ビジネス戦国時代の経営者は「現場」を知るべし
木谷高明 氏
運営者 木谷さん、経営者になった今から振り返ってみて、元いらっしゃった山一証券の経営って、どう思われますか。
木谷 山一は、なくなって当然だったと思います。今の世の中は戦国時代のように変化が激しい、業界秩序もない。そんなとき、自分が武将なのに、現場にも出ない、軍議にも参加しない、……それで生き残った家というのは、国盗り合戦をやっていた中央にはないですよね。
やっぱり経営者は現場の情報がわかっていて、部下の心理も相手の状況も、地勢もわかってなきゃいけないし、いつ攻めるか、攻め方も、外交も領国経営も資金調達も……。いまは全てができなきゃ生き残れない時代なんです。
運営者 それが江戸時代になると、逆に国主が前面に出ると都合が悪いことがででくる。大名は出来があまりよくないほうがいいんですな。
木谷 だから、内部の企画畑や人事畑の人間ばかりが偉くなるような会社は、時代が戦国に突入したら、端から終わってるんです。現場を知らない人間が企画を立てるのは最悪で、戦場に行ったことのない人間は参謀にはなれないわけ。
運営者 他の証券会社だって似たようなものじゃないですか。
木谷 だからちゃんと手を打っていたんですよ。山一は手を打つ前に潰れたという感じじゃないかな。どうしようもないよね。
戦場で戦って帰ってくると、優秀な指揮官の部隊は、なぜか人数が増えているという話がありますよね。つまり頼りにならない指揮官の下で闘うと死んじゃうから、部下は指揮官の能力をよく見てるわけです。で、待機しているときはどの指揮官の下にいても変わらないけど、「いざ突撃」というときは、気の利いたヤツはどさくさに紛れて優秀な指揮官の部隊に紛れこんじゃう。みんな命が惜しいですからね。それと同じような話ですよ。
今の世の中は、まさに突撃体制なんです。移らなかったら、その組織はこの後どうなるかというのは、次第に誰の目にもはっきりしてきますよ。
と考えると、企業人は自分が属している会社はどのタイプの会社か見極める必要があると思いますよ。
ソニーは、ボトムアップが認められてるトップダウンの会社でしょう。大将が前線に立っている。少なくとも戦場には来ているわけです。
逆に大将が戦場に来てない会社もいっぱいあるわけです。それはやはりまずいですよね。だからといって、今まで戦場に出た経験が全くない経営者にいきなり前線に来られて指揮されても困るということはある。現場が「頼むから余計な意見を言わないでくれ」というパターンです。後ろで薪拾いでもやっててほしいと。
運営者 南北戦争の時に、リンカーン大統領が山高帽をかぶって前線に出たことがあって、狙撃されそうになった。ある一兵卒が「ひっこめこのバカ」と言ってリンカーンの襟首をつかんで引き戻したという話がありますよ。彼は正しい。前線はグラント将軍に任せておけば良いんです。
木谷 大統領は双眼鏡で見ていればいい。戦場の悲惨さは知っていて欲しいのですが、指揮はして欲しくないですよね。
運営者 現場を知らない人が経営するのは不可能ですか。
木谷 オーナー的経営者じゃないと無理でしょう。二世でもいい。その会社がなくなったら困ると思っていれば、真剣に考えますから。
運営者 オーナー家の資産のほとんどは持ち株ですから、会社が潰れたら困るでしょうに。でも、商売の仕方を肌身で知ってないと。
木谷 子会社や支店をまず任せて育成するんでしょうね。サラリーマンでも、将来の経営者候補であれば、割と独立した子会社の経営を任せればいいんです。
運営者 普通は子会社に出されたら「もう終わり」だと思われてしまいますが。
木谷 本来は逆だと思います。
運営者 東京電力はベンチャー企業に社員を派遣するそうですが、そういうのを受け容れてくれと言われたらどうします。東大君と一橋君で。
木谷 要らん。要らない。「あーだ、こうだ」言われても困る。
運営者 MBA持ってるかも。秋葉原の店の店頭に立たせればいいじゃないですか。
木谷 なおさら要らん。
(この項終わり)
(2000/1/12)
このインタビューは2000年に行ったもので、内容は古いですが、中身のおもしろさが評価できるのでそのまま掲出しています。