さまよえる魂
― Gollum ―


いつからか
わたしは気づいていた


わたしたちの後を
執拗につけて来る
おまえの存在に


日に日に重くなる
邪悪な力の指輪


時折
わたしの意識がふっと
吸い寄せられるように


おまえもまた
この指輪に惹かれて
追い続けている


二つの名前を持つ者
二つの心に引き裂かれし者


おまえはいったい
何者なのだろう?


遠い昔
善良なる種族だったおまえ


小さな金の指輪を
目にした時


おまえの心は
一瞬にして魅入られたのか


己が名前も
平穏な暮らしも
それまでの生き方の
すべてを捨てて


おまえは
数奇な運命を手に入れた


暗く湿った洞窟の中で
気の遠くなるような
時の流れにたゆたい始めた


たったひとつの
指輪だけを愛し


自分の中の
もうひとりの自分に
語りかける日々


やせ衰えた身体
飛び出さんばかりの目
長く骨ばった指


醜悪なる姿をさらして
指輪を奪い返さんと
おまえが襲ってきた時


なぜ
この短剣で貫くことを
わたしはためらったのか


生かしておくには
あまりにも
油断ならない相手


何時でも
指輪を狙って来ると


十分にわかっていた
けれど


さまよえる者よ


わたしには
おまえの姿が
この上なく
哀れに映ってしまった


目をそらしたいのに
そらせない


なぜならそれは
わたし自身の姿かも
しれなかったから


指輪に魅入られ
指輪に蝕まれて行く


おそらく
手にした者にしか
わからないであろう


恐怖と陶酔
たえず囁き続ける
指輪の誘惑


おまえも
わたしも
同じ運命に弄ばれている


だからこそ
わたしには
おまえを殺せない


できるなら
指輪を持つ前のおまえを
取り戻させてやりたい


それが
甘い考えであり
危険な賭けであることを
知りながら


わたしは
おまえの導くまま
こうして道を進めている


信じていいのかどうか
確信は持てない


だがきっと
おまえと言う存在にも
役割があるはず


良きにせよ
悪しきにせよ


おまえが
生き延びて来たことが
いつか何かの意味を持つ


そんな日が
来るのかもしれない
もしかしたら


だから


さあおいで
わたしがご主人だ


ちゃんと
道案内をしておくれ


おまえが忘れてしまっていた
本当の名前を
教えてあげるよ


哀れな
ひとりぼっちの
スメアゴル