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     ■ Happy birthday
サユリ★張様

   
 
めっきり寒くなってきたのでマフラーを買った。
自分のお気に入りを探すために、男のくせに何軒も店を周り、5件めにしてやっとコレ!というものを見つけた。
ちょっとごってりとしたマフラーだったけど、するととても暖かくて1人でも少しだけ幸せな気分になれる。


いつもは屋上でゾロを待つサンジなのに、ここ数日はゾロに断りを入れて1人で帰宅している。
とはいっても、まっすぐ家に戻ることはない。
学校の最寄の駅から、自宅とは全く逆方向の電車に乗って、栄えた街に出ていた。
今日でそれを繰り返すこと5日。
早くみつけなければ期日に間に合わなくなってしまうので、サンジも当然焦ってますますどれを選んでいいのかわからなくなってくる。



今日は日曜日で、ゾロは休日稽古。
学校には少しだけ顔を出して、ゾロを安心させ、またいつもと同じパターンで街に出て行く。
タイムリミットまで明日の朝。
だからもう今日で決めてしまいたかった。
時間がない。
そう思うとまた焦る。
堂々巡りだ。



手袋?
マフラー?
帽子?
洋服?
財布?




ゾロに似合いそうなものを吟味していくのは、いくら時間があっても全然足りない。
できることなら、全部包装してほしいくらいで…。
でもそんなことになったら、サンジの財布の中のお金では足りなくなってしまう。
「何買ったらいいんだろ…」
もうこの台詞を何度言ったことか。


「今年で何度目だっけ…?」
ゾロと過ごした時間は短いから、記憶も浅い。
「3回目だ」
まだ3回目。
でもやっと3回目。

ゾロの生まれたお祝いをできるのは。

1回目は気持ちが通じた通じた次の日が誕生日だと知って、慌ててケーキを焼いてあげたら「甘いの嫌いなんだけど」とあっさり言われて撃沈した。
悲しくなって泣いてしまったら「一口だけ」と食べてはくれたけど、サンジはそれから数日は立ち直れなかった。
あの頃は、お互いのことがまだよくわからなかったので、ゾロはあんまり優しくなかったのを覚えている。
自分が何かしでかす度にいつも怖い顔で怒鳴って、泣くとすぐに謝ってきて。
不器用でどう接していいのかわからなかったんだな…と今ではちゃんと笑って許してやれる。
それに今は、その穴も埋まって山になるくらい優しくしてもらっているから、昔のことなんて、サンジにとってはどうでもいいこと。
こんなセンチメンタルな気分になるのは、特別な日を目前にしたイベントみたいなものだ。


大型デパートに入れば、そろそろクリスマス商戦なのか、ディスプレイも赤と緑の装飾品でデコレートされ始めていた。
とりあえず目ぼしいものを見つけるために、店内をウロウロ。
求めるものは足を使わなければ、見つかるものも見つからない。

(傘なんかどうかな?)
これから寒波が襲う時期。
雨もさることながら、雪だってちらほら降ってくる季節に突入する。
骨組みが頑丈な傘だったら、この先数年でも使ってもらえて、そうしたら、それを見るたびに今年のゾロの誕生日のことを思い出せて、記憶が風化することもないかもしれない。
でっかい傘だったら、自分も一緒に入れてもらったりできるし…という下心も無論ある。
「ゾロが似合いそうな傘…」
シンプルなものだったらどれも似合いそうで困ってしまう。
「どういったものをお探しですか?」
まるでお約束といわんばかりに、満面の笑みを連れて店員が声をかけてきた。
買う気がさらさらない時は、ちょっと機械的な対応は迷惑千万だが、迷い時は女性店員なら女神に、男性店員ならそれなりにかっこよく見えてしまうのが人間というものだ。
「誕生日に贈りたいんですけど…」
「お友達とかですか?」
「いえ…恋人…です…」
「それじゃあ…」
女性店員は、サンジの容姿から相手の容姿の検討をつける。
男性にしてはキレイな顔だちで、しかも可愛らしくてサラサラの金髪ヘアなら、恋人だってそれ相当の見てくれを持ってない均衡を保てない。
「これなんかどうですか?」
と目ぼしいものを見つけてサンジの前に出された傘は、白い生地に淡いピンク色のハートマークが点点と並べられた、少女チックなものだった。
いくらなんでもこれじゃゾロは使ってはくれないだろう。
「あの…もっと地味でシンプルなものがいいです…モスグリーンとか黒とか」
「でも女性の方でしたら、あまり暗い感じの傘はお使いにならないほうがいいと思いますよ」
「女性じゃないんで…」
「はっ?!」
何もバカ正直に答えることもあるまいに…。
店員は一瞬あっけにとられたような表情を浮かべたが、流石万人を相手にしているだけあり、臨機応変さと嗜好の理解は普通の人以上にあるようだった。
営業スマイルを引きつらせることもなく「お待ちくださいね」と、サンジが望む男性用の地味でシンプルな傘を吟味してくれた。
いくつか選ばれた中から、群青色の傘を手にする。
もち手が湾曲になっておらず、岩のようにボコボコしているが、コンビニで売られているような使い捨てには到底及ばないくらいしっかりした骨組みが価格と比例している。
これだったらゾロも喜んでくれそうだ。
開いた時に大きさを計る為に、軸のポッチを押した。
何の確認もしないで…。

バサッという音。
傘が開く。

そしてズズッーという音。


「お…お客様…っ!!」


    バリンッ…


なんだか聞きたくもないような、変な音が館内に響き、そこらへんの客が一斉にサンジのほうを振り返る。




「あ…」


白い床の上には。
壺が真っ二つに、気持ちいいくらい真中から割れて転がっていた…。
傘を開いたとき、骨が隣りの陶器売り場のツボを棚から引きずって落としてしまったらしい。
価値などサンジにはさっぱりだが、たぶん数百円では到底買えないような壺…。
それがサンジの所業で破壊されてしまったのだ。

「あーっ!!」
叫んだところでもとには戻らない。
でも叫ばずにはいられない。
周りをキョロキョロ見渡したら、オバサマ達が数奇な目でサンジを見ていた。
中には哀れんでいる視線も…。
(ど…どうしよう…)
「あ…あの…」
さっきの女性店員を見ると、これは流石に笑顔も崩れまくって処置の仕様がないといった感じだった。


「ご…ごめんなさい…」


情けない…。
泣きそうだ…。

でも泣いても、ゾロはここにはいないから誰も助けてはくれる人なんかいないと…そう思った。
「お客様」
しかし世の中は捨てたもんでもないと、安心できるくらい、太陽のような明るい微笑みで、声をかけてくれる人がいる。
ちょっと年配の陶器売り場の男性店員。
その笑顔は眩しすぎてサンジには正視できなかった。

「ごめんなさい…わざとじゃないんです…」
「わかっております。わざと高価な壺をカチ割るような人もそうそういないでしょう」
そう言われれば全くその通りだ。
「それでですね…お客様。こちらの商品…」
「え?」


「お買い上げということでよろしいですよね?」


壺を指しながら店員が言う。
物腰は究極の柔らかさだが、要するに弁償しろと。
「あの…あの…───ハイ…」
自分の不始末は、ゾロがいない時くらいは自分で片付けないといけない。
シュンと返事をするサンジ。
だが、弱り果てたサンジを前にしても、男性店員は同情することもなく、そして哀れむこともなく、指を4本立てた。



秋空同様、サンジの懐も一気に寒くなってしまった…。










知らぬフリも優しさのひとつ。

数日前から、サンジが一緒に帰宅しなくなって一瞬だけ訝しんだが、頭隠して尻隠さずのサンジが、自らの行動を間接的に暴露するのはいつものことで、自分へのプレゼントを探しに行ってるんだな…
ということはすぐにわかった。
だって、毎日のようにほしいものをしつこいくらい、2時間ごとくらいに聞かれたら、誕生日を目前にした人間なら、いくら鈍感なヤツだって気がつくだろう。
物欲が激しいくらいに欠けるゾロには、これといって欲しいものなんてない。
サンジがいてくれる以上、他のことを望むことは贅沢この上ないというものだ。

しかし、おかしい…。

ゾロのサンジのお見通し行動パターンには、彼は既にゾロの自宅に赴いて、「明日は部活を休んでウチにくるように」ともじもじしながら命令(?)してるハズだった。
そのサンジが未だに現れない…。
「何やってんだ…アイツ…」
時計を見れば、そろそろ明日。
携帯に電話を入れても、メールを入れても音沙汰がないので、まさか事故にでもあったのか、もしや誘拐されてしまったのか…と不安が募る。
もう一度コールしてみる。

(でろよ…)

イライラしながら待つこと4コール目。


『…ゾロ…ぉ…』
「おい、どうした?今どこにいるんだよ?」
『ひっ…く…ゾロの…家の前…』
「家の前?」
カーテンを捲り、階下の様子を探る。
すると向かいの電柱に、ひっそり佇むヒヨコ頭が見えた。
「待ってろっ!!」
携帯に向かいがなりたて、ゾロは滑る勢いで階段を降りると、一目散に玄関のドアを開ける。
「ゾロぉっ!!」
ひんやりとした外気を感じることもなく、くしゃくしゃの顔のサンジが胸の中にヒシッと飛び込んできた。
気が遠くなるくらいに待ちわびた人を、今やっと見つけたかのように、しがみついて離そうとしない。
いつからそうしていたのか、身体は冷え切って抱きすくめると自分の体温が奪われてしまいそうに冷たかった。
しかも泣いているとなれば、ただ事ではない何かがサンジの身に降りかかったのだろう。


「こんな時間まで何してたんだよ?!ケータイに連絡しても全然でねえし。
心配させんじゃねえよ」
「ゾロの…えっく…誕生日プレゼント…買いにいったら…お店の壺割っちゃって…ひ…くっ…弁償…したら…プレゼント…買うお金がなくなった…」
聞くと4万の壺の代金を支払うハメになり、現在の財布の中の残高はたったの29円だという。
どういう経緯で壺を割ったのか、その場にいなかったゾロだが、付き合いが濃く長いせいか、鮮明にドジッぷりを遺憾なく発揮するサンジの光景が目に浮かんだ。
「ごめ…っ…ゾロ…」
「てめえが無事ならいい。気にすんな。明日祝ってくれるんだろ?それだけで充分だぜ?」

不始末の後はゾロの優しさがいつも身に染みる。
今日は殊更そうだった。
だから余計に情けなかった。
せめてゾロの誕生日くらいはスマートに決めたかったのに、いつも大事なところで失敗して、結果ゾロにいらぬ負担を掛けてしまう。
無理に背伸びすると必ず落とし穴があると、わかっているのに同じことの繰り返し。
「…せっかくの…ひっく…誕生日なのに…ごめ…ん…」
「泣くな、泣くな」
ゾロは涙を拭ってやるため、自分から引き剥がす。
トレーナに涙の跡が地図を描いていた。
気にしたサンジが、ゴシゴシ拭っても当然地図は消えない。


「明日部活休んで…」
「てめえん家に行けばいいんだろ?」
「なんでわかったんだ?」
「あ〜…なんとなくだ」
ゾロの読みは当たった。



 ピピピピピッ ピピピピピッ



携帯の電子音が鳴る。
「あ…目覚ましセットしてたんだ」
「こんな時間にか?」
見ると12時丁度に設定されているようだった。
「11日になったらすぐゾロに電話して”オメデトウ”言おって、前からセットしてたんだ、でも直接言えそう」
「なら言ってくれ。ちゃんと聞いてやる」



サンジは深呼吸して、冷たい空気を肺一杯に送り込んだ。
お祝いの言葉を伝えるのに、泣いていてはみっともないし相手に失礼でもある。






「ゾロ、おめでとう」






ちゃんと笑顔も言葉に乗せられた。






いつになく可愛らしい顔が、自分を祝福する言葉を綴るとなると、愛しい気持ちは最大に膨らんでくる。

「ありがとうな」

お礼を言ってキスしてやると、サンジはなんだか驚いていて、だけどすぐにさっきと同じ笑顔を作ってくれた。
サンジに『プレゼントは何がいいか』と訊かれた時に、「サンジがいればいい」と答えた。
本人はあまり信じていなかったけど、それは惑うことのないゾロの本心。
色褪せない気持ちをずっと持ち越せたらいいのに…ということも。







今日がいつも以上に楽しみということも。












               Happy birthday ZORO!!




END
 
 
   
 
 


可愛いですっっvvみそっかすサンジですぅぅ〜っっ!!!
もう、みそっかすサンジにはワタシ本当にメロメロなんですっvv
幸せをありがとうございましたっ!
せっかく参加させていただいているのに、ワタシのこの体鱈苦…(爆)
これからも懲りずにお付き合いいただけると幸いです〜っ(滝汗)
@Kei