井上靖(2)
娯楽時代小説は娯楽として文句なく面白いです。
ある有名な時代小説作家は「チャンバラの書き方を井上氏から学んだ」と言っているほどですから、その道の専門の作家が読んでも面白かったのでしょう。
しかし同じ戦国時代を扱っても、日本歴史物(と私が分類する)「天目山の雲」では武田四郎勝頼と家臣たちの運命は重く悲劇的に、そして気高く描かれています。
日本歴史物を描く時は前述の(遠い時間フィルター)がやや薄く、読者が感情移入し易いダイナミックな描き方ですが、それでも井上靖特有の抑制がしっかり効いています。
特に破滅へ向かう人物の心理描写では「天目山の雲」(武田勝頼)、「天正十年元旦」(明智光秀)が絶品。