禅と日本文化
千宗旦(せんのそうたん)
宗旦の参禅
千宗旦は、利休の孫であり、現代まで続いている茶道の家元、三千家のもとを作った人で、茶と禅は一つ、という茶禅同一味を説き、武士に仕官せず、清貧の生活の中で、わびの茶に徹した茶人である。
宗旦の参禅
千宗旦は、若い頃に、春屋宗園に参禅し、後には、清巌宗謂に参禅した。次のような評価があり、『茶禅同一味』が宗旦の精神を伝えているといわれたくらい、宗旦の茶は禅そのものであったといってよい。芭蕉や、世阿弥の俳諧や能の底に禅があるのと同様である。茶道の行為を無心、無我で行うことが、禅と同じであり、指導が正しければ茶道によって禅者と同じく、自己の正体をあきらめ、悟りに至るのである。
それは、利休が言った、草(草庵)の茶湯でなければ、達せられない。宗旦の詫び茶である。
禅の精神を知らないものは、伝統や型や道具に執着し、そこからだけ判断するが、それの無力なことを知り、本物を求める人々もいる。宗旦はそんな町衆に望まれた。
「当時、宗旦は京衆の堕落した茶湯を嫌って大徳寺に参ずるか、独り茶湯がましだといっているが、ここで茶禅一味の茶湯の工夫に努めたのである。このため寧日もなく、また京衆との交わりを嫌ったのであろう。これに京衆らが宗旦の茶湯をしきりに望んだのがわかる。」(1)
(注)
乞食宗旦
宗旦は、「乞食宗旦」と呼ばれた。乞食は、本来、仏道の修行のひとつであった。
無差別に各家の前に立ち、食物をお布施してもらうのを乞食「こつじき」という。無私、無差別、恥やひけめを超越して純な心で、乞食するのは、大変難しい。下記の人は、悪口と言っているが、悪口だけで言う人も多かっただろうが、全く同じ言葉で、ほめ言葉でいう場合もある。法華経や道元禅師の言葉も2重の読み方ができるものが多い。これまで多くの人の言葉を見たが、自分の背丈で深くも浅くも解釈するのが人間であることがわかっている。
「乞食の意味するところには、文字どおり経済的に貧乏だったということと、茶に禅的要素を強調したということが含まれています。」(1)
「宗旦と交わりのあった本阿弥光悦が、このように貧乏でも清貧に甘んじている宗旦の、その厳しい生き方に感心して、とっても自分にはそういうまねはできないといったと、『本阿弥行状記』の中に光悦の言葉として収めています。」(2)
(注)
- (1)『茶人の系譜』 村井康彦、大阪書籍、87頁。
- (2)同上、88頁。
宗旦狐(きつね)
「宗旦の真価のわからない人が、乞食宗旦などと、悪口をいったわけです。その一面、彼は非常に有名であった。「宗旦狐」の話がこれです。のちに、宗旦狐という銘の茶碗さえできたほどです。京都の相国寺の境内に古い狐がすんでいた。これが、夜な夜な現われて、宗旦に化け、あちこちの茶会によばれて行った。それが狐だということを知りながら、ひとびとから非常な親しみをもって迎えられた、というような、面白い、今どきちょっと得がたい話がのこっております。狐か、宗旦か、わからない。そういった話が伝わったのも、乞食宗旦といわれたところから派生した伝説でしょうが、要するに、宗旦の侘び茶が非常に有名だった証拠になります。」(1)
宗旦は、禅の修行もし、禅的精神の持ち主でもあったから、ちがった側面から考えてみたい。禅には、「百丈野狐」の公案がある。(概略、次のとおりである)
百丈(中国の禅僧)が説法していたら、一人の老人が残って、「わたしは野狐だ」という。昔、僧侶であったが、説法していた時、ある僧侶が「大修行の人(悟った人)は因果に落ちますか」という質問をした。それに対して私は、「不落」(因果に落ちない)と答えた。その後、私は五百生の間、野狐身に堕した。そう自分の正体をあかして、「どうすれば、野狐の身から脱することができますか」と問うた。そこで、百丈が「不昧」(因果にくらまされない)と答えたところ、その老人は野狐身を脱した。
これは、どういうことか、禅の修行者は、わかるまで取り組む。宗旦は、もと禅僧であったし、その後も禅に参じていたから、禅は相当深い境地にあったと思われる。そこで、宗旦は、茶で会う人々に、この「百丈野狐」の公案をつきつけたのだろう。だから、このような伝説になったのではないかと思う。
説話や経典、聖書の中の言葉の精神をどう解釈するか、人によって変わる。同じ経典、同じ聖書によりながら、宗教がさまざまな宗派に分裂する。学者も様々に解釈する。文学、芸術の受け止め方も、みな人によって異なる。自分の理想や生きざまと同じ程度に解釈するのではないだろうか。
(注)
- (1)『茶道の歴史』桑田忠親、講談社学術文庫、164頁。
京都の相国寺
宗旦狐。
京都の相国寺
宗旦狐。
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