北大の木立

春陽会会員
全道展会員
八 木 伸 子

 毎年道彩会では、6月の最後の日曜は、写生会で皆さんが集まります。
 今年も北大構内で、私の大好きな場所ですし、皆さんの絵も見せて頂きたかったのに、最近歩行も困難になり、残念ながら失礼してしまいました。
 実は北大風景こそ、私にとって、絵を描くことの喜びと、苦しみを一度に教えてくれた大切な場所だったのです。
 終戦を20歳で迎えて、ようやく描きたかった絵を描ける様になりました。戦争中重病に倒れて、やっと回復しはじめた時で、希望の光が見つかったと夢中で描きはじめました。はじめは花や果物など静物でしたが、2年位たって、風景も描きたくなり、時々北大などにスケッチに通っていたのです。或る日、理学部の建物の横の木立を描いていると、突然私のまわりがぐるぐる回りはじめました。それは錯覚だったのですが不思議な感覚に驚きました。そして急にあたりの風景がセザンヌの風景とそっくりに見えたのです。―それまで画集で知っていたセザンヌの絵は、色も形もつまらなくて、興味も無かったのに―。
 天に伸びる木々の枝、そして太い幹が根を広げる大地。大きな空間の中でそれぞれがつながって生きる、存在の不思議さ。セザンヌが描きたかったことはこれだったのかも知れない。
 それまで、ただ物を見て、それらしくうまく描きたいとやっていた私には考えたこともないことでした。

 あれから60何年、いまだに物たちの不思議さに振りまわされ、泣いたり笑ったり、そのナゾは解けないまま、描きつづけている私です。



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