2003年05月11日(日) エオウィンの恋


アラゴルンと言えば、恋人はアルウェン。これは周知の事実。
そして、そのアラゴルンに叶わぬ恋をする乙女、ローハンのセオデン王の姪に当るエオウィン。
アラゴルンの生き方を思えば、最初から望みのない恋であろうことは想像がつくのだけれど。

エオウィンとは、はたしてどのような女性なのだろう?
原作でも、そして映画でエオウィンを演じたミランダ・オットーも、彼女を強い女性と評している。
確かに、「王の帰還」での彼女はそうかもしれない。男の戦士たちと同じように、死ぬことをも怖れず戦いに望む姿は、凛と勇ましい。
アラゴルンに振り向いてもらえず、戦いにも同行させてもらえず、城の守りをするしかないのかと嘆く様は、誇り高い王家の姫としての強さを感じさせるけれど。
私には、張り詰めた、とても痛々しいような強さに思えてならない。
アルウェンのような、包みこむ愛、すべてを受け入れることも、すべてを捨てることも、どちらも怖れない本当の強さとは違う気がする。
今にも、緊張の絃がぷっつり切れて、自分を追い詰めてしまいそうな・・・
「王の帰還」で、彼女はもしかしたら自ら死に場所を求めて、戦いに挑んだのではないかと、私は思っているのだけど。これは後ろ向きすぎる考え方かしらん(^^;

エオウィンは、映画「二つの塔」ではかなり大人の女性として描かれていたけれど、原作のイメージでは、むしろまだ少女の面影を残したような若い女性なのではないかと思われる。
アラゴルンが、エオウィンに目を留めた時の表現として、「まだ女になりきっていない、早春の朝のような冷ややかな美しさ」とあるくらいだから。

若く、自分の身の処し方も定まらず、しかも頼みにしていたセオデン王が蛇の舌グリマに惑わされてしまっている、兄であるエオメルも、そのせいで追放の憂き目に会ってしまう。
おまけに・・・彼女は、蛇の舌に狙われていた。一人頼る者もない城の中で、迫る暗雲とグリマの執拗な視線を感じる日々。
これはかなり絶望的な境遇だったのではないだろうか。彼女が何よりも恐れる「檻」を連想させる環境・・・
そこへ、セオデン王の目を覚まさせるべく、白のガンダルフがやって来る。そして一緒にアラゴルンも・・・
英知と強さに溢れる勇者を目にした時、彼女が、自分をこの窮地から救い出してくれる存在としてアラゴルンを認めたとしても、これは責められないのではないか、などと思ってしまう。

映画では、エオウィンがアラゴルンに惹かれて行く過程が、手に取るようにわかる。ふと、取り出した剣を振るっている時に「いい腕だ」と言い、「あなたはローハンの盾持つ乙女だ」と言う。
峡谷に向かう徒歩の間には、ギムリと共にドワーフのことを面白ろおかしく話し、張り詰めた気持ちをほぐしてくれる。
敵に向かう前に、思わず姿を探せば、そこにちゃんとアラゴルンがいて、アラゴルンも心配気にエオウィンを見ていてくれる。
しかも、そんな時のアラゴルンが、またものすごくかっこよく見える!
これはもう、好きになるなと言う方が難しいかも、なんて映画を見ながら思ってしまったくらい(笑)

「王の帰還」で、彼女はアラゴルンに共に戦いに連れて行ってくれるよう頼みこむ。けれど、もちろんアラゴルンは頑として承知しない。
この時、すでにエオウィンも、アラゴルンに他に好きな人がいることはわかっているはず。それでも、構わないと思ったのだろう。
この人と共に戦えることができれば、たとえ死の危険に会おうとも厭わないと・・・
考えすぎかもしれないけれど、もしかしたら彼女は、自分を受け入れてくれないならば、せめて死に場所を与えてほしいと思ったのかもしれない。
心惹かれた人が命を賭ける戦いなら、自分も賭けたいと・・・
しかし、それも許されなかった。
そして彼女は・・・悲壮な決意をする。誰にも知られず、戦いに赴く方法を考え付く。
もっとも、実際に来年上映される映画「王の帰還」で、どんなエオウィンになって行くかは、わからないのだけど。

原作からイメージするエオウィンは、若さゆえ、叶わぬ恋ゆえ、無謀なほどに自らの信念を通すことを選んだと・・・思えなくもない。
これが少女の清冽さ、一途さだとすれば、とても美しく哀しい。
言うならば、エオウィンの恋は初恋にも似た、ひたむきに自分の想いに捕らわれるだけで相手には届かない、哀しい片思い。
自分の気持ちをどんなにぶつけても、受け止めてもらえない。相手のために、すべてを捨てることもできないから、一人きりで立ち尽くし、やがて何かに向かって走り出すしかなかったのかもしれない。

それに比べ、アルウェンの恋は、成熟した大人の女性の恋。相手も自分を愛していることがわかっていて、だからこそ、どこまでも強くなれる相思相愛の恋。
たとえどんな困難が待ちうけていても、乗り越えられるだけの覚悟と、相手の弱さや迷いをも包みこむおおらかさがある。
おそらく、女性として完璧な愛の形なのかもしれない。

アラゴルンとアルウェンを結びつけているのは、きっと運命なのだろう、とわかってはいても、なんとなく・・・薄幸の恋と思えてしまうエオウィンをかばいたい気持ちになってしまうなあ(^^;
でも、これはあくまでも私が思い描いたエオウィン像で、きっと見る人ごとに違う人間像があるのだろうと思う。
原作では「王の帰還」のおしまい近くで、エオウィンには思いがけない運命が、手を差し伸べてくれることになる。

わっ、今回かなりのネタばれ・・・ごめんなさい(^^;;;


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