにしたような、中央より上半部が最も幅広く丸い形
D楕円形⇒小判のような形
E三角形・五角形、円形は図形そのものを思い浮かべて下さい。

◇葉の分岐と切れ込み

 シダの葉身の分岐には、単列分岐、叉状分岐、羽状分岐などがありますが、羽状分岐をするものが圧倒的に多いです。
 それでは羽状分岐(画7)について見てみましょう。

画7・羽状分岐の形
 まったく分岐しないものを単葉、分岐して羽片が独立するものを単羽状葉(または1回羽状葉)、その単羽状葉が分岐して小羽片が独立するものを2回羽状葉、さらに小羽片が細分して第2次小羽片が独立するものを3回羽状葉、さらに第3次小羽片が独立するものを4回羽状葉となります。
 その上でまったく切れ込みのないものを全縁、切れ込みの程度で、浅裂、中裂、深裂、全裂となり、例えば、2回羽状浅裂とは、単羽状葉の羽片が浅裂したもので、さらに全裂が進み小羽片として独立すると2回羽状葉となり、その小羽片が複数ある状態を2回羽状複葉(または複生)と呼んでいます。
 この分岐を見極める部分は、その葉身で切れ込みの多いところを見ますが、先端部分や最下羽片など例外的に分岐したところは除きます。実際のシダでその例をみてみましょう(画8)。
単葉深裂 単羽状複葉 2回羽状深裂
2回羽状複葉 3回羽状複葉 4回羽状全裂
画8・羽片分岐の例

◇羽片基部の形と軸へのつき方

 羽片が中軸に(または小羽片が羽軸に)接する基部の形には、クサビ形、丸形、切形、心形、耳片(小羽片では耳垂)がつく、などの色々な形があります。
 また、羽片が中軸(小羽片が羽軸)につく形には、柄がある(有柄)、柄がない(無柄)、翼となって流れるなどがあります。(画9)
丸形 心形 クサビ形
切形 耳片 翼となる
画9・羽片基部の形

◇胞子葉と栄養葉の形

 シダ植物では、胞子をつける葉(胞子葉)とつけない葉(栄養葉)があります。一般に胞子葉と栄養葉が同形のものは、特に図鑑などでは触れていませんが、ゼンマイ、イヌガンソク、キジノオシダなどように、はっきりと胞子葉と栄養葉の形が異なるものを二形性と呼んでいます(画10)。
同 形 やや二形 二 形
画10・胞子葉と栄養葉の形
ゼンマイの部分的二形
 ミヤマシケシダ、ヒメシダなどように、葉の形がほぼ同じでも胞子をつける葉とつけない葉が異なるものをやや二形と呼んでいます。
 このやや二形性のものは、栄養葉が先に出た後、時期を遅らせて胞子葉を出すものが多く、胞子葉は栄養葉より長く立ち上がるのが特徴です。
 また、オニゼンマイなどのように胞子葉と栄養葉が一つになったものを部分的二形と呼んでいます。先の二形性のキジノオシダ、ゼンマイでも、突然変異で栄養葉に胞子嚢群をつけ、部分的二形性になることもあります。
 勿論、栄養葉には葉緑体があり光合成をおこないますが、多くの胞子葉も同じく光合成をおこないます。胞子葉が緑色をしているものは葉緑体が存在するからです。

◇包膜の形と色

 包膜は、胞子嚢群を保護するフタ状のものです。胞子嚢群を守るフタであることから、形は胞子嚢群の形とほぼ同形です。そして、胞子嚢が熟して胞子を放出した後は、包膜は外れて取れてしまいます。
 包膜の形は、三日月、楕円形、線形、馬蹄形、円腎形など多くの形(画11)があります。
円 形 円腎形 三日月形 馬蹄形 鉤 形
長方形 長楕円形 線 形 二枚貝状 二弁状
ラッパ状 コップ状 丸 形 袋 状 偽包膜
画11・包膜の形
 この包膜に代わって葉縁が巻き込んで偽包膜を作るイノモトソウの仲間などがある反面、ミゾシダ、シケチシダ、コシダなどは、この包膜がありません。
 この包膜の形は、オシダ科は円腎形、ヘラシダ属は線形など、種によって大体決まっています。
 一方、包膜の色で種を特定する時もあります。ベニシダは文字通り包膜が紅色でベニシダの変種のミドリベニシダは灰色で、包膜がついている時期しか区別できません。ヤブソテツ類などでも色の違いがあります。
 そのほか、包膜の辺縁の切れ込み、包膜上の毛の有無、胞子嚢群の巻き込み方などにも変化があり、種を特定する情報となります。

◇胞子嚢群のつき方

 二形性を除くシダでは、胞子嚢群のつき方が、同定の決め手となる時が多いものです。つく位置は、辺縁と中肋の中間につく、辺縁寄りにつく、中肋寄りにつく(画12)があります。画像はカナワラビ類ですが、辺縁寄りはオオカナワラビ、中間性はオニカナワラビ、中肋寄りはコバノカナワラビと違いがあることが分ります。 
辺縁寄り 中間性 中肋寄り
画12・胞子嚢群のつく位置
 イワヘゴとオオクジャクシダは外見がよく似たシダですが、羽軸寄りはイワヘゴ、辺縁寄りはオオクジャクシダと違いがありますし、よく似たイノデ類でも、辺縁寄りはサイゴクイノデ、アイアスカイノデ、イノデモドキなど、中間性はイノデ、ツヤナシイノデ、カタイノデなど、とつく位置に違いがあります。
 その他、羽片先端部から胞子嚢群がつくカタイノデや、羽片基部から胞子嚢群がつくサイゴクイノデなど、つく順序も違うものが多くあります。
 この様に胞子嚢群のつき方は、種を決める大きなポイントの一つになります。
 それでは、ごゆっくりシダ植物をお楽しみ下さい。