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*Happy Birthday to Sanji*

Treasure

一日中キッチンに隠って。あの小さな自分を見なければ少しは平静に過ごせる物と思っていたのだが。見えなければそれはまたそれで、余計に気になる。
イライラもするし、何せ気が気でない。
夕食の下ごしらえが一段落ついた所で、ちょっとだけ甲板を覗いてみようと、サンジはキッチンのドアを開けた。
「わ…っ!」
ばふん、とちょうど腹の辺りに見覚えのある金色がぶつかって来た。今、様子を見ようと思っていたチビサンジだった。
「……あ……悪ぃ」
思わず謝ってしまったが、頭を下げた相手が自分だと思うと本当に妙な気分になる。
チビサンジは相変わらず無愛想にサンジを見上げ、仕方なく、と言った雰囲気で切り出した。
「何か…手伝わせろよ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
「うるせぇな!オレだって別にやりたくねぇよ!」
「やりたくねぇなら、しなきゃいいだろーが」
「手伝って来いって緑の兄ちゃんに言われたんだよ!」
正確に言えばゾロは後押ししただけなのだが、今のサンジにとってはその後押しがどれだけ必要だったか。
八つ当たりとしか言えない理由でいいだけ蹴り飛ばした事を謝ろうと思っていたのに、船に戻って来たゾロはチビサンジにべったりで。
イラつく気持ちが膨れあがっていたのだが、こういう事をさり気なく、嫌味でなく、ゾロはする。
謝罪なんて必要ないからまずは自分のすべき事をやれ、と。
ナミの説明で表向きには納得している様に見えても、「自分」に似た存在が目の前に現れて、漠然とした不安を抱えているのはチビサンジも同じ事なのだ。
その不安をほんの僅かでも拭ってやれるのは、他でもない、サンジ自身。
そして己の不安をかき消せるのも、チビサンジのみ。
ましてや、その自分は避ける様な態度しか取っておらず、我ながら大人げなかったと反省する事然りだ。
「…分かった。んじゃ、コレ味見してみ?」
サンジは夕食の為に用意したスープを小皿に移し、チビサンジへと手渡した。
受け取った皿からチビサンジの口の中へ、スープが飲み込まれて行く。
「どうだ?何か足りないものあるか?」
「……ない。ジジィと同じ味だ」
「同じかよ?それ以上じゃねぇ?」
どうしても自分を認める気はないらしい。
幼い頃の我が事ながら、頑固な性格はこの頃からだったんだな…などと他人事の様に思う。良い意味でも悪い意味でも負けず嫌い。
「旨いよ。すげぇな、オマエ」
初めてチビサンジはサンジの顔を見て笑った。
「クソうめぇだろ?」
サンジも初めてチビサンジにいつもの笑顔を見せた。


チビサンジの笑い声が加わり、その日の夕食はいつもにも増して賑やかだった。
「あ!キノコ残してる!食えよなー」
これでもかと言うくらい綺麗に選り分けたウソップの皿のキノコを見て、チビサンジが無情の突っ込みを入れる。
「げ…。何でお前が知ってるんだよ…」
「そうだぞ、ウソップ。何でも喰わねぇと!」
みょん、と伸びて来たルフィの手を払いのけて、チビサンジはサラダボールをルフィに突きつけた。
「赤の兄ちゃんはもっと野菜喰わないとダメだ!」
「げ…」
さすがのルフィも的を射た指示に言い訳できなかった様で、差し出されたサラダボールを大人しく受け取る。
その様子を見てクスクス笑うナミとロビンには。
「ナミお姉さんとロビンお姉さんはそろそろコーヒー煎れる?」
「…あ、うん」
その返事を聞いて、シンクに向かっていたサンジがコーヒーを煎れ始める。
2人の息はぴったりで、皿を出すタイミングも、それぞれにする食事中の注意もサンジがいつもしている物と同じだった。
チビサンジは今度はチョッパーと話して笑っている。帽子を貸してもらってご満悦のようだ。ゾロに向かってしきりに「見ろよ!」とはしゃいでいる。
子供らしいその笑顔に誰もが安堵した。
昼間ルフィ達と遊びながらもチビサンジはどこか一線を引いている様な雰囲気だった。笑顔は見せるけれど、心の底からは笑っていないような。
それが今は満面の笑みを浮かべ、本当に楽しそうにしている。
小さくてもサンジはサンジ。やっぱり料理している時が一番楽しくて安心できる時間なのだろう。
「オイ、酒」
ゾロが空になった酒瓶をサンジに差し出した。視線で頷くとサンジは棚の中から瓶を1本取り出す。
昨夜からぴりぴりしていたこの2人もどうやら落ち着いたようだ。
「子はかすがい、って言うけどホントね〜」
コーヒーを飲みながらナミがわざと大きな声の独り言を言う。
がたん!と音がして、サンジは一度取り出した酒瓶を再び棚の中に戻した。後ろから見てもその顔が真っ赤になっているであろう事が分かる。
「…オイ…酒…」
「ぅるせーな!テメェは飲み過ぎだ!控えろ!」
噛みつくような勢いでサンジが怒鳴ると、それに追い討ちをかけるようにチビサンジも続く。
「そうだぞ!飲み過ぎだ!」
ゾロの手から空き瓶を奪うと小さな手に大事そうに抱え込んだ。同じ顔をした2人に畳みかけられてゾロも黙るしかない。
「何か、サンジが2人になったみたいだな〜」
ポリポリと野菜を噛みしめながらルフィがしみじみと呟いて。
テーブルを囲みながら誰の表情からも笑顔と笑い声が途切れる事はなかった。


夕食の片付けを終えて甲板に出ると、空には前夜の様に月が昇り、辺りを照らしていた。
月明かりの中、いつもの定位置、マストにもたれて眠っているゾロと。その膝を枕にして安心しきった顔で眠るチビサンジ。
静かに近寄るとサンジは2人の寝顔を交互に覗き込み、そして穏やかな笑みを浮かべた。
「…起きてんだろ…クソ剣豪」
「……酒」
「オマエ…他に言う事ねぇのかよ…」
苦笑いを浮かべつつ、それでも持って来た酒瓶をゾロに手渡した。サンジもその横に腰を下ろす。
「ナミさんの話じゃ…朝までには居なくなっちまうんだな…コイツ」
「ああ…」
「今日あった事も記憶から消える。確かにオレ、覚えてねぇもんなぁ」
「…いざとなったら寂しいか?」
「ちょっとなぁ〜」
からかうつもりで言ったのに、そう言って照れたように笑ったサンジの顔はやはりどこか寂しそうだった。
「オイ」
ゾロの声と共にその腕が伸びて来て、勢いよく引かれる。驚いて暴れる間もなく横に倒された体はゾロの膝枕の上に落ち着いていた。
「…ンだよ…」
「寝てろ」
「ガキ扱いすんな…」
今日は初めてゾロに触れた。この場所が欲しくて子供にまで嫉妬して。
目を閉じて耳をすますと、波の音に混じってチビサンジの小さな寝息が聞こえる。
どんな説明を受けたのか分からないが、幼いながらも物怖じせずにその状況を楽しむ事を優先させたチビサンジ。こんなに肝が据わってたかな…と自分の事なのに今になると思い出せなかったりする。

「……ジジィ……」

小さいけれど頭の上でハッキリ聞こえた。小さな小さな寝言。
思わずゾロを見上げるとニヤけた顔でサンジを見つめている。
再びサンジは、ぼんっ!と音がしたみたいに真っ赤になった。
「あ、あのなっ!コレはっ!」
「デケェ声出すなよ。起きちまうぞ?」
しぶしぶ黙ってブツブツと口の中で言い訳していると、ゾロの顔が目の前に降りて来た。
「で、今は?まだあのジーサンなのか?」
「……聞くなよ……」
照れくささを隠す様にゾロの首に腕を回して、静かに唇を重ねた。


そのままいつの間にかサンジは寝入ってしまい、ゾロは月を肴に酒を煽る。
と、片膝で眠っていたチビサンジがもぞもぞと動き、体を起こした。
「起きたのか?」
「……何か……ジジィが呼んでる気がする」
「そうか」
チビサンジは立ち上がり、船首の方へ歩き出した。
「オールブルー。見つかるといいな」
「え?」
ゾロが声を掛けた途端。
チビサンジの姿は現れた時と同じように、ふいにその場から消えた。


元の世界に戻ったチビサンジの記憶からは、GM号での事は消え去っていた。その証拠に、サンジの記憶にはその時の事が残っていない。
けれどもその後、チビサンジの好きな色が増えた。
前から好きだった青。
赤とオレンジ。カーキ色。ピンクと紫。

それから、緑。


end.


ちかわともき様のサン誕企画から
junko様よりv
チビナスが〜っっ!!!めちゃ可愛いですっっっvv
もちろん大人サンジも可愛いですっ!!
「ジジィ…」とか言ってしまうんですよっ?!
今は絶対「ゾ○……」とか言ってしまうんですよねっっ?!
本当に強奪の旅に出ているワタシですが、幸せです〜♪
ありがとうございましたっっvv

Kei Kitamura