読後メモ (c)Tirom!,2002
Risse-Kappen (1995).
Bringing the Transnational Relations Back In:introduction.
Bringing the Transnational Relations Back In. Cambridge University Press. 3-36.
メニューにもどる
(2002.05.18-)
- I.追求される問題は何か?この問題にどのように答えようとしているのか?
- 1.問題:「transnational coalitions and actors」が、目標達成に成功・失敗するのは、どんな国内的・国際的状況下においてか?(p5)」すなわち、transnational relationsが、各国政策へ及ぼすインパクトの度合いは、どのように決まってくるのか?
- 2.答え方:「transnational actors and coalitions」が、各国の政策に及ぼすインパクトは、以下のニ点から決まってくる。p6
- 要因1:「国内構造(domestic structure)」の差異
- 要因2:「国際的な制度化(international institutionalization)」の度合い
II.問題とされていることの精緻化
- 1.そもそも、"transnational coalitions and actors"とは、何を指すのか?
- (1)"transnational relations":
- 明確に特定されるアクターや、アクターのグループによって支えられ、少なくとも、二つの社会ないしはnational governmentのサブユニットをリンクさせるもの。
- (2)ここで考えるtransnational coalitions and actors:
- 自らの活動の「ターゲット」国で、特定の政治目標達成を試みるという意味で、目的を持ったアクター
- 次の二つのタイプを含む
- (i) 手段・経済上の利益によって、動機づけられたアクター(多国籍企業)
- (ii)原理化された思想・知を促進するアクター(INGO,人権団体・平和運動・中央銀行などのtransnational coalition・官僚間のtransgovernmental coalition)
- *"transgovernmental coalition"とは?:
- 一国としての決定から独立した自分自身の阿片だを追求する少なくとも一つのアクターを含む政府官僚のネットワーク
- →国家間関係としてとらえられうる政府アクター間のネットワークは除外。
- p9
2.transnational actorを制度化の度合いで分類
- 制度化高い=transnational coalition:
- interactionが長期にわたって定期的に起こっているもの
- 例:INGO, 多国籍企業など
- →暗黙の同盟(tacit alliance)は除外
制度化低い=transnatinal alliance:
- インフォーマルな理解・フォーマルな理解に基づく、暗黙のルール・明示的ルールの両方を基礎に展開するもの
- 例:epistemic communities, transgovernmental coalitionを含む
3.この問題提起の意義:
- 経済力で優位にある多国籍企業が、他のtransnational actorにつねにかつということはない。
- 逆に、epistemic community,transnational coalitions , INGOが、経済的に強い多国籍企業に、つねに勝つというわけではない。
- このことは、「transnational relationsの制度化の度合い、transnational actors の経済的影響力だけが、国家のプラクティスに政治的インパクトを及ぼす」という命題を否定する。
- では、transnational relationsの政策へのインパクトは、いったいどのように決まってくるのか?
- この問題に答えるべく、国内政治と、国際性度の両面をみていく必要がある。p13
問題への回答:詳論
- 1.「国内構造」→ transnational actors の政策へのインパクトの強さ
- 歴史社会的な新制度論="Bringing the States Back In","Between Power and Plenty"から発展させて、枠組みを形成
- (1)「国内構造」をどのように限定化するか?ー従来の議論との違い
- 国家・社会・国家-社会関係の制度的特徴に限定。説明することと、説明されることの区別をしっかりつけるために、「国内構造」」にpolicy outcomeが含まれないように注意。
- 政治文化・規範を含む
- 例:日本の意志決定上の規範"reciprocal consent"
- ドイツ"social partnership",アメリカ"liberal pluralism"など、明示的規制に埋め込まれた規範、決定上の「適切さ」を定義する政治文化の構成要素 p20-21
(2)説明変数たる、「国内構造」の分類→TABLE1.1
- 「国内構造」は、セルの中の、
- state-controlled
- state- dominated
- stalemate
- corporatist
- society-dominated
- fragile
の六つのカテゴリーに分類される
- それぞれのカテゴリーは、(Political institution, society, policynetwork) の三つの軸から特定される。
- (i) Political institution:centralized/fragmentation(p21-22)
- "centralized"の定義:政治制度・文化によって、政治システムの頂点に行政権力が集中。そこでは、政府は、議会からかなりの独立性を保ち、国家は市民の必要のcaretaker(世話人<暫定的な>)として強調される。
- (ex)官僚の内部抗争の有無
- 議院内閣制 vs 大統領制
- 中央集権 vs 連邦制
- (ii) society=市民社会における要求形成の構造:strong/weak(p22)
- イデオロギー的 and/or 階級的クリーヴェイジに関する内的分極化の度合いを示す軸
- "strong society":イデオロギー的階級的クリーヴェイジが欠如し、「政治化」した市民社会が政治運動に容易に動員されえて、ビジネス・労働・宗教といった集権化された社会組織が存在
- (iii)policy network:consensual/polarized (p22)
- 国家と社会をつなぐ制度、coalition-building processを規制する規範。とくに、政党、意志決定の作法について
- "consensual":強力なintermediate organization(政党)、妥協思考の意志決定上の文化が存在する
- "polarized":しばしば幣束状況に陥るような、distributive bargainingが目立つ
(3)国内構造と、従属変数=transnational actorsのpolicy impactとの、対応関係
- 従属変数は、(i)ターゲット国の政治システムへのアクセスの可能性と、(ii)"winning coalition"を形成して政策を望ましい方向へ変更する可能性、の二つに分けて考えられている。
- TABLE 1.2をみよ。
2.国際制度→transnational actors の政策へのインパクトの強さ(p32)
- では、「国内構造」を要因とした説明と、「国際制度」を要因とした説明の間の、かねあいは、どうなっているのか? p30
- (i)国際的合意によって規制されていない状況→policy impact の差は「国内構造」だけでほとんど全て説明可能
- (ii)協力的に制度化された状況→政府のtransnational actorへの制約減少(「国内構造」だけでは説明できないということか?)
報告者コメント
- 1.「国内構造」の捉え方
- 「国内構造」の分類のあいまいさ
- 制度のみならず、「政治文化」までも含めて分類するが、「政治文化」の差は、誰もが納得できる形で、特定化されていない。その方法も示されていない。
- 「国内構造」という概念によって、一国の政治パターンを全体的に把握してしまうことの問題点
- 「国内構造」は、一国全体の政治過程の特質を表すように概念化されている。これでは、transnational actorsのpolicy impactの差が異なるイシュー間でみられないことを前提としなければ議論が成り立たなくなる。しかし、論文の中でもイシュー毎の差を意識した記述がみられ、矛盾している。また、現実を考えても、イシュー毎に、政治過程に差がみられ、したがって、transnational relationのインパクトに差があることは容易に想像できる。(どのイシューでもtransnational relationsのpolicy impactが同じであると考えるのは難しい。)
Debate about the Stateでの学説史にかんする問題(p17-20)
- 本当に、かつて、主流派の政治学は、"society-centered"だったのか?→Almond, G. A. (September1988). メThe Return to the State.モ American Political Science Review 82(3): 853-874.
- "state-autonomy"の議論は、時間・空間を超えて「国家」は自律的であると論じがちであり、国によって、イシューによって、時代によって、autonomyは変化することを意識しておらず、この点が欠点であるという。しかし、Skocpol, T. (1985). Bringing the State Back In:Strategies of Analysis in Current Research. Bringing the State Back In
(Cambridge University Press) 3-37.(p13)は、autonomyは、国によって、イシューによって、時代によって変化すると指摘している。
2.transnational relations は、どうか。
- 『日米オレンジ交渉』的な、国境を越えたアライアンスは、視野に入るのか?(あるいは野村証券信託参入問題)
- 利益集団が他国の国内政治に直接圧力をかけて他国の政策を変更させるというより、他国の利益集団に他国政府に圧力をかけてもらって、今度は他国政府が、自国政府に圧力をかけるというパターン(transnational relations→interstate level)
3.制度の偏重・利益の欠落
- 基本的には、国内であれ、国際レベルであれ、制度から、transnational actorsの国内政治へのアクセスのたやすさと、ターゲット国内部でのwinning coalitionの形成能力を説明しようとしたのが、本論文。
- しかし、「利益」を導入しなければ、どこと、どこがcoalition,allianceを組むかは、わからない。また、複数の、利害の対立するtransnational coalition,allianceが形成・対立したケース(たとえば、日米オレンジ交渉)が考えにくくなるのでは?(transnational coalition,allianceの特定化。さらに、どちらに、どのアクターがつくのか。どちらが多数派になるのか。どちらが、勝つのか。)また、イシュー間のリンケージは、どう考えるか。(日米円ドル交渉(円ドルレートの適正化イシュー)→野村の信託参入(日本の国内金融規制イシュー)・米銀の信託参入<野村モルガン合弁信託会社設立>)
メニューにもどる