無酸素銅(OFC)と超高純度単結晶銅(8N−PCOCC)の違い

OFC 8N-PCOCC で音の差があるとすれば、どういう原因があり得るかを考えてみました。まずいえることは、構造がまったく同じであればケーブルの導電特性にやはりごくわずかな(1%以下*注1)直流抵抗の差以外には考えられません。その理由ですが、金属の電気伝導は量子力学が支配する世界であり残念ながら簡単に説明することは出来ません。ここは信用してください。音質の差、すなわち周波数に依存する交流インピーダンスに差がある場合は、電磁気学の教えるとおり、なんらかの構造の違いがあるものと考えるべきです。さて、金属を超高純度にすると、かなり顕著な効果として、機械的性質と耐腐食性が変化します。機械的性質が変わるのは結晶粒が肥大化し単結晶に近くなる結果、変形しやすくなります(*注2)。このような素線で多芯線(裸線の多芯線を想定しています)を作ったらどうなるか?考えられることは隣り合った線同士が互いに変形し、接触面積が増え、線間の導通が良くなるということです。一方、耐腐食性(酸化し難さ)は一般に純度が増すほど強くなるといわれており、この面でも線間の導通をよくします。従って、純度が増すほど多芯線が単芯線に近づくことを意味し、表皮効果がより顕著になることが考えられます。すなわち高域の減衰がより強くなるということです。以上はあくまで『定性的』説明であり、量的にどれくらいの効果があるかを見積もるのは難しく、実際に測定しないとわかりません。おそらく50Hzくらいまではほとんど差が出ないのではないかと思います。いずれにせよ、違いがあるとすればやはり、一見同じ構造でも、実質的には構造に違いが生じているためと考えられます。
 
なお、最近、銅の純度を高める技術が飛躍的に進歩していますがその間の事情を少し説明しておきます。決してごく一部のオーディオマニアの要望を満たすためではありません。
実は工業的に大きな需要が見込まれるからです。
一つは集積回路のリード線用です。現在は金線を使っていすが、銅にすると抵抗値が少なくなりその分発熱が抑えられ、かつコストも下がるので実用化が望まれています。ただ、金に比べ硬く加工が難しいこと、腐食しやすいことなどが難点です。ところが、銅を超高純度にすると、変形しやすくなりかつ耐腐食性が向上することが知られており、大変有利になるわけです。
もう一つは、MRIなどに使われている超伝導線のシース(被覆)材です。超伝導線は稀にですが、電流を流しすぎたりすると突然超伝導性が失われことがあります。(クエンチといいます)このとき、その被覆材である銅がバイパスの役割を果たします。当然その抵抗値は低いほどいいわけです。ところで、先に、純度を上げることによる抵抗値の減少は温度変化に比べわずかだといいましたが、超伝導を実現する液体ヘリウム温度(4.2K)では事情が全く違います。この温度は絶対零度に近く、熱振動による抵抗はありません。従って、抵抗の原因は不純物や格子欠陥のみとなり、純度を上げたり、単結晶化するとそのまま抵抗値の減少につながります。(ちなみにこの温度での抵抗値は室温の300-3000分の1となり、この値(RRR)を純度の目安にします。)

注1. 正確に言うと、通常のOFC(99.99程度)銅の場合、不純物・格子欠陥による抵抗は、室温での結晶の熱振動による抵抗の300分の10.3%)というデータがあります。つまり、さらに純度を上げても最大0.3%以上は小さくならないわけです。ところで、室温が1℃下がると抵抗は0.4%低下します。冬になると10℃は下がると思うのですが、その場合は4%も下がるわけです。要するに、純度をこれ以上高くすることは無意味なのです。一方、電流は抵抗の原因が不純物であるのか、熱振動であるのかには関知しません。音質に関係あるのは周波数に依存する交流インピーダンスで、これは全てケーブルの構造によって決まります。ここら辺が、物理の世界の常識とオーディオ界の常識?が大きく異なるところです。

注2. 金属の変形には、元へ戻らない変形(塑性変形)と弾性変形とがあります。ここでいう変形しやすくなるというのは塑性変形しやすくなるということで、で弾性定数は純度が4Nから8Nに変わってもほとんど変化しません。

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