第六大陸 2

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小川一水 著
カバーイラスト 幸村誠
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ.
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030735-0 \680(税別)

人間のSF

 着々と進む「第六大陸」の建設工事。だが、宇宙開発においては圧倒的な歴史と経験、そして第一人者の誇りを持った巨大なライバル、NASAもまた月面における人類の長期滞在施設の建設に乗り出してくる。民間企業の連合体に、世界最強の国家機関が真っ向から挑戦してきたのだ。国家の威信をかけるアメリカは、さらに国際法を持ち出して「第六大陸」の建設を妨害しようとする。窮地に立ったプロジェクトに追い打ちをかけるように悲劇が、そして新たな障壁が、次々と妙たちの目に立ちふさがる。そして鉄壁のチームワークだったはずの妙と青峰のあいだにもわずかなしこりが………。

 続きが待ち遠しかったので、つい未読を後に回してこちらを先に。それだけの価値のある一冊であった。なんかもうね、後半ずっと目が潤んじゃってねえ(^^;)。

 前作同様、ディティールの積み重ねで語られるガテン系ハードSFの魅力はそのままに、ここに新たにさまざまな人間たちの思惑が加わった人間ドラマ、天才少女としてプロジェクトをスタートさせた妙の心の奥に隠された影の部分と、彼女がそれをどうやって克服していくか、という人間の成長物語、さらにはSFファンならちょっとにやりとしてしまう(月の土を掘り返すんだからな)もう一系統のSF的ストーリーまで加えられ、しかもそれらのことどもが実に手際よくまとめられていて読み応え充分。何よりこのお話、二つの点であまりにも私好みで、そこに妙がらみのちょっと泣かせるエピソードが絡んで来るもんだから、涙腺がおかしくなっちゃってしょうがないんだよな。罪な本じゃ。

 で、私がとてもうれしい二点。まずはこのお話、徹底的にオプティミズムが貫かれたお話だということ。私は古いSF読みなのだ。科学の進歩は必ずや新しい、輝かしい未来を切り開くと信じているのだ。サンダーバードとホーガンが大好きなのだ。科学を盲信するなと警告するのはいい、でも科学なんて結局人間をダメにするんだよ、なんて意見には絶対与しないのだ。人間と科学のタッグは地球で最強の組み合わせなんだ、未来は絶対明るいものなのだと(脳天気にも程があるが)信じたい。そんな私をひさびさに、心ゆくまで満足させてくれたんですよこのお話は。

 もうひとつは、一点目にも関連するんだけど、これが徹底して「人間のお話」としてできあがっていること。ごく普通の人間たちがごく普通に、科学とタッグを組んで頑張ってる。その姿に泣ける。主要なキャラはみんな、はっきり言って甘ちゃんだ。だけどこの甘ちゃんたちは自分たちがやってることに関してはいっさい妥協しない。その上で(国家の威信とか、企業の論理とかそういう難しいモノを負って行動する人々に比べて、あきらかに)度を超したおおらかな連中として描かれている。ここもステキ。ごく普通の人々が、持てる力を、科学との幸福なタッグの力で最大限に発揮していく、その行く先にあるモノが結婚式場だってのもなんかいい。や、これは傑作なんでないかい。シビアな読み手から見たらいろいろと穴の見えるお話なのかもしれないけど、個人的にはツボ直撃だ。

 ただ、刊行スタイルには不満あり、だな。これなら一冊にまとめるか「第六大陸」(上)(下)、での刊行の方がはるかに良かったんじゃないか? 「マルドゥック・スクランブル」の時にも感じたんだけど、なんでこんなおかしな売り方するんだ? わざわざ読む方のドライブ感阻害して楽しいのか? >早川書房

03/08/28

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