本文にも書いた通り、従来のアナログ衛星放送(BS)の音声部はサンプリング周波数48kHz、16bit(Bモードステレオの場合)とCDを上回る高音質のデジタルソースで、しかもNHKの録音技術は素晴らしく、安心して高音質の音楽番組が楽しめます。ただ、最近は映像もデジタル化され、音声部はオーディオマニアが嫌う圧縮音源になっています。
そこで、どのような規格の圧縮が行なわれているか調べてみました。コーディングはAACであることはよく知られていますが、伝送ビットレートはどれくらいか、また、5.1ch サラウンド放送の場合はどうかという点について、直接NHKに問い合わせた結果です。
最初の問い合わせは Audio BBSに投稿されたNJさんによるもので、伝送ビットレートについての回答が得られていますので、ほぼ原文のまま転載させて頂きます。
Aモード、BモードというスペックはアナログBS放送のものであります。BSアナログ放送は映像信号はアナログ放送でしたが、音声信号はすでにデジタル化されて放送しています。非圧縮での放送であり、電波の有効利用から音声の符号化においてAモード、Bモードというすみわけがされました。
デジタル放送(地上、衛星)に移行する際には新たに技術規格が統一されました。音声につきましてはご存知のとおりAAC符号化での放送であります。音声モードはモノ、デュアルモノ、ステレオ、デュアルステレオ、5.1サラウンドと多彩になりました。デジタルの圧縮技術も進歩し、電波の有効利用を考慮しながら比較試聴を繰り返してビットレートを決めております。ちなみにステレオは256kbps、デュアルステレオは288kbps、5.1サラウンドは320kbpsとなっています。
このような技術的スペックの表記からもお分かりのようにデジタル放送における音質については、アナログBS放送のようにAモード、Bモードの符号化時点でのような音質の違いはございません。AAC符号化のビットレートによることになります。
ただこの回答では、最近よく放映される5.1ch サラウンド放送を2chステレオで聴いた場合の音質グレードがよく分からず、私自身が次の点について問い合わせてみました。
質問の内容は以下の通りです。
日頃、NHKのデジタルBSテレビの音楽番組を楽しんでいますが、音声部のAAC圧縮の転送速度(ビットレート)の規格について、以下の点をお教え下さい。
1.圧縮は固定レートか可変レートか?
2.2chステレオ、5.1ch サラウンド放送のトータル転送速度(可変レートの場合は平均値)。
3.5.1サラウンドの場合、各チャネルへの配分。
4.(3と重なりますが)5.1サラウンド放送を通常の2chステレオとして聴く場合の実効転送速度。
5.地上デジタル放送の場合も同じかどうか?違う場合はその値。
6.その他、留意すべきこと。
それについての回答は以下の通りでした。
社団法人 電波産業会(ARIB)(NHKも参加しています)において、通信・放送分野における電波利用システム毎に基本的な要件を「標準規格」として策定しています。そのホームページに問い合わせに該当する資料がありますので、お手数ですが是非そちらをご覧ください。
ARIB標準規格及びARIB技術資料のご案内。 標準規格(放送分野)一覧表 の中に以下の資料があります。
デジタル放送における映像符号化、音声符号化及び多重化方式
http://www.arib.or.jp/english/html/overview/doc/2-STD-B32v2_1.pdf
P42〜、P57〜をご参照ください。
リンク先の資料はかなり専門的で、かつ規格書なので具体的に採用している数値などは記載されておらず、私も十分理解しているとはいえませんが、とりあえず私の上の質問に対応する答えを、NJさんへの返答と合わせて私なりに解釈すると、以下のようにまとられそうです。 なお、これを見るまで、私自身かなり誤解をしていた部分があったようで質問が的を得ていない部分もあったようです。
(1) 固定レートか可変レートかについては固定レートのようです。
質問の 2、3、4の対する回答はまとめて、以下のように解釈されそうです。
(i) デジタルステレオ放送ではR、L信号が独立に伝送されるのではなく、左右の差も圧縮の対象となっており、左右のチャネル毎の伝送レートは意味がない。ただし、2chペアの伝送レートは決まっている。
(A) 2chステレオでは、伝送レートが192kbps/2ch 以上であれば聴感では原音(多分無圧縮PCM)と区別できない。p.60(注2) 従って、NJさん宛に回答のあった 256kbp/2ch は従来の無圧縮Bモードステレオと同等の高音質である。
(B) 5.1chサラウンドはフロントのモノラル1ch + 前方1組 + 後方1組 2chステレオ + 低音専用モノラルチャネル で構成されており(p.53の表)、トータルの伝送レートが320kbps である。ただし、各チャネル(チャネルペア)間の伝送レートは明示されていない。(恐らく前方2ch のレートが最大だが、各チャネルペアの伝送レートは2ch ステレオより低いはずである)
(C) 5.1chを2chステレオとして聴く場合は、受信側でミックスダウンデコードを行なう。このため必要な信号を送信側で加えることが出来る。(p.54 5.2.4節)
(5) NJさんへの返答から地上デジタル放送もBSデジタルに準ずるようです。
このようにして、5.1chサラウンド放送を2chステレオとして聴く場合、本来の2chステレオとくらべても遜色のない音質が確保できる。
といった所です。
実は私自身、アナログBSではサラウンド放送の音声は規格的に劣るAモードが使われていると聞いていたので、2chステレオとして聴く場合、デジタルテレビでも本来の2chステレオ放送の方が高音質だと思っていたが(実際には聴き分けられなかったが)そうでもないようで2chステレオでも安心して聴けそうです。