Eldamar
― エルダマール―

遥か昔
神々の住まうヴァリノールと共に
人間たちの近づけない
海の彼方へと
離されてしまったエルダマール
そこはエルフたちの憩う場所
中つ国に倦み
永遠のやすらぎを求める時
エルフたちは
灰色港から大海へと
船を漕ぎ出すと言う
誰も見たことのない
誰も想像のつかない
神秘なる極西の地
海を行く船を導くのは
ただエアレンディルの光のみ
麗しき人よ
君もいつの日か
この国にそっと手を振って
海を渡ることを選ぶのだろうか
聞きなれた
森の木々のささやきよりも
朝陽の空に冴え渡る
かもめの声に誘われ
未知なる憧れに
瞳を輝かすのだろうか
潮風に髪をなびかせ
白き船の帆柱に
君がその身を任せる時
引き止める術も持たない
わたしの想いは
きらきらと光る
涙の石となって
波打ち際に残るだろう
永久(とこしえ)を目指す
船を追いて
切なき胸のさざなみは
渚から沖へ向かって
逆巻いて行くだろう
いっそ
すっぽりと
君の手のひらに納まる
小さな緑の葉になりて
共に海を渡れたならばと
儚き願い繰りかえす
我が身をひそと笑うばかり
遥かなるエルダマールよ
今はまだ
あの人に呼びかける声を
聞かせないでおくれ
脈々と受け継がれし
エルフの記憶に
なつかしき響きを
刻まないでおくれ
さらさらとこぼれ行く
時のかけらを拾い集めても
永遠などと言う言葉には
ほど遠いけれど
せめて祈りが届くなら
朝と夜とを紡ぎ出す
おおいなる指先を
ほんの少しゆるやかに
この国の森は美しく
やわらかな恵みのもと
あの人を楽しませるだろうから
そして
わたしは目を閉じて
風に鳴る
葉擦れの音に
やさしい歌声を
探していたいから
