夕星姫(ゆうづつひめ)

― Arwen―



エルフの夕星(ゆうづつ)と
謳われし姫よ


その瞳に灯る煌きは
空のしるべのごとく


美しき微笑みは
夕暮れのやすらぎのごとく


まことエルフ一の輝石
比類なき高貴な姫君


されど そなたは
いつのまに憂いを覚えた?


ただひとつの出会いが
思いもかけぬ運命を
紡ぎ出す不思議さよ


遠き昔より
歌い継がれし
エルフの乙女ルシアン


限りある命しか持たぬ
人間を愛し


不死なる生を
手放すをも怖れず
己が想いを貫いたと言う


そなたもまた
ルシアンの恋に習うのか


それが
そなたに敷かれた運命なのか



娘よ


親とはかくも愚かなまで
子の行く末を気に病むもの


今まさに
望み薄き旅に向かわんとする
人間の王の末裔を慕い
固く誓いを立て


不死の国へ渡る船に
背を向けると
おまえは言う


その揺るがぬ決意は
凛と誇らしく
また清らかに


だが
それでもわたしは
頷くことを良しとはせぬ


永遠のいのち
永遠の時の流れ


この世の不安から
切り離された世界が
海の向こうに待っている


おまえが
心を決めさえすれば


そのなめらかな頬に
長き年月の重さが
刻まれることはなく


その長き黒髪も
夜のびろうどのごとく
色褪せることはない


過ぎ去りし日々は
想い出として歌い継ぎ


なつかしい人の面影を
あざやかなまま
抱き続ければよい


この場所にいれば
ただ哀しみが
増すばかりなのだから


それでも
留まると?


限りある人間と共に
滅びを待つと?


それほどまでに
その想いの淵は深いのか


・・・わが娘よ



父上・・・


愛する人と離れて
何の幸せがありましょう


この命も
この涙も
この心に熱く渦巻く
苦しいほどのいとおしさも


すべて
すべて
あの方のためだけにある


時の歯車が
噛み合わぬ辛さなど


あの方のいない
永遠の虚しさに比べたら
どれほどのことでもない


あの方は
中つ国の命運を賭けた
厳しい旅に趣こうとなさる


たとえ
ふたりの間に
遠く果てない不毛の地が
広がっていようと


幾多もの険しき山々
激しい流れが
横たわっていようと


わたしの想いは
翼となって空を翔け


あの方のもとに
舞い降りるでしょう


どんな困難のさなかにも
尊い勇気を護り続けたい


あの方の心に
絶望の闇が降りる時には


夕星のかすかな光が
希望となって灯るよう


遠く強く
語りかけましょう


わたしの中の
エルフの力すべてで



愛しい方・・・


光は闇に負けはしない
朝のこない夜はない


望みは常に
あなたと共にあるのです


信じ続けて
歩き続けて
あなたの選んだ道を


いつか再び
お互いを隔てるものなく
寄り添えるその時まで


忘れないで


わたしのこころは
いつも
あなたの胸に


片時も離れず
息づいているのです


決して消えることのない
夕星の光のように



(BGM 「ロード・オブ・ザ・リング」より  『 May It Be 』 )