2003年05月16日(金) ガラドリエルの変化


エルフと言う不思議な存在の中でも、際立った力の持ち主ガラドリエル。
彼女はまた、光の女王とも呼ばれる。
いったい何千年生きているのか・・・ 娘がエルロンドと結婚したと言うことは、気の遠くなるほど長く生きているはず(^^;

トールキンの創り上げた指輪物語の世界、様々な種族が共存している中でも、エルフはかなり優れた種族と言えるだろう。
美しく知性もあり、自然を愛し、どうやら武術にも長けているらしい。
原作の中に「エルフは言葉だけ食べても生きていける」とあったくらい、おそらく他の種族ほど食べることを必要としないのかもしれない。
眠る時も目を開けたままとか(^^; 普通に動いている時ですら、心だけ憩いに中に飛ばすことができるらしいとか・・・ およそ人間離れした存在(当たり前か)

ただし、トールキンの描くエルフは、ほのぼのしたファンタジーの中に登場する、かわいい妖精とは違い、危険をも孕んだ存在だと言う。
善にも悪にも、どちらにもなりうる存在・・・ 確かに優れた種族であればあるほど、一歩間違えば恐ろしい悪にもなるのかもしれない。
現に、醜く恐ろしいオークも、もともとはエルフだったらしい。拷問にかけられ、長いこと苦しめられて、オークとなったとか。
その気になれば、ひんやりとした冷気をも放ってしまいそうなほど、超然として掴み所がないのがエルフとも言える気がする。

ガラドリエルは、まさにそんなエルフの頂点に立つ存在。
光り輝くばかりに美しく、威厳に満ち、それでいて透き通って消えてしまいそうな神秘性を持つ。
ケイト・ブランシェットは、なんとはまり役なのだろう。
ロスロリアンで初めて登場するガラドリエルは、見ているうちに、どんどん変化して行く気がする。
最初は、指輪がロスロリアンに入るのを防ごうとしているように思える。心の声によってフロドに警告を与える。
けれど、結局旅の一行は、ロスロリアンの森へと入ることになる。
一行を迎えた時のガラドルエルは、どことなくよそよそしい。
それでいて、旅の仲間たちの心を読むなり、近づく危機に気づき、それとなく警告する。
ゆっくり休んで、疲れを癒すように、と言いながら、その本音は読み取れないような、不思議な冷ややかさを感じるのは、私だけだろうか。

みんなが寝静まったと思う頃、ひそかに水鏡のある場所へと歩いて行く。とてもひそやかな気配、それでもフロドだけは、それに気づき後を追う。これは、たぶんガラドリエルの狙いだったのかもしれない。
フロドに水鏡を覗かせる時のまなざしは、むしろ冷たく残酷にさえ見える。
そしてフロドは、(これもガラドリエルの予想通りだと思うのだけど)、ガラドリエルに指輪を渡すと言う。
まさに、これこそがガラドリエルが心の底から怖れ、しかも自ら立ち向かわねばならないと思っていた試練。指輪の強烈な誘惑・・・
もし手にすれば、とてつもなく強大な存在になるであろう自分、決して悪にはならないと思いながらも、それはすべての人を絶望させるに足るだけの独裁的な力となることは明白だったのだろう。
ガラドリエルは恐怖の女王の姿に変身し・・・やがて、我に返る。
試練に打ち勝ち、ただのガラドリエルとして海を渡ることを決意し、心の底から安堵する。

この時から、ガラドリエルはまた変化を見せる。
ようやく指輪の恐怖から解き放たれた彼女は、本来のやさしさ、清らかさ、穏やかさを取り戻す。
旅の一行を心から案じ、それぞれに貴重なる贈り物をする。このシーンのガラドリエルは、しみいるようなやさしい微笑みを浮かべている。
一点の恐ろしさも冷ややかさも感じさせない、天使のような姿と微笑み。ひたすら美しい。

ガラドリエルほどの力あるエルフでも、指輪の魔力をどれほどか怖れていたのだろう。力があればあるほど、指輪はその誘惑を強くするのかもしれない。
けれど、ガラドリエルは負けなかった。見事指輪をしりぞけた。
思えば、ガンダルフも指輪に直接触れることを怖れていた。フロドが渡そうとした時に「私を誘惑しないでくれ」と言う。
そのガンダルフが、フロドこそ指輪所有者にふさわしいと思ったのは、ものすごいことかもしれない。
ホビットと言う種族のなんと素朴な善性を表していることか。

話しがそれてしまったけれど・・・(笑)
ガラドリエルの変化する様は、私にはとても興味深かった。
ケイト・ブランシェットの演技はすばらしい。まさにガラドリエルそのもの。
ガラドリエルの心の動き、緊張、恐れ、警告、誘惑との戦い、そして安堵、やさしさなどを、見事に見せてくれた。
試練を乗り越えて、清らかな微笑みを取り戻したガラドリエルの姿に、私も心からほっとした。


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