おにごっこ



 暑い夏のある日、子供たちが河原で遊んでいました。

   「どこの河原?」
       「どこでもいいよ。君んちの近く」
   「川なんてないもん」
       「じゃ、公園にしようか」
   「いいかげんなんだあ」
       「…… 話の本筋に関係ないんだよ」
   「なにして遊んでたの?」
       「おにごっこ……」
   「だせ〜え!」
       「うるせぇ! 黙って聞け!」 (クソガキガァ)

 遠くの方で、ゴロゴロと雷が鳴りはじめました。
 見上げると、向こうの山のかなたから、真っ黒い雲がせり出してくるところでした。
 でも、ちょうど遊びがいちばん面白くなってきたところなので……

   「おにごっこがかあ?」
   「あんなもん、やればやるほどつまらなくなるよ」
   「つかれるし、ね」
       「なんでもいい! おもしろかったんだッ!」

 気にしないで遊びを続けていました。黒雲は、あっという間に広場を覆い、

   「河原じゃなかったっけ?」
   「公園だよ」
       「広場だッ! 広場にする!」
   「いまどき広場なんかあるか?」
       「知るか!」

 稲妻がひかり、カミナリが鳴り響きました。
 ゴロゴロ、ドーン、バリバリ、ズダーン!
 雨も降ってきたので、子供たちは急いで大きな木の下に逃げ込みました。

   「ダメ、ダメ。木の下は危険だよ」
   「バッカじゃないの?」
       「こ、この場合、木の下じゃなければならないの!」
   「あのねぇ、河原だったり公園だったり広場だったり、それはまあ許す
   としても、自分の都合のいいように話を作っちゃダメね」
       「・・・・・・」

 ドスーン!
 とつぜん、その大木にカミナリが落ちました。

   「そら、ごらんなさい!」
   「雷のとき、木の下は危ないって、ジョーシキだよね」
       「お願いだから、ちっと黙っててくれない?」

 カランコロン、ドシーン!
 びっくりしている子供たちの目の前に、不思議な物体が落ちてきました。
 洗面器くらいの大きさのきらきら光る物体で、

   「センメンキってなあに?」
       「顔を洗うとき、水をためておく……」
   「洗面所のこと? 壁にくっついちゃってるじゃない」
   「ボクんちあるよ。ほら、ポチのエサ入れてるやつ」
   「ああ、あれかあ。ナットク」

 子供たちが近寄ってみると、パカン!とふたが開き、身長15センチくらいの小人が出てきました。
 「チェッ、事故っちゃった。重力バランスのミッション、3Gじゃ無理なんだな。2Gにシフトダウンしていれば……」
 小人は、つぶやきながら、物体の周囲を点検しています。

   「 ? 」
   「 ! 」

 「おい、ちびすけ! なんだおまえは?」
 一人の子供が声をかけると、小人は振り向いて言いました。
 「おれか? おれはカミナリだよ。おまえら、地球の子供だろ? 図体だけはでかいけど、知的レベルが低い生物なんだってな」
 「カミナリって、気圧の変化に伴って発生する電気的自然現象だろ?」
 「チッ、チッ、チッ。わかってないね。おれたちカミナリは、何億光年の宇宙のかなたからやってきた先進人類なのさ」

 小人の説明によれば、カミナリ人は、地球をはじめ多くの惑星に住んでいて、稲光、雷鳴は、彼らの宇宙船が移動するときに発生するものなんだそうです。重力コントロールをするので、大気に段差ができ、地殻変動による地震に似た状態が発生するということです。

 「ふだん見かけないけど、どこに住んでるの?」
 「ここさ。おまえたちと同じところだよ。見かけないのは、地球人とは違う時間空間にいるから見えないだけ。ときどき、おれみたいに、事故っちゃったやつが時間の壁を超えて飛び出しちゃうんだ」
 「それ、宇宙船?」
 「いや、これはせいぜい太陽系の中くらいしか移動できない、おまえらのいうチャリンコみたいなもんさ。何億光年を移動する母船は、もっと大きくてハイパワーなんだ」

 子供たちはすっかり小人が好きになり、時間がたつのを忘れて、小人の話に夢中になっていました。
 「あ、もう帰らなきゃ。かあちゃんに叱られちゃう。だれか、ちょっと手伝ってくれないかな? イグニッションがいかれちゃったみたいなんだ。45度の角度で空へ放り投げてくれれば、反重力を利用してエンジン起動ができると思うんだ」
 いちばん大きな子が、洗面器のような物体を思いっきり高く空へ投げ上げるとゴロゴロピカッ、という音と光を残して、物体は空間に消えていきました。

   「帰っちゃったの?」
   「ねえ、仲良しになったんだから、またくるよね」
   「カミナリに遭ってみたいな」
       「良い子にしてれば、きっとカミナリに遭えるさ」
   「良い子、っていうのが気に入らないな」
   「おとなは、なんでもかんでも良い子、良い子って言うけどね」
   「良い子って言うのは、どうでもよい子って言われてるんだよ」

   「おじさん。おにごっこしよう?」
       「だせ〜え遊びじゃなかったのかい?」
   「おにごっこしてれば、カミナリがくるかもしれないだろ? それに」
   「ぼくたちのおにごっこはね、普通とはちょっと違うんだ」
   「おじさんは逃げる役。ぼくたち全員が鬼で、おじさんを追っかける」

 説明しているうちに、子供たちの形相が変わってきました。
 気おされて二、三歩下がると、子供たちはもう追いかける体勢に入っています。
 ふん、ガキどもにつかまってたまるか!

 どうせいま時のガキどものことだ、運動不足で追ってはこれまいと思ったのが間違いでした。
 こいつら、カミナリが宇宙人だなんて作り話、頭っから信じちゃいなかったんです。だって、こいつら自身が宇宙人。
 新人類が、旧人類の駆逐をはじめていたのでした。

 逃げて逃げて、逃げつづけました。
 息が切れ、心臓が止まりそうでした。もういい、捕まえてくれ……
 しかし彼らは、決して捕まえてくれません。ただひたすら追いかけて、旧人類が自滅してゆくのを楽しんでいるようでした。