指輪所有者

― Frodo ―



小さき者よ


無垢なる瞳と
純朴なる心


平和を愛するがゆえの
まっすぐな強さを持つ若者よ


邪悪な魔力を秘めた
黄金の指輪の輝きに


おまえほど
似つかわしくない者も
またといまい


しかし
それこそが
おまえをして
指輪所有者となさしめたのだ


隠された野望
力を欲する心に


抗い難いほどの
誘惑の光を発する指輪


賢者や勇者とて
その指輪の前に
己を保てるかどうか
定かではない


誰もが
葛藤と怖れとで
手を触れることをためらう中


おまえが
ささやかに名乗りを挙げた


指輪を運ぶ者として


その頼りないほど
小さな姿が


ぐらつきそうな決意をこめて
見開いた瞳が


なんといとおしく
痛々しく見えたことだろう


おまえでなければいいと
思いながら


おまえでなくてはならないと
わかっていた


運命は
すでにおまえを
選んでいたのだから


これから先
おまえが担うものの重さは
おそらく計り知れないだろう


誰一人として
分け持つことも
替わってやることもできない


どれほど
自分の宿命を嘆こうと


すでに道は
おまえの前に敷かれてしまった


歩き出すしかないのだ


わたしも共に行こう
頼もしい仲間たちも
同行するだろう


おまえを気遣い
おまえを守るために
皆が力を尽くすことだろう


けれど


それでも
おまえは一人なのだ


指輪を持つ者だけが知る
誰にも手の届かない孤独


休みなく襲い来る
闇のささやき


自らをも
周りの者をも
崩壊させてしまいそうな恐怖


それらと
ただ一人
戦わなくてはならないのだと


いつか
気づいてしまうであろう
おまえの前途を思う時


わたしは
また迷い始める


これでよかったのか、と


この穏やかな谷の
門を後にした時


おまえは
もはや引き返すことはできない


それでも行くと言うか


この国のため
愛する故郷と
そこに住む人々のため
行ってくれるか


小さき者よ


厳しく哀しい運命を
背負いし若者よ


せめて
命を賭けて
おまえを守ろう


おまえが
指輪の邪悪さに
食い尽くされてしまう前に


この旅の目的地へと
辿りつけるよう


わたしは
わたしの持てる力のすべてを
おまえのために使おう


おまえの
澄んだ瞳の中に宿る
計り知れない意志の力が


すべての者たちの
未来を変える奇跡を


今はただ信じよう


ヴァラールの加護が
おまえと共にあらんことを