コネクトケーブルとディジタルケーブル  オーディオの科学へ戻る

 本文ではスピーカーケーブルについてのみ、その伝送特性を詳しく論じてきたが、オーディオに使われるケーブル類としては、CDプレーヤー(CDP)とアンプを結ぶインター・コネクト・ケーブル、CDトランスポートとDACをつなぐディジタルケーブル等があり、いずれについてもその音の差が論じられている。このページではこれらについての伝送特性を解析する。さらに、バランスケーブルの是非、ターミナルの接触抵抗各種メッキ材の特徴ハンダの音?ジッターの影響などについて述べる。

インター・コネクトケーブル(ピンケーブル)

 インター・コネクトケーブルとしてよく使われるのはCDプレーヤーとアンプ間、プリアンプとメインアンプ間の接続に使われるもので、いずれの場合も送り側が低インピーダンス出力、受け側が高インピーダンス入力で使われる。伝送される電圧は1V程度の比較的ハイレベル信号である。スピーカーケーブルの場合はパワーアンプ(半導体アンプの場合)の出力インピーダンスは1オーム以下、スピーカーのインピーダンスは数オームといずれも2桁ないし3桁異なる。従って、伝送特性を解析する時はこのインピーダンスの違いを考慮しなければばならない。

アンプの入力インピーダンス

アンプ(プリ、メイン)の入力インピダンスは普通表示されており、10kΩ以上あるのが普通である。手持ちのプリメインアンプの入力インピーダンスはプリ部メイン部とも20kΩである。

CDP・プリアンプの出力インピーダンス

こちらの方は、特性表に明示していない場合が多い。手持ちのアンプは、プリアンプ部の出力インピーダンスが50Ωと書いてある。CDPについては不明である。

出力インピーダンスは負荷抵抗による電圧降下を測定することにより推定可能だが、ネット上にはこうして求めたデータを見出すことが出来る。例えば、

http://www7a.biglobe.ne.jp/~sigotnin/audio/audio001.htm#mark007(リンク切れ 下のアーカイブサイト参照)
http://web.archive.org/web/20070220053130/http://www7a.biglobe.ne.jp/~sigotnin/audio/audio001.htm

この結果を見ると、低価格の普及型製品だと 1000Ω近いのも散見されるが、中高級品だとほぼ100Ω以下に抑えられているようである。

ケーブルの等価回路

左図は、ケーブルの等価回路である。
ここで、
R1 :CDP(またはプリアンプ)の出力インピーダンス
R2: ケーブルの直流抵抗、
L:ケーブルの自己インダクタンス
C: ケーブルの線間容量
R3:アンプの入力インピーダンス
を表す。

同軸シールド線の諸特性

普通、コネクトケーブルは中心に多芯信号線、周りに網状シールド線を持つ構造をしている。簡単のため中心線を径 a = 0.5mm の単線、シールド線を径 w = 3mm パイプとして直流抵抗、インダクタンス、線間容量を求める。

それぞれに対するケーブル1m当りの理論値は、
  R2 = ρ/S ρ:比抵抗=1.72*10^(-7) Ωm S:断面積
  L = 0.46*log(w/a) μH
  C = 24.1*ε/log(w/a) pF  ε:絶縁体の誘電率 (以下の計算では ε=2 とする)
で与えられ、上記の寸法を当てはめると、R2 = 0.1×2Ω(網線も同じ抵抗値として計算)L=0.36 μH/m、 C =62 pF/m  となる。
なお、いわゆる特性インピーダンス Z0 = sqrt(L/C) は 75Ω となる。

ピンケーブルではこれらのデータが記載されている製品は少ないが散見されるデータではこの程度の値を示している。 

個々の素子のインピーダンス

上図の等価回路から、原理的には伝送特性を求めることは出来るが、面倒なのでどの素子が伝送特性に大きく効くのかを見積もるため個々の素子のインピーダンスを、可聴域よりはるかに高い 100kHz の交流について求めてみる。

まず、ケーブルの直流抵抗 R2 は1Ω以下なのでCDPの出力インピーダンス R1 より十分小さく無視できる。 自己インダクタンスによるインピーダンスは ZL = 2πf・L より 0.23Ω/m となり同様に R1 に比べ無視してよい。静電容量のインピーダンスは ZC = 1/(2πf・C) より、 25kΩ/m となり、入力インピーダンス R3 とほぼ同じ大きさとなる。

注:ケーブルのインダクタンス

インダクタンスは普通コイルの記号で表すが、ケーブルにはコイルがついているわけではない。ではどうしてインダクタンスがあるのか? この問いに答えるには、インダクタンスが生じる源因を知っておく必要がある。インダクタンスは誘導係数ともいわれ、電流により発生する磁場がそれ自身の回路に誘起する起電力(逆起電力)が原因である。誘導起電力は磁場(その原因となる電流)の時間変化が大きいほど大きくなるので周波数が高いほどその効果が顕著になり、インピーダンスの増加を招き、高音減衰の原因となる。 その大きさは、ケーブルの構造によって決まり、同軸ケーブルでは発生する磁場は芯線と外皮の間に閉じ込められるのでインダクタンスは平行線より小さい。また、同軸ケーブルや平行線をコイル状に巻いても、各々の線を流れる電流が互いに逆なの発生する磁場はキャンセルし外部には及ばない。つまり、ケーブルをとぐろ巻にしてもインダクタンスを生じない。問題なしというわけである。

集中定数回路近似による伝送特性

上に述べたように、コネクトケーブルの伝送特性を調べる場合、CDPの出力インピーダンス R1、線間容量 C 、アンプの入力インピーダンス R3 だけを問題にすればよい。このうち、R3 は純抵抗性と考えてよいので減衰の周波数依存性には直接には寄与しないので、結局、R1C が作る、いわゆる R-C 回路の伝送特性を調べればよいことになる。

本文のスピーカーケーブルの例に倣って、上に示したモデルケーブルについての計算結果を表示する。
ここで、CDP(又はプリアンプ)の出力インピーダンス(R1)は廉価品の1000Ωとし、ケーブル長は2mとした。これを、中高級品の100オームとすれば 1MHz でも位相回転、信号減衰ともほとんど無くなる(0.7度、-0.02dB)

10kHz 20kHz 50kHz 100kHz 1MHz
Zc=1/2πf・C(kΩ) 130 66 27 13 1.3
位相差(度) 0.1 0.1 0.3 0.7 6.8
|e2|/|e1| 1.0000 0.9999 0.9993 0.9972 0.7986
減衰(dB) 0.00 0.00 -0.01 -0.02 -1.95

ということで、コネクトケーブルのインダクタンスや線間容量による高域の減衰は、とても人間の聴覚が検知できるようなレベルではないことがわかる。

その他の原因

表皮効果:スピーカーケーブルのところで述べたとおり、表皮効果により銅線の抵抗値は100kHz 位になると2倍程度増加する。しかし、この場合は、抵抗値自身がR1 に比べ小さく、負荷抵抗も大きく、さらに影響は小さい。

振動の影響: 比較的大電流の流れるスピーカーケーブルでも振動の影響は無視できることを示したが、ほとんど電流の流れないコネクトケーブルではなおさらである。また、スピーカー自身の作る振動(音)やその他の外部振動も、行き返りの線が同じモードで振動する場合は仮に磁場が存在しても起電力を生じないし、線間間隔の変わるような振動モードもスピーカーケーブルの解析から類推するととても検知できるような電圧を発生するとは考えられない。

雑音の影響 コネクトケーブルで一番問題となるのはノイズに対するシールド効果である。もともと、シールド線というのはマイクやアナログピックアップなどmV オーダーの微弱電圧を扱う信号線に外来ノイズが混入することを防止するために開発されたものである。シールド効果としては、外被網線が密なほどいいわけであるが、そもそも、CDPやプリアンプの出力は1V オーダーのハイレベル信号で外来ノイズは普通はそれほど心配することはない。しかし、これも電源ケーブルと同じく、例えば放送局の近くや、その他強い電波源が近くにある場合も考えるので一概には言えないだろう。

ところで、皆さんの装置のノイズ事情はどうでしょう? CDPを停止状態にしておき、トウィターに耳を近づけボリュームを上げると(或いは絞った状態でも)大なり小なり何らかのノイズが聴こえませんか? 私の装置(買ってから5年経つアンプ)の場合ボリュームがいつも聴いている位置近くおよび80%(いわゆる3時の位置)近くでかすかながら聴こえるホワイトノイズが最大となる。つまり、ノイズの最大原因はボリュームにあることがわかる。もし、あなたの装置でもノイズが聴き取れたら(全く聴き取れなかったらノイズの問題は無いのでケーブルについても心配する必要は無いわけである)少し長めの安物ピンケーブル(ホームセンターで売っているミニコンポ用の安価品など。ただし、新品でないと後述の接点の問題があるので不可)を買ってきて現用のケーブルに替えて見てください。もし、変化(ノイズの増加)があるなら、ケーブルがノイズを拾っている可能性があります。この時は、シールドの確かなケーブルを使用すると効果があるかもしれないが、それよりノイズ源を突き止めそれに対処する方が先決であろう。

注 バランスケーブルの効用
バランスケーブルというのは、シールド用の網線の中に2本または3本
(内1本はアースレベル伝達用に使う)の芯線を持つケーブルで、マイクを引き回して使用するときに必要とされるものである。つまり微弱な電圧信号を外来のノイズからより効果的に守る働きをする。その理由は、外来の誘導性ノイズは行き返りの線にほぼ同じレベルで発生する(コモンモードノイズ)が両者は同位相で変化するので互いにキャンセルし回路に流れるノイズ電流(ノーマルモードノイズ)にはならない。しかし、普通のシールド線だと芯線と外皮の直流抵抗の違いなどから完全には打ち消されず大きなコモンモードノイズの一部がノーマルモードノイズに転化し結局雑音を拾うことになる。しかし、バランスケーブルだと誘導性ノイズを大地アースされた外皮網線で防ぎ、さらに侵入する電磁波は2本の信号線を完全に等しくすることによりノーマルモードノイズに転化することを防ぐ。このように、微弱信号を取り扱う時には大変有効であるが、コネクトケーブルとして使うときはどうだろうか? 実はプリアンプは普通アンバランス回路なのでバランス入力をアンバランス入力につなぐ時、トランスかオペアンプなどの回路素子を途中に挟む必要がある。いわば余分な夾雑物を間に挟むことになり音質劣化の原因となりかねない。どちらを取るか? 結論的にはCDP−プリアンプ間を結ぶのにバランスケーブルは必要ない。

ターミナルの接触

スピーカーケーブルの場合ケーブルの接続は普通ネジを締めで行なう。従って、時々締め直しをし、錆など生じていないかを確かめておけば接触抵抗値が大きく増加するといったことはまず心配する必要はない。一方、いわゆるピン型端子の場合はどうだろう。この場合はネジ締めでなく、金属のバネ力で接触を保っているだけなので、永年使用しているうちに、あるいは取り扱いの誤りにより変形し、バネ力が緩んで接触不良を起こしている心配がある。特に、機器側のメス端子の内部などは簡単に調べられないので思わぬ接触不良を起こしている可能性があるので注意が必要である。また、しばらく使用していなかった機器側端子の接点が錆びている可能性もある。対策としてはピンターミナルはなるべく丈夫そうで、かつ金メッキ注1を施してあるものを選ぶことがくらいであろうか。トラブルが起こっている(例えば、ケーブルをゆすったりピンを手で押し付けてみた時ノイズが発生するなど)場合はケースバイケースなので一概にはいえない。ターミナルの接触不良による音の変化は自分でも経験があり、また物理測定の経験からもコネクターの接触不良はしばしば経験しておりノイズの原因となる。またケーブルとコネクター間の半田付け注2、圧着不良が原因になることもあるので注意する必要がる。

なお、接触不良が音質に及ぼす影響は直流抵抗の増加だけでなく、むしろ抵抗値の不安定性によるノイズの発生である。アンプのボリューム起因のノイズは可変抵抗器の可動片と固定片間の接触不良から起こるものであり、全抵抗値に対して平均接触抵抗値が小さくてもそれが時間的に揺らぐことによりノイズが発生し音質劣化の原因となる。

注1 端子のメッキ材
ピン端子は普通錆び防止の為メッキが施してあるが、普及品ではニッケルメッキ、最近のオーディオ用標準品は金メッキが施してある。一部高級品にロジウムメッキを施したことをうたい文句にしているものがあるが、実はピンケーブルにロジウムメッキを施すのは高くつくだけでメリットはない。ロジウムメッキは確かに高級接点用のメッキ材であるがその特徴は硬度が高くかつ高温に強いことである。そのため、頻繁にオン・オフを繰り返しかつスパーク放電が生じるようなリレー接点用として最適である。しかし、硬度が高いことは接触面積の点で柔らかい金メッキに劣り、ピンケーブル用の端子のようにあまり抜き差ししない、かつ温度が上がる心配のないところで使うには金メッキの方が適している。ニッケルメッキでも問題ないが、少し錆びやすく、接触抵抗も大きいので、それほど高いわけでもないので金メッキ品を使うことをお奨めする。なお、金は錆びることはないが、油汚れ等がついていると接触抵抗が増えるので、有機溶媒
(アルコール類等)で良くふき取ればよい。また、機械的強度が弱いのでメッキがはげ易いので注意が必要である。決してサンドペーパーやコンパウンドなどで磨いてはならない。

注2 ハンダの音?
端子に限らず電流がハンダ部を通る時に音が悪くなるという話を聞く。結論的にはこれは全く根拠のない迷信である。 普通のハンダは鉛と錫の合金であり確かに比抵抗値は銅に比べ10倍ほど大きい
(〜150nΩm)。さらに、鉛と錫が主成分となると悪いイメージを与えるのもわからぬわけではない。しかし、比抵抗値が高くとも、ハンダ部の長さはごく短く面積は比較的大きい。下手なハンダ付けで、ハンダ層が厚さ 0.5mm 面積10mm2 とした場合でもハンダ部の抵抗値は10μΩ程度で接触抵抗値の100分の1くらいである。ケーブルについての迷信のページで述べたように、可聴周波数帯では材料が影響するのは直流抵抗値のみであり、周波数特性、位相特性などには一切影響しない。さらに、接触抵抗のように変動がないのでノイズの発生源にもならない。ただし、半田鏝が過熱して銅表面に酸化物不動態が生じうまく半田が乗っていないとき(界面が合金化していない場合)は機械的にはつながっていても電気的には大きな抵抗値を示すことがあるので注意が必要である。

ディジタル・ケーブル

CDプレーヤーの機械部(トランスポート)とDAコンバータ(DAC)間を結ぶケーブルのことで通常約4MHz 程度の矩形波(下図参考)を伝送するのでディジタル・ケーブルと呼ばれている。ただし、私はCDプレーヤについてはDAC部がオーバーサンプリング+適切な補間を施した中級品以上であれば単体型のプレーヤーで充分であえてセパレート型を使うメリットはないと考えているので、自分自身使用していない。

CDプレーヤーのディジタル出力
時間軸:0.2μsec/Div
縦 軸:0.2V/Div




ジッター ジッター波形 ジッタースペクトル

ディジタルケーブルは上図のような信号を伝達するわけであるが、ディジタル信号は 0と1を正確に伝えればいいので波形の歪みはあまり問題にしなくてよい。パソコンの世界では GHz (1000MHz)の時代4MHz のディジタル信号の伝送など楽勝で、ディジタルデータが誤って伝えられことは考えられない。しかし、歪が全く関係ないかといえばそうでもなく、0と1を伝えるタイミングのずれ、いわゆるジッターが問題となる。具体的には、下図に示すように、ある基準電圧(この場合0V)を切る時間軸の揺れ(図の青線)がジッターである。

ジッターとジッター波形

右図上はジッターを含んだディジタル信号の波形を表す。黒実線が歪のない理想的矩形波で赤線が実際の信号(ただしジッターが誇張してある) 横青線がジッター量を表す。

下図は横軸を時間、縦軸にジッター量を表したもの。これをジッター波形という。

上の、ジッターを含んだディジタル信号をD/A変換すると、ジッター波形が元のアナログ信号に加わり、歪またはノイズとなる。

そのアナログ信号をFFT(高速フーリエ変換)によりスペクトル解析したものをジッタースペクトルといい、元のアナログ信号と相関したスペクトル成分は歪、相関しない成分はノイズとして検出される。

CDプレーヤーの特性表に記してある、全高調波歪率やS/N比にはCDP内部で生じるジッター起源の歪、ノイズも含まれている。少なくとも中級品以上の製品であればこれらの値は聴覚の検知可能域をはるかに下回っているはずである。下に示すように、ケーブルに起因するジッターによる歪やノイズはさらにこれよりも小さい。

このような測定は学会レベルで行なわれており、下記のサイトに研究報告が見られる。

http://adlib.rsch.tuis.ac.jp/~akira/hit/papers/

このグループの最近の報告にディジタルケーブルについての測定例もあり、同軸ディジタルケーブルとアナログ用ピンケーブルを比較するとジッタースペクトルに違いは検出されるが(別の報告で、普及型と高級ディジタルケーブルの比較測定では差は検出されなかったそうである)、その絶対値(数nsec)は人間の検知限(数百nsec) をはるかに下回りケーブルの違いが音質に差をもたらすとは考えられないとのことである。ちなみにこの報告にはマスタークロック起源のジッターの影響も調べられており、これも検知限をはるかに下回る値を示しており、最近一部で流行っているクロック交換による音質向上もこれが直接の原因であるとは考えられないことを示している。

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