井上靖(1)
井上文学はいくつかのジャンルに分ける事が出来ます。
大きく分けて シルクロード物、日本歴史物、現代小説、娯楽時代小説、自伝物といった所でしょう。
殆どの作品を読みましたが、やはり一番は 歴史、シルクロード物。
有名な「孔子」「天平の甍」「敦煌」「桜蘭」「蒼き狼」「風涛」「楊貴妃伝」等、本当に素晴らしく特にお勧めです。
井上靖は歴史物の主人公を描く時、読者との間に、ある隔たりを設けている様に感じます。
人間的に泣いたり喚いたりする様子を(遠い時間)というフィルターによって濾過してしまい、人間の意志と行動だけが伝わってくる、極めて硬質な文体です。
ある批評家は「岩のような文体」と評しました。
が、映画化されてしまうと主人公が泣いたり喚いたりするので、私はいつもガッカリ(笑)
緒方拳が大黒屋光太夫を演じた「おろしゃ国酔夢單」や、奥田瑛二の「本覚坊遺文」は、まあ許せました。
さて、これが現代小説では、実に豊かな心理描写や、ごくたまに上品で知的なユーモアもちりばめられています。
ややシリアスな物で「化石」「星と祭」「花壇」「氷壁」
軽めで「黒い蝶」「四角な船」「夜の声」
スピーディな展開で一気に読ませる「射程」「闘牛」
心に沁みる「ある偽作家の生涯」「澄賢房覚え書」
等がお勧め。
近年テレビドラマ化された「氷壁」、映画化された「澄賢房覚え書」は、見てはいけません。
あんなものは全くの別物。
井上靖原作とは書かないでもらいたいくらい。
冒涜です。