2003年06月08日(日) 指輪の誘惑 「指輪物語」と言うくらいだから、やはりこのお話の主役の一人(ひとつ?)は指輪なのだろう。 サウロンの作ったひとつの指輪、エルフやドワーフ、そして人間すべてを思いのままに操ることのできる指輪・・・ 指輪自体に意志があるらしい。サウロンの手から切り離された後、イシルドゥアが葬ることをせず自ら持とうとしたために、指輪の意志も生きつづけることになる。 なんとかサウロンのもとに戻ろうとして、そのために、持ち主となった者を惑わせ、心を蝕んで行く。 最初の持ち主、ゴクリ(映画ではゴラム)。もとはスメアゴルと呼ばれ、どうやらホビットと近い種族だったらしい。 実際に指輪をみつけたのはスメアゴルではなく、友人だったデアゴル。釣り糸にかかった大きな魚に引き摺られ、落ちた川底でみつけた金の指輪。それを見た瞬間、とりこになってしまったスメアゴルは、自分にくれるようねだり、断わられるとデアゴルを絞め殺して、指輪を自分のものにしてしまう。 その後はひたすら指輪にとりつかれ、例の「いとしいしと」と言う呼びかけと共に、指輪を持ち続ける。 思いがけないことから、その指輪を手に入れたのは、ホビットのビルボ。この顛末は「指輪物語」の前の「ホビットの冒険」に書かれているらしいけれど、どうやらその冒険の途中で、ゴクリの隠れ処に近づいてしまったらしいビルボが、偶然拾った(?)のが指輪。 そんなことは知らないゴクリは、なんとかビルボを襲おうと、なぜかなぞなぞ問答をしたらしい(笑)自分が勝ったら食べちゃうぞ、と言うわけだ(^^; ビルボが苦し紛れに言った「ポケットの中のものは何だ?」と言うなぞなぞに答えられなかったゴクリは、ようやくそれが自分の大切な指輪なのだと悟るが後の祭り。 指輪をはめて姿を隠したビルボに逃げられてしまう。ただし、この時ビルボは自分の名前を名乗ってしまっていたらしく、そのために後にゴクリは、サウロンにつかまり拷問を受けた際に、「ホビットのバギンズ」としゃべってしまう。 こうして、話は「指輪物語」へ。ビルボから指輪を譲り受けたフロドの、想像を絶する旅が始まると言うわけだ。 もちろん、ここには事情を知り、危機を察知したガンダルフの思惑も絡む。 ホビット庄から旅立つと言うビルボに、しつこいくらい「指輪はフロドに残して行け」と言うガンダルフ。これはなぜだろう? 考えてみれば、それまで指輪を所有していたビルボは、長い年月を経ても、信じられないくらい若々しくいたと言うことの他に、特に指輪の悪影響を受けていたとも見えない。 けれど、彼の指輪への執着心は強く、そのことをガンダルフは察していたのだろう。 だからこそ、指輪に対してまっさらな状態だったフロドに指輪を託したのかもしれない。 自分自身が持つよりも、フロドが持つことの方を選んだ・・・考えたらガンダルフは一度たりとも指輪に触れることすらしようとしなかった。 触れようとすれば、すぐさま指輪はそれを察して、相手に呼びかけると知っていたから。 映画でのシーン。エルロンドの会議で、フロドがみんなの前に出した指輪・・・それをみつめるそれぞれの様子が順番に映る。 息を呑むようなレゴラス、驚きの目をみはるギムリ、そして期待に表情を輝かすボロミア・・・ きっと、みつめるたびに指輪はその相手に、誘いの声を発したに違いない。 「授かりものだ」と嬉々として言うボロミアに、不審の目を向けるガンダルフ、アラゴルン。 この二人は、すでに指輪の危険を知り尽くしている。 モルドールの滅びの山に指輪を葬らなくてはならない、と言うエルロンド。 そんなことはとても不可能だと切り捨てるボロミアに対して、「エルロンド卿は葬れとおっしゃっている!」と、激しい口調で言うレゴラス。 これを見て 「ああ、レゴラスは大丈夫だ。指輪の魔力には捕らわれていない」と、私などは心底安心してしまうのだけど(笑) ギムリに至っては「それならお前が行くのか!」とレゴラスに食ってかかり、さらに「エルフの言いなりになるくらいなら、死んだほうがましだ!」と怒鳴ってしまう。 これはもう指輪の影響云々の前に、エルフへのものすごい対抗意識としか思えない(笑) でも、ドワーフと言うのは金銀が好きらしいから、もしかしたらちょっと危ないかもしれない、などと(^^; エルロンドも決して指輪に触れようとしない一人。彼は、エルフに下された三つの指輪のうちのひとつを所有している。ロスロリアンのガラドリエルも、そのひとつを持っている。 そして、もうひとつは・・・なんとガンダルフが持っているとのこと。これは、灰色港(エルフが海を渡る時にここから旅立つ)の守り手である、船造りキアダンと呼ばれるエルフから譲られたらしい。 エルロンドもガラドリエルもガンダルフも、それぞれ指輪の力を知っているだけに、最後のひとつの指輪には触れまいとするのだろう。 ただし、ガラドリエルだけは、ロスロリアンにフロドが来た時、自ら指輪の誘惑に打ち勝つための試練を受ける。女性の方が勇気あるのかな(笑) そして、アラゴルンも指輪の誘惑に直面する。ボロミアの変貌を見たフロドは、もはや誰をも信じられないかもしれない、と思い始める。 そこへ駆けつけたアラゴルンの気配に、びくっと怯えるフロド。「私は味方だ」と言うアラゴルンに向かって、差し出された指輪・・・ アラゴルンが近づくと、指輪のささやきが聞こえる「アラゴルン・・・ エレスサール(エルフの石)・・・」 一瞬、惹き込まれそうになったアラゴルンは、はっと我に帰り、指輪をフロドの手に握らせる。彼も試練に打ち勝ったのだ。 けれど、それはアラゴルンにひとつのことを悟らせたのだろう。 この先、誰が指輪の誘惑を受けないとも限らない。 フロドはそのために、一人で行こうとしている・・・それを止めることはできない、と。 皮肉にも、指輪によって行動を共にすることとなった仲間たちは、今指輪のために散り散りになろうとしている。 指輪は、まさに自らの意志によって、さまざまな人を操ったのだと言えるだろう。 けれど最後には、思いがけない者がこの指輪の運命を決めることになる |
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