「発想の航空史」

名機開発に賭けた人々

表紙

 佐貫亦男 著
 カバー装幀 日下充典
 カバー写真 醍醐社
 朝日文庫
 ISBN4-02-261251-7 \700(税別)

 佐貫亦男さんのお名前を知らない航空ファンはまずいないでしょう。戦時中は軍用機のプロペラ設計に携わり、戦後は教育者、航空評論家として長く第一線にあり、その過程で航空機事故の調査委員会等にも名前を連ねた、日本の航空史上の功労者の一人。また"航空ジャーナル"誌や"航空ファン"誌、さらには(短命な雑誌でしたが)"メカニックマガジン"誌などでユニークな切り口のエッセイを長く発表されてこられた方。その、航空機事故調査の分野では、柳田邦夫氏などに批判されることもあるのですが、まあそれは今回は別の話ってことで。

 佐貫さんの文章の何が魅力かというと、航空評論家として存分な経験がありながら、スペックや理論ではなく、国民性から来るデザインの方法論で、さまざまな航空機たちをその評論の俎上にあげてきたところにあるといえるでしょう。ですから、佐貫さんの文章が読んでいて楽しく、時に痛快でさえあるのは、テーマになった航空機と、その機体を制作した国の国民性を同時に語るところにあると思います。ですから、どんなに武勲に輝く機体であっても、その(製作者である)ドイツ人の几帳面さが悪い方向に出てしまったMe109(いわゆる"メッサーシュミット"です)は佐貫さんにとっては我慢ならん機体だし、地方コミューターとして、目立たないところで活躍する"ツイン・オッター"機は伸びやかで愛らしい機体になるわけです。

 基本的に佐貫さんのお好みは、イタリアやフランスなど、ラテン系のデザインで、ゲルマン系やアングロ・サクソン、スラブ民族の旗色は少々悪く、我が大和民族は、まあ身びいきもあるけどそれなりの評価をするにやぶさかでない、って感じでしょうか。

 国民性までも考慮に入れた佐貫さんの文体、独特で読んでて楽しいものです。とはいえ、この辺は実際に読んでいただかないとわからないところもあるんですが、まあこんな感じです。

 ここで私はわかった。道具としておもしろいものを作るドイツ人の作品を、おもしろさのわかるイギリス人が述べると最高になると。反対に、道具としておもしろくないものを作るイギリス人の作品を、おもしろさをわからせようとする関心の少ないドイツ人が述べると最低になると。

 なっはっはっは、簡潔にして要領を得た英独観ではないかと(笑)。飛行機好きじゃないとちょっととっつきにくいところもあるかもしれないけど(文庫判ということでしかたないのでしょうけど、図版をふんだんに使うべきでした。おそらく雑誌連載時は図版つきだったと思うのです。)、国民性がどんな工業製品を産み出すかの、一つの目安みたいなものも見えてくる本です。

99/10/6

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