CD のデータ処理と誤り訂正について 2005.8.21 改訂    オーディオの科学へ戻る

本文に簡単なCDのディジタル録音再生について述べたが、実際のCDにおける信号処理はもっと複雑で高度なものである。私自身この分野についてはあまり知識がなく、啓蒙書に書いてある程度のことを書いたにすぎないのだが、これを読んだ人からの指摘もあり、もう少し調べてみた。以下の説明は主に中島平太郎著「ディジタル・オーディオ読本」(オーム社)を参考に関連する部分を自分流に解釈したものである。

まず、CDに記録してある信号は、音の波形をA/D 変換した信号だけでなく、誤り訂正信号や区切り信号を含んでいる。さらに、誤り訂正信号をを含めたデータは、本文の図に書いたように、音の波形の進行順に、時系列に沿って記録されているのではなく、ある瞬間の音のデータ(1ワード)がディスクの円周に沿ってある範囲(数mm)に分散して記録されている。さらに、記録の最終段階で、(0000・・)や(1111・・・)といった同一データが並んだときに読み取り誤差が出ないようにEFM(Eight to Forteen Moduration) という変調が加えてある。再生するときは読み取った信号にEFM 復調を施した後、バッファーメモリーに記憶し、時系列信号を再構成する。この時、誤り訂正信号を参考にし、もし元信号と違っていれば誤りを訂正してD/Aコンバータに出力する。このようにすることにより、ディスクに傷などがつきある範囲(2.4mm)のデータが失われても、周りにあるデータから失われた部分のデータを再構築することが可能となる。さらに、万一訂正不能なデータが検出されても、その前後のデータで補間する(平均値を取る。円周に沿って8.2mm 範囲の訂正不能データについては補間可能)。具体的な訂正原理・方法はかなり複雑で高度であり省略するがクロスインターリーブ・リードソロモン符号(略してCIRC サーク)と言う方式が採用されている。

この方式で、市販CDで想定される標準的な誤り発生確率 10-4に対し (この値は決して小さくはなく、ビットデータの読み間違いはかなりの頻度で生じる)、訂正不能な誤りが発生する頻度は1ヶ月CDをかけ続けても1ワード程度に押さえる機能を持つそうである。この場合も前後のデータで補間されるので実際上ディジタル部分に関してはCDプレーヤーの価格に関係なく正確に読み取れるといってよいであろう。

この訂正機能を実感するために次のような実験をしてみた。まず、廃棄してもよい音楽CDをさわりの部分のみ再生してみる。次に、CDを取り出し縫い針でCDの内側から外部に向けて半径方向に引っかき傷をつけ、もう一度再生してみた。この場合アナログLPなら当然傷の部分で「ピチッ」という強烈なノイズが出るわけだが、CDの場合そのような音は全く聞かれない。しかも、ちょっと聞いただけでは傷がついている影響はほとんど感じられない。さらに、油性マジックペンで1mm幅程度の線を同じく半径方向に書いてみた。この場合も、ほとんど影響は感じられなかった。さらに、エスカレートし3mm幅程度の黒線を書いて再生しようとしたが、さすがにこの場合はノイズが入るのでなくCD再生がスタート不能になった。このように、CD再生に際しては強力な誤り補正機能が働いていることが実感できる。

なお、再生不能になるのは、最初に読み込むCDの最内周には音楽データではなく、トラック数や演奏時間を記録した、いわゆるTOCデータが入っており、補間が効かないので2.4mm以上の黒線でストップするが、最内周1mm程度を避けると5mm 程度の黒線を書いても再生可能である。よく、CDに傷を入れたり、マジックを塗ると音がよくなるという話を聞くが、可能性としては補間が頻繁に起こるような状況が実現すればあり得る(もちろん良くなるわけではない)が上記のことから確率的にまずあり得ないと思って良かろう。ただし、CDはこの訂正補間機能により、半径方向の傷や汚れに対しては強いが、円周方向の汚れには限界があり、目にははっきりした汚れでなくとも、レーザービームの反射を乱す場合があるので、広い範囲に渉る汚れ、例えば指紋などが付かないように取り扱いには細心の注意が必要である。

なお、パソコンで使うデータCDの場合は、何しろ1バイト の誤りも許されない厳しい条件なので、音楽CDよりさらに強力な誤り訂正機能が働いている。(より多くの誤り訂正信号を使っている) さらに、この場合は音楽CDと違って時間的制約がないので、訂正不可能箇所があれば、補間でなく、もう一度読み直すという操作(リトライ)をするのでほとんど誤りなく読み取れる。データCDの場合例えば、ワープロデータの場合誤りがあれば、素人でも直ちにわかるが、音楽CDの場合は、高級な測定器が使えないとすると、どれほど誤りがあるかについて、敏感かもしれないがあいまいな聴覚で判断するしかないわけで、非科学的な議論が入り込む温床となっているのではあるまいか?

例えば、一部の高級CDプレーヤーなどで、回転むらを出来るだけ少なくしようということで? 回転部を重くかつ精巧に作っているものもあるようだが、上に述べたように、回転むらは直接的にはDAC出力に影響せず、恐らくLP時代のターンテーブルの感覚に訴え、高級感を出そうとする営業政策ではないだろうか? (オーディオ雑学帳 9心理効果参照)

追記

なお、さらに詳しい実測のレポートが Web 上にありました。

http://www.k3.dion.ne.jp/~kitt/craft/audio/er_count/operate.html

こちらは測定に使った回路の解説です。

http://www.k3.dion.ne.jp/~kitt/craft/audio/er_count/index.html

この報告によると、一般のCD については訂正不能なエラーは 1bit たりとも見出せないそうです。

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