盾持つ乙女
〜 Eowyn 〜



この想いは
行き場のないものなのだと


ええ
初めからわかっておりました


この涙が
貴方の胸を濡らすことなど
ありはしない


この手が
貴方の御手に繋がれることなど
儚い夢なのだと


軋むような胸の痛みが
わたしに教えた


貴方のまなざしは
いつも遥か遠くの空に
向けられていましたから


その胸元に
ひそやかに揺れるペンダントは
貴方を捕らえる愛の枷


美しい御方の面影を
どんな時も
貴方に思い起こさせる
輝きの石


わたしには
触れることもできない


ああ
ご覧下さい
風が吹きすぎて行きます


ここは
希望を閉ざされた地


じわじわと
罠を引き絞られるように
取り残されて行く地


わたしは長い間
光の射さない館の中で


砕けそうになる誇りと
戦ってまいりました


まるで
永遠に春の来ない
冬の寒さを耐え続けるように


あの日


当てのない救いを求めて
荒野を渡る風に吹かれていた
わたしの目の前に


突然
貴方の
雄々しいお姿が現れた


問いかけるように
わたしをみつめた瞳は


厳しくも暖かい
慈しみに溢れ


諭すように
かけて下さったお言葉は


重くもまっすぐな
真実の響きを持ち


わたしには
貴方こそが
運命の導き手かと思われました


激しい戦いにも
真っ先に
斬り込んで行かれる貴方


絶望する者をも
恐れおののく者をも
嘆き悲しむ者をも


決して最後まで
あきらめてはならぬと
力強く励まし


揺るがぬ意志を
決然と示して下さる貴方


その貴き剣にて
わたしに架せられた楔をも
断ち切って下さいませ


切なく渦巻くこの想いを
受けとめる御手は
持たぬとおっしゃるならば


せめて


貴方のお進みになる
大いなる戦いの場へ


わたしも共に
お連れ下さいませ


わたしとて
王家の血を引く娘


民人を守り
悪の化身たちを倒すためなら


命など
いかほどにも
惜しくはございません


このまま
じっと砦にこもり
ただ時の運を待つだけなど


わたしにとっては
死に行くに等しい


どうか
わたしに生きる場を


この命を燃やす場を
お与え下さい


たとえ慰めでも
わたしに
思う通りに生きよ、と
おっしゃって下さい


それだけが
今のわたしに残された望み


それすらもあきらめよ、などと
涙も打ち砕くようなお言葉を


どうぞ
おっしゃらないで


ひとときの輝きでいい
わたしに
お与え下さい


伝説の王の子孫
気高き勇者たる殿よ