王の帰還
〜Aragorn〜
白い塔のそびえる王都
なつかしく
だが遠い我が故国
あの地を離れて
どれほどの時が流れたのか
果てしなく繰り返した
放浪の日々
すでに
王の血筋など絶えたものと
思われても仕方あるまい
身分を捨て
己が運命までも捨てたのだ、と
あのまま平穏が続いたのだとしたら
それもよかっただろう
人々は伝説の王を忘れ
忌まわしい過去を忘れ
けなげなる毎日を繰り返す
だが時は容赦なく
暗雲を巻きこみ始めた
失われたはずの指輪が
ただひとつの力の指輪が
その真の持ち主の手に帰らんと
闇の声を発する
中つ国の命運は
ことごとく
滅びへと向かわんとしている
なつかしきかの白き都も
闇の王の放つ軍勢に晒され
今や風前の灯
王家の白の樹は枯れかけ
祈りは掻き消えんとしている
わずかな望みを繋げることが
はたしてわたしにできるのか
いや、
わたしにしかできぬのだ、と
気高きエルフの王は告げる
果されぬ約束に呪縛され
いまださ迷い続けている者たちが
山の奥に棲むと言う
誰も近づかぬ死者の道
魂をも凍りつかせる
呪われたその道を行くことが
わたしの為すべき手段だと
ならば
勇気こそが我が武器と
己に言い聞かせて
進むしかあるまい
我等に必要なのは
魔をも恐れず戦うことのできる
幾千もの兵たち
アンドゥリルを掲げ
王家の血の確固たる証を立て
今こそ遠き盟約を果たさせん
王都にて邪悪なる軍隊と
対峙しているであろう
仲間たちと民のために
地獄の如きモルドールを
ひたすら進んでいるであろう
小さき人のために
この世界のありとあらゆる場所に
絶望の影が
深く重く垂れ込めようとも
わたしは
信じてやまない
望みは常にある
あきらめぬ限り必ず
今こそ
放浪者の名を捨て
ただひとりの王として
幻の兵たちを引き連れ
白き都へ
白の樹のもとへ
我が故国ゴンドールヘと
帰り着かん
